161話、投下します。
ザキミーユシティのハンターズギルド。
その西支部ギルドマスターは、ハスガさんだった。
以前、セツヒトさんから聞いた話。
伝説のハンターチーム、「カホ・チータ」。
討伐歴、その個体数、難易度の高さ、全てにおいてトップクラス。
だが、メンバーが亡くなり、解散。
今なお、熱烈なファンは多いらしい。
「鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるな……大丈夫か?」
「あ!い、いや!大丈夫です!」
「そ、そうか?……なぁミヤコ、俺ってそんなに怖いか?」
「私は別に?頭がきれいだなぁと思ったことはあるけど。」
「……お前が俺のこと怖くないってことは、よくわかったわ。」
急な紹介を受けたため、かなり驚いてしまった。
しかしこの人がなぁ。
話だけは聞いていた有名人に会えた様な感覚。
この世界、テレビなどは無いため、顔は知らなかった。
そんなハスガさんと軽口を叩き続けるミヤコさん。
仲良さげである。多分。
「功績とか何とか言われるがな。俺はただの力持ち、脳筋ってやつだ。器用なことは向いてねえ。そういうのは他の奴に任せてた。」
「は、はぁ。」
いや、脳筋と言われる人がギルドマスターなんて大役を任されるなんて、無いと思うのだが。
確かこの人は「カホ・チータ」でもリーダーをやっていた。
マショルク教官を含めた個性的なメンツを束ねていたわけだ。
おそらくリーダーシップとか頼り甲斐とか、そういう部分を買われたのではないかと推測できる。
……しかしハイビスさんはずっと直立不動だな。
すごい人なんだろうな、というのか伝わってくる。
ひしひしと。
「……じゃあ、そろそろ話の本題といくか。」
そう言うと俺たちを椅子に案内したハスガさん。
それに従って、席につく。
対面にはハスガさんとミヤコさん。
俺を真ん中にしてハイビスさんとショウコが座る。
……ショウコは小さくて足がつかないからか、どこか手持ち無沙汰な様子。
足持ち無沙汰?なんて言えばいいんだこれ。
「あぁ、楽にしてくれ、ショウコ……だったか?」
「は、はい……。」
そう言われて、ショウコは椅子の上に正座し始めた。
そっちの方が辛いと思うのだが……まぁいいか。
「さて、現状を伝える前に、だ。ソウジ。」
「はい。」
「どこまで知ってるか、教えてくれ。」
「ええと、どこまで、というのは……シャガルマガラについてですよね?」
「あぁ、そうだ。……まずは黒蝕竜ゴア・マガラを屠った。そしてワサドラのギルドが天廻龍シャガルマガラの復活を確認。そこまではいいな?」
「あ、はい。」
ハイビスさんやショウコはやたらと緊張しているようだが、俺としてはスキンヘッドの怖い人には慣れているからか、そうでもない。
イシザキさんにザシューさんに……厳つい人ばっかりである。
怖いというよりは、どちらかというと強そうで……というか実際に強くて、気圧されている。
そういう表現の方が合っている。
「ええと……。」
俺は、一応知っていることを話すことにした。
とは言っても、大して知っていることなんて無いんだけど。
「シャガルマガラが……首都の西方の禁足地?というところに向かった、と。その西方には、ザキミーユのハンターたちが多く派遣されているということも聞いています。」
「あぁ。そのとおりだ。他には?」
「いや、知らないです。むしろ、教えてほしいというか。」
「分かった。じゃあ現状だが……。」
少しの間を置くハスガさん。
「……既に何名か、重体だ。」
「…………。」
「……あんまり驚かねぇな。」
「い、いえ。ワサドラも、死者が出たので。」
「そうか……死因は?」
「……ハイビスさん。」
「……お伝えしてよろしいかと思います。シャガルマガラが同様の生態かどうか、確認が必要です。」
「…………はい。」
そこから、ゴア・マガラと戦って亡くなってしまったハンターたちの話をした。
狩猟途中で狂竜症にかかり、動けなくなったところで引き裂かれた。
無惨な姿であったことまで、覚えていること聞いたことは全てを伝えた。
話をしながら横を見ると、ハイビスさんもショウコも険しい顔をしている。
……凄惨だったもんな。
話を終えると、同じような顔をしたハスガさんが口を開いた。
「……そうか。……こっちの重体の奴らも、似たような感じだ。」
「シャガルマガラと戦って―――。」
「いや……アイツと面と向かってやられたわけじゃねえ。」
