モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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今回、長めです。
話が切りづらくて……。


143やっぱり二人でやりましょう。

「…………待たせたな!ソウジ君!」

「…………教官!!」

 

 

予想外だった。

驚いた。

 

何という……。

何というタイミングで間に合うんだ、この人は。

間が悪いとか、嘘だろ。

 

ここまでか、と意を決した。

覚悟を決めたはずなのに。

やっぱり怖かった。

 

 

(教官……。)

 

 

目頭が熱くなる。

この人には、命を一度助けてもらった。

また、恩ができてしまった。

返しきれない、恩が。

 

 

「さて!とりあえず一つ!」

「は、はい!」

 

 

気合いの入った声。

ラージャンを遠目に、俺に声をかける教官。

しかし、俺の返事を聞いた教官は、意外な行動に移った。

 

 

「…………この、大バカモノ!!」

 

 

ガツン!

 

 

殴ってきた。

ボウガンの先で。

…………めっさ痛い。

 

 

「いっ…………いってえぇ!」

 

 

痛がる俺。

ワケが分からず、教官を涙目で見つめる。

い、いきなり何!?

 

 

「…………生を諦めるな!」

「あ…………。」

「死を受け入れるな!!手が動くなら石を投げろ!足が動くなら這い回れ!」

「…………は、はい。」

「私の弟子なら、生き意地汚くもがきぬけ!!……返事ぃ!!」

「さ、サーイエッサー!!」

 

 

殴られたのは……初めてか?

しかもボウガンで。

 

 

「怪我人は休養!私は……出るっ!」

「きよ、教官!?」

「動けるなら、来るといい!…………はぁ!!」

 

 

俺に何かを投げると、勢いよくヘビィボウガンを背に担ぎ、ラージャンの方に走り出していった。

俺はただ、呆然とそれを見送るしかなかった。

 

 

「…………ラージャン!久しぶりだな!私が相手だ!!」

「…………グァァォァァァ!!!!」

「ハーハッハッハッハッ!!」

 

 

教官が投げ渡してきたもの。

…………いにしえの秘薬だ…………。

…………ありがたくいただこう。

 

 

(確かに……諦めてたわ。)

 

 

どうしようもない状況に、ここまでか、と諦めてしまった。

命の危機は今までにも何度もあった。

バサルモス……ディノバルド……。

死ぬかも、という時がたくさん。

だが、諦めたことは無かった。

 

今回は、何だろう。

あまりの強さに、刃が立たないと。

そう、思った。

だから、諦めた。

体は重いし、どうあがいても敵わない、と。

 

加えて、ドーピングをしたかのように盛り返した俺の肉体。

それが突如として、鉛のように重くなった。

それもある。

 

 

…………何をやっているんだ…………。

精一杯生きると、頑張ると決めたじゃないか。

 

 

『私の弟子なら、生き意地汚くもがきぬけぇ!』

 

 

教官の言葉が、頭の中に何回も響く。

 

怒っていた。

教官は、心の底から怒っていた。

あんな姿、見たことない。

 

 

ズガガガガガガガガ!!

 

 

「ギャォアアア!!」

「ふんっ!!…………こっちだ!!」

「…………グラァァァァァ!!」

 

 

教官が、ラージャン相手に互角……いやそれ以上に立ち回っている。

ラージャンの目が俺にいかないように、常にヘイトを稼いでくれている。

 

…………助けられた。

 

 

…………俺はこのままでいいのか。

 

 

…………。

 

 

「…………いいわけ、無いだろ!!」

 

 

キュポン!

 

ゴキュ…………ゴクン!

 

 

「うぁぁ……苦い……。」

 

 

苦いけど、こいつは効果覿面。

鉛のようだった体が、多少元気を取り戻す。

痛みはまだ残っているけど。

…………問題ない!!

 

 

(覚悟を決める!!)

 

 

教官が、ラージャンを抑え込んでくれている。

だが、俺が狙われる可能性はゼロではない。

だったら、逃げるか。

戦うか。

 

 

(…………やってやる!)

