愛が止まらず、こんなに長くなるとは思わず……2話に分けています。
私はドール。
宿「ホエール」で働いている。
毎日毎日、部屋の掃除と食事の用意、その買い出しと、色々やっている。
たくさんやることがあるけど、大変だと思ったことはない……かな。
こういうの、私、好きみたい。
それに……。
「今日は……撫でていかないの?」
「あ、いや。はい。失礼します。」
この目の前の男の人、ソウジさん。
密かに慕っている。
宿にやって来た時は、あんなに頼りなかったのに
どんどん強くなっていって、筋肉の付き方とか顔つきとか……どんどんかっこよくなって。
正直、毎日毎日ドキドキしている。
お友達も少ないから、それを相談できる相手もいなくて。
よくショウコちゃんに聞いてもらったり、お母さんに手紙を送ったりしてる。
そのことをお母さんにからかわれてからは、なるべく書かないようにしてるけど……。
お母さん、口が軽いから。
お母さんは、首都ザキミーユギルドの偉い人……らしい。
一度中央から来たというギルドの職員さんが言ってた。
「ミヤコ総務長の……娘さん……!?」と言われ、頭を下げられた時は、ビックリした。
私が偉いわけじゃないのに。
でも、お母さんが年に一回返ってくるのは……実はちょっとだけ嬉しい。
一緒に寝て、ご飯作ってあげて。
まぁ、たまにダメな時はご飯抜きにしちゃうこともあるけど。
お母さんと一緒にいると、楽しいから。
でも、私の心配をし過ぎで……スキンシップが過剰なんだ。
一度ザキミーユに再び仕事で戻る時は、もうこねくり回されて大変だった。
とりあえずあしらったら、トボトボ出ていったなぁ。
……また帰ってきたら、優しくしようっと。
* * * * * *
ソウジさんは、冬の時期に北の山にある村に遠征した。
お母さんと一緒に居なくなったから……ちょっと寂しかった。
「ウチも付いてった方が良かったんかなぁ……。」
「ショウコちゃんも、いなくなったら……私、寂しいな。」
「……もう!ドールちゃんかわええ!!」
「う、うわっ!」
「いなくならんで!ウチはこの宿大好きやから!」
「う、うん……ありがとう……。」
ショウコちゃんとは、とても仲良くなった。
急に抱きつかれても、嬉しいと思える程には。
すごく仲良くなったきっかけは、やっぱりあの時。
ソウジさんが、でぃのばるど?っていう、とても強いモンスターにやられて帰ってきて。
私も心配で、お母さんとお見舞いに行った。
生きていて、嬉しくて、でも怖くて、泣いちゃって。
ソウジさんに逆に心配された。
お母さんも謝ってたなぁ。
その晩。
ショウコちゃんがとても落ち込んでいて。
心配で、一緒に寝たんだ。
「ウチ……もう……うっ……うぅっ……。」
「……大丈夫だよ。ショウコちゃん、頑張ったよ。」
「うぅ……ドールちゃん……。」
狩猟の事なんて、これっぽっちもわからないけど。
ショウコちゃんが落ち込んでいたから。
頭をなでて、一緒のベッドで一晩過ごした。
だから、すぐに立ち直った時は、安心したな。
良かった。
ソウジさんもすぐに退院して。
ハンターさんもオトモさんも強いなって、心から思った。
ソウジさんがすぐに治るように、私は身の回りのお世話をがんばった。
やりすぎて、ソウジさんは戸惑ってたけど。
背中流したり、あーんするぐらい、いいよね?
