年度末、仕事が立て込んでおりまして……ご容赦いただければと思います。
序盤、若干グロ目の話が入ります。
恐れ入りますが、苦手な方はご注意ください。
ラージャンの討伐から二日後の午後。
ショウコと、のんびりと屋台で遅めの昼食をとっていた時。
市場には珍しい、男性のギルドの制服を着た男性が現れた。
いつだかの知的イケメン君。
ギルドの受付の男性であった。
「お昼に……すみません、……はあっ……はあっ……い、急いで、ギルドにお願いします……!」
「えっ……。」
「し、死者が……で、出まして……はあっ………し、至急、ギルドへお願いします。」
「!!」
息を切らして出た言葉。
死者。
その重い言葉にハッとした。
屋台の人に謝って昼食を中断。
イケメン君を置いて、急いでギルドに向かった。
…………。
ショウコとギルド裏にたどり着いた時。
嫌な予感は現実のものとなった。
布をかけられた、いくつかの担架。
その周りでは、いろんな人間が動いていた。
全員、顔の下半分を布で覆っている。
ただ淡々と、取り付けられた装備を外す者。
傷だらけの顔を真剣に見つめ、何かの記録を取る者。
その向こうでうずくまり、ブツブツと話す者。
ギルドの職員と思しき男性が、その内の一体の布をゆっくりとめくった。
血だらけの布の下には、腹を抉られ、無惨な姿になった人間が。
『死人が出た。』
その実感が、辺りの様子から現実のものとして湧いた。
「これは……。」
「うっ……。」
ショウコが思わず口を抑える。
「す、すんません……。」
急にギルドに駆け込み、どこかへ行ってしまったショウコ。
……無理もない。
さっきまで昼飯食べてたもんな。
「…………。」
無言で、辺りを見つめる。
ふと目に入る、大きな男性。
遺体の一つを見下ろし、呆然とした様子で立ち尽くしていた。
ふと布をめくると、男性は拳を握りしめ、歯ぎしりをしていた。
目の前の遺体。
布が被せられていてよく見えなかったが、腕は損傷し、生々しい肉の色が目に入った。
腕の細さからして、おそらく女性。
「すまん……。」
そう言うと、男性はギルドに入っていった。
あの人を、俺は知っている。
ザシューさん。
俺を応援していると、言ってくれたあの人だった。
……長期の遠征と聞いていたが、今回のメンバーだったのだろうか。
…………。
思うところはたくさんあったが、俺はまず両手を合わせた。
目を瞑り、心の中で「狩猟、お疲れさまでした。」と唱えた。
* * * * * *
「どうぞ、こちらです。」
ギルドに入ると、中は騒然としていた。
慌ただしく動き回る職員達。
その中にハイビスさんを見つけた。
すると、すぐに「会議室」と書かれた一室に通された。
「ハイビスさん。」
「あっ、はい。」
忙しなく業務に戻ろうとするハイビスさんを呼び止める。
申し訳なかったが、言わなければいけない気がした。
「俺、倒します。ヤツを。」
「…………ソウジさん。」
「…………すみません、お引き止めして。それでは。」
それだけ言うと、礼をして扉に向かった。
コンコン。
『空いてます。どうぞ。』
「失礼します。」
ガチャ。
中から聞こえる声に反応し、ドアを開ける。
シガイアさんに数人の職員の他……知らない人達もいた。
誰か分からないけど、まぁこの際それはいい。
現状が知りたい。
「シガイアさん……お疲れさまです。」
「はい、ソウジさん。……急にお呼びしてすみません。」
「いえ。大丈夫です。」
「少しお待ち下さい……それでは皆さん、この件はそういうことで。よろしくおねがいします。」
「「「よろしくおねがいします。」」」
その場にいた人達が声を上げると、全員が部屋を出て行く。
ジロジロ見られたが、気にしないことにした。
しばらくすると、シガイアさんが話を始めた。
「お待たせしました。人払いはしましたが……簡潔に現状をお伝えします。」
「はい。」
そこから、情報を色々と教えてもらった。