 

 

後者を選んだ俺の体に、力が戻ってくる。

気合いと根性と……まぁぶっちゃけ薬のおかげだろうが、体調は七割方戻った。

 

 

ザッ……。

 

ザッザッザッザッザッ!!

 

 

足元の草を踏みしめ、走り出す。

向かうは、俺史上最強の相手。

 

 

「…………教官!すいませんでした!!…………いきます!!」

 

 

ジャキン!

 

双剣を構え、教官を横目に宣言する。

 

怒られたら、どうするか。

謝罪は……後でいつでもできる。

今は、やれることをやる。

それだけだ。

 

 

「…………やれるのか!?満身創痍だろう!」

「やってやります!」

「………………あいわかった!見せてみろ!!」

「は……サーイエッサー!!」

「ガァァァァァァァ!!」

 

 

少しだけ、教官と目を合わせた。

強がりでも何でも無く、やってみるという答え。

それを受け入れる教官。

 

師匠と弟子のやり取りを終え、ラージャンを見据える。

 

 

「お前ら何やってんだコラァ!」と言わんばかりに、厳つい顔を更に怖くしたラージャンが叫ぶ。

ビッカビカに輝く体毛が、目にうるさい。

ついでに言えば、声もうるさい。

 

 

「………ふっ!」

「ギャァ……グァァ!!」

 

 

咆哮の後、少しだけ前傾姿勢になったラージャン。

見逃さない。

それは、さっき見た「後ろに跳ぶ」というモーション。

 

 

『まずは、見!』

 

 

教官の教え。

……破ります!

 

 

バッ!

 

 

俊敏なラージャンの動き。

そのバックステップに完璧に合わせて。

 

 

ダッ!

 

 

張り付くように、付いていく。

 

 

「グァァ!?」

「うらぁ!!」

 

 

ザシュ!

ズザザザサン!

 

 

「うむっ!!」

 

 

教官の声が聞こえる。

予測して、予想通りの動きに合わせて、攻撃を入れられた。

完璧に動けたと思う。

 

だが……。

 

 

(軽い……。)

 

 

斬撃は、入った。

だが、ダメージを与えられた気がしない。

先程までの、しっかりした手応えは無かった。

 

 

(教官は頷いてくれているが……。)

 

 

「よしっ、いいぞ!ソウジ君!…………ふんっ!」

 

 

ズガガガガガガ!!

 

 

ビシッ!ビシビシッ!

 

 

(きれいに入るなぁ……。)

 

 

教官の弾は、確実にラージャンに効いている。

と、思う。

弾と斬撃、単純な比較はできないけど。

 

 

「グァァ……!!」

 

 

現に、ラージャンは教官の方を向いて、敵意をむき出しにしている。

ショウコと俺の逆のパターンだ。

より強い方に、モンスターは意識を向ける。

 

前衛としては、失格だろう。

 

 

「…………こっちだ!!」

 

 

ザシュ!

 

 

ケツを向けたラージャンに、一撃。

後ろは柔らかいんだな。

手応えはあまり無いけど。

 

 

「グラァァァァァァ!!!」

 

 

ブオン!!

 

 

「うわっ!…………とっ。」

 

 

ラージャンが振り回す拳に対応する。

グルグルと、コマのように地を這う攻撃を、跳躍して避ける。

 

…………このままっ!

 

 

「ふっ!!」

 

 

グルン!

 

ズザ!

ズザザザザザザザン!

ザシュ!!

 

 

「ギャァァァ!!」

「うむっ!素晴らしい!!」

 

 

飛んだ体をそのままひねり、ラージャンの自慢のツノめがけて回転乱舞を入れる。

落ち着いてやれば、いける。

油断は禁物だけど。

 

 

ジャキ!

 

ズガガガガガガガ!!