「えっ。」
「凶暴化したモンスター。種類で言えば、いつも倒しているような相手だ。そいつらに、敵わなかった。」
「…………。」
ということは、つまり。
「シャガルマガラと相対しては、いないということですよね。」
「ああ。観測班が数日前から禁足地の頂上にいるのを確認している。だが、その周辺のモンスターの対処に手間取っているのが現状だ。」
「…………。」
「相当な数のハンターを集めたが、それでも足りん。俺も出ようかと考えているが……根本的な解決をしねぇと話にならん。」
真剣な顔で淡々と話すハスガさん。
やはりこの人も未だ現役、教官と同じく前線に立てるということか。
戦うギルドマスター……すごいな、この人。
しかし、根本的な解決とは。
つまりは、シャガルマガラ、元凶を倒すということだ。
「中央は俺を前線に出したくは無いみたいだがな。」
「万が一にも亡くなったら、ハンター全体の士気に関わるからよ。」
「もうそんな事言ってられる状況じゃねぇぞ?……それで、ソウジ。ショウコ。」
唐突に名前を呼ばれ、ショウコがビクッと反応する。
緊張はまだ解れない様子。
「お前達には、西支部の精鋭チームの後ろにくっ付いて貰う。」
「援護をする、ということですか?」
「いや、逆だ。他チームが援護、俺たちは本隊ってところか。」
すっかりハンターの一人として自分を数に入れているハスガさん。
いいのか?
「強力な大型がわんさかいやがる。イャンクックでさえ、下位のハンターじゃ手も足もでねぇ程だ。そいつらは俺ら側で倒す。ソウジは体力を温存。お前はどうやら狂竜症を克服している。」
「…………。」
「頂上に辿り着いたら、俺とソウジ、ショウコでいっぺんに叩く。ショウコはサポート。俺は援護。メインはソウジ。霧の影響はやべぇだろうが……俺が死んだらそれまでだ。捨て置け。」
それはつまり。
周囲のハンターたちを放っておいてでも、シャガルマガラを倒す方を優先しろ、ということか?
道中、ハンズさんを含めたそのハンターたちに頼りながら。
簡単に、自分が犠牲になることを提案するハスガさん。
本気……なんだろうな。
「異論はあるか?」
「……いえ、無いです。」
「そうか。……わかった。」
思うところはいっぱいある。
だが、精鋭と表現する以上は、かなりの手練れがいるんだろう。
「出発は明朝にする。旅の疲れはあるだろうが、これ以上引き伸ばせばどうなるか分からん。」
「いえ、大丈夫です。ショウコも、いけるか?」
「……はいっ。」
淡々と進んた話し合い。
恐らくは、既定事項だったのだろう。
既に怪我人も出ているし、打つ手は限られる。
「さて……めんどくせぇ書類が山程ある。今日のところはこの辺で終いだ。明日から、よろしく頼む。」
「はい。」
「……私からも一ついい?」
「ん?何だ?」
ミヤコさんが話に割り込んできた。
いつもの表情とは違う、仕事の顔。
「……先のラージャン戦。ハスガは、何か知ってる?」
「あれか?ソウジが狙われて……セツヒトが怪我したっていう。」
「そう。話は聞いてるみたいね。」
「言っとくが、俺は関与してねぇぞ?むしろ手を出すなって言ったのは、お前ら中央の方じゃねえか。」
「それが私にもわからないのよ。お偉方にそれとなく質問しても、みんなそんな回答。……絶対に黒幕がいるのよね。」
「……俺が探りを入れてもいいが……。」
「あーダメダメ。あなたはそっち側でどっしり構えていて。私がやるわ。」
「あぁ、助かる。そういうのは、シガイアさんとかあのいけすかねぇ農家の娘の領分だからな。」
何かよくわからん話を始めた二人。
聞くに、セツヒトさんが怪我をしたときの話だと思うんだが。
黒幕……。
「……セツヒトさんが、俺をかばって怪我をした。俺は、その犯人が知りたいです。」
「ソウジくん。」
「すみませんミヤコさん。その辺、首を突っ込むのはどうかと思ったんですけど。……ハスガさん。中央にいる以上は、俺たちの安全は確保してもらいたい。」
「……もちろんだ。少なくとも西にいる内は安心しな。お前たちには手出しはさせん。」
「本当ですか?正直俺、中央は信用してないんですけど。」
「そりゃ、当たり前だわな。自分の命狙ってきたような奴を信用するなんて、どうかしている。……まぁゴア・マガラやティガレックスをソロでやっちまうような奴に手を出す方法なんて限られる。飯はこっちで用意する、周辺警護も完璧にやる。だからソウジ、心配するな。」
