黒蝕竜ゴア・マガラが、復活。
天廻龍シャガルマガラとして。
その古龍の討伐を、引き受けた。
まぁ、俺が狩猟して復活したわけだし。
無関係ではない。
緊張する。
だって、古龍とか初めて。
準備の仕方から、よくわからん。
「……ミヤコさん、討伐の流れって、どうなります?」
「うーん……その辺私詳しくないのよね〜。シガイアさん、分かります?」
「えぇ。何となくは。」
もうシガイアさんにわからないことなどないのでは、と勘ぐってしまう。
この人がワサドラに居て良かった……。
「中央は既に禁足地周辺にハンター達を展開してます。いずれも掻き集めですが、優秀なハンター達ですよ。各支部へ通達は行っているようですが、中央と西支部以外はハンターを出しているところは無いようです。……一応、機密情報なので内密にお願いしますね。」
「あ、はい。」
「ソウジさんたちは、その西支部のチームに入っていただく形だと思われます。」
「なるほど。」
チームを組む形か。
流石にソロじゃないわな。
少し安心。
と同時に不安……人と組んだことなどほとんど経験がないんだけど。
「狂竜症の怖さがどこまで分かっているのかは不明ですが……まぁ、すぐにシャガルマガラに特攻を仕掛けるということは無いでしょう。むしろマシリキ山周辺で引き起こされるであろうモンスターの連鎖的なスタンピード現象に、各員が当たる。その間に特別チームを組んで、シャガルマガラを討伐。……こういう流れかと思われます。」
「……俺達はいつ頃ここを出ればいいですか?」
「すぐにでも、です。ここから首都まで、どんなに急いでも3日はかかる。そこから更に禁足地周辺に行くまでに、数日は要する。」
「……長いですね。」
「竜便に乗る、という手もありますが……あれは人間を辞めたようなハンターがとる最終手段ですね。マショルクとか。」
「あぁ……。」
人間離れしたハンターと聞いて、まぁ初めに浮かぶのは
それで首都とここを行ったり来たりしてるのだろうか。
話ではとんでもない高度を飛ぶって聞いたけど……。
生身でそれとか。すげぇな。
「私も乗ろうかしらね〜!」
「やめてください。」
ミヤコさん……あなた四肢バラバラになりますよ……。
その後、ミヤコさん、シガイアさんと打ち合わせをした。
出立は、明後日の朝。
明日は準備に忙しくなりそうだ。
* * * * * *
そろそろ打ち上げも終わりの時間。
そういえば、この打ち上げってゴア・マガラ狩猟を祝ってのものだ。
復活したなんて聞いたら、どうなることやら。
「倒してないじゃないか」と俺に非難が来るならまぁいいけど、ギルドに文句の一つも言いたくなるのではないだろうか。
……あ、だから飲み代はギルド持ちなのね。
納得。
ショウコとミヤコさんと集会所を出ようかと思っていたら、シガイアさんからミヤコさんに質問が飛んだ。
「ミヤコさん、最後に。……中央で他に怪しい動きはありませんか?」
「えっ?怪しい動き?ん〜、どうでしょうね。そう言われれば全部怪しいんですけど……。」
「いや、何というかですね。シャガルマガラ以外にも、モンスターが出現するとかそういう。」
「あー……厄ネタ一つありました……ソウジくん、先に帰っててくれる?」
「え?いいんですか?」
「いいわよ〜、遅くなるかもって、ドールに伝えておいてくれる?」
「は、はい。」
今の今まで忘れていた。
ドールに何て言い訳したもんか。
「……ご主人様。まるで遅帰りの若旦那さんみたいな顔してますよ?」
「……何だその具体的な表現。」
「いや、そのまんまです。」
……誠心誠意謝るしかない。
* * * * * *
宿に帰ってきた。
入口は……まだ明るい。
窓の向こうに見えるのは、ドールの姿。
すっかり馴染んだ扉を開ける。
そして、俺は翔んだ。
ズザァ!!
「……ほんっとうにぃ!!遅くなってごめんなさぁい!!!」
ジャパニーズ・ドゲザをかます。
この技、いつだかハイビスさんの溜飲をも有耶無耶にできたという最終手段である。
見様によっては、ただのおふざけ。諸刃の剣。
だが、俺は酔っていた。
勢いって大事!!
