モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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144状況を確認しましょう。

記憶のある中で、乗り物酔いはほとんどしたことがない。

 

姉は車に弱く、車中で夢中になって本を読む俺に向かって舌打ちをしていた。

船に乗っても酔わない。眠くなるタイプである。

 

乗り物酔いというものがどんなものか、一度知りたいとは思っていた。

 

 

「……おぇ…………ぐぇぇぇぇ…………。」

 

 

前言撤回。

誰だ一度知りたいとか言ってたやつは。

 

俺だ。

 

 

「……うぷっ…………気持ち悪ぅ…………。」

「お、おいおい……ソウジさん大丈夫か?」

「おじさん……すみません、こんなところ見せて……。」

 

 

おじさんに心配をかけてしまった。

申し訳ない。

 

 

 

教官が俺を助けてくれて、無事ラージャンは捕獲完了。

負傷しつつも、助けを借りて勝つことができた。

そして、()()()教官が俺を担いでくれて。

スタート地点にまで、一瞬でたどり着いた。

 

あまりの速さ、日もまだギリギリ沈んでいない。

すげぇ。

 

俺の体調と引き換えに、ではあるが。

 

 

「…………とにかく、ただ今戻りました…………あっ、セツヒトさんは!?」

「あぁ……あそこで、寝てるよ。」

 

 

心配そうな顔はそのままに、おじさんが右を見た。

その先にあるのは、えんじ色のテント。

 

 

「ショウコの嬢ちゃんが必死こいて連れてきてくれてなぁ……俺もトツバも驚いたが、止血も解毒も済んでいた。まぁ、大丈夫だろうよ!」

「そうですか……ちょっと、行ってきます。」

「あー待て待て!ショウコの嬢ちゃんに、『絶対ご主人様を中にいれんといて下さい!』って言われててよ!」

「へ!?」

「よく分かんねえけどよ?何か裸がどうとか言ってたぞ?」

「…………。」

 

 

お休み中のセツヒトさん。

寝ていたとして。

 

…………。

 

 

……おぉ、それは危ない。

さすがショウコ。俺の相棒。

 

気が利くじゃないか。

 

 

「…………やめときます。」

「おぅ、それがいい。」

「はい……それとおじさん……あれは……?」

「尋問中……だとよ。」

「…………はぁ。」

 

 

次に俺が見つけたのは、焚き火のそばに横たわる丸太、それに隣り合って座る男女の姿だ。

ぱっと見れば、キャンプ中のカップル二人のような感じ。

異様な点を上げるとすれば、片方の男性は縄でぐるぐる巻きにされているのに、やけににこやかである、というところ。

 

フェニクさんが、その縄の先をしっかりと自分にくくりつけ、逃すまいとしているように見える。

 

 

…………何やってんのよあの人は。

 

 

「尋問……ですか?あれ。」

「あぁ。何でもよ?『話を聞くときはまずリラックスさせることが先決だ。』とかなんとか言うもんでよ。俺もトツバもショウコの嬢ちゃんも、タコ殴りにしてやりゃいいんだとか言ったんだがな。」

「はい。」

「それを断固拒否して、フェニクさんがアイツを庇うもんだからよ……そのお陰かなんか知らんが、アイツ、ペラペラと色々教えてくれたぜ?」

「…………。」

 

 

じ、人心掌握術……?

…………あり得る、フェニクさんならそれぐらい朝飯前……な感じがする。

元本職なわけで。

 

 

「お……済まない。ここにいてくれ。」

 

 

その当の本人が、加害者である男に一言断りを入れて俺の方にやってきた。

…………あぁ、縄はしっかりと杭にくくるのね。

 

 

「おかえり。ソウジさん。」

「はい、ただいま帰りました。」

「まずは、すまない……私がいながらセツヒトさんを守れず。」

「いえ、恨むべきは犯人です。……捕縛、ありがとうございます。」

「あぁ。まぁ勝手にすっ転んで自爆しただけだがな。捕まえ、そのままこちらに連れてきた。良かっただろうか。」

「構わないですよ。…………どんなやつかと思ったら、普通の男、ですね。しかも若い。」

 

 

見た目中肉中背の、普通の成人男性に見える加害者の男。

顔は下を向きつつも、チラチラと俺の方を見てくる。

 

…………この後の処遇を心配しているんだろうか。

 

 

「色々と吐いてくれたが……肝心なところはわからない。恐らく、ただの雇われの射手、だろう。」

「雇われ……。」

「下っ端、ということさ。今回は裏のルート、はした金で依頼されたそうだ。」

「……なるほど。」

 

