モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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153人間関係とリスクについて考えましょう。

実家に帰る。

 

一人暮らしをして、親のありがたみが分かるというもの。

洗濯に炊事に、様々な家事。

たった一人分なのに非常に面倒。

それが仕事と相まっては、更に面倒に。

 

挙げ句不摂生になって人間としてダメになって。

 

そんな状態でに実家に戻った時の安心感と言ったら無い。

自分のことを思い出して恥ずかしくなる。

 

 

そして今、目の前の女性は実家に帰って落ち着いているご様子。

とは言っても、娘の元に帰ってきた母な訳だが。

 

 

「あー……すっっごく落ち着くわぁ……。」

「……だらけすぎですよ、ミヤコさん。」

「だってね。こんなに安心できる空間なんて中々……ズズ。……ドールの入れるお茶は年々進化しているわね!」

「俺がお茶好きなもので……いろいろ茶葉を探してくれたんです。」

「あら〜……愛ね!!」

「何を言っとるんですか。」

 

 

その節はドールの優しさとお茶の味に感動したものである。

 

この目の前のミヤコさん。

ドールのお母様である。

亡くなったお父さんの命日に合わせて、年に一回帰ってくる。

どこからかって、この人の勤め先は何と首都ギルド本部。

しかも確か総務長とか、結構な役職だったと記憶している。

 

……去年も思ったが、かなり偉い人だよなぁ。

ギルドの役職の偉さとか全然知らんけど。

 

 

「例年、命日に合わせて帰られていると伺ってましたけど。」

「そうなのよー、色々……本当に色々あってねー?ドールには『遅くなってごめんね。愛しの母より。』ってお手紙送ったんだけどね!」

「自分で書く内容じゃない気がします……。」

 

 

相変わらずツッコミどころが多いお方である。

俺も去年のしばらくの期間、この宿で生活を共にしていた。

このノリの良さというか、ドールと正反対の性格。

 

かなり打ち解けてしまった。

 

 

「おーミヤコさん。帰られたんじゃな。」

「あらー、お義父さん!本当今帰りました〜!これお土産です!」

「ほっほっ。ありがたく……。本当に、元気そうで何より。今回はどれぐらいいられそうなんじゃ?」

「それがですね、お仕事が立て込んでまして……。しばらくはご厄介になります〜!」

 

 

今回も滞在が長いのか。

ドールも喜ぶことだろう。

 

 

『……あー!お母さん!勝手に食材いじったでしょ!!』

「あー!ごめんねー。こう、お母さんの料理の腕を久々に奮おうとしたんだけどねー……。」

『もう……今夜は私が作るから、お母さんは座っててね!!』

「むぅー。はぁーい。」

 

 

水場から飛ぶ、珍しいドールの大声。

完全に立場が逆である。

実家に帰ってきた娘と、実家の母。

 

ドール……喜んでいる……よな?

 

しかしミヤコさん、一体どんな生活を首都で送っているのか。

気になる。

 

 

「ミヤコさん、首都で暮らしてるんですよね?」

「ええ!もちろん!シティで働くバリバリウーマンよ!!」

「じゃあその、自炊とか洗濯とかーーー」

「ーーーソウジくん。」

「あっ、はい。」

「それ以上は、いけないわよ……。」

「アッハイ。」

 

 

人には聞いてはならないことがある。

スルースルー。

 

本当に、実家に帰ると落ち着くものである。

 

 

「ほっほっほ。」

 

 

いつものように笑うホエールさん。

うーん、やっぱり落ち着くぜ。

ここが俺の実家みたいなものだからなぁ。

 

 

* * * * * *

 

 

翌日。

俺はハンズを連れて、朝のトレーニングに出かけた。

 

 

かなり豪勢な夕飯が振る舞われた昨夜。

食べすぎてしまった。

お陰で胃が少し重い。

 

「私のためにこんなに……!」と、わざとらしく涙を流す(フリをした)ミヤコさん。

「ソウジさんの退院祝いもあるから。」と塩対応のドール。

温度差が半端なかった。

 

とはいえ、ドールはそこそこ嬉しそうで、今朝でかけるときもかなり上機嫌だった。

そりゃ嬉しいよな。

年一で帰ってくる母。

それを迎える娘。

 

……若干立場が逆の気もするが、それは家庭の事情それぞれであって。

ウキウキしているドールの姿は、正直年相応で可愛かった。

 

