モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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ドール視点です。
前回からの続きになっています。


157ある宿の看板娘の話③

「た、大変だよ!ホエールさん!!」

「おや、どうした。」

「どうもこうもないよ!!流通が停止って……ど、どういうことだい!?どうすればいいんだい!?私達!!」

「……ただ事じゃなさそうじゃの……ドール、しばらく宿を頼んだ。」

「あ、うん。」

 

 

ソウジさんたちが狩猟に行った後。

不安なまま、宿の朝の業務を始めていた時。

市場の野菜売りのおばさんが、血相を変えて駆け込んできた。

 

流通の停止……?

 

 

「あ、ドールちゃん……。ごめんねぇ、朝から騒がしくしちゃって……。」

「ううん。……おばさん、今の……。」

「…………隠しとくわけには行かないねぇ。実はね……。」

 

 

そこから、おばさんに色々と教えてもらった。

 

ワサドラの食品とか、いろいろな品物が、外から入って来られなくなったみたい。

おばさんも朝、急に言われて驚いたらしい。

市場は大慌てで、大変なことになっているという話だった。

 

 

「何でも……強いモンスターが現れて、安全が確認できるまでは無理って……。」

「そんな……。」

「ウチはね?ほら、野菜はこの所、ワサドラでも質がいいのが取れるからね……でもほら、大半の食料は南部からだろ?ハンターさん達も止められちゃねぇ……周りのみんな、困り果てちゃってねぇ……。」

「…………。」

「……あら、ごめんね!ドールちゃん。とりあえずさ、買えるものは買っといた方がいいよ!値段も吊り上がってくるだろうからさ!ウチの野菜は安くしとくよ!」

「あ、ありがとう……。」

「この市場があるのも、元はドールちゃんのお父さんが頑張ってくれたおかげなんだよ!こういうときに助け合わなくちゃね!」

「う、うん……。」

 

 

おばさんは、とても優しくしてくれる人だ。

いつだか、ソウジさんが大型モンスターの初狩猟に行くと聞いて私が落ち込んでいた時、助けてくれた。

本当にいつも、お世話になっている人。

 

 

とりあえず、言われたとおりに先に買い出しを済ませた。

市場はいつもの活気は無くて……こんなの初めてで、不安になった。

でも、私が顔を出すたびに、出店の人たちは笑顔で食材を売ってくれた。

何時ものように。

何なら、まけてくれたりした。

 

 

「ドールちゃん!どうだい!今日もいいリノブロ、入ってるよ!」

「あ、うん。……おじさん、これ、いつもので。」

「あいよ!!」

 

 

おじさんは、普通だった。

いつもどおりの、元気な声。

でも、買い出しを終えて振り返ると、おじさんは頭を抱えていた。

 

行く人たちが、みんな不安そうにしていた。

なんでも、この原因になっているモンスターは、今までと違って相当に恐ろしい、とか。

町を出ようか、とか。

 

聞くたびに、私も不安になった。

 

…………私って、何にもできないのかな。

悔しい。

おじいちゃんみたいに、村の相談役としていられてるわけでもないし。

ソウジさんたちみたいに、モンスターを狩って、安全を守ったりしているわけでもないし。

ハイビスさんは、きっと今、ギルドで奮闘しているんだろうし。

 

みんながみんな、できることを頑張っているのに。

私だけ、蚊帳の外みたいで。

 

……自分の無力さが、嫌になった。

 

 

 

宿に帰ると、おじいちゃんも戻っていた。

 

中には数人の大人がいて、何か話していたようだった。

私が入ると、「……それでは、そういうことでの。よろしく頼んだ。」とおじいちゃんが言っていた。

 

大人の人達が、宿の裏口から出ていく。

 

 

「……おぉドール。お帰りなさい。どうした?変な顔をして。」

「……おじいちゃん。」

「ん?」

「私、何もできてない。」

「……ドール?」

「……市場の人、みんな困ってた。……野菜売りのおばさんから聞いたよ?ワサドラが、大変だって。」

「…………。」

 

 

おじいちゃんが黙っている。

私は話を続けた。

 

 

「……お肉屋のおじさん、いつもみたいに優しかった。でも、私がいないときは……頭抱えてたよ?お肉って、ハンターさんが仕入れるんだよね?それも、今からはとれなくなるんだよね?」

「…………ドール、お前も大きくなったんじゃの。」

「おじいちゃん、今はそういう話じゃ―――」

「―――ドール。……ソウジさんとショウコ殿は、その原因を倒しに行っとる。」

「…………えっ。」

 

 

急にそんなことを言われて。

心臓が、キュッとなった。

ソウジさんとショウコちゃんが?

