女神様とのお別れから翌日。
体を起こすと、不思議と全身が軽かった。
気持ちもスッキリし、やる気に溢れている。
(女神様……かな。)
心の中で、感謝をしておく。
ありがとうございます。
昨晩、ギルド横の集会場で、ハンターズギルド……シガイアさんから直接依頼を受けた。
内容は、古龍の討伐。
天廻龍シャガルマガラ。
俺とショウコで倒したはずの、黒蝕竜ゴア・マガラの進化版?モンスター。
明日の出立のためにも、今日は入念に準備をしなければ。
懸念が2つ。
1つ目、女神様からの話では、例のギフトの機能がかなり落ちている……下手したら機能しないかも知れないとのことだった。
念の為、手慣れた動きで「情報画面」を起動する。
……確かに。
今の所「装備」や「アイテム一覧」は無事だが、「モンスター情報」や「マップ」に異変が見られた。
故障した液晶画面のように変な筋が入っていたり、文字化けを起こしていたり。
「アイテム調合」やその他の機能については、選択することさえできなくなっている。
……この世界に順応している為、とか言ってたけど……むしろ今までよくもったな、と思う。
ギフトにも持ち物は入れておくが、回復薬とかは余分に違うアイテム収納を用意することにしよう。
2つ目、討伐はチームで行う可能性が高い、ということだったが……そこが不安。
複数で一匹に立ち向かうというのが、俺は不安でしかない。
双剣を振り回してる時に、隣から近接が突っ込んできたら……。
「おぉ……怖っ……。」
「んあ……おはようございます、ご主人さま。」
「お。おはよう、ショウコ。すまん、起こしてしまったか。」
「いえ……。」
寝ぼけ眼でショウコが目覚めた。
俺は、ドールが用意してくれたのであろう水が張った桶に、タオルを突っ込む。
固く絞り、ショウコに渡した。
「あ……ありがとうございます、ご主人さま。」
「ああ。ランニングに行ってから、飯食って、買い出し……かな?今日は。」
「ふぅ……はいっ!」
急に元気な声を上げるショウコ。
寝起きは少し悪いが、すぐに目を覚ますことができる。
俺も手慣れた手付きで情報画面から着替えを行う。
……うーん……。
「どうしたんです?ご主人さま?」
「いや……今日は自分で着替える。何だか、そろそろギフトが使えなくなるっぽい。」
「うぇっ!?」
「いや、そんなに大したことじゃないぞ。で、そのためにこう、ギフトに頼らない生活を送らないといけないな、とな。」
「……ご主人さまの早着替えがもう見れなくなるんですね……。」
「あれ?意外と楽しみだったか?」
「はい。何だか毎朝、手品見ているみたいで。」
手品て。
人の着替えを楽しむんじゃないよ。
* * * * * *
今日はランニングは軽めにしておいた。
ハンズから「今日はついていけてます!!」と言われ、本気を出してやろうかとも思ったけど。
先日ドールに釘を刺されたばかりなので、やめておいた。
また行くときは、地獄を見せてやろう。
ちなみにハンズは、明日にも一度、故郷に戻るようだった。
「ギルドに教えてもらったんですが、放牧のルートが今南に向いるそうで……タイミング的にベストなんです。」
「そうか。……寂しくなるな。」
「ソウジさん、ショウコちゃん。また戻ったら、一緒にトレーニングしましょうね。」
「ハンズさんも、気をつけてくださいね!!……お兄さんのことでなんかあったら、いつでもワサドラに帰ってきて下さいね!!」
「そんな、今生の別れじゃないんですから。」
あの兄がそう簡単にハンズを手放すのか……?
