宿に戻ってきた。
やることはたくさんある。
まずはポーチの確認をしておこう。
そういえば中身をちゃんと見ていない。
イシザキ亭のお姉さんにうつつを抜かす前に、まずは所持品を確認しなければ……。
ポーチを触る。
見慣れた情報画面が出てくる。
その中から<アイテムポーチ>を確認すると、ズラッと一覧でアイテムが見えるようになる。
とは言っても、前見たときと変わりはない。
携帯食料、応急薬、回復薬、毒消し、ウチケシの実、砥石、ピッケル、シビレ罠、……
「……ん?」
ふと気になったところ。<リストから調合>という欄。
調合とは……つまり何かと何かを組み合わせるという意味だよな……
調合できる一覧から選べるものは何もなかった。
つまり今は調合できるものは無い、と考えていいんだよな。
しかし、これはかなり有用かもしれない。
調合したいアイテムが、何と何を組み合わせてできるか。
これを見れば丸わかり。
本来は色々文献を調べたり、人に教わったりして知っていくのだろうが、この画面を調べれば何とかなりそうだ。
問題は調合できるかどうか。
この辺はアイテムが揃ってないとわからないことも多いので、後回しにすることにした。
* * * * * *
情報画面をいじり続けていく。
<ギルドカード>という項目を見つけた。
前は選択できなかったはずだ。
登録をしたからか、今は選ぶことができる。
「……討伐モンスター、使用武器頻度、達成クエスト数、二つ名………個人情報満載だ。」
カードからは様々な情報が分かるようだ。
仕組みはわからないが、個人が行ったハンター業に関する実績が、記録されていくのだろう。
ホントもう、完全にゲームだよこのシステム。
大事なのは、この情報は俺にしか分からないのか、ハンターズギルドも分かるのか。
後者だとすると、何かちょっと怖い気もする。
……まぁ明日の講習会で聞いてみよう。
「ギルドに管理された傀儡のハンター達!とか週刊誌の面白い見出しになりそうだな………ん?」
ふと見つけた討伐モンスターの履歴……何か書いてある。
「バサルモス 撃退 1423.86 ザキミーユ平原」
へ?
バサルモス……撃退したことになっている!?
特にギルドに報告したわけではない。
なぜ記録されているのか。
それに、逃げまくっただけなのに撃退扱い……?
もうわからない事だらけだ。
ただ、「撃退」と言う2文字は、倒したわけではないということだ。
今リベンジに来られたら、ひとたまりもない。
「平原に行く時は気をつけていこう……。」
さて、気を取り直して、本題に移る。
昼に習得できた<片手剣>の<操作方法>についてだ。
なぜ習得できたのか、未だによくわかっていない。
このままでは気持ちが悪いので、そのやり方を明らかにしたい。
というか、他の武器も試してみたい。
早めの夕食を部屋で取り終えた俺は、薄暗くなってきた庭に向かうことにした。
* * * * * *
「次に試す武器はどうするかな……?」
少しワクワクしながら、<武器装備>の一覧を開く。
周囲は薄暗く、武器の出し入れをしても周りからはよく見えないだろう。
そう考えて、様々な武器を手に持つことにしてみた。
「ランス……来い!」
装備すると、一瞬で手に<ランス>を持つことができた。
まだ慣れないので何とも無様だが、とりあえず構えてみる。
しっくりくるものを試してみよう。
「重っ!!……でも防御には向いていそうな感じがするな。」
ワクワクが止まらない。
次々に武器を持ち替えてみる。
「大剣装備!……うおぉ、でかいし重い……。ロマンあるなぁ。ベル○ルクみたいだ。」
「ハンマー装備!……やっぱり重い!一撃にロマンを感じますなぁ……。」
ニタニタしながらブツブツ言う薄暗がりの男。
ドールとかに見つかったら大変なことだ。暗くてよかった。
宿から漏れる薄い明かりを頼りに、すべての武器を手にとってみた。
「重いわぁ……こりゃ体鍛えなきゃいかんな。」
すべてを手に持って構えてみた結果、分かったことが2つ。
まずい1つ目。
大体が重い!