 

そういう依頼をしたり受けたりできるところがある、ということか。

まぁ前世でもそういうものは存在していた。

ましてやこんな命の軽い世界。

裏とかそういうこと自体に、驚きはあまりない。

 

……そんなことより、セツヒトさんを襲ったということが、俺としては単純に腹が立つ。

だが、フェニクさんは更にその先の黒幕まで洗い出したい様だ。

 

うーん、本物の警察みたい。

もしくは探偵。

 

 

「ソウジさん、一つ頼みがあるのだが……いいかい?」

「えっ?……いや、俺尋問とかしたことないですよ?」

「ははは、いや、そうではないさ。…………これからアイツのところに行って、軽く脅してやってほしい。」

「……………………なぜ?」

「ああいう下っ端というか雇われ風情は、依頼主に忠誠など全く誓っていない。捕まって、何をされるかもわからない。そんな状況で、唯一味方となってくれる信用のおける女性がいたら……全部話してくれると思わないかい?」

「は、はい……。」

 

 

やっぱり全部計算ずくかよ!

しかもまだやる気かよ!

 

徹底してるなぁ……。

 

 

「ついでに……そうだな。脅す際は、私を貶めてほしい。」

「えっ!?な、なんで?」

「簡単だ。『四面楚歌、唯一自分を庇ってくれる女性。疑いはしたが、彼女もまたこのコミュニティでよい扱いを受けているわけではない。なんとか力になりたい。』……こう思わせられれば、しめたものだ。」

「おぉ……。」

 

 

やばい。

もう俺この人怖くなってきた。

 

 

「少しでも情報を引き出したい。……ラージャンの際に、何もできなかった汚名を返上したいんだ。私を罵ってくれ。」

「…………りょ、了解しました。」

「ふふ、助かるよ。」

 

 

汚名返上のために罵ってくれって……台詞だけ取れば、完全にドMさんの発言である。

……だが、これは黒幕を探るため。

 

い、致し方ない!

やらいでか!

 

 

…………。

 

 

……。

 

 

 

結論から言うと、男は言えること全てを話してくれた。

らしい。

 

男が依頼を受けたのは、首都東部にある平民街の隅っこ。

その一角の酒場だったそうだ。

依頼主は名前不明。

ただ、ローブを着てフードを目深に被った男性だったということだけ分かった。

この森にいる俺を見つけたら、狩猟中に致命傷を負わせてほしい、という内容。

金に困って酔っていた男は、大量の前金を目にして、依頼を二つ返事で受諾。

今回のことに至ったそうだ。

 

俺が双剣を手にして言い放った、「森の真ん中に置いていく。食われろ。」という言葉が、えらく効いたらしい。

フェニクさんが男を必死に庇うので、ついでにフェニクさんにも「だからあなたをここに連れて来るのは、反対だったんですよ……この荷物持ち風情が……。」と言った。

……という演技をした。

 

後は退散。

おじさんのところにまで戻ってきた、という寸法である。

 

…………参考にしたのは、姉が好きだった、よく分からんイケメンが出てくる学園モノドラマである。

性格が悪い生徒会長のマネをした。

ありがとう、ちょっと腐っていた姉貴よ。

 

あまりの演技クサさに死にたくなったが、これもまた必要な事。

割り切れ、割り切れ俺。

 

 

その後フェニクさんから、男が白状した全てを聞いた。

明日チダイ村に戻り次第、この男は憲兵に突き出そう。

他に何も知らなそうだし。

 

しかし、黒幕……というか依頼主は誰だろう。

首都の人……?俺に恨みがある人……?

 

…………こういう人の思惑がたくさん交差しそうな話は、あまり得意ではない。

シガイアさん辺りに丸投げしよう。

うんそうしよう。

 

 

「ソウジ君!名演技の後ですまないが、話がある!」

「何でしょう。あと名演技はやめてください。泣きたくなるので。」

 

 

俺の一世一代のお芝居を傍から見ていた教官から、声がかかった。

 

 

「先程、文が入った!無事、回収班がラージャンを発見、作業が完了したそうだ!」

「ええっ!?早くないですか!?」

「恐らく近くに待機していたのだろう!やはり彼らは優秀だな!」

 

 

拙速は何よりも尊ばれるとは言うが……すげぇ、回収班。

 

 