みんな、みんな、どうしようもないモンスターだって、口を揃えて……。

それを?

 

 

「……シガイアから聞いたわい。あやつも色々考えたんじゃろ。ソウジさんが、数あるハンターから選ばれ、今、狩猟をしてくださっとる。」

「……お、おじいちゃん。それ、どうして……。」

「止めはできんじゃろ。……ギルドの方針に、ワシは反対できる立場にないしの。……ちとドールには難しいかの?」

「…………そんなことない。わかるよ。わかるもん……。」

 

 

子ども扱いされていることが、ちょっとだけ、腹立たしかった。

 

 

「……私だって、分かるよ。ソウジさんが、どんどん難しい狩猟を任されていて、まるで追い込まれるように頑張って強くなっているって。」

「それがわかるなら、ドールや。お前は、お前にできることをやらんとな。」

「え……。」

 

 

私にできること。

私に、できることなんて……。

 

 

「焦っておるの。じゃが、そんなに思い詰めんでいい。人にはそれぞれ役割がある。」

「役割……?」

「そうじゃの。ドール、お前には、ソウジさんを大切にしたいという気持ちがある。」

「えっ……。」

 

 

言われて、顔が少し赤くなる。

 

 

「……ソウジさんは、常々感謝しておった。『自分の家はここだ』と、何度も、の。」

「…………。」

「その居場所を作ったのは、ドール。お前じゃ。」

「…………。」

 

 

私にできること。

ソウジさんを、暖かく迎えること。

この宿で。

ソウジさんが、家だと言ってくれる、この場所で。

 

 

「お前の料理の腕は中々じゃ。イシザキの坊主にも、負けとりゃせんわい。ソウジさんもショウコ殿も、大層気に入っておる。」

「あ……。」

 

 

思い出す。

何度も何度も、ソウジさんは私の料理を褒めてくれた。

 

 

「ドール、お前にできることなんて、いくらでもあるじゃろ?」

「…………う、うん。」

「ほっほっ。……いい顔に戻ったの。」

 

 

見つけた。

私にできること。

私にしか、できないこと。

 

やっと。

やっとわかった。

 

 

「…………まぁ、相当に難しい狩猟と聞いておる。じゃがの、ソウジさんとショウコ殿のことじゃ。怪我はするかもしれんが……まぁ、帰ってくるじゃろ。」

「……うん、そんな気がする。」

「待つわしらが、まずは堂々とせんと、の?」

「…………うんっ。」

 

 

何も解決してないけど。

……いや、私の気持ちは解決した。

 

ソウジさんを、迎えてあげなきゃ。

私が。

私と、おじいちゃんが。

 

この宿、「ホエール」で。

 

 

「…………おじいちゃん、ごめんね。私、どうかしてた。」

「えぇ、えぇ。そりゃ、愛する人が大変な目に遭っとるんじゃ。そりゃ、どうかするじゃろ。」

「あ、愛す……!?」

「ドール、その気持ちはとても素敵で素晴らしいものじゃ。……大事にしなさい。」

「…………うん。」

 

 

おじいちゃんは、私がソウジさんに想いを寄せていることを、早々に気づいていた。

……もう。

敵わないなぁ……。

 

 

私は、気持ちを切り替えた。

ソウジさんとショウコちゃんは、きっと今、一生懸命に頑張っているんだ。

私も、できることをやる。

 

ううん、やりたい。

 

二人を……あの人を、支えたい。

 

だから。

 

だからソウジさん。

 

 

頑張って。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

結果として。

 

ソウジさんとショウコちゃんは、ちゃんと帰ってきた。

 

でも、ショウコちゃんは大怪我をしていた。

ソウジさんも、気を失ったまま。

 

 

命に別条はなさそうと聞いていたけど、不安で不安でしょうがなかった。

医務室には、ギルド関係者以外立入禁止。

ハイビスさんが、二人の身の回りを見てくれていた。

 

二人が眠っている間、私は何回もギルドに訪れた。

 

 

「ハイビスさん。」

「ドールちゃん。……二人、まだ眠っているわ。」

「そう……うん。ありがとう。」

「えっ?」

「えっと……二人を、診てくれて。」

「あら……ふふ。こちらこそ、ありがとう。……ねぇ、ドールちゃん。」

「えっ?」

「まるで、二人の家族みたい。その感謝の仕方。」

「そ、そうかな……そうかも。」

「ふふ……ドールちゃんのお宿が、二人の家だもんね。……大丈夫。二人は強い。きっとすぐ、目を覚ますわ。」

「……うん。」

 