 

「ド、ドールちゃん……喜んで……ましたね……!」

「な。何か、分かるよな。」

「はい……、わ、私も実家に帰ろうか、なぁ……はあっ……はあっ……!」

「…………無理して話さなくていいぞ?ハンズ。」

 

 

走りながら俺と会話を行うハンズ。

以前は、町の周りを5周もすればヘトヘトになっていたのに、今はきっちり付いてくる。

 

特訓を欠かさなかった成果が出ているなあ。

うんうん、偉い偉い。

 

 

……。

 

 

俺たちは九周目を終え、最後の休憩を取った。

 

話題は、実家の話。

 

 

「しかし、実家なぁ……。」

「ソウジさんはご実家は……あ、す、すいません……。」

「あ、いや。気にしなくていいぞ。」

 

 

ハンズが謝ってきた。

この子には、俺の事情は特に伝えていない。

記憶喪失でここにやってきた、とだけ言ってある。

 

気を遣わせてしまったな。

 

 

「……俺の実家は、この町のあの宿だ。ホエールさんにドールに……世界で一番落ち着く場所だよ。」

「……そうですね……ソウジさん、あそこにいると本当に優しい顔をしています。」

「そ、そうか。」

 

 

そんなに見られていたのかと思うと。

ちょっと恥ずい。

 

 

「ハンズは、実家はいいのか?」

「……実は、次の秋にでも一度帰ろうかと思っています。冬支度の手伝いも兼ねて。」

「あぁ、そうなのか。」

 

 

ハンズの実家はワサドラの北西に有る大草原の移動集落。

そこの長、超絶イケメンのハンザさんの妹。

若いのに威厳も有り、とにかくモテるらしいのだが。

 

 

「……兄が私の事を大切にしてくれているのは嬉しいです。けど……。」

「……大切に、ってレベルじゃなかったような……。」

「ですよね……。」

 

 

いかんせん。とても妹想いのお兄さんであった。

いや、完全にシスコンと言って、差し支えないレベル。

 

 

「……もうしばらく、鍛えながら考えてみます。」

「あぁ、そうするといい。家族の話だし、俺何にもできないけど。」

「……こうやって一緒にランニングしてくれますし、色々と武器の扱いにもアドバイスを頂いてますし。……感謝しています。ソウジさん。」

「ハンズは飲み込みが凄いからなぁ。言うだけで済むんだから、凄いよ。」

「え、えへへ……そ、そうですか?」

「ああ。」

 

 

嬉しそうにはにかむハンズ。

後ろにはしっぽが振られる幻覚が見える。

 

犬っぽい……。

 

 

そういえば二人っきりで走るというのは、今まであまり無かったな。

こういう話をすることも無かった。

 

新鮮。

 

 

「……俺にできることなら、何でもするぞ?」

「じゃあ……兄に紹介してもいいですか?私のお婿さんとして。」

「ッブーー!!!」

 

 

いきなりの爆弾発言に、思いっきり吹き出す。

な、何を言い出すのこの子!?

 

 

「兄は……手紙を見た感じ、ソウジさんの事を大変に気に入ってました。ソウジさんなら、こっちに来てもうまくやっていける、と。」

「だ、だからって……。」

 

 

そんな、いきなり。

口を袖で拭いながら、慌ててしまう。

 

 

「……ふふ、冗談ですよ。だ、第一、そんなことになったら、私色々と敵を作りそうです……!」

「…………。」

 

 

敵。

うーん。

 

 

「…………それ以外なら、何でも言ってくれ。」

「……はい!ありがとうございます!」

「……あぁ。……じゃ、ラスト一周!飛ばすぞ!」

「はい!……って!えぇ!!速っ!!」

 

 

なまった体に鞭打って走り出す俺。

ハンズもまだ余裕そうなので、全力で行かせてもらう。

 

……からかわれた気がしてムキになったわけではない!

ないぞ!

