毎度毎度誤字報告すみません……なぜあんなにも見直して間違えるのか……。
とてもありがたいです。感謝申し上げます。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
農家の人、と言われて。
まず俺が想像するのは、前世の祖父である。
茶色いズボンに黒い長靴、夏はランニングシャツ、冬は正直ダサいブルゾンを着こなし。
何とも言えないデザインの帽子をかぶり、首にはタオル。
トラクターや軽トラをブンブン乗り回し、汗と泥にまみれた手はシワシワ。
芋焼酎をかっくらうように飲む、とにかくせっかちな農家のおじいちゃん。
それが俺の祖父であり、農家の人のイメージでもあった。
今回のクエストの依頼文にあった依頼主は、南部農家主の娘、とだけ。
だから、多分農家の女性、というイメージが強く先行していたのだろう。
正直まだ、目の前の女性と農村というイメージが結びつかない。
「あらあら、驚かせてしまいましたかしら……申し訳ありません。最初に名乗ればよかったですね。」
「いえいえいえ!!滅相もない!すみません、こちらこそ全く気づかず!」
「あらあらあら、頭を上げてくださいな。ふふふ、面白い方ですね、ソウジさん。」
ふんわりと笑う女性。
ファッショナブルな格好を颯爽と着こなす都会的な姿と、眼鏡をかけた知的な印象が、どうしても依頼主の方とは結びつかなかった。
まさか、この方がイパスさんだとは。
「……重ねて、申し訳ありませんでした。気付かずに、取り乱してしまいまして……。」
「とんでも無いです。えぇ、自己紹介が遅れましたね。」
なるほど、だからずっと俺たちの相手をしていたのか。
あちらからしたら、どうして話をしないのだろう、と不思議に思っていたのだろう。
……自己紹介、これ大事。
「……で、では、依頼についてお話を聞いてもよろしいですか?」
「はい。それでは……どこからお話しましょうか……。」
少し思案顔のイパスさん。
美人で知的で大変おモテになるのでは、と推測できる。
思い込みはいけないよ、俺。
反省しましょう。
「少し長くなりますが、よろしいでしょうか。」
「はい。」
「では……私の父、キタバは、根っからの農夫でして。我々連合は合議制をとっているのですが、全会一致で長に指名されたにも関わらず、全てを私に一任してしまいまして……。」
「……。」
な、何の話だ?
ま、まぁいいや。黙って聞こう。
「父は、この一帯では有名でして。農地改革や品種改良まで手ずから行い、ここ首都北部農産地を更に発展させました。そちらでは南部農産地、と言うんでしたね。……体も丈夫では無い私に、何かお手伝いできることがあるならと、こちらの業務に携わる毎日を送っておりました。父は変わらず、農作業に精を出し、たまに私にアドバイスをする程度。……そんな日々を長らく送ってまいりました。」
「は、はぁ。」
「そして一月ほど前……父が倒れました。」
「えっ。」
よくわからん話が、急にシリアスになった。
……どういう展開になるんだこれ。
「……原因は、その時は不明でした。ただお医者様の話では……凶悪すぎるモンスターを見て、自我を保てなくなったハンターの症状に似ている、と……。」
「……。」
なるほど。
聞いたことはある。
狩猟中、狩場に強力なモンスターが乱入。
命は助かったものの、それがトラウマになってハンターを引退する、という話。
俺だって、初めてバサルモスやディノバルドと対峙した時なんて、どれだけ怖かったか。
すこし目を潤ませて話す様子は、ちょっとだけ辛そうだ。
俺が心配そうに見つめていると、イパスさんはそれを察した。
「あ……すみません。……幸い、父は回復には向かっております。ご安心くださいね?……おそらく、以前のように仕事をするのは難しいでしょうけど……。」
「……命があってこそ、です。モンスターに出遭ってしまった、というのなら、そこをまず喜ぶべきかと。」
「……ええ、そうですね。ありがとうございます。……本題に入りますね?」
ゆっくりと、だがはっきりと、今回の話の前置きを話してくれたイパスさん。
のんびりした様子の中にも、平穏ではいられなかった様子が見てとれた。
俺の励ましにもならない言葉に、感謝を返してくれた。
「ここにも、一応下位ながら、村付きのハンターがおります。お願いして、父がいた農地の奥、大森林の入り口に調査をお願いしました。」
「……もしかして、そこに?」
「……はい。金獅子、ラージャンの姿があった、と。」
「……なるほど。……よくラージャンだと分かりましたね。」
「首都から派遣されてきた方に、確認をとりまして。間違いないということでした。」
「そうですか……。」
……ん?
