報告、大変ありがたいです。いつも助かります。
脳内誤字チェッカーが、どうやら壊れております……。
気をつけます!
体が熱い。
暑い、ではなく熱い。
目を中心に頭が熱を帯びている。
ボーッとしてはこない。
むしろ、逆。
怒りとも興奮ともつかない感情が、膨れてくる。
ズキン、ズキンと痛む度に。
ヤツを見ていると、そんな気分になる。
「…………すぅっ…………ふぅーーー…………。」
深呼吸をして落ち着く。
大丈夫だ。
おそらく、あちらはこっちを視認できていない。
「ソウジ……?平気?」
「あっ……すみません。ご心配を……。セツヒトさん、あそこ、見えますか?」
「あそこって……どこ?」
「いや、湖の向こう……木々の間、少し黒っぽいやつが見えません?」
「…………うわぁ……分かった。あれ、モンスターなんだね……。」
いつもののんきな口調が無くなり、真剣に湖の奥を見つめるセツヒトさん。
「……うん、はっきりとは分からないけど……何かあれ、ヤバいやつだ。…………勘だけどー。」
「……俺としては、とてつもなくやばく見えます。」
「……ソウジー、どうするー?」
「どうしま……あっ。」
俺が声を上げたのは、その黒っぽいモンスターが、翼を広げて飛び立ったからだ。
一気に跳躍すると、大きな翼を広げて、悠々と去っていく。
流石に空に浮かぶその姿は視認できたようで、ショウコもフェニクさんも小さく声を上げていた。
「……良く分からないが、ここから見てあの大きさ。相当に、大きいね。」
「ウチ……少し怖かったです。」
「あぁ、俺もだ。…………皆さん、その、心配をおかけして……。もう大丈夫です。」
俺がいつもの様子に戻ったのを見て、三人はホッとした様子であった。
申し訳ない。
だが、結構痛かったのだ。
それに……ゾクゾクとする変な予感が、止まらなかった。
俺の目。
あのモンスターの出現。
……無関係ではないだろう。
だっていなくなったら、元通りになったわけだし。
「……心配しました……ご主人様。」
「うん、すまんかった。」
「とりあえず後で報告だねー。……ソウジの例のやつと、関係ありそうだしー。」
「例のやつ、とは……何かな?」
フェニクさんか疑問の声を上げる。
「実は俺、前回怪我を追ったクエストの後、目が赤いんです。」
「あぁ、それは聞いているが……いつもと変わらない様子なので、気にしないことにしていた。」
「すみません、俺にしかわからないみたいで……。」
「奇怪な症状だな……私には普通に見えるが……。」
フェニクさんが俺の顔を覗き込む。
ち、近い。
「…………。」
「…………。」
「…………フェ、フェニクさん、その辺で。」
「あぁ、済まない。……ふふ、こうして見ると、普通の男子だな、君は。中々興味深いよ。」
「きょ、興味って。」
先ほどとは別の意味で顔が熱い。
免疫とかその辺全然ない中身おっさんであるからして、こういう不意打ちは全く弱い。
勘弁してほしい。
フェニクさんって凛々しい顔してる割に、可愛い目してるんだなぁ……。
「ソウジー、お楽しみの所悪いんだけどさー。」
「お、お楽しみ!?いやいや、からかわんといて下さい!」
「からかいたいのは山々なんだけどさー……なーんか、やな感じしなーい?」
「…………。」
セツヒトさんに言われ、辺りを見回す。
……確かに、鳥の声や木々のざわめきが……。
それに……空気が変わった……?