「まず……例のモンスターの観察に向かった上位ハンターチーム。6人中、4人が死亡。残り2名も、重症と軽症を負っています。随伴したオトモアイルーは無事でした。」
「…………。」
「混乱を避ける為、また亡くなったハンターの方々の尊厳を守る意味でも、ギルド内に遺体を安置するのが通例ですが……。」
「……外に、ありました。見ましたよ、シガイアさん。」
「そうですか……。申し訳なかったのですが、いかんせん例の病気が未だによくわかっていないものでして……。あのように。」
「…………。」
あの病気とは、狂竜症のことだろう。
もしウィルスのように人から人へ伝播するするとしたら。
その仮定を踏まえれば、あのように扱うのも無理はない。
……そう自分に言い聞かせた。
「続けます。」
「……はい。」
「報告によると……ハンターチームは現場に到着後、観察を開始。二人組で交代しながら観察に当たっていたそうです。」
「…………。」
「ところが、どこをどう嗅ぎつけたか、例のモンスターがハンターチームを視認。交戦に至った、と。」
「…………とてつもなく強かった、ということですか?」
彼らは上位ハンター。
しかも、6人のチーム。
集団での戦い方はよくわからないが……蹂躙されるほどの強さだったのだろうか。
「……これは、ザシューさん……チームリーダーからの報告ですが……。」
「はい。」
「始めは何とか戦えていたそうです。動きも変則的だったようですが、通常の大型とさして変わりなかった、と。ですが……あるタイミングでモンスターの姿が一変。そして黒い霧が辺りに出現し、アイルーを含む全員が、うまく動けなくなった、と。特にハンターたちは、全く動けなかったそうです。」
「…………狂竜症。」
「…………おそらくは、そうだと思います。無力化した彼らは為す術なくやられた、と。防御することもできずに、引き裂かれた、ということです。」
「…………。」
「その場をすぐに離れたアイルーが救援要請を出したものの、4人は徹底的にいたぶられ、ヤツはその場を去りました。残りの2人は事前に聞いた話から、霧をあまり吸うことなく難を逃れたようです……運良く見逃してもらえた、と言ってましたね。……ヤツの真意など分かりません。報告は以上でした。」
淡々とした口調で話すシガイアさん。
……だが、表情からは怒りが読み取れる。
いつもより眉が寄り、険しい顔をしていた。
「……シガイアさんが、悪いんじゃないです。アイツの生態は、まだよくわからない。」
「……ええ、ありがとうございます。」
「いえ。」
「……ギルドは救援信号を捉え、すぐに彼らの元に向かいました。無事だった2人と遺体を回収。そして今に至ります。」
「…………。」
「現在もヤツは、同じ狩り場……西の丘陵地帯にいます。そして今回の報告を受け、ギルドはあのモンスターを第一級竜災種に指定しました。」
「第一級……。」
ギルドが指定する、竜災指定種。
近隣に危険を及ぼす種類は第ニ級。
第一級は、それ以上。
大規模に危険を及ぼす種類である。
いつだが教官に習った話を思い出した。
「ええ、一級です。まず現在のワサドラ近隣ですが、ヤツが陣取る西部は立入禁止。街道は封鎖せざるを得ません。」
「じゃあ流通などは……。」
「完全にストップしています。……いえ、これからそのように動いてもらう、が正しいですね。」
「…………。」
そう言ってシガイアさんは、部屋の入口に目を向けた。
先程出ていった数人の人達。
ギルド職員以外にも何人かいたが、彼らはこのワサドラの重役か何かだったのだろうか。
ヤツは危険だ。
もし人の住む領域まで出張ってくれば、大惨事は免れない。
……しかし、このままでは。
「生活が、立ち行かなくなりますね。」
「はい。仰る通りです。それに、困ったことにこんな時に大型モンスターが異様な活性化を見せています。……いえ、原因はヤツですね。ヤツの領域から逃げるように、西からワラワラと。腕の立つ上位ハンターの方々に、対応に当たってもらっています。」
「それは……。」