ちょっとおかしくないか?
すると……首都ギルドは、先にラージャンの情報を掴んでいた、ということになるのでは?
……駄目だ、判断する材料が足りない。
もう少し話を聞くことにする。
「色々対策を考えましたが、私も父でさえも見たことも聞いたこともないようなモンスターでした。どうしようもなく、私も困り果てている時に……あるお噂を思い出しました。」
「……俺とショウコのことですか?」
「はい。ワサドラに、とても強いハンターさんとそのオトモがいる、と。」
「な、なるほど。」
面と向かって言われると、正直恥ずかしいものがある。
「それで一筆書きまとめ、ワサドラのギルドに依頼をお願いした、という次第です。」
「……経緯は大体わかりました。ありがとうございます。」
「……ご主人様。」
「あぁ……少し考える。」
心配そうに俺を見つめるショウコ。
ありがとな。
……話を整理しよう。
ラージャンは、どうやらこの辺にはいないようなモンスター。
いわゆる、その土地に昔からいるような、ヌシのような存在ではないようだ。
キタバさんが、見たことがないと言うぐらいなのだから、まぁ間違いないだろう。
問題は、俺たち……というよりもワサドラがクエスト依頼を受ける前に、首都ギルドの方がラージャンの存在を認識していた、ということだ。
「首都から派遣されてきた方」という存在が、気にかかる。
……イパスさんが、まぁありがたいことに俺達の名声を聞いて、ワサドラに依頼をかけて……。
首都はラージャン討伐に躍起になっているところに、肩透かしを食らった形に……なるのではないか。
あれ、すっごく嫌な感じがしてきた……。
首都にラージャンの確認とか頼っておいて、ワサドラに狩猟依頼を出すとか……イパスさんも厄介なことをしてくれちゃってますけども。
その理由が、俺の噂を聞いて、って……。
……あー!すっごくヤな予感がする!!
……仕方がない。
ここまで来たのだ。
そのために、あのメンツを揃えた。
ラージャンを倒す。
……ここの人達の生活を守るため。
イパスさんの父、キタバさんも、狩猟すれば体調が良くなるかもしれない。
俺は、狩る。
狩るんだ。
「……イパスさん、お話、ありがとうございます。話しにくいお話もありましたよね。……早速、明朝その森林に足を運んで、ラージャンを探してみます。」
「……えぇ!ありがとうございます!」
「いえいえ。」
「本当に、ワサドラにお話を持っていって良かったです。……首都の方、少し感じが悪かったんですよね。ソウジさんみたいにかっこよくて礼儀正しい方なら、そのまま首都にお願いしましたのに……。」
「あ、あはは。」
気分で依頼先を決めた、ということか!?
お、おそろしい……。
そんなことを思って適当に愛想笑いをしたら、急にイパスさんの雰囲気が変わった。
のんびりとした様子が一変、キリッとした顔つきに。
「ソウジさん。」
「は、はい。」
「……我々は、この大陸の食の一大生産地の民です。食は、営みの源。……ギルドの思惑は色々あるかもしれませんが、
「……あ、な、なるほどー。」
「ですから、ご迷惑をおかけしたことは、申し訳ありません。どうか、お気を悪くなさらないでくださいね?」
冷ややかな口調で意味深なことを言うイパスさん。
確定。
この人、頭のいい人だ……。
しかも、シガイアさんみたいにしたたかなタイプ。
「あら……そういえばソウジさん。お泊りになる場所は、お決めになられてますか?」
「い、いえ。今一緒に来た狩り仲間が、探してくれてるはずです。」
「そうですか……。よろしければ、集会所横の宿をご利用ください。おそらく
「……え?」
「……村に着く前から、
「…………。」
お、俺はまだ皆のことを紹介していないぞ!?