 

ソウジさん達は眠り続けた。

 

そんな中、町はもうお祭り騒ぎだった。

市場は、まるで嘘みたいに雰囲気が変わっていた。

まるで収穫期のバーゲンの時みたいだった。

 

 

「いやぁ!一時はどうなるかと思ったがよ!ソウジさんとショウコちゃんがやってくれたって聞いたときはもう……感謝感激よ!」

「何言ってんだい!?死んだ目をしていたくせに!」

「そ、それは……だってよ!?もう終わりかと思ったんだぜ!?それがたった半日でやっつけちまうなんて……。」

「あらあら!肉屋が泣いてるよ!!みんな!集まっておくれ!!!」

「う、うるせぇ!!泣いてねぇぞ!!」

 

 

ワハハハ……。

ワイワイ。

ガヤガヤ。

 

 

……いつものワサドラ。

その楽しげな市場が、すぐに戻ってきた。

 

それを取り戻してくれたのは、あの二人。

うちの、二人なんだよって。

誇らしくて。

 

おっきな声で、言いたくなった。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

ソウジさんが目を覚ました時は、泣いてしまった。

泣いて……そのままの勢いで、ソウジさんにくっついてしまった。

後で思い返して、恥ずかしくなってしまった。

 

みんないたのに……。

 

 

嬉しいこともあった。

お母さんが、帰ってきた。

 

だけどというか、やっぱりというか、ちょっと帰り方が変だったけど。

……なんで毎回私のフリをするんだろう……。

そりゃ、私にとても似てるって、色んな人に言われるけど。

ソウジさんも、ちょっと騙されたみたいだった。

ちょっと悔しい。

 

お母さんが帰ると、宿がとっても明るくなる。

やっぱり、ホッとする。

でも今回は、お仕事が本当に忙しいみたいで。

中々一緒に話す時間が取れなかった。

 

少しだけ、寂しいけど……もう私も自立する歳になったし。

私は、私にできることがあるんだって。そう、分かったから。

お母さんも頑張っているって分かるし。

変わらず、宿のお仕事を頑張ろうと思った。

 

 

 

お母さんが帰ってきたその次の日。

ソウジさんたちは、例の……ごあまがら?というモンスターを倒した、祝勝会に行ったらしい。

お母さんもどうやら、そこに顔を出したとかで、宿にはいなかった。

おじいちゃんが教えてくれた。

 

帰りが遅くなったソウジさんが、いきなり床に伏せた時は、びっくりした。

しかも、何故か涙を流していた。

 

 

「……ソウジさん、なんで泣いてるの?」

「えっ。い、いやぁ、何だろう。よく分からん。」

「…………?」

「で、でもすまん、ドール。遅くなって。申し訳無い。」

「う、ううん。大丈夫だよ?おじいちゃんから、ソウジさんが打ち上げに行ってるって聞いてたから。……お帰り、ソウジさん。」

「……あぁ、ただいま。」

「……ドールちゃん、ご主人様、はよ寝かしてやってええ?疲れとるみたいや。」

「あ、ごめんね、ソウジさん。うん、おやすみなさい。」

「あ、あぁ。」

 

 

ショウコちゃんは、なんでソウジさんが涙を流しているのか、分かったみたい。

そんな気がした。

そして、私には分からない二人だけの秘密があるんだと、この時なんとなく分かった。

 

……二人が何か、隠している。

ちょっとだけ、気になる。

 

私には言えないことなのかな。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

次の日の朝。

珍しく、お母さんが早く起きていた。

そして、お母さんが座る椅子の隣には、おじいちゃんがいて、何か話していた。

 

聞き耳を立てた。

 

 

「……というわけなんです。」

「なるほどのぅ。」

「えぇ……ですから、すぐにこちらに戻るかは確約できませんが……。」

「いや、ここまで待ったんじゃ。1年や2年、どうってことはないわ。倅も喜ぶ……。」

「ありがとうございます……その、ただあの子が心配で……帰ってきたのにまたすぐに、なんて。」

「……ドールは心配ないじゃろ?あの子はこの数日で見違えるようじゃ。……のう?ドール?」

「えっ!?」

 

 

驚いた様子のお母さんが振り向く。

お母さんと目が合った。

 

 

「……お母さん、また首都に戻るの?」

「ど、ドール……え、えっとね、お母さん……。」

「…………大丈夫、だよ?」

「えっ……。」

 