わからん。
宿に戻ると、ドールがいつもの朝食を用意してくれていた。
今日はご飯メニュー。
ツチタケノコの煮物、モガモ貝の味噌汁、ツヤツヤの白飯に焼き魚……大根おろしもセット。
うーん、完璧。
「ドール様、いつもありがとうございます。」
「さ、様って……いつものメニューだよ。」
「この『いつもの』にどれだけ支えられているか……な?ショウコ?ハンズ?」
「……(ガツガツ)」
「……(ガツガツ)……あ、おかわりをもらっても……。」
「あ、うん。ハンズさんもたくさん食べてね。」
「……俺も食べよう……。」
二人にガン無視される。
うまい飯の前に、言葉は無用か。
俺も味わっていただくとしよう。
しかし、食堂の隅で真っ白になっているミヤコさんがいるが、何かあったのだろうか……。
……何かあったんだろう。
察する。
そして。
「あ、ドール様。俺もおかわり。」
「だから、様はやめてよ、もう。……はい。」
「ありがとうございます。」
俺は、スキル「気にしない」を発動し、完全に無視することにした。
触らぬ神に祟りなし。
触れればドール神の怒りを買う恐れあり。
おそろしやおそろしや。
「あ、ドール。」
「ん?なに?ソウジさん。」
ドールを呼ぶ。
どのようなクエストに行くかは置いておくとしても、明日から出かけることは伝えとかないと。
「実は明日、首都の方に向かうんだ。」
「……うん。」
「……あれ?知ってた?」
「あ、うん、ごめんね。お母さんからちょっと。」
「そうか。」
話はしていたのか。
……ならその過程で、
「お母さん首都に戻るの。」→「そう。」→「冷たい!ドールが反抗期!!(暴走)」→「もう!ごはん抜き!」→「チーン(真っ白)」
というパターンか。もしくは、
「お母さん首都に戻るの。」→「そう。」→「あぁ!でもドールかわいい!(暴走)」→「もう!ごはん抜き!」→「チーン(真っ白)」
というパターンと推測される。
「聞いているなら話は早いんだけど……モンスターの狩猟に、少しばかり時間がかかるかも知れない。」
「うん。」
「……な、なので、よろしくお願いいたします。」
「わかった。」
「……?」
ちょっとドールが冷たい気がしなくもない。
な、何で?
「気をつけてね。ソウジさん。ショウコちゃん。」
「あ、あぁ。」
「ありがとな!ドールちゃん!」
ショウコは普通の返事。
ドールも普通なんだろうけど……何だろう、妙に引っ掛かる。
いや、ドールはいつも落ち着いた子なんだけど。
何というか……少し大人っぽい落ち着き具合になったと言うか。
「ど、ドール?」
「ん?どうしたの?ソウジさん。」
「いや……何か、大人っぽくなったと言うか、何というか。」
「そ、そうかな。……うん、そうかも。ちょっと、成長できた。」
「おぉ……。」
ドールが自分でそういうことを言うのは、珍しい。
何かあったんだろうな。
「……次のモンスターは、今までで一番強いかも知れない。」
「むぐっ……ご、ご主人さま?それ、言いますか?」
ショウコがご飯を頬張りながら俺に突っ込んできた。
言うも何も。
……何だか、今のドールにそれを言わないのは、何だか失礼な気がした。
本気で俺達のことを心配してくれて、こんなに甲斐甲斐しく身の回りを見てくれる人に。
ちゃんと伝えないといけない気がする。
「ある人に聞いたんだけど……多分今回は、俺の一世一代の大仕事になる。」
「…………。」
「ぶっちゃけ、五体満足で帰れるか分からん。死ぬかも知れない。」
「…………。」
「ご主人さま……。」
「でも、頑張るから。帰ってきたら、また、おかえりって言ってほしい。」
すべて、正直に話す。
今までは、ドールに心配かけまいとごまかしてきたところだけど。
……ドールには、話しておきたい。
真剣な目を向けると、ドールもまた真剣な目で俺を見つめ返してきた。
「……うん。任せて。みんなの帰りを、ここで待ってる。無事を祈るから。」