宿を探していることなんぞ、話した覚えもない……。
どこからどこまで知っているんだこの人。
「セツヒトさん……あの伝説の方とお会いできるのですね……。今日は何ていい日なんでしょう。ソウジさん、ショウコさん、今夜は色々なお話をお聞かせくださいね?楽しみです!」
「は、はぃ……。」
最初の優しいのんびりとした様子で話すイパスさん。
もちろんセツヒトさんが同行する話もしていない。
全て知っていたのか……。
イパスさんの末恐ろしさを垣間見て、もうしどろもどろになる他ない。
……やっぱり、この一帯を取り仕切る人なだけはある。
人間として、完全に負けたわ。
* * * * * *
「多分あの人、最初自己紹介せんかったの、わざとですね。」
「え、そうなの!?」
「んー、多分そうだろねー。それにー、途中挟んだ涙ちょちょ切れ話もー、ちょっと演技入ってたのかもよー?」
「えぇ!?そうなんですか!?」
「いや、分かりませんけどね。本音6割に演技4割みたいな感じやないですか?」
「女の涙は意外に軽いもんだよー、ソウジー?勉強になったー?」
イパスさんとの話が終わり、言われたとおりに隣の宿に入ると、何と全員……ガーグァ車のおじさんを除いた3人が勢揃いしていた。
宿の部屋を3つ取り、その内の一つに全員で集まった後、話の経緯を伝えた。
すると、女性陣から出るわ出るわ、イパスさんへのあれやこれや。
ひそひそ話をしているようで申し訳ないが、ちょっと強烈過ぎた。
しかもショウコやセツヒトさんの言う通り、始めから徹頭徹尾計算ずくだったとして……。
……怖っ!
「先に我々が来るタイミングを掴んで、この宿に招待して……今の話を総合するに、中々の傑物ではないかな、その人。」
「ソウジ、これから気をつける。べき。」
「は、はい……。」
フェニクさんやトツバまで、同じ感想である。
女性同士、色々わかることがあるんだろう。
俺って鈍いんだなぁ……全然わかんなかったぞ。
「……ソウジはー、そのままでいいよー?」
「そうです、ご主人様。そういう所は、そのままでいて下さいね!」
気をつけつつそのままでいろとは、どうすればいいんだ。
……なんて俺の心の中のツッコミは、俺の口から発されること無く。
権謀術数の数多など、俺には全くもって使えないことがよく分かった。
……俺って、アホで鈍いのかもなぁ……。
* * * * * *
次の日、早朝。
俺たちはおじさんのガーグァ車に乗って、西の大森林の入り口に向けて出発。
昼前には、件の大森林の入り口までたどり着いた。
昨晩は大変だった。
イパスさんに招かれての、夕飯。
新鮮なお野菜がカラフルに並ぶ食卓は、なるほどこの土地ならではの料理が並んでいた。
だが、俺が多分に苦手意識を持ってしまった。
イパスさんに。
「ソウジさんは、今までどのようなモンスターをお相手にされたのですか?」
「え!?えーっと……ま、まぁ色々です。」
「お噂ではバサルモスにディノバルド、ジンオウガにティガレックス……様々な狩猟歴があるようですが……。」
「あ……概ねその通りです。」
「まぁ!うふふ、素敵ですね……冬山では、どのように過ごされていたのですか?」
「え!?そんなことまで知っているんですか!?」
何だろう。
質問を返そうにも、俺以上に俺のことを知っている感じ。
話を続ける度に、そんな不気味な感じがして、まぁ料理の味がしないしない。
こういう時に頼りになるショウコは、とっとと俺たちのいるテーブルから退散していた。
セツヒトさんもフェニクさんもトツバも、簡単な挨拶を済ませてとっとといなくなっていた。
おじさんは「堅苦しいのは苦手だからよ!」と、そもそも来ていない。
危険察知能力が凄まじい。
みんなひどい。
夕飯が終わる頃には、狩りに行くよりも疲れている自分がいた。
「昨日は大変だった……。」
「お、お疲れさまです、ご主人様……。」
「……ショウコ、俺を置いて逃げたな?」
「……にゃ、にゃー。」
何だその誤魔化し方。
俺の猫好きな本能に訴えているのか。
騙されんぞ。