 

 

「交代だ!ソウジ君!」

 

 

後ろに援護がいるというだけで、こんなにも安心感が違うのか。

さらに言えば、教官は一騎当千。

 

射撃でこの人の右に出る者を、少なくとも俺は知らない。

 

 

(落ち着けるわけだ。)

 

 

一人とは、まるで違う狩猟。

心の余裕があるだけで、こんなに視野が広がるとは。

いや、わかってはいたけれど。

 

きっとショウコとセツヒトさんが居れば、同じように狩猟を進められただろう。

 

 

「グァァァァァア!!!!!」

 

 

雄叫びを上げる、ラージャン。

急に飛び上がると、巨体を振り回して、飛び込んできた。

 

その動きは、わかる。

重力無視の、回転攻撃。

 

 

…………行くぞ!!

 

 

「しっ!!」

「ソウジ君!?」

 

 

教官が驚く声が聞こえた。

無理もない。

飛び上がるラージャンに向かって進む、俺の行動。

意図がなければ、それはただの自殺である。

 

だが、これは俺の中の最適解。

 

落ちてくるラージャンに合わせて。

俺は、前へと飛び込んだ。

 

 

「ぬぉぉぉぉ!!」

「ガァァァ!!」

 

 

ズドォン!

 

 

「ふっ!」

 

 

ズドォン!!

 

 

「っ!!!」

 

 

ズドォン!!!

 

 

「……くっ!!」

 

 

縦に回る、ラージャンの巨体。

飛び上がり、落下し、地面に叩きつけてはまた上がり。

規模がでか過ぎるスーパーボールのよう。

重力とかそんなの知らない、そう言いたげな攻撃を。

 

全て避けた。

 

 

(最後……合わせる………!!)

「ガァ………――――」

 

 

集中を高める。

ラージャンは、スーパーボール攻撃の最後、一瞬固まる。

 

その技後硬直に、合わせる。

 

 

シュッ!!

ヒュパッ!!

 

ズザザザザザザ!!

ザシュッ!!

 

 

乱舞。

 

 

 

「グァァ!…………グァァァァァォォォ…………!!」

 

 

 

ゴロンゴロンとその場に転げるラージャン。

輝いていた体毛は遂にその光を失い、最初見た黒い姿に戻っている。

のたうち回る姿、初めて見る。

 

強化した状態から元に戻った……?

何にせよ、これはチャンス!!

 

 

「教官!!」

「あぁ!!」

 

 

ズガガガガガガガガ!!

ダラララララララララ!!

ズザシュ!ヒュパッ!!

ズザザザザザザザザザザン!!

 

 

猛攻。

俺と教官の連撃が、ラージャンを襲う。

 

 

ザシュ!ズザン

ズザザザザザザザザン!ザシュ!

ズガガガガガガガ!

ズガガガガガガガ!!

 

 

「…………グゥゥゥゥゥゥ…………!!」

 

 

ズン……。

 

 

ようやく態勢を整え始めるラージャン。

 

(逃すか!!)

 

 

カチッ。

 

 

ズババババババ!!!

ビリビリビリビリ!!

 

 

「グァ!!…………ァ…………ァァァ…………アァ!!」

「うらぁ!」

「うむ!見事!!」

 

 

俺と教官の猛攻。

終わらせない。

数秒ほどで起き上がったラージャン。

それを逃すまいと、シビレ罠を仕掛けた。

 

トラップを見分けて避けられる、そんな力がラージャンにあったとして。

流石に足元に罠を置かれたら、避けようがないだろうと踏んだ。

 

喰らえ。

 

 

「うらぁぁああ!!」

「ふんっ!!」

 

 

ズガガガガガガガガ!!

ザシュッ!ズザン!ヒュパ!!

ズザザザザザザザザン!

ダラララララ!!

 

 

教官の弾に当たらないよう位置取っての連撃。

教官もここぞとばかりに弾を入れる。

 

急所ばかりを狙って……あ、そうか。

弱点か。

 

 

「…………グァァ…………。」

「よっ……と。」

「はっ!!」

 

 

トトンッ。

 

ストッ。

 

 

俺と教官が、ほぼ同じタイミングでラージャンから離れる。

少し距離を開けて、怒り顔のラージャン。

来るか、と思いきや。

 

 

「………………グアァッ!!」

 

 

ダン!!