「はい、一部には狂竜症にかかったモンスターもいます。凶暴化し、危険です。……ソウジさんの前情報がなければ、危ないところでした。腕の立つハンターを、私なりに伝手で集めていましたからね。」
いつだかのシガイアさんとのやり取りを思い出す。
『先手を打つことができる』と言っていたのは、この件だったのか。
流石だ。
「失礼します」と言うと、シガイアさんはテーブルにあったコップを持ち上げ、水を飲んだ。
ふぅ、とため息を吐く。
すると、一歩俺に近づき、目を合わせてきた。
力の入った、鋭い眼光だった。
「……ソウジさん。」
「……はい。」
「察しのいいあなたなら、もうお分かりかもしれませんが……あなたに頼らざるを得ません。」
「…………。」
「現在のところ、あの病を克服しているハンターはあなたしか知らない。そして、充分に腕の立つハンターもまた、数えるほどしか。」
「…………。」
「……狩猟を、お願いしたいのです。」
いつものシガイアさんは、そこにはいなかった。
必死に、俺を見つめて訴えて来る姿。
初めて見る、シガイアさんだった。
「…………。」
よく考える。
……ぶっちゃけて言おう。
怖い。
目の当たりにした、死の現実。
危険な仕事とは、分かりすぎるぐらいに分かっていたつもりだったが。
つもり、だった。
俺もああなるのでは、と。
ああなるのだろうな、と。
そう、思わざるを得ない。
でも。
俺しかいないっぽいし。
教官とかセツヒトさんとかに頼ってもいいのかもしれないけど……例の病が怖い。
あの人達なら何とかしてしまいそうだが、万が一ということがある。
克服している自分なら。
対抗できる可能性は、ある。
「……やります。やらせてください。」
「……ソウジさん。」
「こうなるのも、多分決まってたんですよ。俺がおかしくなってから、おそらく。黒い霧を吸い込みまくって、強くなったり弱くなったり……不確定要素が多すぎますけど、やってみます。」
「……よろしく、おねがいします。」
苦虫を潰したような顔で、下を向くシガイアさん。
いつだが獄狼竜に立ち向かうようセツヒトさんに依頼した時も、こんな顔をしていたんだろうな。
「ちなみに、モンスターの名前って、何ですか?」
「……あ、あぁ、それを伝えないと、ですね。……では、正式に申し上げます。」
「あ、はい。」
気を持ち直すように顔を上げたシガイアさん。
「……ハンターランク7、ソウジさん。あなたに、黒蝕竜ゴア・マガラの狩猟をお願いします。」
「ゴア・マガラ……。」
「達成条件は、撤退以上。クエスト名は……そうですね、『黒き衣を纏う竜』……こうしましょう。」
表情を切り替えて、いつもの様子で俺にクエスト名を下すシガイアさん。
モンスターの名前は、黒蝕竜ゴア・マガラ。
禍々しい名前に、やっぱり怖いわ、と思いながらも。
俺はクエストを受諾した。
* * * * * *
会議室を後にして、準備をするために俺は急いだ。
セツヒトさんのところへ向かって、装備を整える。
新しい防具は慣れてから本格的に使用したいところだが……あまり時間がない。
今夜調整しよう。
作業が始まってから、まだ2日。
仕上がっていればいいけど……。
「ご主人様!」
「うぉっと!……ショ、ショウコ?」
ギルドを出ようとすると、ショウコに呼び止められた。
顔色はあまり良くない。
「大丈夫か?」
「は、はい……すんません、抜け出して……。」
「いや、いいよ。うん。……俺も、辛かった。」
「…………。」
無言のショウコ。
あの光景をまた思い出しているんだろう。
できるなら、あのハンターたちを綺麗に弔いたい。
だが、ヤツの……ゴア・マガラの黒い霧の影響が判明しない限りは、それは難しい。
やりきれない思いが、胸にくすぶる。
「……狩猟に行くことになった。」
「……はい。」
「どうやらあの人たちは、俺みたいに黒い霧の影響を受けて、無力化させられたらしい。克服しているのは、俺しかいない。」
「ご主人様……。」
「ケリをつける。……ショウコ、お願いがある。」
「……はい。」