「首都の雲行きも怪しくてな!私もワサドラまで同行しようではないか!」

「あ、ありがとうございます……。」

「…………なにか気になることでもあるのだろうか!?」

「い、いや、そういうわけでは。」

「なに、ソウジ君のハーレムイチャイチャ道中を邪魔するつもりはない!私は見張りに徹するからな!」

「な、何を言うんですか何を!」

「何!?違うのか!?これほどまでに女性たちを引き連れて!……もしや!本命はあの御者の御仁か!!」

「ちょっと黙ってこの命の恩人!!」

 

 

誰がソッチ系だ誰が。

ただでさえ神様連中にあなたとの関係食い物にされているというのに。

 

餌を与えるんじゃないよ餌を。

 

 

「と、とにかく!ご一緒してくださるのは助かります。……この先も、何があるかわかりませんし。」

「うむ!任された!大船に乗ったつもりでいるがいい!!」

 

 

「はーはっはっはっ!!」と笑いながら、教官は自分のテントに帰っていった。

テントと言っても、ものの10分程で作り上げた、完全お手製の寝床であるが。

…………見た目は完全に、狩猟採取時代の人の住居である。

 

ある意味、ハンター全盛のこの世界にマッチしている。

 

 

「セツヒトさんは、ショウコが診てくれているから一先ずよし……フェニクさんにあの男は任せて……おじさんは無事で……教官はうるさいから放っといて…………。」

 

 

声に出して、懸念事項を再確認する。

…………何か足りないような。

 

 

「私は忘れられた存在。」

「のわぁ!!…………い、居たのか、トツバ。」

「ひどい。せっかく食料を採ってきたのに。」

 

 

俺の後ろでボソッと声がして驚いた。

振り返ってみれば、返り血を浴びたちっこいアイルーが一人。

 

トツバである。

 

ケルビを片手に引きずっていた。狩りをしてくれたのか。

…………無表情で血を浴びた服を来た黒髪ちびっ子アイルーが、同じく血のついたハンマーを背に後ろから話しかけてきたわけだ。

 

…………ちょっとしたホラーである。

 

 

「わ、忘れていたわけではないぞ?おじさんが無事だったのは、トツバのおかげだからな!」

「嘘。今言っていた中に私の名前がなかった。」

「いや、そういうわけでは。」

「ショック過ぎて、無表情キャラが崩壊する。」

「あ、自覚はあるのね……。」

 

 

もう全くこの子の内心がわからない。

読めないわぁ……。

 

 

「…………ソウジ、今ここにいたのは、誰?」

「ん?あぁ、教官……マショルクさんだ。」

「!!」

「世話になっていてな。今回も命を救ってもらって…………ど、どうした?トツバ。」

 

 

マショルク教官の名前を聞いてから、トツバの目が見開く。

当社比1.2倍ほど、ではあるが。

 

 

「で、伝説の。カホ・チータの人……泣く子も黙るボウガン使い……。」

「と、トツバ?トツバさーん?」

 

 

目をキラッキラさせて、原人(きょうかん)の住居を見つめるトツバ。

あれ?

この子、結構なファンとか?

 

 

「…………ファンなのか?」

「大好き。憧れ。かっこよすぎ。天才。推し。」

「そ、そうか。」

「……ソウジは、弟子?」

「ま、まぁな。みたいなもんだ。」

「…………ソウジ、プラス10点。」

「…………なんだそりゃ。」

 

 

その後聞いた話だと、教官はトツバの憧れの人、らしい。

よかったな、と伝えると、後でサインをもらう、と鼻息荒く言っていた。

 

……教官の普段の様子を伝えたら、幻滅するだろうか。

 

…………。

 

やめておこう……。

 

 

夢は夢のままであってほしいよな。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

翌朝。

チダイ村には、何事もなく戻ることができた。

 

警戒していた妨害は、結局狩猟中の最も危険な時に現れたあの男のみ。

道中は現れなかった。

 

まぁ森を過ぎれば殆どが農村地帯、見晴らしも良すぎるし。

妨害もしにくいわな。

 

加害者の男は、事情を話して憲兵に引き渡した。

「俺頑張るから……フェニクさんも頑張ってください!」などと、訳の分からんことを言っていた。

まぁ、コイツの行く先なんて知らん。

相応の報いを受けてもらおう。

 

 

その場に来たイパスさんに、簡単に狩猟の流れを説明。

負傷した俺とセツヒトさんは、イパスさんのところの客間で、休ませてもらうことになった。

 

 

「どうぞ、ゆっくりとお休みくださいね。あの男については、私におまかせを。既にワサドラと首都、両方に文は飛ばしてますので。」

「ありがとうございます。」

「どうもー、助かりますー。」

「お元気になられましたら、また改めてお礼をさせてくださいね。……ラージャンの狩猟、本当にご苦労さまでございました。」

「い、いえいえ。」

 