 

 

ヒュー…………。

 

 

そのまま飛び立ち、どこかに飛んでいってしまった。

いや、翔んでいった。

 

な、なんという跳躍。

……え?飛び過ぎじゃない!?

天高く飛び立つラージャンは、既に空に小さく見えるほど。

 

つくづくファンタジーだなぁ……。

 

 

「離脱……しましたね。」

「あぁ……あの様に翼がない大型も、大きく跳躍して移動することがある!全く、規格外過ぎるな!」

 

 

規格外とかそういう問題ではない気がするが……。

まぁ今更か。

 

俺は教官に向き直る。

 

 

「…………教官。」

「ぬっ?どうした!?ソウジ君!」

「…………ありがとうございます!!」

 

 

バッ!!

 

 

礼を言いながら、頭を下げる。

気持ちを込めて、感謝を伝えた。

 

 

教官は「ふむ……。」と一息つくと、腕を組んで笑った。

 

 

「…………ソウジ君!強くなったな!」

「あ、ありがとうございます!!」

「いや、素晴らしい動きだった!!なぜあそこまで追い詰められていたのか、不思議なほどだ!」

「い、いやぁ―――」

「だからこそ!!」

 

 

つばを飛ばし、いつもの2割増しの大きさで声を上げる教官。

 

 

「……命を投げ出す様な真似は、しないでほしい。」

「……教官。」

「首都に報が入った。ラージャンの出現、しかもソウジ君が狩りに入る、と。そういう情報がな。」

「…………。」

「飛んできた。どうにも嫌な予感が拭えず、な。…………間に合ってよかったが、君が諦める姿を見て、悲しくなった。」

「…………すみません。」

 

 

教官は、本当に飛んできたんだろう。

足元には泥が跳ね、急いできてくれた様子が伺えた。

…………不甲斐ない姿を見せてしまった。

 

来てみれば、死を受け入んとする弟子の姿。

…………まぁそりゃ、嫌だわな。

 

 

「…………とにかく、反省と振り返りは後だ!それに先程の前衛としての動き。素晴らしかったぞ!」

「…………ありがとうございます。」

「一年半でここまでとは…………恐れ入る!」

 

 

褒めるのか怒るのか。

まぁ、両方か。

 

…………深く心に刻もう。

諦めは、一番やってはいけないことだ。

少なくとも、狩猟中は。

 

 

「しかし、俺の剣……あんまり調子よくないんですよね……。」

「ふむ?」

「あ、いや……シガイアさんに聞いているかもしれないですが、俺多分狂竜症?っていうのらしくて。」

「狂竜症……聞いたことがある。」

「あ、本当ですか……。俺、目が赤いんです。まるでモンスター……ナルガクルガみたいに。……俺にしか見えないんですけどね。」

「ほう……確かに、私には普通に見える!」

「ですよね……さっきソロでやっているとき、急に怖さがなくなったというか興奮してきて……まるで命を投げだす事にもためらいがなくなったというか。」

「…………。」

「何とか応戦して……一撃食らうと、もう体が……。そんな感じでした。」

 

 

珍しく顔を顰める教官。

 

やっぱ聞いてなかったか。

そりゃそうか。ずっと首都にいたのだ。

 

 

自分なりに考えてみた。

俺はラージャンがめちゃくちゃ怖かった。

死ぬ、と思った。

そんな時、ドクン、ズキンと痛みが走り、急に平気になった。

動きもよく見えるし、いつもより力が増した。

 

……これが、症状の一つなんだろうか。

 

教官との共闘の最中、手応えがそこまで感じられなかった。

いや、攻撃は入っていたのだが。

興奮していた時と比較すると、少し攻撃が弱かったと思う。

 

 

「……今は、どうなのだ?」

「あ、今ですか?えっと……。」

 

 

しまった。

自分の目を確認しようにも、鏡とか無い。

買っとけばよかった。

 

 