……気を取り直して。
「じゃあ皆さん、手筈通りにお願いします。」
「りょーかーい。」
「分かった。」
「トツバ、気ぃつけてな?危ないときは信号弾で、頼むで?」
「任せて。」
それぞれが返事をして、俺たちは以前話し合った形で分かれることにした。
ラージャンの狩猟に俺とショウコ、セツヒトさん。
付いてくる形で、フェニクさん。
車に残るおじさんとトツバ。
そんな感じ。
トツバには前もって、黄色い信号弾を渡してある。
ガーグァ車に危険が迫った際には、有無を言わずに発射するよう伝えておいた。
「おじさん、トツバ、よろしくおねがいします。」
「おぅ。まぁこっちは気にせずよ、存分に狩って来てくれ!」
「はい、ありがとうございます。」
「私がここを守る。安心して。」
若干不安だが、狩猟地としてこのスタート地点は整備されている。
滅多なことでは
なので、トツバの放つ信号弾が見えたら……それは妨害が来たと考えていいだろう。
「それじゃ、出発しましょう。」
「気をつけてなー!」
「はーい!おじさんもー!」
セツヒトさんが元気よくおじさんに返事をした。
少しテンション高めである。
……強敵を前にワクワクしているのだろうか。
「セツヒトさんは凄いな……私は少し緊張しているよ。」
「んー?何かねー、ちょっとウキウキしているんだよねー。……あの時逃がしてもらったラージャンに、また挑むってのがさー。」
「……やはり相当に強いんだな。」
「まーそりゃねー?多分今の私だと、一人でやるのは……ちょっち辛いかもー。」
「…………。」
セツヒトさんとフェニクさんが話している。
……俺たちの中で最強のセツヒトさんがこう言うぐらいである。
呑気な口調ではあるものの、俺たちはより緊張を高めていった。
金獅子、ラージャン。
一体どんなやつなのか。
…………。
「しかし……植生が全く違うな……。」
歩き始めてしばらく。
思わず呟いた。
車で送ってもらった森の入口。
遠目からは鬱蒼とした森林が、見渡す限りに広がっていた。
奥に見える山々までそれが続いているから、相当な規模だ。
だが、近くに来たら、まぁそこまで密に木々が生えているわけでは無かった。
だが、畑ばかりの平地が広がっていた先程とは違う。
「大森林……だからねー。……よっと。」
ヒョイッ。
軽々と倒木を飛び越えるセツヒトさんが、俺の独り言に応えてくれた。
「タオカカから南西に連なる山脈群の南だからねー。雨雲もできやすいし、こんなに大きい木がー……フッ!」
ヒュバッ!!
…………バキッ……!
ズゥン…………。
「……育つんだってさー。」
「…………軽く大木を真っ二つにしながら言わんでください。」
横倒しになっている木を今度は斬りつけ、俺たちが通りやすいようにしてくれるセツヒトさん。
今日持っている武器は太刀。
刀身の長さ、斬れ味の鋭さは、今見た通りだ。
恐ろしい剣速である。
本当に何でも使えるよなぁ……。
「ごめんごめんー……でも、いるねー。」
「えっ!?ラージャンですか!?」
不穏な事を言われ、思わずマップを見たり辺りの雰囲気を探ったりする。
…………なんの反応もないけど。
「いやいやー、そういうんじゃなくてー。……ほら、見てみー?この木。…………明らかに自然に倒れた感じじゃないでしょー?」
「…………本当ですね。無理矢理倒された感じがします。」
セツヒトさんが斬った巨木を見る。
直径がショウコの身長位の幹。
その根元は抉れ、倒れたというよりも倒されたような痕跡が見受けられる。
「これがラージャンの……?」
「んー、いやーどうだろうねー。そこまではわかんないかなー。」
「……比較的新しめです。用心していきましょう。」
「オッケー。」
抉れた土の水分からして、そんなに前のものとは思えない。
注意して歩くに、越したことは無いだろう。
「…………む?済まない。ちょっといいかい?」
「あ、はい。どうしました?」
木にばかり気を取られていたところ、フェニクさんの声がかかる。
フェニクさんの見つめる先、地面に目をやる。
…………何だ?
