モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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159準備をしましょう。②

コーヒーを頂いてしばらく後、シガイアさんは仕事に戻っていった。

なんだかんだ、やっぱりお忙しいんだろう。

昨夜も遅くまでミヤコさんと話していたみたいだけど……何だったんだろう。

 

……まぁいいか。偉い人たちの考えなど、気にしたところでしょうがないだろうし。

 

 

…………。

 

 

コーヒーを飲み干した俺は受付に向かった。

夕方にはまだ早い時間。

もうそろそろ、クエスト帰りのハンターたちが増えてくることだろう。

 

その前に、一言ハイビスさんに挨拶をしておこうと思った。

 

 

「お疲れ様です。」

「あ、ソウジさん!お疲れ様です……どうされました?」

「いや、特に用事があるわけでは無いんですけど……そのほら、明日からお世話になりますので、挨拶を。」

「あ……そ、そうでしたか。ちょ、ちょっとお待ち下さいね!」

 

 

受付に広げられた書類をサッと片付けると、ハイビスさんが姿勢を正す。

……座っている横、作業用の小さい机の下に、お菓子の袋が見えた。

隠れて食べているのかな。

 

口の周りを何となく見たが、特に汚れてはいないご様子。

良かった。以前は食べかすが残っていて、指摘するかどうか迷ってしまったから。

こういう抜けているところが多々あるのに、仕事はきっちりとされるのだから、人間とはわからないものである。

 

人間分析の真似事を一瞬で終えた俺は、ハイビスさんの向かい、受付の椅子に座ることにした。

 

 

「お待たせしました、ソウジさん。」

「いえ、ありがとうございます。……とはいっても、本当に挨拶だけなんですけど。」

「はい、シガイアから聞きました。明日からどうぞ、よろしくお願いいたします!」

「はい、よろしくお願いいたします。……冬山の時依頼ですね、こういうの。」

「ふふ……楽しかったです、あの冬山の出張。」

「はい。」

 

 

冬山。

冬季になるとモンスターが減り、ハンターたちも少なくなるワサドラ。

その間、俺を鍛え上げるためにセツヒトさんが考えたのが、冬山への遠征だった。

ギルドの業務も兼ねて、ハイビスさんも同行して、何とも奇妙な三人旅になったが……。

 

うん、今思い返せば、結構楽しかったと思う。

 

 

「あんな雪景色、中々拝めませんからね。」

「俺も初めてでしたよ、あんなの。明日から向かう首都は、冬はどうなんですか?」

「雪なんて全く降りませんよ?一年中暖かくて、冬はこちらよりもよっぽど過ごしやすいんです。……モンスターの数も、それなりですけど。」

「あー、なるほど。」

 

 

厳しい気候に適したモンスターもいれば、温暖湿潤な気候を好むモンスターもいるか。

というか、後者の方が普通か。

なんであの雪山、冬にモンスターが増えるのか……その辺りの疑問は付きないけど。

 

 

「私とヒナタは同郷……ザキミーユの西側出身なんですよ?首都の中では、治安は良いほうです。」

「へぇ。じゃあ他の場所は?」

「首都と言っても広くて、私も全部は分かりませんけど……中央はとにかく厳かな建物が立ち並ぶ都会ですね。ワサドラの比じゃありませんよ?」

「おぉ、すごいな。見たい。」

「ふふ、時間があれば、私が案内します。北部は、農産物品を扱う大きな市場があります。南部は更に南の港町ニナンチと首都を運河で結ぶ場所ですから、商業系の建物が多いです。」

「じゃあ東部は?」

「西と同じで住宅街が広がってます。……良くも悪くも、大雑把な人が多くて……あ、あまりおすすめは……。」

「へぇ……。」

 

 

首都の話は色々と聞いたことが合ったが、こういう地理的な中身まで聞いたのは初めてだった。

ちょっと面白い。

街の成り立ちとか昔の道とか、そういうのは大好物である。

 

 

「いいですね、そういう話。あちらへの道すがら、もっと聞かせてほしいです。」

「は、はい。私で良ければ、いくらでも!」

 

 

やけに張り切っているハイビスさんであった。

 

 

「……ソウジさん。」

「はい?」

 

 