「……ありがとうございます。」
万が一の状況、ショウコは自分で何とかなるかも知れないが、こっちにはハイビスさんがいるのだ。
身の安全を保証してもらわねば。
「じゃあな。宿は、ギルドの施設を使ってくれ。すぐ隣にハンター用のところがある。」
そうぶっきらぼうに言うと、ハスガさんは事務机にどっしりと座り、書類とにらめっこを始めた。
巨体ゆえ、その紙も手に持つペンも、やたらと小さく見えた。
邪魔しないように、俺たちは静かに部屋を出ていくことにした。
* * * * * *
「さて!私は中央に顔を出してくるわね!」
「色々と、ありがとうございました。」
「いいのよー、ていうか無茶言ってるのこっちだしね。反乱分子みたいなのがいたら、ハスガの下の子たちが黙ってないと思うわよ?西も北も南も、みーんな中央嫌いだからね。」
「……あんまりザキミーユって仲良くないんですね。」
「そうなのよ……お陰で折衝役の私はてんてこ舞いなの……はぁぁぁ……あぁ、いけないいけない!そしたらね!また明日、見送りに来るわ!」
「はい。」
「ショウコちゃんも頑張ってね!応援するから!」
「はいっ!ありがとうございます!」
「ふふっ……ハイビスさんも、良かったわね?」
「えっ!?わ、私、なにかいいことありましたか?」
すっかり緊張もほぐれ、宿の部屋でリラックスムードの俺たち。
人心地つくと、ミヤコさんが仕事に戻ると言い出した。
ハイビスさんはミヤコさんに「良かったわね」と言われて、戸惑っている様子。
なんのことだ?
「だって、あの顔の怖いハスガにメンチ切って『俺たちの安全を保証しろ』って言うなんて。……かっこよかったわよ?ソウジくん?」
「あ……。」
「……ハイビスさんを心配したんでしょう?やるわね。」
「い、いや、まぁ、そうですけど……。」
「ふふ。……それじゃあね!」
バタン!
嵐のように去っていくミヤコさん。
取り残された俺たち。
ハイビスさんは顔を赤くして、俺の方をチラチラと見てくる。
な、なんか恥ずいぞ。
「ソウジさん。」
「あ、はい。」
「……ご、ごめんなさい!私、やっぱりお荷物かもしれません……。」
「い、いやいやいや!何言うんですか!首都の案内とかその辺、めちゃくちゃ助かりますって!!」
「……ありがとうございます。ソウジさんとショウコちゃんに守られているって思うと、嬉しい反面、こう、申し訳無くて。」
そんなことはない。
こちらの地理に詳しいハイビスさんがいなければ、やっぱり不安である。
ミヤコさんもいるけど、あの人も中央に行ったり来たりだろうと踏んでいたし。
そういった意味で、頼れる人間がいるのは大変ありがたいのだ。
「気に病むことではないです。ハイビスさんは、いてくれるだけで力になるんです。」
「…………。」
「それに、首都に詳しいっていうか、地元の方じゃないですか。頼もしいし、ありがたいです。」
「ソウジさん……。」
顔がポーッと赤いハイビスさん。
美人さんがこういう顔をするのは、反則的である。
それにどこか目が潤んでいるような。
「ご主人様……天然ジゴロもええ加減にせんと、あきませんよ?」
「て、てんね……俺は本音を言ってるだけだぞ。大事なことだからな。」
「ですよねぇ、流石ですホンマ。……でも、ウチらのことを気い使って、ハスガさんにああして言ってくれて、カッコよかったですよ?」
「お、おぉ。」
そう言うと、ショウコは部屋の出口に歩きだした。
「ウチ、ちょっとギルド行って、情報集めてきますね。どんだけヤバいモンスターが湧いとるのか、見てきます!」
「あ、あぁ。頼んだ。」
「はいっ!……ハイビスさん!」
「は、はい!?」
「…………(グッ!!)」
「…………うん、りょ、了解!」
「……では!」
ガチャ。
ショウコも部屋を出ていってしまった。
……最後のサムズアップは何だ。
ハイビスさんもやたらと張り切って返事をした。
「そ、ソウジさん!!!」
「うわっ!はい!」
ショウコの謎の行動の理由について俺が考えを巡らせていると、ハイビスさんが急にでかい声を上げた。
びっくりした……。
「あ、す、すいません……驚かせて……。」
「あ、いや。こちらこそ。……なんでしょうか。」
「……ええと……。」
スッ。
立ち上がったハイビスさんは、ゆっくりと俺に近づくと、隣に座った。
俺は自分のベッドに腰掛けていたため、並んで座っている形。
……あれ、そういえば……部屋ってこの一つしかないのか!?