 

お母さんがまた首都に戻るんだって、話の内容から何となく分かった。

お母さんは、私のことが心配なんだっていうのも。

 

ちょっと前の私なら……うん、少し怒っていたかも。

寂しくて。

また置いていくの、って。

 

でも、大丈夫。

いつもの強がりなんかじゃなくて、本当に。

 

 

「お母さん。」

「な、なぁに?ドール?」

「……私もう、子どもじゃないよ?」

「あ、あら……。」

「もう、自立する歳になったんだ。自分がやりたいことも、何となくだけど、分かった。……私ね、やっぱりソウジさんが好き。この町が、この宿が、大好き。」

「……ドール。」

「……ソウジさんとかショウコちゃんとか、ハンターやオトモの人達を支えたい。食事とか、宿とか、そういう生活の面から、だけど。それが私の、やりたいこと。」

「……。」

「……お母さんが離れているのは、寂しいよ?でも……大丈夫なんだ。本当に。」

「……っ……!!」

 

 

ガバッ。

 

ギュッ。

 

 

「…………ホッホッ。」

 

 

おじいちゃんがいつものように笑う。

それが、この宿「ホエール」の名物。

 

そんな中、お母さんが私を抱きしめた。

抱きしめてくれた。

いつものふざけた抱きしめ方じゃない。

心から安心する、あったかくて優しい抱擁。

 

 

「ドール……あなた、大きくなったのね……。」

「……うん……。」

「……ホント、ソウジくんには感謝ね。この私の大切なドールを、こんなに大人にしてくれて……。」

「……うん……。」

 

 

ソウジさんがいなかったら、やりたいことなんてわからなかったかも知れない。

でも、あの人がいたから。

好きな人のために頑張るって気持ちが、私を前に進めてくれた。

 

 

「……お母さん決めたの。この仕事を最後に、ワサドラに戻るって。」

「……えっ!?」

「でもね、かなーり大きな仕事でね……ソウジくんも、ちょっと連れて行くわ。」

「あ、そうなんだ……。」

「でもでも大丈夫よ!ソウジくんならぱぱーっと狩猟が終わらせて帰ってくると思うし!お母さんも……ま、まぁちょっと後始末が大変そうだけど、すぐに終わらせてくるから!」

 

 

スッ。

 

 

お母さんが、私から離れる。

いつになく、真剣な目。

ちょっと、似合わないけど。

 

かっこいいお母さんだった。

 

 

「……アナタとあの人がいるこの町で……また、暮らしましょうね。」

「……お母さん。」

「……ホッホッホッ。」

「……あぁ!お義父さんももちろん!一緒ですよ!?」

「それは言わんほうが逆にええんじゃないかの?」

 

 

かっこいい顔であたふたするお母さんは、やっぱりお母さんで。

三人で、朝っぱらから笑い合った。

 

 

 

 

 

余談だけど、お母さんがその後、いつもの如く暴走した。

 

 

「まさか……本当にソウジくんに大人にされてないわよね!?」

「えっ……えぇ!?」

「その反応はまだね!!いけないわ!!このままではソウジくんに私の可愛い可愛いドールが手篭めに……!!ま、まだ手を出さないように私からキツくお灸を据えて……!!」

「お、お母さん!!ちょっとまって!!お願い!!」

「ソウジくん!!ソウジくん!!」

「お母さん!!」

 

 

その後、物理強制的にお母さんを止めた。

ついでに朝食抜きを宣告し、反省を促した。

 

……私だって、もう子どもじゃないんだからね。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

翌日。

 

ソウジさんとショウコちゃんは、お母さんと一緒にザキミーユシティに出発した。

ソウジさんには、念入りに、すごく念入りに頭を撫でてもらった。

というか、撫でさせた。

ショウコちゃんにも、撫でさせた。

ソウジさん専用の頭とか言ってたけど、ショウコちゃんだったらもういくらでも撫でてもらいたい。

 

 

正直言うと。

やっぱり寂しい。

だけど……でも、不思議と大丈夫。

今日も宿には、ハンズさんを始めとして、色んなハンターさんが出入りする。

美味しい食事を作って、部屋をきれいに整えて。

私は、私にできることをするんだ。

 

 

 

 

 

 

私は、ドール。

この宿で働いている。

それが、私の仕事。

 

がんばってね、お母さん、ソウジさん、ショウコちゃん。

私、応援しているから。

皆の帰りを待っているから。

 

ここ、「ホエール」で。

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