 

深々と頭を下げるイパスさんに、こっちも戸惑ってしまう。

美人さんがきちんと礼をする姿。

様になっている。

 

 

「それでは、失礼いたします…………あ、そうそう、これは独り言なのですが……。」

 

 

部屋を出ていこうとするイパスさんが、遠くを見ながら何かを話しだした。

独り言、と前置きして。

 

 

「あの男の持っていた信号弾。()()()()()()()()()()()()が彫ってあったんですよね……。確か、信号弾はハンターの必需品。ギルドから渡されることがほとんどだとか……あらいけない。まるで疑うようなことを言ってしまいました。…………独り言、失礼いたしました。」

「…………。」

「あ、そういえば。首都への知らせはまだ送っていませんでした……早急に、()()()()()()()()()()()()()()()。ええ、急がなければ。」

「…………。」

 

 

ガチャ……。

 

バタン。

 

 

 

「…………。」

「…………なーんかすごい人だねー、あの人ー。」

「すごいというか、怖いというか……。」

 

 

敵にはしたくないタイプではある。

含んだ言い方、首都の近くで農家一帯の長を務めるだけはある。

 

この話は、公にはできない、ということだろう。

 

 

「…………とりあえず、セツヒトさん。」

「せっちゃんー。」

「せ、せっちゃんさん。体は、大丈夫ですか?」

「んー?あー、平気だよー。モンスターにぶん投げられたほうが痛いってー……ソウジは、平気ー?」

「あ、俺は平気です。昨日寝たら、だるさもなくなりました。」

「そー?……なーんか雰囲気が……かっこよくなったねー。」

「へ!?そ、そうですか?」

「うん……男を上げたというかー……。」

「は、はぁ……。」

 

 

ラージャンを倒して、確かに自信はちょびっとついたけど。

そもそもやられかけたわけで。

教官の助けがなかったら、無理だったわけで。

 

 

「…………。」

「…………。」

 

 

無言の時間が流れる。

部屋に二人っきり。

…………あれ?ていうかこの状況…………。

 

…………セツヒトさんが寝たら大変なことになるのでは!?

 

い、いかん!

このままでは、意図せず女性の裸を見る変態のレッテルを貼られる!

 

 

「…………ソウジー?」

「は、はいっ!!」

「うわっ、声でかいってー。」

「す、すみません……。」

 

 

慌てているところに急に声がかかったもんだから、大きな声が出てしまった。

お、落ち着け、俺。

まだ日も昇りきっていない時分。

 

何とか対策を練るのだ。

 

 

「…………私がケガした時ー、どう思ったー?」

「…………へ?」

「だからー、ソウジを庇ってー……怪我しちゃったわけじゃん?」

「あ、はい……それはもう……」

 

 

セツヒトさんから唐突に質問が来て、間の抜けた返事をしてしまう。

怪我した時は……。

 

まぁ、正直に言おうかな。

 

 

「何だろう、怒りと悲しみと……色々と考えましたけど……。」

「悲しみ?」

「はい。……セツ……せっちゃんさんが傷つくのは、見たくなかった、というか。」

「…………。」

 

 

俺を庇った時。

超反応を見せて、矢と俺の間に体を割り込ませたセツヒトさん。

その、命をも厭わない感じが……何となく悲しかった。

 

いや、あの時はそうせざるを得なかったわけで。

感謝の気持ちで一杯なんだけども。

 

 

「今は、感謝しかないです。でも、あの時は俺が傷を負ったほうが良かった。」

「…………。」

「ラージャンに苦戦しました。でも、せっちゃんさんなら、ソロでももしかしたら、なんて。」

「…………体が動いちゃったんだよねー。」

「えっ?」

 

 

戦力的に考えると、俺が怪我した方が遥かに良かった。

と、思う。

 

セツヒトさんなら、ラージャンを手玉に取って、サッと撤退なんてこともできただろう。

だが、セツヒトさんは、体が動いた、と言う。

 

 

「あの時さー……ソウジを守れてよかったーって……そう本当に思ったんだよー?」

「そ、それは―――」

「頭にはよぎったさー。『私が矢を引き受けたら、ラージャンはどうしよー』とか、『ソウジが間に合わなくても、私がなんとかできるかもー』とかさー。……でも、本能でソウジをかばっちゃったー……。」