 

 

「ま、待ってくださ〜い!!」

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

 

「ソウジさん。前も言ったけど、めっ、だよ?」

「はい。」

 

 

疲れ果てたハンズを宿に搬送。

お姫様抱っこなんてしたら何を言われるかわからなかったので、おんぶして連れてきた。

 

ドールに怒られた。

 

はい、ムキになってごめんなさい。

 

 

「尻に敷かれてるわねー。」

 

 

ミヤコさんが何か言っていた。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

今日は一日フリー。

 

何の予定もない。

いや、何もなくは無い。

 

 

一つ、大事な話をする相手がいる。

 

 

 

「…………入りますよー?」

 

 

ギイィ……。

 

 

『開いてるよん』と書かれた、力の抜ける掛札。

そのドアノブを開くと、少し立て付けが悪くなった戸の音が、店中に響いた。

 

 

「……セツ……せっちゃんさーん。いますかー?」

 

 

呼びかけるも、返事はない。

 

 

そう、やってきたのは武具屋。

セツヒトさんの店である。

 

 

「…………。」

 

 

静かな店内を見回す。

人のいる気配が無い。

 

だが、カウンターには湯気の上る湯呑み。

 

あ、裏庭か?

 

 

…………。

 

 

 

ビンゴ。

 

裏庭に勝手に入らせてもらうと。

いた。

 

セツヒトさんが、大剣を構えて集中していた。

 

身の丈ほどもあるその大剣。

ゆっくりと振りかぶって。

 

 

「…………ふっ。」

 

 

ビュオン!!

 

 

「…………。」

 

 

こちらにまで風が来そうな程の素振り。

地面に当たる直前、ビタッと止める。

 

まるでプラ製の子どものバットのように軽々と扱っているが……あれ、俺にできるかなぁ……。

 

すごいパワーだ。

 

 

「…………ふぅ…………ごめんねー、ソウジー。今終わったからー。」

「あ、いや。大丈夫ですよ。」

 

 

どうやら俺が来たことは分かっていたみたいだ。

流石である。

 

 

「腕が鈍るといけないからさー、こうやってたまにねー。」

「いや、凄かったです。あんなに軽々と。」

「お、そーおー?……ソウジに褒められると照れるねー。」

 

 

少しも照れた様子には見えないが、照れているのか。

相変わらず表情が読めないなぁ。

 

 

「…………でー?やってきたってことはー?」

「……はい。話をしに、来ました。」

「んー。おけー。とりあえず戻ろっかー。」

 

 

ヒュン!

 

 

肩に大剣を担ぎ、悠々と歩きだしたセツヒトさん。

 

揺れる長い銀髪が、とても美しかった。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

「お茶、飲むー?」

「あ、頂きます。」

 

 

コポコポコポ……。

 

 

きちんと急須でお茶を入れるセツヒトさん。

こういう家庭的な一面は、あまり見なくて新鮮。

 

 

「そちゃですがー。」

「これはこれは、ご丁寧に。」

「……ふふ。あんまりガラじゃ無いねー。」

「ズズ……いや、うまいですよ。似合ってます。」

「そーおー?」

 

 

ゆったりとした時間。

セツヒトさんは基本のんびりさん。

 

お茶だけでこの雰囲気を作り出せるのは、セツヒトさんならではだと思う。

 

 

「……でー?話に来たんでしょー?」

「はい。その……今の気持ちを、伝えようと。」

「おー。ドキドキするねー。」

「俺もです。その、結論から言いますと。」

「うー……はい。」

 

 

意を決して伝える。

今の思いを。

 

 

「……今、お気持ちには、お応えできないです。……ごめんなさい。」

「……そっかー。」

「……はい。」

 

 

決めていたセリフを、伝える。

心が、重い。

 

 

「……一応さー?理由とか、聞いてもいーいー?」

 

 

そりゃそうだ。

断るにしても受け入れるにしても、納得というものが必要だ。

納得は難しくても、理解だけでも。

 

 

「……その、セツ……せっちゃんさんの気持ちは、とても嬉しかった、です。」

「うんうん。」

「俺なりに悩んで、それで、一つ思ったことがあって。」

「……んー?」

「……ほら、俺、というか、俺たち、こんな仕事していますよね。」

「うん。」

 

 

ハンター業。

モンスターの命をもらい、植物や鉱石などの採取を行い。

時には危険と隣り合わせの、明日もわからぬこの仕事。

 

 

「……好きな人、好き合う人と共に生きていく。そんな時、相手が失われたら。」

「…………。」

「少なくとも俺は、自分の愛する人がいなくなったら。……正直、やっていけないです。」

「……それがー、理由ー?」

「……はい。」

 

 

 

考えた。

俺なりに。

 