ショウコちゃんが「ウチと交替制で!」なんて言うから、あんまりできなかったけど。
むぅ。
そんなこんなで。
ソウジさんが居なかった冬の間は、少しだけ退屈で。
でも、ショウコちゃんと商店街をデートしたり、宿の備品をまとめて買いだしたり、帳簿をつけ直したり……。
なんだかんだ、平穏……なのかな。
そういう日々だった。
でも、遠くにいると寂しいなって。
そう、実感しちゃった。
* * * * * *
ソウジさんが冬山から帰ってきた。
いきなりだったから、びっくり。
しかも、宿の出口のドアを開けようとしたら目の前に居て。
抱きしめられた。
「うわっ。」
「えっ……。」
「あ、あああ、わ、悪い!ドール!わざとではないんだ!」
「そ、そそそそソウジさん!?」
急にくっつかれたから。
心臓が、飛び出るかと思ったよ。
「…………い、いきなりごめん、ドール。」
「…………う、うん。」
「……え、えーっと……た、ただいま帰りました。」
「う、うん。おかえりなさい、ソウジさん。」
何とか落ち着いて、お帰りが言えたけど。
ドキドキして、もう落ち着かなくて。
コーヒーを入れながら、とにかく深呼吸をした。
いきなりすぎるよ……もう。
その晩、おじいちゃんにも許可をもらって。
初めて、夜のお店にでかけた。
飲み会っていうのかな。
ソウジさんが、いろいろ優しくしてくれて、嬉しかった。
セツヒトさんもいて、ハイビスさんも合流して、ショウコちゃんもいて。
楽しかったんだ。とても。
「んでもさー、ドールー。何か違うことしたいとかー、無いのー?」
「え?違うこと?」
「そーそー。例えばー、やってみたいこととかー、就きたい仕事とかー……そういうのー?」
「…………考えたこと、無かった。」
私の、やりたいこと。
今まで、考えたこともなかった。
お父さんが死んで、お母さんも忙しくて、宿も忙しくて。
毎日が目まぐるしかったから。
セツヒトさんの質問に、ちょっとだけドキッとした。
「ドールは何かしたいとか、無いのー?」
「そうだね…………あ、あった。」
「お、なになにー?」
「えっとね。笑わない?」
「笑わないよー。そういう夢を語るのもー、飲み会の醍醐味ー?」
「じゃ、じゃあ……。」
一つだけ。
思いつくものを、そのまま話すことにした。
「えっとね……お嫁さん。」
「…………ふぇ?」
「お嫁さん……宿のお仕事、私嫌いじゃないし……お料理も好きだよ?だから、それを続けながらやるなら、お嫁さんかなあって。」
「…………お、おおお。」
「わー!素敵な夢や!ええな!ドールちゃん!」
「そ、そうかな。」
「女の子の憧れやー!」
「ハイビスちゃん……私は汚れてしまったんだねー……。」
「セツヒトさん……私も自分が何だか恥ずかしくなってしまって……。」
唯一、思いつくのは、やっぱりこれ。
やりたいことって、難しい。
宿も続けられて、生活のお世話をして。
ただ漠然と、これかなって。
「……と、というか、ドールちゃん?その、お、お相手はいるのかしら?」
「お相手?」
「ほ、ほら、お嫁さんということは、旦那さんもいるわけであってね?」
「……あ……そ、そういえばそうだね。考えて、無かった。」
「あ、そ、そうなの!いいのよ?そんな無理して考えなくて!」
「そ、そーそー!そういうのはー、頑張って探すものでもないしねー!」
顔が、熱くなった。
だって、お嫁さんって。
誰かの奥さんになるってことだから。
でも……誰かのお嫁さんになるって言うなら。
やっぱり、ソウジさんだよね。
うん。
「あ、でも……。」
「で、でも!?」
「……そうなったらいいな、っていう人なら……いるよ?」
「え、えええええええっと!?それは今言ってもいいのかしらいやよくないかしら!!」
「落ち着いてーハイビスちゃーん!ていうか言わせちゃダメな気がするよー!」
「うん。言わない方がいいよね。」
「「ホッ……」」
「今はまだ。」
「「まだぁ!?」」
この気持ちは、大切にしたいなって思う。
ソウジさんを、困らせたくないから。
隣に座るソウジさんに、話しかけた。
「……飲み会って、楽しいね。」