「これは……人の足跡だな。」
「うえっ!?マジですか!?」
「あぁ。木の葉がここだけ異様に凹んで……それが規則的に並んでいる。二人……かな。」
「おぉ……探偵みたい。」
「ははは。そのような仕事をしていたからね。……私達が歩く獣道をわざわざ避けて歩く、そんな理由があるのだろう。しかもかなり真新しい。」
「…………妨害、ですか?」
「そこまではわからないさ。まぁ、ソウジさんの言うように、用心に越したことは無い、ということだね。」
「…………。」
フェニクさんのミステリアスな顔つきは表情が読みにくい。
だが、言っていることは本当である。
すげえなこの人。
付いてきてもらって良かった。
「おー……ホントだー。フェニクー、よくわかったねー。」
「ホンマや……言われんと気づかんかった……。」
他の二人も感心しきりである。
「足元は、基本だ。ソウジさんもショウコさんも、気を配った方がいい。セツヒトさんは……言うまでもないか。」
「いやー……私も歩き方は雑な方でー……フェニクすごいねー。前から只者じゃないとは思っていたけどー。」
「セツヒトさんにそう言われるとは、光栄だ。」
ショウコと俺はお互い顔を見合った後、一緒に互いの目線を下に向ける。
足元か……んー……。
「き、気ぃつけます……。」
「俺も……。」
ハンターとして必要なスキル。
まだまだ色々あるんだなぁ……。
* * * * * *
昼食は軽めに取ることにした。
時間がもったいないという理由もあるが、煮炊きをしてモンスターとかに刺激を与えたくなかった。
俺のギフトにも一応食い物はあるが、フェニクさんの手前、控えておいた。
腹も少し膨れて落ち着いたあと、再びラージャンの捜索を開始。
「やまかーん。」とか言いながらズンズン先頭を歩くセツヒトさんについて行った。
何を根拠にしているのかは分からんが、来た道を迂回する様に進路を取っている。
「……セツヒトさん、この先……。」
「んー?」
俺のマップ上には、この先に池みたいなものが映っている。
小声で伝えると、「じゃーそこ行こー。」とのんきな返事が返ってきた。
それでいいのか。
「わー……きれいですねぇ!」
「波打ってなくて……鏡みたいだな。」
ショウコが声を上げ、池を見つめる。
そこは、木々に囲まれていた今までと違い、空が開けて気持ちのいい場所であった。
池というか……もはや湖だな、これは。
「……ちょいまち。」
「は、はい。」
「へ?」
セツヒトさんから声がかかり、すっかり進路を湖に向けていた俺たちは立ち止まる。
ショウコから気の抜けた返事が上がった。
「水場はねー、モンスターが寄ってくるんだよねー……。一旦ここで張ってみよー。」
「は、張るって。」
「いや、セツヒトさんの言うとおりだ。休息も兼ねて、ここで落ち着こう。」
タイプの違うミステリアス、熟練者の二人にそう言われれば、俺から言うことはない。
木の幹に体を隠し、しばらく湖を観察することにした。
「ソウジー……何か見えるー?」
「いや……俺にも何も……あ、そういうことですか。」
湖に目を凝らしていると、セツヒトさんから声がかかる。
多分、マップを見ろと言いたいのだろう。
ギフトを起動し、辺りを探る。
…………湖の向こうに何かいるけど……。
顔を上げて目を凝らすと、小さく小型モンスターの姿があった。
かなり遠く、視認は厳しいけど。
俺なら見える。
「…………小さいやつが一匹……水飲んでますね……。」
「そ、ソウジさん……すごい目だな……。」
「ご主人様の目は半端ないんですよ……ウチにはまーったく見えません。」
「私もー。目には自信あるんだけどなー。」
みんなで目を細めて湖の向こうを見つめる。
が、誰もかしこも、見えていないらしい。
全く、いい身体能力を得たものである。
この体、すこぶる軽いし動体視力も半端ない。
視力もいいし。
視力矯正に悩まされ、ちょっと走れば息を切らしてた前世とは大違いである。
「いや、見えますよ。えっと、あの三角の形した木の左下辺り。……あ、いなくなった。」
「説明を受けても何がなんだか、だな。ははは。」
「す、すみませ……。」
フェニクさんに突っ込まれ謝ろうとした。
その時。
ズキ……。
「!?」
「んー?……ソウジ?どうしたの?」
「…………す、すみません…………。」
その視力の凄さに感謝していた目が、痛んだ。
両目とも。特に右目が痛む。
……ズキィ!
「っ……!!」
「ご、ご主人様!?」
「だ、大丈夫かい?ソウジさん。」
みんなが心配しながら、うずくまる俺を囲む。
一番痛む右目を押さえ、心配掛けまいと顔を上げて、ふと湖が目に入った。
その向こう。
…………何だ…………あれは…………?
「すみません……。」
「えっ!?ご主人様!?」
ショウコの心配の声をよそに、立ち上がる。
集中して、目を凝らす。
その先、さっきのモンスターが居たところの少し右。
…………異質なヤツが居た。
(黒い……?)
遠すぎて完璧には捉えきれない。
だけど、分かる。
あれは、あれは……どこかおかしい。
全身真っ黒な、飛竜の様相を呈しているその体。
翼は下を向き、折りたたまれているように見える。
だがそんなことよりも。
俺の目が、体が、アレはヤバイと告げている。
俺は棒立ちのまま、
「…………。」
みんなに声をかけられるまで、目を離すことができなかった。