おう、いかん。早急にハスガさんに言って、もう一つ部屋を押さえてもらわねば!!
「……道中、ショウコちゃんに言われまして……。」
「な、何をでしょう。」
俺が邪なアレコレを考え出すのと同じタイミングで話し出したハイビスさん。
すいません。
「……せ、セツヒトさんもショウコちゃんも、ソウジさんにちゃんと想いをお伝えしたのに、わ、私はいいのか、と……。」
「そ、それはーーー」
「わ、私は!わ、私も!!も、もうお気づきのことかとは思いますが!!!」
「…………。」
「お、お慕い申し上げて……おり、り、ます……。」
言いながら、真っ赤な顔を俯かせるハイビスさん。
花がしおれるように、徐々に小さくなっていった。
「……ショウコちゃんは……私とソウジさん、二人の時間を必ず作るから、と言ってくれて。……本当にあの子、優しい子ですよね。」
「そ、そうですね。」
「『ウチ、ご主人様もハイビスさんも好きやから!』って……ふふっ、敵いませんよ。ショウコちゃん。」
「ショウコがそんな事を……。」
「……本当に、いいオトモと契約できましたね、ソウジさん。中々居ませんよ?あんな献身的な子!」
「……はい。もちろんです。アイツは、俺の最強の相棒ですよ。」
命まで救われた、唯一無二の存在。
恋愛感情とかは置いといても、それはいつまでも変わらない。
「……でも、振ったんですよね?」
「……はい。」
「『今はまだ考えられない』って。セツヒトさんにも。」
「……はい……。」
内情を全てを把握してらっしゃる……。
女性のネットワークってやつか……恐ろしい……。
まぁ多分、本人達が普通に話したんだろうけど。
「ソウジさん。私は覚悟してます。」
「…………覚悟、ですか?」
「はい。……私は、ソウジさんの専属担当受付嬢です。ショウコちゃんがずっと相棒のオトモさんなら、私はずっと、あなたの専属の受付嬢さんです。」
「…………。」
「…………ソウジさんのお気持ちは、もう決まってらっしゃるんじゃないですか?」
「……そう、ですね。」
「…………ふふふ。やっぱり。当たりですね。」
ハイビスさんもショウコも、こんなにも俺のことを想ってくれているのに。
俺は今、なぜあの人の事を考えている。
……好きだから、だ。
うん。ストンと来た。
「……今回の戦いは、ソウジさんが命を賭すものになります。」
「はい。」
「ソウジさんのことですから、ショウコちゃんは何としてでも生かして返そうと思ってるんでしょう?」
「……そりゃ、そうです。」
「ご覚悟が決まってらっしゃるのは……見てわかります。……ですけど!!」
そう言うと、ハイビスさんはこちらに振り向いて、俺の手をぐっと握ってきた。
力強い目、長いまつげ。
こんなにも美人を目の前にして、嫌が応にもドキドキする。
「……ソウジさんにとっては、ここは通過点なんです!」
「つ、通過点?」
「はい!だめです!あんなモンスターに気圧されちゃ!……帰りを待つ人が、大勢います!みんな、ソウジさんを信じています!だから……。」
「…………。」
「…………絶対に!帰ってきてください!!古龍が何ですか!私の信じたハンターさんは、そんなもんじゃありませんよ!……絶対に。約束です!」
「…………。」
そんなことを言われ。
俺は、教官の教えをふと思い出す。
『……死なないことだ!命があれば、また戦える!例え無様でも卑怯でもいい!生きて帰るんだ!それが最も、ハンターとして大切な資質だ!』
『……サーイエッサー!』