「目は……鏡とか無いからわからないんですけど、気持ちは……別に、変に高揚してはないです。普通ですね。」

「……先程ソウジ君が動けなかったのは、それが影響しているかもしれんな!」

「えっ!?」

「おそらく、狂竜症とやらを発症し、ソウジ君に何かしらの影響を与えているのだろう!しかし、肉体というものは限界がある!酷使し過ぎれば、動かなくもなる!」

「……あー。」

 

 

確かに。

全く動けない、というよりは……とにかく体がだるくて重かった。

極度の疲労……だったのだろうか。

 

 

「思い当たる節はあるようだな!何、ハンターあるあるだ!」

「あ、そうなんですか?」

「あぁ!パワーアップの方法など、数多あるからな!それに依存しすぎて、体を壊すハンターは多い!……ソウジ君の場合は、狂竜症がそのように作用しているのかもしれんな!」

「……狂竜症って、力が入らなくなったり、興奮状態が続いたり、という症状と聞いたんですけど……。」

「詳しくは分からん!素人判断の域は出ない!良ければ、都合をつけて首都の医者に見てもらうといい!良い医者を紹介する!」

「はぁ……。」

 

 

100%善意で言ってくれているのがわかるので、無碍に断りづらいが……。

さっき、もしかしたらその首都の追手とやらに、セツヒトさんが襲われたのかも知れないんだよなぁ……。

 

 

「教官、話の途中すみません。」

「ん?どうした!?」

「ラージャンの後を追いつつ、話があります。実は……。」

 

 

俺は、ラージャンの飛んだ先に向かいつつ、教官にこの森であったことを話した。

 

 

* * * * * *

 

 

「……兎にも角にも、ラージャンを早く狩猟し、戻るとしよう!セツヒトも、そのフェニクという女性も、心配だ!」

「はい、そうしましょう。多分、この先です。」

 

 

教官に話した内容。

森に入って、様子が静かだったこと。

湖のほとりで、よくわからない真っ黒なモンスターがいた事。

それがいなくなった途端、モンスターたちの動きが活発になってきたこと。

そして、ラージャン発見の時にあった、一部始終。

妨害を受け、フェニクさんが追い、セツヒトさんが負傷して、ショウコとともに避難して。

 

そんな話を、掻い摘んで伝えた。

 

それを聞いたからか、すぐに狩猟を終わらせようと提案してきた。

時間はかけたくない。確かに。

 

 

「ソウジ君の『まっぷ』とやらに、反応はあるのかな!?」

「はい……ちょうど、俺達が黒いモンスターを見つけたあたり……ですね。」

 

 

ぐるっと森を回り、トツバやガーグァ車のおじさんのいるであろうスタート地点に向かう形で戻ってきた。

途中大型モンスターが何体かいたが、時間がない。

迂回しつつたどり着いたのは、例の湖であった。

 

湖を見渡し……見つけた。

 

 

「……いました、教官。」

「ソウジ君はやはり目がいいな……あぁ、私も見つけた。アレだな。」

 

 

木に隠れながら、小さな声で教官に発見報告。

教官も見つけたようだ。

 

ラージャンは、いつもの黒い体色。

夕焼けが迫り、ほのかに色づき始めた湖に口をつけている。

水を飲んでいるようだが……。

 

そんなラージャンの様子を注意深く見ていると、教官から質問の声が上がった。

 

 

「ソウジ君は……やるのかな?」

「えっ……やる、っていうのは。」

「うむ……あまり言いたくはないがな。その装備、防具では、とてもじゃないがラージャン程の相手は難しい。」

「あー……やっぱりそうですよね……。」

「うむ。双剣は……氷属性でベルゲルブリザード、しかも一級品だ。それに文句は無い。しかし、ミヨシ村一式は……下手したら一発、だな。」

「……装備を強化するために、今ラージャンに挑んでいるんです……。」

「おっと、そうだったか。……すまんな。修羅の道の途中だったのだな。」

 

 

強敵と戦うための装備を作るために強敵に挑む。

人、それを修羅の道と言う。

 

……本末転倒、とも言う。

 

 