「……あぁ、そう思ってくれたなら、今日連れてきてよかったよ。」
「うん。よかった。」
「あぁ。」
私の初めての飲み会は、とても楽しい思い出になった。
お酒の匂いがキツくて、フラフラになっちゃったけど。
その晩は、ショウコちゃんが一緒に寝てくれた。
「ドールちゃん……お嫁さんって、ええなぁ。」
「ショウコちゃん……。」
「……あの時言ってたお相手って……。」
「あ……う、うん。」
「……やっぱりそうや……ホンマ、ウチのご主人さまは罪な男や……。」
「…………ショウコちゃんもでしょ?」
「なぁっ!?……あー……ま、まぁなぁ……。」
「…………ふふっ……私達、おんなじだね。」
「……こ、この余裕……セツヒトさんにハイビスさん、こら強敵やで……。」
「?」
ショウコちゃんが何言ってるか分からなかったけど。
もっともっと、ショウコちゃんと仲良くなれた気がする。
おかえりなさい、ソウジさん。
* * * * * *
ソウジさんは、みるみる忙しくなってきた。
ハンターランクというのが上がって、舞い込むクエストも強敵ばかりみたい。
怪我をして帰ってくる事もあった。
私にできることなんて、料理とかお掃除とか。
だから、ソウジさんが好きな魚料理は、うんと勉強した。
ソウジさんは少しずつ記憶が戻ってきているみたいで。
知らない料理をたくさん教えてくれた。
キレアジのヒラキ、というのは中々に大変だった。
でも、料理の幅が広がると、夜の宿の料理もレパートリーが増えるわけだし。
頑張ったんだ、私。
「うめぇ……うめぇよ……。」
「そ、そうかな。」
ソウジさんが料理を褒めてくれると、もう本当に嬉しくて、嬉しくて。
やる気が、たくさん湧いてくる。
ソウジさんが来る前は、こんなことなかったから。
ソウジさんには、色んな意味で感謝してるんだ。
でも、ソウジさんの記憶が戻ったら。
他の街の、もしかしたら違うところに行っちゃうのかなって。
……そう思うと、胸が苦しい。
* * * * * *
私とソウジさんの間には、一つ約束がある。
それは、頭を撫でてもらうこと。
狩猟の前とか、お仕事に行くとき。
決まって私の頭を撫でてもらう。
心から落ち着く、ソウジさんの手。
お父さんみたいに大きくて……たまに雑な時とかあるけど。
ソウジさんも始めは照れていたけど。
というか、私なんて今でも恥ずかしくて、かなりドキドキするんだけど。
おまじないみたいなものかなって考えてる。
ソウジさんも、いつだか「ご利益……。」なんてつぶやきながら撫でていた。
ちょっと失礼だなって思ったけど……。
でも、好きな人に頭なでてもらうって、嬉しい。
だから、日課としてやってもらっている。
……らーじゃんというモンスターを狩猟する時は、特に丁寧に撫でてもらった。
だって、皆が「とても強いモンスター」って言ってたし。
私も「みんなが無事でいますように、ソウジさんが無事でいますように。」って、目を瞑って祈ったんだ。
なんだか、私の思いまで背負って戦ってくれいるって思うと、少しだけ嬉しい。
狩りで助けられることなんて、私には無いから。
* * * * * *
ソウジさんがそのらーじゃんの狩猟から帰ってきた日。
いつものように市場で買い出しをしていたら、慌てた様子のハンズさんにいきなり引き止められた。
ハンズさんは、最近うちの宿に泊まりだしたハンターさんで、ちょっとおっちょこちょいさん。
でもとってもいい人で、お料理とか裁縫がとても上手。
髪の色も似ていて、なんだかお姉さんみたいな人。
そのハンズさんがただならぬ様子でいたから、私はドキッとした。
「ド、ドールちゃん!大変なの!!」
「は、ハンズさん!?どうしたの?」
「実は……さっき、セツヒトさんとソウジさん達が帰ってきて……怪我をして……。」
「えっ……。」
「わ、私、今からセツヒトさんのいる医務室に行こうと思って……そしたら、ドールちゃんが見えて……!!」
「…………!!」
「ど、ドールちゃん!?」
途中まで聞いて、駆け出してしまった。
とりあえず、荷物を置いて。
おじいちゃんに留守を頼んで……。
ギルドに行かなきゃ……!!