…………。
忘れていたわけではない。
ただ、相手が相手だけに、その教えは頭の隅にしまっておいた。
あれは別格だ。
俺は、倒さなければ。命を賭してでも。刺し違えてでも。
……そう思っていたけど。
さすがハイビスさんだ。
いつも、俺のことを見てくれていた受付嬢として。
俺の意識を、叩き起こしてくれる。
鬱屈した気持ちが。
どこかマイナス方向に向かっていた思いが、やる気に変わる。
変えてくれた。
ハイビスさんが。
「…………はい。もちろんです。……絶対に、生きて帰ります。」
「…………そうです。その目、お待ちしていました。」
「……ははは。ありがたいです。冬山でも、こういうことがありました。」
「……?」
「ゴシャハギさ……雪鬼獣を倒したとき、周りがみんな褒めてくれる中……ハイビスさんだけ叱咤激励してくれたんです。……あのとき、とても嬉しかった。」
「あ、あの時……。」
覚えてくれていたか。
俺はあの時、ハイビスさんの言葉にかなり救われた。
「ちゃんと見てくれている人がいる。励ましてくれる人がいるって。俺は、これからも強くなるって。そう、思えたんです。……ハイビスさん。」
「……はい。」
「やってきますよ。シャガルマガラ。倒して、帰ってきます。絶対に。」
「…………ええ、はい!」
未来のことなんて、古龍討伐なんて……無謀な約束なんてできないけど。
無謀ではない。
俺は頑張ってきた。
自信をもって。
倒してやろう。
天廻龍、シャガルマガラを。
そう改めて、新たな気持ちで決意できた。
「……はぁぁ、私、結構本気だったんですけどねぇ……。」
「…………?」
「ソウジさんのことです。」
「あ、あぁ……。」
何て返せばいいか分からない。
言葉に詰まる。
「でも……セツヒトさんに想いがあるのはもう見てれば分かりますから。……がんばってくださいね、色々と!」
「…………はい。」
それなのに、応援してくれるというのだ。
どんだけ甲斐甲斐しいんだこの人は。
俺の周りには、優しい人が溢れている。
そう、実感した。
「あ……その、部屋をもう一つ取らないとですね。」
「あ、そうですね。でも……私はこのままでもいいんですよ?」
「い、いやいやいや!そういうわけには!」
「ふふ……何だかセツヒトさんの気持ちがわかってきました!ソウジさんをいじるの、面白いですね。」
「は、ハイビスさん……。」
「冗談です!……さて、じゃあ私、ギルドの方に行って、お部屋の方お願いしてみますね。」
「は、はい……。」
スタスタスタ……。
ガチャ。
部屋を出ていくハイビスさん。
…………こうも想われているのに、俺は応えられない。
何だか、罪悪感で一杯だけど。
取り繕うのは違う。
それは、失礼な話。
俺は俺で、精一杯やるだけだ。
励ましてくれた。
こんな男を。
…………よし。
「…………武具の点検と、アイテムの確認をするか。」
今できることなんて限られているけど。
やれることをやろう。
俺はそう決めて、ポーチに触れた。
…………。
余談だが。
部屋は、ハスガさんが結局2つ用意してくれた。
「す、すまん。すっかりソウジの恋人なんだと思ってよ……。いや、邪推して申し訳ねぇ。」
「い、いやいや!大丈夫ですよ!」
ハスガさんがわざわざ部屋まで来て、頭を下げられた。
顔が真っ赤なハイビスさんを連れて。
恐らくは「恋人」の部分に反応したのだろう。
俺が行けばよかった……。
そうして俺達は、慌ただしくもザキミーユの到着初日を終えたのだった。