「あいわかった。ならば、倒そう。ラージャンを。」

「はい、よろしくおねがいします。」

「うむ!あー、一つアドバイスだ。私の弾丸が当たる場所、そこをよく見てほしい。」

「…………弱点、ですよね。」

「ああ。ソウジ君は無意識にできているようだが、ラージャンは硬い。より精度が必要だ。意識してみるといい。」

「…………はいっ。」

 

 

武器はまだマシな方、なのに手応えが感じられない時がある。

その原因は、教官の攻撃を見てすぐわかった。

改良の余地が、まだまだあるなぁ。

 

ちなみに、ラージャンに気付かれないように話しているため、教官はいつものように元気な声ではない。

こうしていると、いたって普通の人間である。

いつもこうだったらいいのに……。

 

 

「では行くぞ!前衛は頼む!」

「はい!フォロー、よろしくお願いします!!」

 

 

ザザッ!

 

 

「ガァ!?」

 

 

後ろに回り、速攻を仕掛ける。

……気付いたな。

だけど、遅い。

 

ラージャン、こいつはまず……。

 

 

「ガァーーー」

(狙い通りの咆哮!!)

 

 

ラージャンに限らず、大型のモンスターはなぜこうも、開幕咆哮が好きなのだろう。

いや、相手がそれで怯んでくれれば、大きなスキになるから、だろうけど。

 

 

(回転乱舞……!!)

 

 

咆哮が来ると、踏んでいた。

意識を無意識に切り替える。

憑依状態を意図的に作り上げ、回転乱舞を開始。

 

同時に響き渡る、ラージャンの咆哮。

その顔に、2つの剣を入れた。

 

 

ザシュ!!

ズザ!ザザザザザザザ!!

ザザン!!

 

 

「おお!!」

 

 

教官の声が聞こえる。

見せられた、だろうか。

俺の編み出した、咆哮無視?攻撃。

 

いや、耳の中は痛いんですけどね。

 

 

「どうやったか分からないが!いいぞ!ソウジ君!」

 

 

バシュッ!

 

ヒュウウウウゥゥ……。

 

ピカッ!

 

 

俺に声をかけながら、教官は照明弾を上げた。

もうすぐ夕方に差し掛かる。

煌々と照らされる照明弾は、湖に反射して、そのほとりを明るく照らした。

 

そして……。

 

 

「…………ガァァァァ!!!!!」

 

 

ビガァ!!

バリバリィ!

 

 

「グゥゥゥ…………。」

 

 

その光に負けじと、ラージャンも体毛を金色に輝かせた。

強化状態。

…………恐ろしい。

 

 

「ソウジ君!!」

 

 

と、思っていた俺に、後ろから声がかかる。

 

 

「奴め、だいぶ焦っているようだな!…………ここで決めるぞ!!」

「…………サーイエッサー!!」

 

 

気持ちが楽になる。

狂竜症の影響ではない。

 

後ろに頼もしい人がいる。

これだけで、余裕が生まれる。

ありがたい。

 

 

「…………グゥゥゥ…………ガァッ!!」

「ソウジ君!右だ!!」

「サーイエッサー!!

 

 

更に言えば、こうやって指示をくれる時もある。

自分で分かってはいても、どうにも判断に自信がもてない時がある。

 

だからこの声掛けは、やはりありがたい。

 

 

右に跳んだラージャンは、着地際に脚に力を込めようとしている……ように見えた。

その一瞬を、見逃さない。

 

 

「ガァァ―――」

(遅い!)

 

 

明らかに速度を落としているラージャン。

金ピカ状態なのに。

 

……俺も目が慣れてきた、というのもあるかも知れない。

兎にも角にもラージャンの動きを見切った俺は、ヤツが飛び込んでくるだろうと予測。

 

その飛び込みに合わせることにした。

 

 

(集中……鬼人化……!!)

 

 

ゆっくりと見えるほど、神経を研ぎ澄ます。

ラージャンがやってくるのは、ここ。

ならば、おそらく…………。

 

 

「―――ァァァァア!!」

(ここ!!)

 

 

ダッ!!