セツヒトさんやハイビスさん、そしてショウコ。

俺の周りには、どうやら俺のことを好ましく思ってくれている人たちがいる。

 

だが、今回の狩猟で思い知らされた。

 

自分が傷つく覚悟。そして相手の命を断つ覚悟。

これは段々と身についてきた。

だが、自分の大事な人が傷つき、下手をすればいなくなってしまうような。

そんな状況の覚悟。

全くと言っていいほど、できていなかった。

 

どこかで、俺自身が傷付けばいいと。

そう、簡単に片付けていた。

 

だが、違った。

ショウコが動かなかった、あの時。

絶望した。

最悪の状況を、飲み込めなかった。

何で連れてきた、と。

俺のせいだと。

 

ショウコがいなくなるという。

その覚悟が、無かった。

 

逆に考えて、俺が死んだとして。

その確率はそう低くは無い。

……その時、俺と愛し合う、そんな人がいたら。

その人はどんな気持ちになるのか。

 

……絶望するよな。

 

 

「……大切な人を失ったら。……そんな状況を、作りたくない。だから今、セツ……せっちゃんさんのお気持ちに応える訳には……いきません。」

「……。」

「嫌とか、そんなんじゃ全然無いです。ぶっちゃけ、美人で髪がキレイで強くて、憧れもあって……そういう気持ちに応えたい想いは、正直あります。でも……。」

「……んーん。いーよー。……ソウジの言いたいこと、なんとなくわかったからさー。」

「……。」

「私だってさー……ミヨシの時、いろいろ考えたからねー……。」

 

 

ミヨシ村の壊滅。

セツヒトさんは、その当事者であったわけで。

……大切な人を失うという悲しみを、その目でたくさん見て、そして味わったはずだ。

 

……。

 

 

「……。」

「……んー、話が重くなっちゃったねー。いやー、ごめんねー。私も勢いで告っちゃったようなもんだしさー?ソウジに色々、考えさせちゃってー?」

「い、いや。自分と自分の周りを見つめ直す、いい機会でした。だから……ありがとうございます。」

「おー……まさかフラれて礼を言われるとはー……。」

「い。いや、すみま……いえ。はい。」

 

 

これ以上謝りはしない。

何だかセツヒトさんに失礼な気がして。

 

 

「…………。」

「…………。」

 

 

静かになる俺たち。

居心地はあまり良くないが、これで別に俺とセツヒトさんの関係が終わるわけではない。

お互いに、いい大人だ。

 

そんな、中高生じゃあるまいし。

 

 

 

お茶を口にして、少しの間を空けて。

 

セツヒトさんが話し始めた。

 

 

 

「まぁでもさー……別にいいよねー?」

「……はい?」

 

 

 

相変わらず主語も目的格も少ないセツヒト語。

解読に時間を要する。

 

 

「んー、だからさー、私がソウジを好きっていう気持ちは、変わらないわけでしょー?」

「は、はい。それは。」

 

 

ストレートに言われると、照れる。

 

 

「そしてー、それ自体を拒否されたわけでもなんでも無いわけだよねー?」

「ま、まぁそうですね。」

「…………決めたー。ソウジが引退するか、絶対に死なない程強くなるまでー、私はこのままでいまーす。」

「…………………………な、なるほど?」

 

 

何がなるほど、なのか。

えっ。

じゃあ今までと大して変わらないんじゃ。

 

 

「せっちゃんさ―――」

「私の気持ちは変わらない。ね?ソウジ。」

「うっ……はい。」

「……んふふー、それにー、私の気持ちは嬉しいんだよねー。それって完全に脈アリじゃんねー。」

「そ、それは……。」

「いつでもいいからねー、ソウジー…………待ってるよー?」

「…………。」

 

 

ニヤニヤと、そして嬉しそうに笑うセツヒトさん。

……敵わねえなぁ……。

 

今のは効いた。

 

心の臓に。

 

ドキッと来た。

 

 

「よーし……とりまー、この話は一旦置いといてー、装備の話でもしようかー。」

「えっ!?」

「何よー。嫌なのー?」

「い、いえ、嫌じゃないです。むしろお願いします。」

「ほいほい、オッケー!」

 

 

そこからは、いつもの様に武具の話題になった。

もちろん、俺の新しい装備について。

 

さすがセツヒトさんというか、やはりというか。

いつもと同じように接してくれる。

 

あれ?これ今までと変わらないんじゃね?