(まだだ!ドールのリアクションがあるまでは、このきれいな姿勢を解かない!!)
お前は何と勝負してるんだ。
そんな心の中の冷静なツッコミはどこ吹く風。
俺は、明日の朝食をゲットする為に全力を尽くす。
……大事なことなのだ!
(……………………………………?)
しかし。
いくら待てども、何の反応も無い。
(あ、あれ?もしやハズした!?)
ヤバい。
1分ばかり同じ姿勢だが、ドールどころかショウコのツッコミもホエールさんの笑い声も起きない。
完璧に外している。
(酒の勢いって、やっぱり駄目だわ。)
完敗である。
おそらく顔を上げれば、ドールの冷たい目線が突き刺さることだろう。
俺は覚悟して顔を上げた。
そして、予想だにしない事態に直面した。
「お疲れ様です、双治さん。」
「のわぁ!!!……えっ!?」
「いきなりの大技、恐れ入りました。これは何でも許したくなりますね。」
「……………………はぁぁぁぁ!!??」
目の前にいたのは、女神さまであった。
というか、ここどこ!?
ドアを開けてすぐに地面に頭を伏せたから、何がなんだか。
「いきなりこんなことをされて、何がなんだかです。」
「いやいやいや!!こっちのセリフですよ!出てくるタイミングが!」
「大体にして、双治さんが飲んだ後ばかり狙っているのですが。」
「それにしても……予想外でした。」
場所を確認。
ここは……うん、宿「ホエール」だ。
それに間違いはない。
だが、肝心のドールとかホエールさんはいない。
一体……。
「今回も顕現は厳しく、このような形になりました。」
「確か……前回は夢の中に出てきましたよね。」
「はい。」
「じゃあ今回は……。」
「夢ではなく、双治さんの意識下にお邪魔しております。」
「い、意識下に?じゃ、じゃあ……今ここが宿なのはなぜです?」
「現実の方の双治さんが、今現在この場所にぶっ倒れていらっしゃるからです。」
「…………はぁ!?」
「土下座しようとした直後なので、おそらくその姿勢のまま気絶しているかと。」
「…………え、えーっと。」
つまり何だ?
俺は宿に入った瞬間土下座した。
その直後、女神様は俺の意識の中に入り込んだ。
俺もどうやら気絶して意識下へ。
土下座姿勢キープのまま、気絶しているってこと!?
「すごく面白い構図ですね。」
「いや何してくれちゃってんのあなた!完全に俺変なやつじゃないですか!!」
「まさか入るなり土下座ジャンプをされるとは思いもよらず。失礼しました。」
「…………。」
「…………。」
「……分かってましたよね?」
「はい。」
「嘘かよ畜生!!」
「そっちの方が面白そうでした。テヘペロ。」
「何だその理由!ていうかテヘペロて!!」
意識から覚めたら何て言い訳しようと思いながら。
諦めるしかないと悟るのに、若干の時間を要した。
* * * * * *
「落ち着かれましたか?」
「はい、落ち着きました。というか諦めました。」
諦らめるのに、いささか時間がかかった。
考えたらこの人……神がメチャクチャなのは今に始まったことではない。
そう考えたら、少しは楽になった。
「それにしても男性が土下座している姿を見るのは、初めてでした。」
「あ……すんません。お見苦しいものを。」
「いえ。新しい何かに目覚めました。感謝申し上げます。」
「何言ってんの!?」
「ドSとは、こういう気持ち良さを味わうんですね。勉強しました。」
「そんな勉強忘れてください!」
すみません、地球の方々。
あなた達の神は、そっち方面に目覚めてしまったようです。
「そろそろお話しても?」
「ええ、どうぞ…………。」
何時ものようにもうどうにでもな~れ精神となった俺は、もはや何でもいいやという気持ちの元、女神様の話を聞くことにした。
その女神様は、何やら宿の机を動かして、キューブ型の機械をその上に置いている。