「俺がもし死んだら、骨を拾ってほしい。」
「…………。」
クエストにショウコを連れて行くか、悩んだ。
アイルーにも影響があったというのなら、ショウコは連れて行かないほうがいいかも知れない。
だが、ショウコはおそらく……それを固辞する。
ならばいっそ、連れて行こうと思った。
「……はい。ウチ、絶対行きます。絶対、ご主人様から離れません。」
「あぁ。ヤツの霧にだけは、気をつけよう」
「……はいっ。」
ショウコも一緒に行くことになった。
いざとなれば、ショウコにはエスケープしてもらう。
* * * * * *
ギルドを出て、俺たちは武具屋に向かった。
俺の装備の出来具合を確認するためだ。
セツヒトさんが無理してないといいけど……夜も工具を打ち鳴らす音が聞こえていたからなぁ。
宿と近い武具屋の音は、部屋からよく聞こえる。
「せっちゃんさーん?……入りますよー?」
ギィ……。
いつものやる気のない下げ札には、「おやすみなさーい」と書かれたお馴染みの文字。
休業してまでやってくれているのか。
絶対無理してるな……。
「セツ……せっちゃんさーん……?」
「はいはーい!いるよー!こっちこっちー!」
武具屋の中を進む。
埃が薄く被った武器が、壁や棚に並んでいる。
その向こう、カウンター奥。
作業スペースに、セツヒトさんが見えた。
「失礼します……おぉ……。」
「おー、きたねーソウジー!ショウコちゃんも、おはよー。タイミングいいじゃーん。」
「おはよう言う時間ちゃいますよ。うわぁ……。」
俺もショウコも言葉を失う。
セツヒトさんの武具屋の奥は、作業スペースになっている。
その更に奥、マネキン的な何かにかけられている防具。
おそらく、俺の注文した装備だろう。
「ちょーど今できたところでさー。一息つこうとしていたところだったんだー。」
「あ、すいません。休憩中に。」
「いーのいーの。好きでやってるようなもんだよー。」
「うっ……。」
好き、という言葉に思わず反応してしまう。
……アホか、俺は。
「……これ、かっこいいですねぇ……。」
「お?ショウコちゃん!わかるー!?いやー力も入るよねー!これほど頑張った装備は初めてだよー!」
「へぇー……ウチ、よぅわからん―――」
「まずねー、頭にジンオウガでしょー?胴にはオロミドロ、腰にアンジャナフで腕はレウスのやつー。脚はいっちばん苦労したラージャンの金色の袴!野暮ったく見えるデザインだけどー、足の動きが相手に見えにくくなるからいーと思うよーこれー!双剣はナルガクルガの夜天連じ―――」
「ちょちょちょ……ストップです!せっちゃんさん!」
「へ?…………あー、またやっちゃったー……?」
セツヒトさんの怒涛の説明ターン!
話を聞いていたショウコの目がグルグル回っている。
「ごめんねー、ショウコちゃーん。私こういうことになると、何ていうかー……マニアックー?」
「いや、聞かれても……ショウコ、大丈夫か?」
「は、はい!す、すんません!ウチ、あんまり詳しくなくて……。」
そりゃそうだ。
装備についての話なんて、俺だってよく分からない事だらけだし。
「セツヒ……せっちゃんさん。すみません、俺もよく分からなくて。」
「ごめんねー、嬉しすぎてさー。スキルとかその辺から説明するよー。」
そこからセツヒトさんは、ゆっくりと俺たちにも分かるように話してくれた。
どうやら完成した装備は、攻撃力と会心……あのヒュパッと当たる感覚がより多くなる様に構成されているらしい。
俺が重視してきた弱点への攻撃についても、俺の持つお守り……ショウコがくれた護石で充分に威力が賄えるという。
「ただねー、回避についてはー、特に何もつけてないんだー。」
「えっ。そうなんですか?」
「ソウジはー、その辺大丈夫だよー。私が保証するー。」
俺の避ける動きの速さと正確さについては、セツヒトさんのお墨付き。
自信があったところだけに、ちょっと嬉しかった。
いや、かなり嬉しかった。
「武器もあるんだよー?」
「ええっ!?作ったんですか!?」