 

 

湖のほとり、その湿った地面を踏みしめる。

力を抜いて、回転を加え。

ラージャンの動きに逆らわぬように。

 

そして、剣撃をムチのようにしならせて。

 

 

ザシュザシュザシュ!!

ヒュパン!

ズザザザザザ!!

 

 

「ガァァァァ!?」

 

 

バキィ!!

 

 

(角、破壊確認!!)

 

 

突進する動きに合わせて、双剣を当てた。

力はいらない。

ラージャンの攻撃に、無理に反発しようとするから、駄目なのだ。

力で勝てるわけがないのだから。

 

ならば、どうするか。

 

……相手の力を利用する。

それしかない。

 

 

「うむっ!正しい!…………ふん!!」

 

 

ダラララララララララ!!

 

 

教官の追撃が、ラージャンを襲う。

狙う場所は、俺がさっき折った角。

 

 

ビシィ!

ビシビシッ!!

 

 

「ギャアアア!!」

「タイミング、ばっちり……!」

 

 

のけ反るラージャン。

そのスキ、のがしてたまるか。

 

 

(反撃は無い……ここ一番のデカいやつ……!!)

 

 

折れた角を狙われ、たまらず体を開けたラージャン。

その顎から脳天にめがけて。

 

 

(空中……乱舞ッ!!)

 

 

高さはいらない。

しかし、俺は究極まで脱力して。

足の先から頭まで、体全体を使って回った。

 

 

「ぅぅ……ぉぉぉぉおお!!」

 

 

ヒュパッ!

ザン!ズザザザザザザザザザシュッ!

ザン!

 

 

「グァァ…………!」

 

 

ズゥン……。

 

 

捻じりに捻った体を、フルに回転。

初めから腕は開き、徐々に体の内側に収束するように。

そうすると、えらく体が回る。

 

ラージャンの顔に集中して斬撃を入れる為の動き。

だから、高さはいらない。

必要なのは、回転の速さ。

 

 

「ぐっ……!チャンスです!教官!」

「あぁ!…………いけるぞ!ソウジ君!」

 

 

教官が合図する、いける、という言葉。

捕獲可能、ということだ。

 

俺の渾身の一撃を食らって、ラージャンはたまらず再び転倒した。

短時間に2回もダウンが取れるとは思ってなかったけど。

 

 

「素晴らしい!非常に見事である!!素晴らしい!!!」

「ありがとうございます……!」

 

 

カチッ。

 

 

教官にお礼を言いながら、シビレ罠を仕掛ける。

のたうち回るラージャン、その下に一瞬で仕掛けたシビレ罠。

 

 

ビリッ…………。

 

バリバリバリバリバリ!!!

 

 

「ガッ……アァッ…………グッ…………ァァァァ!!」

 

 

無事発動!

麻酔玉!!

 

 

「終わりだ……!」

 

 

ボフッ……ボフッ……。

 

 

「ガァッ……ァァァァ!!」

 

 

…………あれ?

 

 

「教官!眠りません!」

「…………すまん!見誤った!!」

「えぇ!?」

「行くしかない!タコ殴りだ!!」

「ええぇ!!?」

 

 

どういうこと!?

あ、捕獲のタイミングではなかったってこと!?

…………考えている場合ではない!

攻撃!!

 

 

「「ぬぁぁぁぁぁぁあ!!!」」

 

 

ズガガガガガガガガ!!

ザシュッ!ズザン!ヒュパ!!

ズザザザザザザザザン!

ダラララララ!!

 

 

俺と教官の猛攻が浴びせられる。

動けないまま、斬撃と銃弾を入れられるラージャン。

 

だが。

 

 

(もう……シビレ罠が……切れる!!)

「ガッ……ァァァァ……ァァァァァァァアア!!!」

 

 

ビリィッ…………バチッ…………。

シュウゥゥウ…………。

 

 

切れてしまった。

罠が。

 

 

(くそっ……倒しきれなかった……。)

「…………。」

 

 

四つ足で仁王立ち……ではないが、その場に佇むラージャン。

黙ったまま、俺と教官を睨みつけてくる。

 

 

「教官……もう少し、よろしくおねがいします……!」

「…………ソウジ君!」

 

 

ラージャンの巨体は、相変わらず威圧的だ。

だが、まだ金色に輝いた強化状態ではない。

このまま……倒す!!