「それは……何ですか?」
「こちらは神界で今人気のプロジェクターです。」
「プロジェクター?」
「はい、このように起動すると……。」
フッ……。
女神様がその機械のスイッチを押すと、辺りの風景が一変して暗くなった。
そして、宙に浮いたモニターがいくつも浮かんできた。
おお、すげぇ、めっちゃ未来的。
スクリーン要らずとか何それ。かっこいい。
「ありがとうございます。高い買い物をして良かったです。」
「あ、買ったんですね。」
「はい、衝動買いでした。」
「神様も衝動買いとかあるんですね……。」
「『すべてを終末にする大セール』と銘打つだけあって、お買い得でした。」
「何ですかその物騒なセールは……。」
神界いい加減にしろ、というツッコミは今更なので止めておく。
不毛な気がしてならない。
そんな俺のどうでもいい葛藤の中、女神様が話し出した。
「前回、赤い目の異変についてお話しました。様々手を打っていただいたようで。ありがとうございます。」
「あ、はい。色々やりました。まぁ、その大元は復活しちゃったわけですけど。」
「はい。ですがあのモンスター、もし双治さんが事態を放っておいたら、おそらくこの宿のある町は崩壊していたかと思います。」
「えっ。」
「止めて良かったと思います。……現世の人間に未来を伝える事は、かなりのご法度なのですが。うまく行って何よりです。ひとまず、崩壊までは至りません。」
「えっ……そ、そんなにやばかったんですか?」
「はい。」
おっそろしい……シガイアさんに相談して良かった。
俺一人だと何もできなかった気がする。
「ゴア・マガラの狩猟、大変に好評でした。」
「そうなんですね。」
「私としては、双治さんが死ぬかも、と気が気でなりませんでした。」
「……未熟で申し訳ないです。ご心配おかけしました。」
「もしいなくなったらこれから商売どうしようと、不安になりました。」
「正直すぎて引くわ。」
もうこの女神、思考が資本主義の犬のようである。
どうしてこうなった……。
「今のは本当に冗談です。」
「分かりにくいですって……それに、ヤツはまだ生きている。」
「はい、そのようですね。……どうか、お気をつけて。」
「……ありがとうございます。」
「……実はゴア・マガラ狩猟の際、サーバーが一つ吹っ飛ぶ珍事がおきました。」
「えっ?」
「ショウコさんが体を張って双治さんを守り、双治さんが奮起した所です。……これです。」
「おぉ……。」
中空をなぞるように右の人指し指を動かす女神様。
一つの画面が俺の前に出てくる。
内容は、いつものグラフ。
詳しい見方は分からんが、ある一点にかけて凄まじいまでの伸びを見せている。
「少年漫画的展開が熱かったようで、大変に好評でした。」
「死にかけたんですけどね。」
「それがまた良かったようですね。『覚醒キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』『マジショウコちゃんオトモの鑑』『生きてるよな!?生きてるよなぁ!?』『ショウコにゃん画面越しにペロペロするから起きてぇぇぇ』という興奮した書き込みやつぶやきが多数散見されました。その後掲示板のサーバがダウン。SNSの方では連日のトレンド入りです。」
「……もはや変態的な部分は突っ込みませんよ?」
「そんなご無体な。」
変態ばかりなのだから、そりゃこういうコメントも増えるわけである。
俺はとうに慣れてしまった。
「更に言えば、これより前の日の……この時間、ですね。ゴア・マガラ狩猟以上の伸びです。何があったか覚えてらっしゃいますか?」
「えーっと……?」
女神様が見せてきたグラフは、ゴア・マガラ狩猟時よりグラフの動きが激しいものであった。
これは……ラージャン狩猟……の後?チダイ村に帰った後……。
何だ?