「いやー、流石にこれはあったやつを強化しただけー。でも……いいよー?」
「おぉ……。」
そう言ってセツヒトさんが持ち出したのは、ナルガクルガの素材から作られるという、夜天連刃という名の双剣だった。
何でも、武具屋に並べられていたヒドゥガーという双剣を打ち直したらしい。
いや、強化しただけと言うけど……これも相当手間がかかっているような……。
「…………ありがとうございます。何から何まで。」
「いーのいーの!私も、もう超楽しかったからねー!」
「あ、そうですか。」
鼻息の荒い
「さーて……サイズ合わせの前にー、お茶しよっかー。」
「あ、はい。」
「ハイビスちゃーん!」
「…………へ?」
セツヒトさんが意外な人を呼ぶ。
すると、人数分のマグカップをトレイに載せて、ハイビスさんがやってきた。
「皆さん、お茶にしましょうね。もう、セツヒトさんったら……2日もろくに寝てないんですから。」
「は、ハイビスさん?いらっしゃったんですね……。」
「は、はい。……多分ソウジさん、ここにいらっしゃるだろうと思いまして……。」
「は、はぁ。」
先程までギルドにいたと思うのだが。
フットワークが軽いなぁ。
「ギルドの方に、またすぐに戻らなければならないのですが……ソウジさん、お聞きしたいことがあります。」
「は、はい。何でしょう。」
「……ギルドマスターからの話……教えて下さい。」
「…………。」
「ソウジー、私も一部は聞いたよー。……死人が出たってねー……。」
ハイビスさんとセツヒトさんが、俺をじっと見つめてくる。
隠せることでもないし、隠すことでもない。
ショウコが不安げに、俺を見上げる。
「ご主人様……。」
「……あぁ。言うよ。」
俺はしっかりと二人に目を合わせ。
シガイアさんからの話を、伝えることにした。
* * * * * *
「よしっ、とっちめちゃおうかー、あのタヌキー。」
「ちょっ!せ、せっちゃんさん!駄目ですよ!ハイビスさんも見てないで止めてください!」
「……私もとっちめます!あのタヌキ、やっちゃいましょう!!」
「ハイビスさんも!?」
二人に事情を話した。
すると、俺が狩猟を依頼された、という辺りから二人の眉間にシワが寄ってきた。
そしてこの有様、である。
「だってさー……ソウジだけに狩猟依頼とか……そんなの、あの時と変わってないしー……。」
「それは……そうですけど。」
あの時。
セツヒトさんが言うのは、ミヨシ村で起きた惨劇のこと。
「…………あの時とは、状況はまるで違いますよ。まず、ショウコが来てくれる。」
「はいっ、ウチも行きます。」
「更に、他のモンスターについてはハンターを事前に集めていたそうです。少数で対応に当たっていたあの時とは、違います。」
「…………ソウジさん。」
まるでシガイアさんを庇うかのように話す俺。
それを遮る様に、ハイビスさんが話し始めた。
「それは、わかります。私達のギルドマスターは、私の知る中で一番頭が切れます。……ちょっとムカつくところもありますけど、何よりハンターの命を大切にされる方です。」
「…………。」
「その方が、ソウジさんに直接依頼した。……ゴア・マガラの狩猟を。……無力化していたとはいえ、上位の方々を蹴散らすほどの強い、あのモンスターに立ち向かえ、と。」
「…………はい。」
「……ソウジさんは、まだハンターになって2年弱です。……そんな方に依頼する内容では……無いんですよ?」
冷静になって考えれば、確かにそのとおり。
右も左も分からない、2年前までそんな様子だったひよっ子が、今から凶悪な存在に立ち向かうというのだ。
そりゃまぁ、不安にもなる。
実際怖いし。
でも。
でも、だ。
「…………死んだ方々を、見ました。」
「…………。」
ショウコが、無言で頷く。
俺と一緒に、あの惨状を目にした。
「…………俺は、ここで命を拾われた。みんなが、暖かく迎えてくれた。鍛えてくれた。励ましてくれた。」
「…………。」
「立ち向かう理由には、十分すぎますよ。……俺はまだまだ、恩を返し切れていない。」