「ああ。」
「だから……頑張って。」
「……あぁ。」
ここは俺の家だ。
俺の実家だ。
ドールもホエールさんも、俺の家族みたいな存在だ。
帰りを待つ人がいる。
それだけで、頑張れる。
「……ソウジくん、よく言ったわ!」
「うわぁ!!み、ミヤコさん!?」
いつの間にか背後にミヤコさんがいた。
先程まで真っ白だった人が大きな声を出したから、ビビった。
「ソウジくん。ドールにきちんと話してくれて、嬉しいわ。」
「い、いや、どうも。」
「……ドール、ソウジくんのバックアップは、こっちも全力を尽くすから、心配しないでね。」
「うん。お母さんがそう言うなら、安心。」
何だか、ミヤコさんとドールの感じが、いつもと違ってちゃんとお母さんと娘っぽく見えた。
気のせいかも知れないけど。
「ドール、明日はしっかり見送ってね?」
「うん。」
「また、絶対帰ってくるからね?」
「うん。」
「……だから、今日の朝しょーーー」
「ーーーそれは駄目。」
ッチーン。
真っ白になるミヤコさん。
いい感じムードの中、ついでに朝食もゲットしようと試みたようだったが……ドールのほうが上手であった。
最早様式美ですらある。
「もぐもぐ……ドールちゃん、おかわり!」
「ウチも!」
「わっ……みんなよく食べるね。」
「ホッホッホッ。」
マイペースに飯を食らうハンズとショウコ。
いつものように笑うホエールさん。
……死ぬとかなんだとか、言っちゃ駄目だよな。
「ご主人さま?」
「ん?」
「……絶対に、ここ、帰ってきましょうね!」
「……ああ、もちろんだ!」
古龍だからなんだ。
無事に帰ってきてやるぞこの野郎。
やる気に満ち溢れる、俺とショウコであった。
* * * * * *
「旅の用意は最低限でいいわよ?旅費もこっちでもつから、狩猟のことだけを考えてちょうだいね!」
復活したミヤコさんからそんな話を聞いて、俺とショウコは午前中から精力的に商店と市場を駆けずり回った。
購入するのは、回復薬グレートなど薬関係がメイン。
以前教官から、古龍には搦め手は効きにくいと聞いていたので、その辺のアイテム……罠とか閃光玉とかは控えめにしておいた。
ギフトの「アイテム一覧」から出してしまえば良いのだが、いつ使えなくなるかも分からない。
念には念を入れて、購入しておく。
金は割とある。
食料品はミヤコさん……ギルド側に頼るとして、イシザキ亭の弁当は買っておきたい。
昼の時間前に、オスズからA弁当とB弁当を4セットほど購入しておいた。
店の前には人だかりが相変わらず凄かった。
というか、増えていた。
「ありがとうございますにゃあ!ありがとうございますにゃあ!!」とオスズが大声で叫ぶ最中、ショウコが弁当を買い始めたものだからさあ大変。
ショウコは退院したことをオスズに知らせていなかった。
まぁそんな暇無かったしな。
「しょ、ショウコー!!し、心配したにゃああああ!!!」
「ちょっ!!お、オスズさん!?」
「一人前になったかと思ったらあんだけ心配かけて……でも良かったにゃああああ!!!」
「わっ!す、すんません……って!!鼻水かけんと!!あぁ!お気に入りの服がぁ!!」
ギャーギャー
ニャーニャー
うんうん。
微笑ましい限りである。
「ご、ご主人さまも見とらんと!は、はよぅ助けて下さい!!」
「いや、これも家族のスキンシップみたいなものだ。……オスズさん、存分にどうぞ。」
「ご、ご主人さま!?」
「じゃ、俺は昼飯を別のところで食ってくるから。また後でな、ショウコ。」
家族のような間柄の二人である。
大きな仕事の前に、少しでもスキンシップを取ってほしい。
やだ、俺ってば紳士。
「ご、ご主人さまァァァ!!!」
「ショウコ……本当によかったにゃあ……(スリスリフキフキ)」
「う、ウチの袖で鼻水を!!?」
……さーて、俺はギルドの方にでも行くかな。
ん?
あれは……?