明日の集合時間や持ち物について話をしていると、ハイビスさんが少しだけ真面目な顔をした。

名前を呼ばれ、返事をする。

 

 

「シガイアから聞きました。古龍の討伐……なんですよね。」

「あ、はい。」

「ど、どうしてそんなに落ち着いていらっしゃるのかなー、と。思いまして……。」

「あぁ、それは……。」

 

 

何でだろう。

今日一日、俺は非常にリラックスして過ごしている。

覚悟は変わらない。

むしろ色んな人に会いながら、だんだんとやる気に満ちてきている。

 

……女神様のおかげなのかも。

朝、やたら頭がスッキリしていたし。

 

 

「……一生懸命やるだけ、ですから。」

「だ、だけって……。」

「相手は古龍。もしかしたら死ぬかも知れません。」

「…………。」

「でもまぁ、やるしかないなら、やってやりましょうという気持ちというか。約束なんです、ある人との。精一杯生きるって。……だからですかね。落ち着いてます。不思議と。」

 

 

女神様とはもう会えないけど。

約束は変わらない。

俺は、精一杯生き続ける。

死ぬまで。

 

 

「……ソウジさん、この席、覚えていますか?」

「え?」

「ここ……ソウジさんが初めてギルドに来た時の席なんですよ?」

「あぁ……。」

 

 

思い返す。

懐かしいなぁ。

……マジでなんにも知らなかったな、俺。

とりあえずモンスター倒したろ!ぐらいの気持ちだったっけ。

 

 

「……俺あの時、右も左もわからなかったです。」

「はい。それはもう、私が鮮明に覚えております。前代未聞でしたから。」

「うっ……。」

「ふふふっ……でも、予感したんですよ?」

「えっ?」

「この人を、ここで逃しちゃいけないって。絶対、大物になる気がするって。直感で、こう、感じたんです。」

「そ、そうだったんですね。」

 

 

記憶では、俺が何も知らないでくのぼうだと判明してからは、何かちょっぴり冷たかったように覚えているのだが……。

 

 

「それが今や、ギルドから古龍討伐を依頼されるまでになって。……私の目は正しかったんですね。」

「いや、倒せるか分かりませんけどーーー」

「ーーーた、倒します!」

 

 

ハイビスさんが、大きな声を出した。

当然その声はギルド中に響き、何があったのかと周囲の視線がこちらに集まる。

 

しかし、ハイビスさんは堂々と続けた。

 

 

「ソウジさんは、か、必ず!この大陸中に名を馳せるような、立派なハンターになるんです!」

「ハイビスさん。」

「わ、私が担当するソウジさんは、絶対に!」

「…………。」

 

 

冬山でも言われたこと。

思い出した。

この人は、いつでも俺を応援してくれる。

 

 

「で、ですから!」

「ハイビスさん。」

「は、はい!」

「ありがとうございます。嬉しいです。」

「あ……。」

「ハイビスさんがそうやって後押ししてくれるだけで……やる気が漲ってきましたよ。」

「…………いえ!お力になれたなら、私も嬉しいです。」

 

 

笑顔で応えるハイビスさん。

眩しいなぁ。

 

だけど。

 

 

「な、なので……その、大声は控えた方が……。」

「えっ?……あ……。」

 

 

自分でも気づかなかったのだろう。

大きな声を出してしまったことが今更恥ずかしくなったのか、ハイビスさんは顔を真っ赤にして俯いた。

 

あらら。

 

 

「す、すみません……。」

「…………ははははは!!」

「ちょ、ちょっ!ソウジさん!笑わないでくださいますか!?」

「す、すいません、つい。……ははははは!だ、ダメだ!」

「ソウジさん!……もぅっ!」

 

 

ハイビスさんの気持ちが嬉しくて。

抜けているハイビスさんはやっぱりいつも通りで。

 

つい笑ってしまった。

 

 

その後、キョドりまくったハイビスさんが自分のお菓子を床に散乱させ。

涙混じりで謝りながら、俺と掃除を行うという珍事が発生。

 

また俺が笑ってしまったものだから、ハイビスさんはすっかりむくれてしまった。

 

 

明日からは、長い道のり。

折を見て、謝ろう……。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

ギルドを後にした俺は、そのまま真っすぐ宿に帰った。

 