「…………。」

「気持ちが、許さなかったよねー。私の前でー、ソウジが傷つくのなんてー……死んでもごめんだよー。」

 

 

セツヒトさんが、珍しく言葉を選びながら話しているように見える。

 

俺のことを、そこまで大切にしてくれている、ということだろう。

…………ありがたい話である。

 

 

「…………ソウジー?」

「は、はい。」

「あの時さー……私が言ったこと、覚えてるー?」

「あの時……?」

 

 

あの時。

セツヒトさんが俺の前に瞬間的に飛び出してきて。

矢を受けて。

フェニクさんが追いかけて。

そしたらラージャンが起きちゃって。

 

 

「『好きな人を守れたなら本望』って……そう言ったんだよー……。」

「…………!?」

「……やっぱり聞こえてなかったかー……その耳、一度見てもらったほうがいいねー。頭と一緒にさー?」

「あ、頭って―――」

「ソウジー?私、本気だよー?」

「…………。」

 

 

セツヒトさんが、隣のベッドから身を乗り出す。

しなやかな腕。

俺をかばってくれたその腕には、白い包帯が巻かれている。

 

銀髪の先が、ベッドの上にかかっていた。

 

 

「一生懸命でー、たまにバカでー……でも、心の底から応援したくなる、ソウジがー………………す、好きー……なんだよねー。」

「…………へ、へ、へい。」

「…………んふふー…………あーーー!やーーーっと言えたー…………うん。すっきりー。」

「…………。」

 

 

言葉が出ない。

いや、出す言葉が考えられない。

頭が真っ白である。

 

え?告白された?

俺が?

セツヒトさんに?

 

……えぇぇぇ!?

 

 

「…………え、えーっと、ですね、ちょちょちょいお待ちを……!」

「…………ぷっ……あははははは!!」

「うぇっ!?な、何で笑うんですか!!」

「いやー、ソウジ、めっちゃテンパってるからー……その顔、おもしろーい。」

「えぇ!?い、いや、俺なりに今真剣に考えて!……そ、その、……純粋に嬉しいなぁ……と……。」

「……う、うん……。」

 

 

……再び流れる無言。

 

…………な、何だこの空気!!

い、いたたまれない!!

 

 

「…………ちょ、超真剣に考えてまして!そ、その…………。」

「…………ふふふー、いーよー?ソウジー。」

「へ?」

「返事とか、そういうんじゃないからさー。……どーしてもー、伝えたかったんだー。」

「…………。」

「いつかまたー、私を好きになることがあったらさー……嬉しいよー。」

「………は、はい。」

「だからさー、今はー……。」

 

 

ベッドから立ち上がり、俺の方に向かってくるセツヒトさん。

腰をかがめ、俺に顔を近づける。

 

 

ギィッ。

 

 

セツヒトさんが片足をかけて、ベッドが軋む。

その長い銀色の髪の毛が、俺の体にかかる。

 

…………吸い込まれそうな瞳。

 

数秒ほど、セツヒトさんにじっと見つめられる。

…………素面で顔が赤いこの人なんて、初めて見た。

 

目を瞑り、ゆっくりと近づくセツヒトさんの顔。

俺もただ呼応するかのように、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バターン!

 

 

 

「失礼する!!ソウジ君はいるか……。」

「ご主人様ー!とりあえず面倒な報告関け……。」

「「…………。」」

 

 

無言。

硬直。

 

 

状況。

顔を近づけるセツヒトさんと俺。

ノックもせずに入ってきた教官とショウコ。

 

 

 

「「…………。」」

「…………。」

「これは失礼!情事の始めに出くわすとは!不覚!」

「じょ、じょうじぃ!?教官誤解で―――」

「さあショウコ君!出直すとしよう!2時間後、また来る!」

「ごごごごごごごごごしゅじんさまが!つ、ついにい!!え、えええ、えーっと……こ、こういうときは!!素数を!!素数を数えて!!」

「さぁ!とっとと我々は退散しなければ!!」

 

 

 

やべぇ。

 

何この状況。

 

 

更に。

 

 

「セツヒトさん、いるかい?相談が……。」

「ソウジ。マショルクさんのサイン……。」

 

 

もう一度、状況。

 

更にやってきた二人、合わせて四人。

 

俺のベッドに片足をかけて近づいたままの、頬が赤いセツヒトさん。

真っ赤な俺。

 

 

 

「「「「「「………………。」」」」」」

 

 

 

おそらく世界で一番間抜けな時間が、場を支配していた。

 

 

………………。

 

 

 

もうどうにでもなーれ。

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