「おじいちゃん!ソウジさんとセツヒトさんが怪我した……って…………。」
「………………。」
「…………あれ?ソウジさんとショウコちゃん…………。」
「…………た、ただいま、ドール。」
「…………ソウジさん、怪我は……?」
「ん?いや、痛かったけど……まぁ大丈夫だぞ?」
「…………よ、良かったぁ…………。」
宿に着いたら、ソウジさんとショウコちゃんが居た。
とても普通に。ご飯を食べながら。
普通っぽい……。
…………良かったぁ…………。
「す、すまん。心配かけて。先にギルドに行ったものだから、帰りが遅れて……。」
「……う、ううん……ごめんね、慌てちゃって。」
「い、いや。いいぞ。うん……その、何だ。」
「……うん。」
「…………ただ今、帰りました。」
「……うん、おかえり。ソウジさん、ショウコちゃん。」
何だか、照れちゃう。
いつもみたいにお帰りっていうだけなのに。
……慌ててたところを見られたからかな?
恥ずかしい……。
「流石や……ドールちゃんの正妻力は半端ないでぇ……。」
ショウコちゃんがよくわからないことを言っていた。
制裁力?
とにかく、みんなが生きていて良かった。
セツヒトさんは、怪我をしたみたい。
ソウジさんを庇って怪我をしたって聞いたけど……。
セツヒトさんって、とっても強いハンターさんって聞いていたから、驚いた。
ちなみに、その日のお夕飯は、お茶漬け。
だって……メインの食材が無くなったんだもん。
おじいちゃんが、ソウジさんたちの昼ごはんに使い切ってしまったみたい。
それを分かっていて止めなかったソウジさんもショウコちゃんも、同罪。
ハンズさんも、同罪です。
おじいちゃんはこういうどんぶり勘定なところがあるから、やっぱり私がしっかりしないとね。
おじいちゃんは、ワサドラの村長代理として結構偉い立場にあるはずなんだけど。
私にとっては、大切な家族で……ちょっぴり抜けてるおじいちゃんだから。
私も心配したんだから、ソウジさんたちには反省してもらうことにした。
もちろん、次の日の夕飯は豪勢なものしたけど。
* * * * * *
ソウジさんはすぐに回復した。
人よりすごく回復が早いから、毎回驚かされるけど……もう慣れちゃった。
お世話とかしてあげたいのに、すぐ治っちゃうんだよね。
いいことなんだけど。
そしたら、すぐにまた狩猟に行くということだった。
二人が、何だか少しだけ落ち込んで宿に帰ってきて。
ちょっとだけ、気になったんだ。
「あ、おかえりなさい。……ご飯、まだだよね。」
「あ、ただいま、ドール。」
「今帰りましたー!」
いつもみたいに元気に挨拶するショウコちゃん。
でも、何だかいつもと違う。
無理、してる……?
「……ショウコちゃん、何かあった?」
「うえっ!?えぇと、いやぁ―――」
「明日、というか夜中、クエストに行くんだ。」
「えっ、すごいね。そんなに早く。」
「あぁ。ちょっと……危ないモンスターだ。気をつけて、行ってくる。」
「…………うん。わかった。…………お夕飯、用意するね。」
「あぁ。」
何時ものように、お夕飯を作った。
すぐに休むって聞いたから、消化の良いものにした。
何だか、とても嫌な予感がした。
次の朝起きたら、ソウジさんたちはもういなくて。
「頭、撫でられてないな。」なんて考えちゃったら、余計に不安になった。
……大丈夫だよね。
ソウジさん……ショウコちゃん……。
そんな不安は、やっぱり当たるもので。
翌日、ワサドラが大変なことになってるって、分かった。