夕飯をとって、部屋でボーッとする。

日課のトレーニングも今日は軽め。

 

ショウコは「ご主人様がいなくなってから大変でしたよ!」と愚痴を言いながら、銭湯に向かっていった。

一体オスズに何をされたのか。

気になったが、聞かないことにした。

 

ちょっと嬉しそうだったし。

 

 

ベッドに腰掛け、すっかり暗くなった窓の外を見る。

向かいにある建物の明かりが灯った。

 

 

「………………。」

 

 

静かな時間。

しばらくは、こうやってゆっくりとワサドラで過ごすこともできなくなる。

外からは、野太い笑い声。

ガヤガヤとした喧騒、今日もそこかしこで飲み会が行われているのだろう。

 

こういう平和な夜を、いつまでも迎えられるように。

ハンターとして、俺は頑張りたい。

 

決意は固まっている。

だがまぁ……今はのんびりする……か……。

 

 

 

「…………!?」

 

 

 

衝撃が走った。

声にも出せず、ただただ驚く。

 

なぜなら、窓の枠、その下。

 

 

いきなり手が出てきたからである。

 

 

(えっ!?人!?)

 

 

思わず近寄ると、その手の持ち主が分かった。

……何てアホなことをしてるんだ、この人は。

 

 

「セツヒトさん……何してるんですか、そんなところで。」

「せっちゃんだってー……よーい……しょっと!!」

「うわ!!」

 

 

窓枠にかかった手はセツヒトさんであった。

窓を開けるなり、身軽にヒョイッと部屋の中に入ってくる。

 

 

「…………ここ、二階ですよ?」

「知ってるよー。だからジャンプしてきてみましたー。」

「何故そこまでして……。」

「んー……夜這いー?」

「ぶふぉ!!」

 

 

夜這いて。

こっそり侵入しようとする辺り、まぁ確かに泥棒か夜這いっぽいけども。

 

俺が思わず吹き出したものだから、セツヒトさんが顔を顰める。

 

 

「わー!きちゃなーい!冗談だよー。」

「分かりにくいですって!マジかと思いましたよ!」

「まぁでも半分は……そのつもり?」

「何故に疑問形!そして俺は貞操の危機!?」

「はははー、冗談だよー。……その、お話をしに、ねー?来たんだー。」

「は、はぁ……。」

 

 

備え付けの椅子に腰掛けたセツヒトさん。

俺はそのままベッドに座る。

 

 

「聞いたよー?明日から、行くってー?」

「あ、はい。そうなんです。……って、誰から聞いたんですか?」

「シガイアさーん。」

「あ、なるほど。」

 

 

相変わらず主語も間も抜けた話をするセツヒトさん。

付き合いも長いため、それなりに会話は成り立つけど。

 

 

「……しかもハイビスちゃんとかと一緒なんでしょー?」

「あ、そうです。何でも、ワサドラギルド側からも人間を出す、って言ってました。シガイアさんが。」

「へぇー……ふーーーん。」

「……な、何でしょうか。」

 

 

シガイアさんがセツヒトさんに伝えたということか。

すると、セツヒトさんが素っ頓狂なことを言い出した。

 

 

「……私は残るけどー……ソウジ、その、寂しいー?」

「へっ?」

 

 

寂しいって。

どういうこと?

 

 

「……そりゃ、まぁ。セツヒトさんとはしばらく会えなくなりますけど。」

「そーそー。だからー……さ、寂しいー?」

「……もしかして付いてきたい……とかですか?」

「な、何を言うのー?このセツヒトさんがー……そんなこと言うわけ無いでしょー?」

「は、はぁ。」

 

 

いや、だって。

あからさまにモジモジしてるし。

この人がモジモジとか、明日は雨か?

 

……ついてきたい……のかな。

 

 

「いや、危険な狩猟になりますし。」

「いやいやー、私だよー?この天下のセツヒトさんだよー?古龍なんて、ボッコボコにするってー。」

「…………。」

 

 

プロボクサーのシャドーボクシングのように、パンチを繰り出すセツヒトさん。

そりゃ、セツヒトさんが付いてこられるなら百人力だ。

 

だけど……。

 

 

「…………ふっ!」

「!!?」

 

 

ヒュン!!