「(じーーーーーー。)」
「…………。」
イシザキ亭から大通りに向けて離れた建物の影。
双眼鏡を駆使してオスズとショウコを見つめる人物がいた。
フードを目深に被り、わかりにくくしているつもりだろうが……そのOLっぽいスカートはごまかせていませんよ。
「……ヒナタさん。」
「ふぇぇぇ!?」
「俺です。ソウジです。」
「あ、あぁ……同志でしたか……これは、大変お見苦しいところを。」
「い、いや、平気です。」
見苦しいと言うか、鼻血前提でハンカチを鼻に押し当てて双眼鏡を覗くフード丸かぶりのOL風スカート女性がいたら。
もうツッコミどころが多すぎて訳が分からん。
しかも「ふぇぇぇ」て。
「……ヒナタさんは、いつもここにいらしてるんですか?」
「い、いえ。昼休憩が長めに取れた時には、こうしてオスズ様を眺めて、眼福としているのです。」
「さ、流石です。」
ヒナタさん。
ワサドラギルドの新人受付嬢で、そのクールな印象から結構な人気がある。
ハイビスさんと人気を二分するほどの美人さんであり、仕事の方もこれまたスマート。
だが、彼女には俺と同じ秘密を共有している。
そう、猫っぽいもの大好き属性、である。
おっさん時代、そういった趣味は完全にキモいと思われるため自重するスキルを持つ俺に対して。
ヒナタさんは、その隠密性の高さも相まって、俺の前では自重しない。
というか、本領を発揮する。
引くほど。
うん、俺今も引いてる。
同志なのに。
「すみませんただでさえ尊いオスズさんにショウコさんが混じってもうこれはたまらない状態が急加速しはじめておりましてもう私居ても立っても居られないようなこんな状況下でまさかのソウジ様ご登場となってはもうーーー」
「ーーーはい、存分に二人のやり取りをご覧になって下さい。待ちますから。」
「感謝いたします。」
バッ!!
目にも留まらぬ速さで双眼鏡をセットし直すヒナタさん。
もう完全にヤバい人である。
通行人がジロジロ見てくるのを何とか隠しながら、しばらく待つ俺であった。
何してんだ俺……。
* * * * * *
「すみませんでした……私としたことが……。」
「い、いえ。大丈夫ですよ。」
ヒナタさんが鑑賞を終え、正気に戻ってきた。
一緒にギルドに向かうことにする。
その間、ずっと謝られっぱなしである。
「その、我を失うほど、今日のはその、可愛すぎまして……。」
「それは……そうですね。今日のオスズさんは、一味違いました。」
「分かりますか?……流石はソウジ様です。」
分かるとも。
今日のオスズの髪型は、ツインテールであった。
猫耳ツインテール、エプロン、ピコピコのしっぽ。
正直言おう。
アレは国宝として崇めるべきレベルである。
「しかもあのエプロン……サイズが合っていない。」
「!?同志ソウジ様!それはどういう……。」
「おそらく、忘れてしまったか汚してしまったか……ケイさんのものを借りたんでしょう。ダボダボでした。」
「そ、そんな。ドジっ子アピールも忘れないとは……。」
「しかも天然です……凄まじい破壊力でしたね……。」
「えぇ……完璧でした……。」
心の中のどこかで、「お前何してんの?」と冷静に突っ込む俺がいる。
だが待て、心の中の俺よ。
趣味の話をするというのは、もうこれは、心の開放なのだ。
ちょっと黙ってろ。
そこからギルドに着くまで、非常に密度の濃い猫っぽいものトークに花を咲かせた。
ようやくギルドを目の前にして、「……そういえばソウジ様は、ギルドにどんな御用でしょう?」と聞かれ、我に返ったほどであった。
オスズとショウコ……恐ろしい子っ!!
* * * * * *
さて。
正気に戻った俺は、昼飯を適当に集会所で食べた。
イシザキ亭ではショウコがオスズに捕まってしまったから。
腹を空かせてギルドに入ると、昨日のバーカウンターの所へ呼ばれたのである。
シガイアさんに。
「いかがです?私のパスタも中々のものでしょう。」
「……驚きました、うまいです。シガイアさんって何でもできますね。おみそれしました。」
「独身も長いと、自炊も上達しますよ。」
「おぉ……。」
昼をごちそうしてくれるというので行ってみたら、何とまあお手製のパスタを食べさせられた。
しかし、嘆きとも驚きともとれぬ返しをしてしまった。
だって難しいだろ、独身長いとか言われて。
なんて返せばいいんだ。
「ははは、失礼。今のは忘れて下さい。」
「あ、はい。」
適当な返事でごまかしておく。
シガイアさんは、昨晩のようなバーのマスターっぽい服装ではなく、紺のスラックスに白いワイシャツ姿。
シャツの袖を肘までめくり、ネクタイは付けていない。
「仕事を抜け出して遊びに来た」感がすごく出ている……。
「……それで、俺をここに呼んだのは……。」
「あぁいえ。明日の出発の前に、いろいろとクエストの詳細を詰めようと思いましてね。」
「シガイアさんが直接ですか?」
「中々公にしづらい内容ですから。とはいえ、ハイビスさんには伝えておりますよ?ヒナタさんにも、後ほど。」
「あ、そうですか。」
ハイビスさんやヒナタさんにが知っているなら、今後も楽だ。
シガイアさんだってヒマじゃないだろうし。
いや、ここでパスタ作るぐらいには暇なのか?