今の肉体はかなり素早く動ける。
片手剣のときも実証済みで、激しい動きにもすぐ対応できる自信がある。
だが、<ハンマー>や<大剣>、<ヘビーボウガン>といった、名前からして重そうな武器。
これは持つのにも苦労した。
パワー系統の体ではないのだろう。
片手剣とは比較にならないほどのキツさを体感した。
このことから、この体に今の所合っている武器がだいたい絞られてくる。
そして2つ目。
それぞれの武器の<操作方法>を確認してみたところ、やはりさっきの<片手剣>と同じように、技は1つしか表示されなかった。
これはまだ仮定だが、ドールと練習していたあの時間。あの時の何らかのきっかけで、技を習得した、ということだろう。
ここから候補を考え、試してみる武器を決定しよう。
<大剣>は、とても男の子心をくすぐられたのだが、いかんせん重すぎた。
同様の理由で<スラッシュアックス><チャージアックス><狩猟笛><ハンマー><ランス><ガンランス>、そして<ヘビィボウガン>も断念。
「笛、めっちゃ楽しそうなんだけどなぁ。」
前世で音楽を趣味としていた俺としては、心残りだ。
更に<弓>や<ライトボウガン><操虫棍>も断念。これは単純に、矢や弾といったアイテムが無かった。
それに、弓とかボウガンとか、こんな庭でぶっ放したら、流石に迷惑すぎる。そして虫についてはよく分からない。
武器として持つことにはさほど苦労しなかったので、アイテムや猟虫が手に入ったら試してみたい。
となると残りは<双剣><太刀>か。
パワーが必要な武器が多すぎる……そう考えると、片手剣を始めにチョイスしたのは間違ってなかった。
まぁ、一覧の一番上にあったから選んだだけなんだが。
残り2つになった候補たちを、改めて持ってみる。
一番しっくり来たのは、まさかのーーー
「双剣か……。」
なぜかはわからないが、一番しっくり来た。
片手剣で、両手を使って武器と盾で攻撃していたからなのか。
片手剣なら太刀が一番相性が良さそうなものだが。
ちなみに、太刀を振るってみたのだが、如何せんヒョロヒョロとした剣筋で「あ、だめだこれ。」とわかるほどだった。
……と、とりあえず、消去法で決めたところはあるが、<双剣>を試してみよう!
どの武器も、また後で試してみればいいし!
「操作方法には……二段斬りだけ……?2つ同時に攻撃するのか?」
武器の名前は「ツインダガー」。
2つの刀って、そのまんまの意味だろう。
構えてみる。
イメージは、前世で知らない人はいなかった、あの二刀流の剣豪の肖像画だ。
ダランとした構えで、二刀を下に構える。
そのままゆっくりと上げて……
「二段斬り!」
振り下ろす。
太刀ほどヒョロヒョロしてはいないが、まぁひどい。
モンスターなど相手にできないだろう。
「もういっちょ、二段斬り!」
今度は上段の構えから、タイミングを一刀ずつずらして振り下ろす。
技の名前を発するのは、ドールとの練習で行っていたからだ。
少し恥ずかしいが、何がきっかけがわからない以上、何でもやってみよう。
「しっくりこない……集中して……。」
何度も剣を振るう。技名を唱えながら。
そして息を整えて、また構える。
その繰り返し。
時刻はもう夜。
時間的に言って、そろそろラストにしなければいけない。
こんな練習で、<操作方法>を開放できるとは思ってないが、何か掴みかけている気もする。
「双剣を……モノにしたい!……ハァっ!」
疲れてきて重心が下がってきたからか。
二段斬り?を深い踏み込みで放ったら、明らかにスピードに乗った気がした。
「!」
一瞬で、この一撃が今日一番の出来だと悟る。
余計な力は入れず、イメージしていたモンスターの部分に当たる瞬間だけ、スッと力を込める。
そして振り抜いた。
「おわっと!ととと……いてっ!」
威力が全く違った。
振り抜いた瞬間、思わず剣に振り回されて、くるくる回ってコケる。
ダサい……。
だが、今のはいい感じだった気がする。
「<操作方法>は……!」
すぐに確認する。
もし成功していたなら、<操作方法>で二段斬り以外の技も確認できるはずだ。
「おっ!やったぞ!」
二段斬りは成功したのだろう、片手剣のときと同じように、様々な技名が一覧に現れてくる。
嬉しい感覚とともに、片手剣のように連続技技できるのか試してみようと。
そう思った瞬間だった。
「うっ……ぃい!!ぁぁあああ!!」
頭が激しく痛みだした。思わず変な声が出てしまう。
「な、何で………!?」
目がチカチカする。周囲がグワングワンと回っている。
いや違う、自分が回っているのだ。
そう気づいた時には、俺は地面に倒れてしまって。
「ぐぇあ。」
まるで時代劇の三下の様に、意識を失った。