少し……先ほどまでのピリッとした感じが、ザワザワした感じになったというか……。
「……分かります。同じ森なのに、少し……ざわつき始めたというか。」
「そー。……さっきの黒いモンスターがいなくなったからかなー……。影響を与えていたのかもねー。」
「……強力なモンスターの出現に、森の生態が大人しくなっていた、と言うことですか?」
「そー、そう言うことー。……全員警戒しよー。」
一気に空気が変わった森の中。
マップをすぐに確認すると、先ほどまで反応が無かった大型のアイコンが、ちらほらと見え出した。
……いや、ちらほらなんてもんじゃない。
すげえ数いるぞ……この森、とんでもない……。
「うわ……辺り一帯、すごいモンスターです。」
「わ、分かるのか、ソウジさん?」
「え、えぇ、雰囲気で、まぁ。」
「一流とは凄いな……そこまで分かるとは。……ギルドが確認していない狩猟地だからな。環境不安定というだけはある。」
環境不安定。
モンスターの狩猟地は、ギルドが調査・分析し、環境を把握してからハンターに紹介する。
だが、強敵や未知のモンスターのいる狩猟地、人々が入って来ないような場所は、当たり前だがそういった調査が進まない。
そうなると、「環境不安定」としてギルドで処理される。
開拓地……人々が入植して間もない土地は、狩猟地の整備が行われていない。
その為、強いモンスターの乱入や思わぬ事故につながることが多い。
ハンターにとっては、未知のモンスターの討伐など一度は夢見ること。
珍しいモンスターの討伐は金になる。
最前線に行く勇敢な人は、絶えることがないと聞いたことがある。
教官が教えてくれた。
今回のケースは、例の黒いモンスターが何かしらの影響を周囲に与え、他のモンスターが現れなかった。
そういうことではないかと、セツヒトさんは言いたいのだと思う。
「来たことあんまり無い場所でー、環境不安定でー、変なモンスター出てきてー、いなくなったと思ったら嫌な感じしてー。うーん、まとめるとこんな感じー?」
「言葉にするとすごくやばい感じしますね……。」
「まー、このメンツなら大丈夫だよー。……ソウジー、大体ラージャン、どの辺だと思うー?」
「そうですね……恐らく、この湖の北側……だと思います。」
「おー、私の勘と一緒ー。よしよーし、そっち目指してみよー!」
ピクニック感覚で話すセツヒトさんに、なぜか少し安心する。
「セツヒトさんは余裕やなぁ……ウチ、怖くなってきました。」
「ショウコちゃーん、こう言うのは、慣れだよー?慣れー。」
「あ、あんまり慣れたく無い感覚ですわぁ……。」
……安心してしまった俺は、慣れてしまったのだろうか。
徐々にセツヒトさんたち化け物クラスに近づ付いてきた感じがするなぁ……。
* * * * * *
ザッザッザッ……。
パキッ……パキッ……。
湖畔から少し離れた森の中を歩く。
小枝を割る音、それぞれの足音、そして周囲の木々の音、遠く聞こえるモンスターの声……。
様々な音を、耳が拾う。
周囲を警戒しながら、全員無言で歩みを進めていった。
ふと、先頭を行くセツヒトさんが、右手を上げた。
ハンドサイン。
一旦停止、という意味である。
全員が身を低くして応じると、セツヒトさんが小さい声で話し始めた。
「……この先……いるねー。」
「ま、マジっすか。……あー……。」
「お、おります?ご主人様。」
「いる。ラージャンなのかは分からんけども。」
マップのこの先、確かに大型の反応がある。
フェニクさんの手前、雰囲気で感じ取った達人みたいになってしまったけど。
「お二人ともすごいな……私も見習わなくては……。」
フェニクさんが驚嘆の声を小さく出す。
いや、すんません。真にすごいのは
おいらはインチキギフトのおかげでやんす。
「突っ込んでもいいけどー……どうするー?」
「……行きましょう。せっかく見つけたんだ。無駄にしたくないです。」
「お、言うねー。……良し、じゃ、やろっかー。」
「はい、よろしくお願いします。……フェニクさん、ラージャンだった場合、遠距離攻撃に注意してください。」
「……ソウジさんは色々知っているな。見たこともないのだろう?」
「あっ……えーっと、ギルドの書類で確認したんです。はい。」
「ふふふ……いいよ、色々秘密にしていることは、私も分かる。深くは聞くまい。」
「うぅ……。」
あかん、バレとる。
……まぁ、一緒にクエストに行っている時点で、バレる可能性はあったよな……。
えらく察しがいいし、フェニクさん。
「ミステリアスな人だ……本当に面白いよ。」
くつくつと小さく笑いながら、俺を見つめるフェニクさん。
ザ・ミステリアスな人にそんな事を言われても。
と、とにかく、行くか。
「ショウコ、セツヒトさん、行きましょう。」
「はいっ!」
「せっちゃんー。」
「せ、せっちゃんさん、行きましょう。」
セツヒトさんの名前を呼び直して、俺たちは真っ直ぐモンスターに向かっていった。
いや、もうこの際呼び方はいいじゃない。
何だそのこだわり。
…………。
「いました……。」
「……えー、あれー?」
「……何や……あの格好。」
ラージャンは、いた。
前情報通り、見た目は完全にゴリラとか猿とか、そっち系の骨格。
黒い体毛に、かわいい感じの尻尾。
希少で超強力なモンスター。
そいつが、いた。
……俺たちに尻を曝け出して、爆睡していたけど。
「ガッツリ寝とる……。」
「……あ、腹掻いて……おならした。」
「うわー……デリカシーのない奴だねー。緊張感もなさすぎー。」
普段から緊張感のないセツヒトさんに、緊張感がないと言われるラージャン。
最強のモンスターの名が、形無しである。
だが、それも仕方がないだろう。
鼻提灯を出しながら腹とケツを曝け出して仰向けに爆睡する姿。
まさに休日の昼下がりに畳で居眠りするおっさんそのもの。
……シンパシーを感じてしまうのは、俺だけだろうか。
「……やりましょうか。フェニクさんは、後ろに。」
「おっけー。」
「はいっ。」
「承知した。」
それぞれが配置につく。
今回の打ち合わせでは、俺が作戦の要。
まず、古傷を負うセツヒトさんは、太刀やボウガンを入れ替わり立ち替わり装備し、状況を見ながらフォローに回る。
その片方の装備は、俺が一時的に預かっている。
ショウコは、ラージャンの後ろを常にとりつつ、回避優先で安全に攻撃。
強くなったショウコなら、できるだろう。
そして俺は正面および側面を担当する。
……一番危険な役目であるが、俺がやりたかったクエストなのだから、これぐらいは頑張りたい。
セツヒトさんもフォローしてくれるし、ショウコもいる。
滅多なことにはならないと願いたい。
「……行きます。」
「はーい……。」
ジャキ!