……まぁいいや。
「準備は進んでいますか?」
「あ、はい。旅支度自体は楽なもんですよ。その辺色々ミヤコさんがやってくださるらしくて。」
「なるほど。費用は中央持ちですか。それはいい。」
心底嬉しそうな笑顔を見せるシガイアさん。
この人、本当に中央ギルドを目の敵にしているな。
「まあアイテムなどは、ソウジさんの例のお力を使えば簡単なものでしょう。」
「あー……それがですね。その力、もうじき使えなくなるかもです。」
「…………本当ですか?」
「あ、はい。力をくれた……例の方に、直接言われました。既に使えないやつもあります。」
「…………そうですか。」
いたく残念そうなシガイアさん。
そうか、俺の力を結構アテにしていたのかもしれないな、この人。
いつだかギルドで働かないかと誘われたこともあるし。
あれは多分、本気だった。
「いや、失礼しました。……いえ、その方がいいでしょう。」
「?どういうことですか?」
「あぁ、いえ。……その力は、人が操るには余りあるもの。平穏に生きることを願うのであれば、いっそなくなったほうがいい。」
「あ……。」
「過ぎたる力は、時に身を滅ぼす。ですから、その方がいいと。……私も、あなたの幸せを願う一人ですから。」
「……ありがとうございます。」
シガイアさんは、俺の力を利用してのし上がってやろう、とか考えていると思っていたけど。
邪推、か。
…………失礼なのは俺であった。
心の中で、謝っておく。
「……この狩猟を終えても、またこの町に戻ってきてくださいますよね?」
「当たり前じゃないですか。ここは、俺の故郷なんですから。」
「………ははは。いや、失礼しました。……コーヒーでも淹れましょう。」
そう言うと、慣れた手付きで用意を始めるシガイアさん。
ガラスの容器に注がれるお湯を見ながら、のんびりと待つ。
明日出立なのに、ゆっくりしているなぁ、俺。
「さて、抽出を待つ間に、狩猟の話をしましょう。」
「はい。」
話はいよいよ本題へ。
布巾でカウンターを拭くと、シガイアさんが俺に向き直った。
「出発は明朝。……同行として、ワサドラギルドからはハイビスさんを出します。」
「えっ!?」
「彼女は首都出身です。地理には明るい。また、業務の面は言わずもがな文句なしです。また、他にも私の方で色々と手を打っておきます。」
「……ありがとうございます。」
「ヒナタさんも首都出身ですし、候補ではあったんですがね。本人からのたっての希望もありまして。」
「な、なるほど。」
「ギルドの業務をしてもらうと言うよりは、ソウジさんの付き人……のような立ち位置と考えていただければ。」
「はぁ。」
ハイビスさんが希望したということか。
付き人……ということはマネージャーみたいな感じか?
あまり忙しくなさそうだし、ハイビスさんは帰郷できるというメリットも有るけど……どうなんだろう。
まぁ知っている人がいるのは心強い。
ミヤコさんもいるけど、あっちに着いたらミヤコさんがどうするのかなんて分からないし。
ショウコと二人だけだと、少しだけ心細かったし。
「討伐の詳細は、西支部で聞いて下さい。支部長には、文を出しておきました。」
「何から何まで、ありがとうございます。」
「いえ。……ソウジさん。」
「は、はい。」
いつになく真剣な目つきで、シガイアさんが俺を見てくる。
この人への苦手意識は、いつまで経っても消えない。
そういうものだと思って、開き直るこにとする。
「……狩猟、どうかお気をつけて。ご武運を。」
「……はい。」
コト……。
湯気の立ち昇るコーヒーカップが、俺の目の前に優しく置かれた。
口に運ぶと、苦味と酸味と旨味が丁度良く混じっていて。
コーヒーの味の良さなど分からない俺だが、うまかった。