いや、いいんだけども。

 

 

「ふふー。……いいカラダしてるねー。」

「オヤジか。」

「あ、ひどーい。思いを寄せるー、こんないたいけな女性をそんな扱い……。」

「いたいけて。」

「……ふふー。あー、ソウジー、顔真っ赤ー。」

「これはしょうがないんです生理現象です仕方ないんです!!」

「ふふふー……いやー、やっぱり楽しいねー、こういうのー。」

 

 

多少気まずくなるだろうと思っていたけど。

軽口を言い合う程である。

それが、セツヒトさんは嬉しそうだった。

 

……まぁ、いいか。

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

その後、俺はセツヒトさんと分かれ、ギルドに向かった。

今夜行われるという、宴。

 

その前に、一つやっておきたいことがあるからだ。

 

 

ギィィ……。

 

 

重く厳ついギルドのドアを開ける。

 

 

「…………。」

 

 

人のまばらなギルド内。

時間帯的に、ハンターの数は少ない。

 

そこを通り過ぎて、修練場に向かう。

 

 

 

「久しぶりだなぁ……。」

 

 

 

以前来たのは、確か骨折した時。

何か勉強になるならと、ハイビスさんにお誘いされてやって来た。

 

色んな初心者ハンターの方々と情報交換をしたり双剣を教えたりした。

 

ここに来たのは、例のアレを試してみたいから。

 

 

(……丁度いいな。)

 

 

修練場は人っ子一人居なかった。

珍しいが、ある意味チャンスか。

 

 

「……ふぅー……。」

 

 

ジャキン!

 

 

深く呼吸して、二対の刃を構える。

夜天連刃ではなく、修練場備え付けの双剣。

 

目の前には、からくり蛙。

 

 

(鬼人化……!)

 

 

スゥ……。

 

 

体にいつもの感覚。

 

 

(ここから……。)

 

 

 

思い出す。

あの時を。

 

ゴア・マガラに追い詰められた、あの時の状況を。

 

 

「…………ふんっ!!」

 

 

…………。

 

 

……。

 

 

変わらない。

 

駄目か……。

 

 

(どうやったら再現できるか……。)

 

 

ここにやってきたのは、「獣宿し」の習得のため。

使うことを控えるように言われたが、これを常態で出せるようになればいいな、と。

コントロールできるようになれば、扱いも楽になると考えたからだ。

 

だが。

 

 

(鬼人化……!)

 

 

スゥ……。

 

 

鬼人化して、心と体を一段階研ぎ澄ませる。

これだけでも集中力を多少要する。

 

慣れてきたのは、成長の証。

 

 

教官に習った頃は、感覚でやっていたけど。

今は自覚して、瞬時に発動できる。

 

 

(ここから…………!)

 

 

「…………ふんっ!」

 

 

…………。

 

……。

 

 

できない。

……まぁ、そりゃそうか。

 

あの時の状況をできるだけ再現しようとするならば、ここでは無理。

ここには、動かないからくり蛙しかいない。

追い詰められる、という状況が作れない。

 

 

(……あっ。)

 

 

一つだけ、思いつく。

からくり蛙には、動くギミックがある。

それを動かして……。

 

 

 

ギ……ギギ……ギギギ…………!

 

 

ズドン!!

 

 

(おっ、よし。)

 

 

修練場脇にあった歯車を合わせて、蛙の攻撃機能を追加する。

これは、初心者ハンターが攻撃を避けたり防いだり……より実践に近い形で訓練をするためのギミック。

 

俺も何度も使ったのに……今の今までわすれていた。

 

ついでに、防具もポーチにしまっておく。

 

 

全身完全に普段着、武器は修練場備え付けの双剣。

これで、防御力皆無。

攻撃力も低い。

 

そんな状態になれた。

 

 

(あとは……。)

 

 

……ズドォン!

 

 

まるで四股を踏むように、その足を地に叩きつけるからくり蛙。

規則的に動くそれを、敢えて喰らう。

 

 

……ズドォン!!

 

 

「ぐぁ……!」

 

 

痛い。

思わず双剣で防いだけど、防具なしだと怖いな……。

 

 

(追い込まれる状況……意図的に傷ついて……。)

 

 

やっていることは、かなり馬鹿げている。

からくり蛙の攻撃をわざと受けて。

痛みに耐えながら、身を削って。

命を削る「獣宿し」の習得を目指す。

 

……削られっぱなしである。

 

 

(割に合わないなぁ……っ!)