 

 

セツヒトさんが繰り出す拳。

その隙間を縫うように。

 

俺はセツヒトさんの左肩にグーパンチをかました。

 

 

「っ……!!」

「…………やっぱり。ダメじゃないですか。」

「…………うー……ソウジにはわかるかー。」

「そりゃ分かりますよ。……見れば。」

 

 

俺が出した右拳。

剣の速度に比べれば何てこともない、子ども騙しのパンチ。

左手でそれをいなして、俺のがら空きの左半身に右を返せばそれでよし。

 

だが、セツヒトさんはできなかった。

返せなかった。

右手で左肩を庇い、防ぐような動き。

 

シャドーボクシングの様を見ていたらわかる。

明らかに、良くはない。

精細を欠いた、何かを気にしているフットワーク。

 

……先のラージャン戦で痛めた左腕は、良くなっていない。

そう判断して、試してみたけど。

 

 

「……俺を庇った、傷ですね。」

「うー……そうなんだけどー。で、でもねー?右手だって戦え―――」

「―――絶対に、ダメです。」

「…………。」

「俺の前で傷つくのは……もう、させたくない。」

 

 

心情として。

セツヒトさんが傷つく姿など、もう見たくもない。

 

それに、現実として。

俺の、力も入れていない簡単な攻撃をいなせないようなセツヒトさんは。

……多分、戦えない。

 

 

「…………うん……そうだよねー……。」

「…………。」

「いやー、流石に古龍はねー。ちょっちー……キツいか。」

「ちょっとではなく、キツイですよ。……というか、俺が気づいてなかったら付いてくるつもりだったんですか?」

「…………うん。」

「いや、それは―――」

「―――ソウジが、好きだから。」

「っ!!」

 

 

思わぬ返事。

ドキッとする。

 

 

「……ただ、それだけ。……ソウジ、目が、本気だから。」

「…………。」

「考えたくないんだよー?でもさー……そんな目をして、消えてった奴なんて、たくさん見てきてからさー……。」

「…………。」

「ふ、不安……なんだよー。うん。本当に……。」

 

 

……俺が言ったことだ。

セツヒトさんの想いに対して、応えた。

「大切な人を失う悲しみは、味わいたくない」と。

 

でも。

今セツヒトさんは、そういう感情にとらわれているわけで。

だから。

 

 

「ついていって、少しでも、ソウジが生きていられるならさー……そりゃー、い、行きたいよねー。」

「…………セツヒトさん。」

「…………。」

 

 

セツヒトさんの想いは、とても良くわかる。

俺のことを、好きだと言ってくれた。

何てありがたいことだろう。

 

……返答は、もちろん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダメです。」

「えーーー!?なんでよーー!!」

「いや、当たり前ですよ!怪我したままの人を連れて行くとか、頭おかしいやつですって!」

「で、でもさー!ここは『わかりました、愛しの人よー!』とか言って抱きしめるとこでしょー!?」

「それはもっと頭おかしいですよ!!」

 

 

連れて行けるわけ無い。

アホか。

 

 

「その、セツヒトさん……だ、大事だからこそですね、連れて行くわけにはいきません。」

「う…………。」

「俺、絶対に帰ってきます。……約束します。だから、無理はしないで下さい。」

「…………む、むー。」

「…………。」

「…………わ、わかったよー……もぅ。」

 

 

ようやく折れるセツヒトさん。

説得……できたのか?

 

 

「……もー!ソウジー!ロマンのかけらもないよねー!」

「いや、めっちゃ現実考えなきゃいけない場面ですよね!?」

「それはわかるけどさー?こー、なんていうのー?ほら、ロマンティックにー?」

「……はいはい。」

「あー!!適当になってきた!!さいてー!!」

 

 

ギャーギャー言われても。

お互い様だけど、俺はセツヒトさんの死なんて見たくもない。

そりゃ、そっちもだろうけど。

 

何が何でも、現実を見させてもらう。

 

 

「……絶対に、帰ります。俺。絶対に。」

「…………約束、だよー?」

「…………はい。」

「…………ま、まぁ?よーし。」

 

 

良しとか何とか言うけども。

……変な所でガンコなセツヒトさんが折れたのは、やっぱり自分の状態を分かっているからだろう。

 