 

 

「教官は後退を!あとでタイミングもらって、俺一回双剣を研ぎま―――」

「ソウジ君!」

「はっ……サーイエッサー!」

「よく見たまえ!…………狩猟、完了だ!!」

「…………へ?」

 

 

間抜けな返事を教官にしてしまう。

完了?

 

いや、だって……ラージャン、立ってますけど……。

 

 

「…………zzz。…………zzz。」

「…………寝てんのかよ!?」

「いやぁ!良かったな!ぎりぎりだったが、捕獲の体力まで削れたようだ!」

「体力を……削れた?」

 

 

よくわからんが……トラップを仕掛けて、麻酔玉を当てて……。

だけど捕獲には至らなくて……。

仕方がないからがむしゃらに攻撃して……。

そしたらうまいこと体力を削って……捕獲できたってこと?

 

なんじゃそら。

……ま、まぁそういうこともあるのか。

…………普通斬撃やら銃弾浴びせられたら眠気なんぞ吹っ飛ぶと思うんだが…………。

 

 

…………もういいや、考えるだけ無駄だろう。

こういう世界なんだ。そういうことにしておこう。

 

 

 

「…………おめでとう!ソウジ君!」

「へ?」

「君は遂に、ラージャンを狩猟できたぞ!……私に肩を並べられたと言っても、過言ではないな!!」

「ま、マジっすか。」

 

 

教官から、称賛の声が上がる。

いや、あなたがそばにいてくれて、更に手助けしてくれたからですけど……。

まぁ、とは言えど、狩猟できたことは事実。

 

ありがたく、お言葉をそのままポジティブに受け入れよう。

 

 

「……ありがとうございます。教官が、いてくれたからです。教官がいなかったら、俺、死んでました。」

「うむ!全くその通りだな!感謝するといい!」

「……ははは。流石です、教官。」

 

 

教官はこういう人である。

裏表など無い人格。

……悪く言えば、何も考えていないともいえるが。

 

だからこそ、この人の周りには人が集まるんだろう。

 

 

「…………zzz。…………zzz。」

「……どうします?このラージャン。」

「とりあえず横にしよう!……信号弾は、どうするのだ!?」

「あっ、今撃ちます。」

 

 

恐らく、遠方でワサドラ回収班と観測班が待機しているはずである。

上空に向かって、信号弾を打ち上げた。

 

空は、もう夕焼け。

湖の上に打ち上げられた照明弾が、少しずつその明度を落としていく。

効果が切れてきたんだろう。

 

こんな時間に、回収に来てくれるのだろうか。

そこに不安は残るが……。

 

 

「すみません、教官。俺、その、体が限界です……。」

「うむ!難しい話が色々とあるが、一先ずはそのガーグァ車に行くとしよう!…………ほれ!!」

「へ?」

 

 

教官がその場に座り込むと、背中を見せる。

…………おんぶされろって事か?

 

 

「いやいや、教官!流石に歩けますって!」

「気にするな!それに、急いだ方がいいのだろう?」

「そ、それはそうですけど……。」

「なら、よしっ!…………ふん!」

「へぇっ!?」

 

 

変な声が出た。

なぜなら。

 

教官に担ぎ上げられたからである。

 

 

「さぁ!南東だな!行くぞ!!」

「ちょっとま―――」

 

 

ピュー!!

 

 

「はやっ!?……うぇっっ…………もちょっとゆっく…………!?」

「ん!?何だ!!急いだほうがいいのか!!よしっ!」

 

 

ピューーー!!

 

 

こうして俺は、教官に担がれ、急いでスタート地点のキャンプに戻ることになった。

ラージャン狩猟の喜びも束の間。

 

 

激しく揺らされながら、別の意味で命の危機に立たされるのだった。

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