「セツヒトさんの告白のシーンです。」
「ブーーーーーー!!!」
「凄まじい反響でした。」
「そ、それは……。」
どうやらセツヒトさんの告白も、相当な注目を浴びていたらしい。
本人が知ったら神様にブチ切れるんじゃ……。
神殺し……。
「その後のフェニクさんの『いい加減にしたまえよ』発言には、たくさんの「いいね」が付いております。」
「あー……それは……。」
「双治さんの煮えきらない態度に対して、若い層を中心にそれはもう憎悪の嵐でしたから。」
「ぞ、憎悪!?」
「『フェニクよく言った。』『双治ざまぁwwwww』『本日のスカッとスレはここですか?』『ついでにもうこいつ◯してやってくれ。』と、大反響でした。」
「もう殺して……。」
アカン。
俺ってもう駄目すぎる。
セツヒトさん、ごめんなさい。
「今までにも、セツヒトさんを始めとした女性の好意を無碍にしてきたわけですから。相応の報いです。」
「き、厳しいですね。」
「神々の総意と捉えていただければ。」
「うぅ……。」
二の句が継げない。
だって俺のせいだし。
しかし神々の総意て。
怖いわ。
「……私個人としては、双治さんが一生懸命に生きていらっしゃればそれでいいのですが。」
「……むしろ俺が神様たちを焚きつけるような事をすればいい、と?」
「はい。仰る通りです。察しが良いですね。」
「……ちょっとは隠してくださいよ、その態度。」
「炎上商法ってやつですね。」
「言っちゃったよ!ついに言っちゃったよ商法って!!チクショウ!!」
もういいや。
俺はもう神様たちの敵になるんだ。
どうにでもなってしまえばいい。
* * * * * *
その後も女神様発の馬鹿話は続く。
古参……前々から俺を応援してくださっている根強い層がいるそうで、今回もその応援がすごかったらしい。
ちょっと嬉しかった。
反面、俺のように日和見的な態度でいることが、いつの間にかSNS界隈で『♯ソウジる』と拡散。
お前ソウジってね?みたいな使い方をするらしい。
チクショウ。
また、あまりにもこの世界を体験したいがために、神界でオンライン型ゲーム『ハンターズ』が開発。
だがβ版の好評虚しく、一般公開初日に大量のバグが発見。
たった一日で苦情が嵐のように舞い込み、永遠に続く復旧に次ぐ復旧、ついに公式が頓挫。
一夜にして消えた幻のゲームとして、とにかく有名になったとか。
なんだそのゲーム俺もやりたい。
ちなみに、そのゲームの衣装や防具といった小道具類のデザインをしたのは女神様らしい。
契約料だけもらってあとはトンズラ。
「とても美味しい仕事でした。追加有料DLCの売上げだけが心残りです。」と爽やかに言い切っていた。
恐ろしい……。
だがまぁ、こんな馬鹿話も正直ちょっと面白いと思えてきた。
神様たちだって、本気で馬鹿やって、本気で楽しんでいるようだ。
そこには、ちょっとだけ好感が持てる。
だが、俺と教官、ハンザさん、そして御者のおじさんと、男性陣のカップリング論争に終焉は見えないという。
そういうところさえなければ、素直に笑えるのになぁ……。
そんなアホな経緯をしばらく聞いたあと。
唐突に、本当に唐突に、女神様が俺に声を掛けた。
「……双治さん。」
「はい?」
「……覚悟を決めましたね?」
「…………。」
覚悟。
それは、確かに。
肚を括った。
「……次の戦いは、おそらく双治さんの一世一代のものになります。」
「……それ、言っちゃっていいんですか?」
「私の力は、この世界にはもう及ばない領域に達してきました。干渉も何も、私の権限ではどうにもならないところまできた、ということです。」
「…………。」
「双治さんはこの世界に順応しています。……正直、この邂逅もギリギリです。もう何を言っても構わないでしょう。」
「……もう、神様には会えないかも、ということですか?」
「そうです。予感はされていたのでは?『マップ』も『モンスター情報』も、アップデートが不能になっております。機能している『アイテム一覧』『装備』も、いつ消えるかわかりません。」
「……マジっすか。」
「ええ。マジっす。」
だいぶ、俺とフランクに話せるようになった女神様。
だが、この気を置かない会話も、終わりが近いのか。
「話を戻しますが……双治さん、顔つきが変わりましたね。覚悟を決めた顔です。」
「…………。」
「死を覚悟した顔、でしょうか。雰囲気は普通ですが、分かります。」
「……次の敵は、古龍です。敵うかどうか。」
「…………。」