俺は双剣を取り出す。
まずは、このおっさん……ラージャンを叩き起こさないとな。
(ショウコは……回り込んだな……セツヒトさん……見なくても分かる……殺気がビンビンだ……フェニクさ…………っ!?)
全員の準備ができたかどうか。
最終確認をしていた時に、異変に気付いた。
フェニクさんが、何故かラージャンを見ずに、右に顔を向けていた。
その一瞬の後、フェニクさんの声が上がった。
「避けろぉ!!ソウジさん!!」
「えーーー」
「っ!!ソウジ!!」
ヒュッ!!
ドスッ!
「ぐぁっっ!?」
「せっちゃんさん!!」
「セツヒトさん!」
一瞬だった。
フェニクさんを確認しようと後ろを見たら、あらぬ方向を見て、見たこともないような顔をしていた。
驚愕、といった顔。
まさか、と俺もその方向を見た。
人影がいた。
木の上、明らかに人間。
と、認識した瞬間、そこから飛んでいたのは、矢。
凄まじい速度で、俺の腹に向けて。
避けるとかそういう次元じゃない。
既に目の前にあった。
その一瞬に、セツヒトさんが割り込んだ。
……俺の代わりに、矢を受けた。
「セツヒトさん!!」
「ぐぅ……あー……痛すぎー……!」
「セツヒトさん!す、すまない!私としたことが!!」
「だいじょーぶ……フェニク!!」
「!!あ、あぁ!」
バッ!
セツヒトさんが、顎を使って方向を示し、フェニクさんに呼びかける。
フェニクさんは返事をすると、すぐさま矢を射った人影の方へ向かった。
そうか、追撃があるかもしれない。
「……ちぃっ!!」
「……!?待て!!」
射手と思われる人物の舌打ちが聞こえた。
そしてそれを追いかけるフェニクさんの声。
「セツヒトさん!」
ショウコも心配の声をあげて飛んできた。
矢は、右肩に命中している。
血が漏れだし、白い肌が赤く濡れていた。
「いやー、やっちったねー……ぐ……んー!!」
グジュ……ジュバッ……。
セツヒトさんが、自分で矢を抜き取る。
余りに痛々しい。
しかも……これ、モンスター用の毒矢じゃないか?
「うーわ、毒テングダケのやつかー……キッツイわけだよー……。」
「す、すみません……俺を庇って……今、解毒薬と回復薬を出します。……撤退しましょう。」
「うん……ありがとー……ソウジ?気にしないでー。ソウジを守れたなら、本望だよー。」
「セツヒトさん……。」
「…………好きな人を守れたんだ…………私もうれしーーー」
「グァァァァァァ!!!!!!!!」
「「「!?」」」
セツヒトさんの容態を確認していた。
そんな時。
凄まじい咆哮が、一帯に響き渡った。
空気が震え、怒りが伝わる。
最悪だ。
一番、最悪なパターンだ。
セツヒトさんが手負い。
状況も整っていないどころか、把握もできていない。
そんな中。
「くそっ!!」
「グゥゥゥ……。」
ラージャンが、目覚めてしまった。
「……ショウコ!!」
「は、はい!!」
考える。
けど、できることは限られる。
……まずは……。
「……セツヒトさん最優先!一緒に逃げろ!」
「いやっ、でもーーー」
「ショウコ!!今はこれしかない!!俺も隙を見て逃げる!」
セツヒトさんは、どうやら起き上がるのがやっと。
毒のせいか、立ち回りには期待できない。
「ソウジーーー」
「二人とも!早く!」
「…………っ!!はい!セツヒトさん!はよぅ!」
「ショウコちゃん……ソウジィ!」
「グァァァァァ!!」
「っ!?」
胸をドラミングした後、寝床から立ち上がったラージャンは、後方に飛んだ。
あれは……アイツ、岩を……!!