 

 

ドガッ!!

 

 

「ぐぁっ…………!!」

 

 

再びの一発。

痛い。

 

 

……何してるんだろ、俺。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

その後、何度からくり蛙の攻撃を受けても、獣宿しには至らず。

今日のところはタイムアップ。

 

 

「……やっぱり実践じゃなきゃ無理かぁ……。」

 

 

からくり蛙でももしかしたら、なんて考えてみたが、虫が良すぎた。

やはり、相当に追い込まれるような状況じゃないと、厳しいみたいだ。

 

残念。

 

 

「あの……。」

「うわっ!?……あ、ど、どうも。」

「…………お久しぶりです……。」

 

 

急に声をかけられた。

相手は、あのザシューさんだった。

 

相変わらずの強面。

スキンヘッドが、よりその顔の厳つさを強調している。

 

装備はしていないから……訓練ってわけでもなさそうだど。

 

 

「…………。」

「…………。」

 

 

無言。

気まずい。

 

以前俺がお見かけしたのは、ゴア・マガラに上位ハンターチームがやられて帰ってきたとき。

女性の遺体の前で、なんとも言えない顔をしていた。

 

……大切な人、だったのかな。

 

 

「…………あの、その……大丈夫、ですか?」

「えっ……。」

 

 

心配になって、声をかけてしまう。

大丈夫なワケ無いのに。

 

心配りができない自分が情けない。

 

だが、そんな俺の心情を汲み取るかのように、ザシューさんは大人の対応をしてくれた。

 

 

「すみません、ソウジさん。ご心配をおかけして。私は平気です。」

「……そうですか。」

 

 

平気。

そんなわけ無いと思う。

だが、俺に気を使って。その言葉を選んでくれたのだと分かる。

 

俺の馬鹿……気を使わせるとか。

 

 

「……ソウジさん。」

「は、はい。」

 

 

低い声で俺の名を呼ぶザシューさん。

な、何だろう。

気を悪くさせてしまったのなら、謝らないと―――

 

 

「―――本当に、ありがとうございます。」

「……へっ?」

 

 

予想してなかった言葉。

素っ頓狂な返事をしてしまう。

 

 

「…………俺のミスで、仲間たちが死んだ。事前の情報を加味すれば、被害は抑えられました。なのに……。」

「いや、それは……仕方のないことかと思います。ザシューさんのせいでは……。」

「俺のせいだと……そう思わないと……やっていけないんです……。」

「…………。」

 

 

責任を負うことで、自分を保つ。

自分を責めないと、やっていけない。

 

張り詰めた顔と絞るような声に、そんな心情が伺えた。

 

 

「ヤツが……ゴア・マガラが、憎かった。だが……敵わない相手、でした。ソウジさんとショウコさんは、そんなやつを屠ってくれた。……勝手な思いかもしれませんが、敵を打ってくれた。なので、礼を。」

「あっ……。」

 

 

スッ……。

 

 

頭を下げるザシューさん。

 

 

「…………ザシューさん。」

「…………。」

「……大切な人を失うというのは……多分、どんな悲しみよりも辛い。俺、励ます言葉なんか持ち合わせてないんですけど……。」

「いえ……そんなことは……。」

「……前を向いて、ほしいと思います。だから、顔を上げてください。」

「……ありがとうございます。」

 

 

そう言うと、ようやくザシューさんは顔を上げてくれた。

 

もし、俺が大切な人をモンスターに殺されたら。

逆に俺がモンスターにやられて、大切な人が絶望したら。

 

……やってられないよな。やっぱり。

 

しかし気のせいか……ザシューさんの顔がより厳つくなっているような……。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

そこから、修練場ということもあり、二人で特訓した。

 

双剣なら俺に1日の長がある。

ザシューさんはその体格を生かした豪快な剣の振りであった。

試しに力の抜き具合と足の動かし方を教えてみたが、混乱していた。

 

……正直言って、ちょっと面白かった。

 

 

 

「俺の方がハンター歴長いのに……さすがソウジさんです……。」

「い、いや、俺双剣しかできないですし……。」

 

 

 

落ち込んでいた。

 

励ますつもりが……なんかすみません……。

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