この人は超の付く実力者なわけで。

自分の状態なんて、とっくのとうに分かりきっていたはずだ。

 

 

「……腕、相当悪いんですよね?」

「…………ま。まぁ、ねー。」

「やっぱり……。」

 

 

俺をかばってできた傷。

あの獄狼竜を相手にしてできた古傷をえぐったわけだ。

未だに痛むのは、仕方がないし、何よりも申し訳ない。

 

 

「…………。」

「…………。」

 

 

静寂。

お互いに黙り込む。

聞こえるのは、外の喧騒。連日のお祭り騒ぎは今夜も続いている。

 

なのに、俺とセツヒトさんは静かなまま。

変な時間が流れる。

 

 

……な、何か、お互いにお互いを思いやっていたからだろうか……ちょっと気恥ずかしい……。

 

 

「ま、まぁさー。」

「……はい。」

 

 

そんな間を嫌ってか、セツヒトさんが静寂を破った。

 

 

「ソウジのためにできた傷なら……まぁ、いいよねー。」

「っ!!」

「……お?今のは効いたー?」

「効いてません。」

「嘘だよー、ソウジ顔赤いもーん。」

「赤くありません!!」

 

 

嘘である。

……今のは効いた。

 

今日はなんだか妙にしおらしいから……ギャップにやられ気味だったところを、突然のストレート。

 

ちくしょう。

顔が熱い。

 

 

「と、とにかくですね……その、ご心配は嬉しいです。でも、負けるつもりなんか毛頭ないです。」

「……うん。」

「あちらにも屈強な方々がいるという話ですし、俺一人でやるわけでも無さそうですし。……何とかお力添えをして、古龍を討伐します。」

「えー。そこは『俺一人に任せとけ!!』とか言うところだよー?」

「アホですか。言えませんよ。」

 

 

それこそ、セツヒトさんクラスの猛者だっているかもわからない。

いや、知らんけど。

 

 

「……ソウジレベルの奴なんて、そうそういないと思うよー?」

「いや、いますよ。セツヒトさんとか教官とか……。」

「私らクラスがゴロゴロいたらー……そんなにこの業界、大変じゃないってー。」

「…………そ、それはそうですけど。」

 

 

確かに……教官が10人とかいるんだったら、この世界にモンスターはいなそうではある。

 

教官10人……。

想像してしまった……暑苦しい。

 

 

そんな苦々しい顔をした俺を、セツヒトさんが下から覗き込んできた。

長い銀髪が、横に垂れている。

 

 

「……ソウジー?」

「はい?」

「…………約束、だよー?」

「…………はいっ。」

「あーでもー……約束しすぎると帰って来られないかもー……。」

「どないやねん。」

 

 

今更である。

死亡フラグってやつか?

そんなもの、今日はもう立ちまくりである。

 

今日は色んな人と話をしまくったわけで。

 

 

後ろに手を組んだセツヒトさんが、なんか急にモジモジしだした。

珍しい姿を、今日はよく見る日である。

 

 

「…………じゃ、じゃあさー。」

「は、はい。」

「約束ついでにキスなんてー……。」

「しません。」

「えーーーーー!」

「だってもうそれ完全に死ぬやつですよ!?」

「もういいじゃーん!むしろ今しかないじゃーん!!」

「殺す気満々!?」

 

 

その後、子どもが駄々を捏ねるかのように喚くセツヒトさんをなだめつつ、丁重にお帰りいただいた。

ちゃんと宿の入口から。

「いくじなし。」とかなんとか言われたが、それはそれ、これはこれである。

 

……これを眺めているのか知らんが、神さんたちは今頃「ソウジる」とか言ってるんだろう。

 

…………。

 

……知るかボケぇ!!

こちとら死ぬか生きるか瀬戸際なんじゃぁ!!

 

と、開き直ることにした。

ヘタレ、ここに極まれり、である。

 

 

 

更に、この一部始終はショウコにバッチリ聞かれていた。

「ご主人様はやっぱり鬼畜や……。」とかなんとか言っていた。

 

ガン無視だガン無視。

 

 

 

そのまま、俺は不貞寝。

 

 

……何とも落ち着かない、出立前夜となった。 

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