「くそっ……おら!こっちだ!!」
「グァァァァァァ!!」
とんでもない大きさの岩を片手で持ち上げたラージャン。
挑発した甲斐もあって、横に移動する俺めがけて、それを投げてきた。
(いやいやいやいや!!)
物理法則的にありえないだろ!!
なんだその持ち方!!
サイ◯人かよ!!
ドガァァァァ!!
凄まじい音を響かせて、木に当たる大岩。
バキバキィ……ズドォン!!
木は薙ぎ倒され、またも大きな音が響く。
しかし、俺はそちらを視認できない。
……目の前のモンスターから、目が離せない。
(……コイツ……強い……!!!!)
今までの経験から、分かる。
自分の事ながら、頑張ってきたんだ。
色んなモンスターを倒し、鍛え、強くなってきた。
自信がある。
でも、目の前のコイツ。
金獅子ラージャン。
……勝てるのか?俺に。
狩れるのか?
そんな疑問が尽きない。
倒すイメージが、全く湧かない。
「グルルルル…………。」
怒りに打ち震え、歯を剥き出しにし、鬼の様な顔で俺を睨みつけるラージャン。
……とにかく、セツヒトさんとショウコが逃げるまで。
……時間を稼ぐ!
(二人は……行ったか?)
視線は逸らさずに、二人のいた方向を見る。
……どうやら、行ってくれた様だ。
「……ガァァァァァ!!」
「〜!!」
再び、凄まじいまでの叫び声が響く。
森の木々が、震えている。
声デカすぎだよ、ラージャン。
「ガァッ!!」
「のわっ!!」
腕を振り上げてブン回したと思ったら、突如俺に襲いかかってきた。
この距離を一瞬で!?
「っ!!」
「ガァッ!」
ドガァ!!
寸での所で避けた俺。
空振りに終わったラージャンの拳は、地を抉っていた。
(……そうか、この拳か。)
森に入った時に見つけた、大きな倒木。
その根元の抉られた地面と似ている。
とんでもないパワーだ……。
(やられっぱなしじゃ……いられないよな!!)
ケツを向けるラージャンの側面に、双剣を入れる。
ザシュ!ザザン!
ギン!
(!?かってぇ!!)
表面の肌か、毛か。
とにかく硬い。
刃が、入らない。
「ガァ!!」
「くっ!」
ブン!
ブン!
ブォン!
振り向きざまに、両の拳を振り回してくるラージャン。
何度もバックステップを踏みながら、何とか避ける。
が、距離感を見誤った。
3回目の拳が完全に俺を捉えている。
風を切る音が、目の前に迫る。
(当……脇腹……ここ!!)
一瞬。
拳が当たる、その瞬間。
脱力して、俺は
ゴシュ!
(ぶはぁ!!)
強烈。
その一言。
拳、その力。
俺の今までの中で、一番に強いそのパワー。
グォン!
俺の視界は、いつも通りの回り方ではなく。
「ぐぁっ!!!!」
ドガァ!!
斜めに縦に、視界がグルグルと回って、俺は木にぶつかった。
ぶつけられた。
「……ぐ、ぐぅぅ……。」
苦しい。
痛すぎる。
鬼人化もせず、回避を試みた……多分タイミングは、合っていた。
なのに、俺の自慢の回転回避は何の功も奏さず。
ただただ、ふっ飛ばされてしまった。
(…………回復薬。)
キュポ。
ゴクン……。
バシャッ……。
素早く、薬を飲んで、腹にぶっかける。
痛みは引いた……いや、痛いままだが、多少ましになった。
(…………マジかよ…………。)
力を、味わった。
味わってしまった。
俺は、こいつに。
多分だけど。
(…………勝てない、かも。)
心が。
俺の心が、折れそうになる。
「…………グァァァァァァ!!」
「っ!!」
響き渡るその声に。
恐怖しか、感じられなかった。
「…………。」
「…………。」
金獅子、ラージャン。
勝てる気が、しない。