「…………。」
押し黙る二人。
すると、セツヒトさんがふっと顔を上げた。
「……私も、行く。」
「……駄目です。」
「な、何でよー!」
「体、治りきっていないでしょう。分かりますよ。」
「…………。」
毒を食らって、古傷を突かれて。
そんな体が、昨日今日で治るわけもない。
止めさせてもらう。
「……二人で、行くの?」
「はい。……考えたくないですが、万が一のために、ショウコに来てもらいます。……俺がいなくなっても、戦い方をわかっている人間がいれば、次に繋げられる。」
「い、いなくなるなんて―――」
「その可能性はゼロじゃないです。もちろん、討伐できるかも知れない。」
「…………。」
「俺は、行きます。行かせてください。」
頼み込む様な話ではない。
だが、俺が多大にお世話になった方々だ。
納得してもらって、行かせてもらう。
「…………ソウジさんは、ギルドに来た時から分かっていたんですね。ご自身が狩猟を依頼されるであろうことを。」
「はい。」
「だから、私に決意表明をされたんですね……。」
「…………はい。」
二人が再び黙り込む。
重苦しい空気が、場を包んだ。
その空気を破ったのは、いつもの口調で喋り始めたセツヒトさんだった。
「……しゃーないねー。ほら、ソウジー。サイズ合わせ、するよー。」
「セ、せっちゃんさん?」
「……だってー、決意は揺るがないでしょー?ソウジってばー、変なところで意地張るんだもーん。」
「す、すみません。」
「…………まぁ、そういうところがいいんだけどねー。」
最後の言葉にドキッとしたが、敢えて流した。
返答できるような空気ではなかった。
「…………ソウジさん。」
「はい。」
ハイビスさんが、顔を上げた。
目が潤んでいる。
「…………約束ですよ!絶対に、帰ってきてくださいね!」
「……はい。」
「帰ってきたら、私からもお伝えしたいことがあります!だから、絶対に!……帰ってきてください!」
「……分かりました。」
「セツヒトさんばっかり、ズルいです!私だって……言っちゃいます!」
「おー、ハイビスちゃーん肚決めたねー?」
「当たり前です!まさか入院部屋で『ごめんねー?先に言っちゃったー』なんて言われたら……私だって、なんてなるに決まってます!」
何やらムキになるハイビスさん。
この暴走特急風味が、この人の持ち味である。
しかしこう言うってことは……。
まぁ、そういうことなんだろうな。
「…………も、もうバレバレかもしれませんけど!ソウジさん!」
「は、はい!」
「……ご武運を。」
「……はい。ありがとうございます。」
ハイビスさん。
俺の初めてのハンターとしての仕事を受け付けてくれた人。
そんな人の、「ご武運を」という言葉は。
とても力になる。
そんな気がした。
……………………。
…………。
そうしてすぐに、俺は防具の最終調整を行うことになった。
ハイビスさんは流石に忙しいのか、真っ赤で真面目という器用な表情をして、ギルドに戻っていった。
…………複雑な気分である。
これから狩猟に向かうというのに。
「…………ソウジー。もう色々と分かってるよねー?」
「…………はい。」
「…………んー。ならよろしー。」
ギュッ!
「いってぇ!!」
「はいガマンガマンー。」
「……せっちゃんさん……わざとでしょう……?」
「もちのろーん。……私も、負けないからねー。」
メジャーを、胸の辺りにきつく締められて、めっちゃ痛かった。
色んな人の、色んな気持ちを背に。
俺とショウコは、ゴア・マガラの狩猟に向かう。
「ご主人様!」
「な、なんだ?」
「……ウチも、お二人に負けませんから!」
「…………マジか。」
ショウコもか。
……こんなやつの、どこがいいのか。
わからん。
よくわからんけども。
一先ずは、目の前の敵に集中する。
やってやる。
易易と、やられるわけにはいかない。
死ぬわけにはいかない、そんな理由がたくさんできた。
黒蝕竜ゴア・マガラ。
もう少しだけ、待っていろ。