「……でも、女神様との約束は変わらない。俺を頼りにする方々がいる。困っている人がいる。……俺は、一生懸命ハンターをするだけ、ですよ。」
一生懸命に生きる。
それは、女神様との約束。
俺の命を拾ってくれた、この眼の前の方との、最初の取り決め。
一時は、無理しなくていいとまで言ってくれた。
ゴア・マガラ戦でも、心配してくれたんだろう。
口ぶりからわかる。
どんだけ長い付き合いだったと思ってんだ。
冗談まで飛ばして、ごまかしてるんじゃないよ、女神様。
そして、俺のこの心の中の独白も、女神様はお見通しだ。
「……双治さんは、変わりませんね。」
「えぇ、変わりませんよ。……次が最後なら、その最後を徹底的にやりますよ。……一生懸命に、ね。」
「……はい。そのお気持ち、受け取りました。」
真面目なトーク。
普段の冗談交じりの話し合いにはない、マジのトーン。
女神様は、神様らしくその場に背筋を伸ばして佇む。
神々しさ全開で、力のこもった目つき。
最後、か。
「双児さん。どうか、お気をつけて。」
「はい。」
「私とは会えなくなるでしょうが……寂しくありませんか?」
「いや、寂しいですよ。でもまぁ……やっていきますよ。」
「……はい。双治さん、最後に。」
女神様が近寄ると、俺の手を取った。
まっすぐに俺を見つめてくる。
その吸い込まれそうな大きな瞳に、俺は釘付けになる。
「……これほど一人の人間に入れ込んでは、神失格なのでしょうが。とても楽しかったです。これからもこの世界で、あなたはあなたらしく、存分に生きてください。」
「…………はい。」
「少なくとも、死ぬつもりで狩猟に出かけるなど、あってはなりませんよ?」
「……はい。」
「古龍なんて、とっととぶっ倒して、とっとと女の子侍らしちゃってください。」
「…………最後に何てこと言うんですか。」
「…………ふふ。」
!?
初めて笑う顔を見た……。
「……いけませんね。感情を露わにしては。……それでは、失礼いたします。」
「…………どうか、お元気で。」
「それはこちらのセリフです。どうか、お元気で。」
「……はいっ。」
「…………さようなら、です。」
フッ……。
* * * * * *
「……ご主人様?ご主人様!?」
「んぁ……?ショウコ?」
「一体どうしたんですか!?まさか狂竜症で……。」
「……い、いや、違うぞ。大丈夫だ。」
「そないな姿勢で言われても……。」
姿勢。
うおっ、土下座してる。
慌てて立ち上がると、ショウコと同様に心配しているドール。
「……いや、これだけ長い土下座したら、許してくれるかなー……と。」
「30秒くらい土下座してましたよ!?ボケにしても長すぎます!」
「は、ははは……すまん。ドールもごめん。」
「ううん……でも……ソウジさん、なんで泣いてるの?」
「えっ。」
言われて気がついた。
俺は涙を流していた。
顎にまでかかる雫。
まるで髭剃りの後のように、それを手で拭った。
「い、いやぁ、何だろう。よく分からん。」
「…………?」
「で、でもすまん、ドール。遅くなって。申し訳無い。」
「う、ううん。大丈夫だよ?おじいちゃんから、ソウジさんが打ち上げに行ってるって聞いてたから。……お帰り、ソウジさん。」
「……あぁ、ただいま。」
そうか。
ホエールさんが知っていたか。
あの人何でも知っているなぁ。
だが、助かった。
「……ドールちゃん、ご主人様、はよ寝かしてやってええ?疲れとるみたいや。」
「あ、ごめんね、ソウジさん。うん、おやすみなさい。」
「あ、あぁ。」
ドールに曖昧な返事をして、その場を去った。
不思議がっていたけど、説明ができん。
取り繕うにも、何も浮かばない。
頭が、真っ白だ。
…………。
……。
自分の部屋に入ると、ショウコが小さな声で話してきた。
「ご主人様……もしかして、神様とやらに会ってたんですか?」
「……あ、あぁ。分かるか。」
「なんとなく、ですけど。」
「……すまん、心配かけた。大丈夫だ。……もう会えないかもしれないんだ。ずっと世話になってた人……神様だから。何か、心の整理がつかん。」
「…………ええですよ、謝らんで。……とりあえず、休みましょう?明日は忙しそうですしね!」
「……あぁ、そうだな。できるだけの準備はしよう。」
「はいっ!」
ショウコが気を利かせてくれた。
ありがたかった。
と同時に、俺自身が相当戸惑っているのに気がついた。
ショック、だったんだな、俺。
ショウコとおやすみなさいの挨拶をして、自分のベッドに入る。
あの美しくも俗っぽい女神様を思い出しながら。
俺と二人で過ごした時間を思い出しながら。
俺は目を瞑って、眠りについた。