モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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162禁足地に向かいましょう。

ギルド横の宿は、結構いいところであった。

高級ホテルと言えば良いのか、どう見ても来賓用。

こんな部屋を2つも取ってもらって、大変ありがたい限りである。

 

夕飯も部屋に用意してもらえたため、外に出かける必要もなかった。

用心すべき身としては、こちらも大変ありがたかった。

 

当たり前だが、部屋割りはショウコとハイビスさんで一部屋。俺とおじさんで一部屋。

「お、俺もいいのか?こんないい宿を……。」とおじさんは戸惑っていたが、俺としてはおじさんがいると心休まる。

寧ろ俺からお願いした。

 

ベッドに寝転んでからは、おじさんとだべった。

 

 

「落ち着かねえよ……ソウジさん。こんないいところ、ありがとうなぁ。」

「いやいやおじさん。長い日数移動疲れもあるでしょうし。それに、部屋を用意してくれたのは俺じゃなくてギルドなんで。」

「いや、御者仲間のツテで聞いた宿は満室でよ。もうこのまま荷台で寝ようかと思っていたら急にギルドに呼び出されて……いや、助かった。」

「そんな、早く言ってくださいよ。」

「これからすんげぇモンスター狩るってのに、迷惑はかけらんねぇよ。」

 

 

おじさんはこういう人である。

豪快に見えて、気配りの人。

こういう人こそ、職場の上司になってほしいものだ。

 

きっとそこは、働きやすいところになると思う。

 

 

「俺とおじさんの仲じゃないですか。おじさんが見つかって良かったです、本当に。」

「……おぅ!ありがとよ!ソウジさん!」

「はい。とんでもないです。」

 

 

おじさんは俺の狩猟の数々を支えてくれた一人だ。

仲間と言っても過言ではない。

 

 

「……ソウジさん。」

「はい。」

「……がんばってな。俺は運ぶことしかできねぇが……応援してるぜ。」

「……はい!一緒に、頑張りましょう!」

 

 

元気が湧いてくる、そんな励ましをもらった。

 

俺とおじさんは、そのままウトウトと話しながら寝た。

いよいよ明日は、狩猟だ。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

コンコン。

 

 

 

「ソウジさん……起きてらっしゃいますか?」

「ん……は、はい!!」

 

 

眠っていた体を、頑張って起こす。

この声はハイビスさん。

 

 

「…………ど、どうかしましたか!?」

 

 

時刻は明け方。夜は明けきっていない、そんな時分。

 

同室のおじさんは爆睡していた為、起こしたら申し訳ないと思いつつもドアを開ける。

何かあったのだろうか。

 

 

ガチャ。

 

 

「す、すみません、こんな早くに。」

「いえ、大丈夫ですよ。その、ご要件は。」

 

 

こんな朝早く、ハイビスさんの格好はすでにバッチリと受付嬢の制服。

きちんと髪もまとめられて……いや、少し寝癖を発見。

 

かなりの急ぎだな。

 

 

「実は、先程部屋にギルドの方がいらして……ソウジさんをなるべく早く呼んでほしい、と。」

「あ、わ、分かりました。すぐに行きます……でも何でハイビスさんが?」

 

 

急用なら、俺に直接いえば良いのに。

 

 

「そ、その……ソウジさんにはゆっくり休んでもらいたくて……な、何かあった時は専属受付嬢の私にお知らせくださいと昨晩……。」

「あ、な、なるほど……?」

 

 

ハイビスさん、俺にかなり気を配ってくれている。

昨晩、何かギルドに人と話していると思ったら、そういうことだったのか。

 

……やっていることが完全に秘書とかマネージャーである。

いや、ありがたい限りなのだが。

 

 

「ショウコちゃんは、既に準備中です。ソウジさんも、お早く。」

「は、はい。」

 

 

とにかく急ぐことにした。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

「簡潔に言う。多数のモンスターが首都方面に向かって来ている。」

「なっ……。」

「観測班との連絡が遅れた。夜中に動き出すとは……すまねぇ。」

 

 

通されたギルドマスターの部屋。

厳つい顔を更に強張らせたハスガさんが迎えてくれて、事情の説明を始めた。

 

一応の装備は、俺とショウコとも整えてきた。

昨夜、確認していて良かった。

 

 

「想定はしていた。現地のハンターたちで対応しているが……ここに来て、禁足地周辺の霧が更に濃くなってきているらしい。」

「それが、原因ですか?」

「まぁ、そうとしか考えられねぇな。とんでもない範囲らしい。」

「…………ウチらも、急がんと。」

「ああ、ショウコ。これ以上は引き延ばせねぇ。……急いで発って、大元を叩く。いいか?」

「はい、承知しま―――」

 

 

コンコン。

 

 

「失礼します。お話のところ、すみません。」

「おぅ、どうした?」

 

 

話を素早くまとめ、狩猟に急いで向かおうかという時。

部屋に、ギルド職員と思しき女性がやってきた。

 

 

少しデザインの違う制服。

スカート長めなんだな。

 

 

 

「ギルドマスター、実は……。」

「あぁ、いい。全員に聞かせてくれ。関係者だ。」

「あ、し、失礼しました。……モンスターの移動に妙なところが見られまして。」

「妙なところ?」

「はい。確かに西からの移動ではあるのですが……多少の南下が見られます。」

「南下……予測は?」

 

 

ザキミーユシティから西にある禁足地。

そこまでの行程、俺と教官がラージャンを倒した森林地帯の南には、山地が広がっている。

地理的には大して高い山ではない。

 

 

「ザキミーユ北東の山地から、強力な個体が出現した可能性があります。」

「……なるほど、な。観測班は?」

「原因は追求中ですが……その、山地帯に確認できた大型に一つ、珍しいモンスターがいた、と。」

「もったいぶるな。教えろ。」

「はい。……雷狼竜、ジンオウガです。」

「ジンオウガ……。」

 

 

雷狼竜ジンオウガ。

俺がショウコと移動集落周辺で討伐したモンスター。

素早さ、攻撃の多彩さ、力強さ。

そのバランスの良さに、結構苦戦したが……。

 

 

「…………嫌な予感がするな。観測を怠るな。異変があったときは、すぐに知らせてくれ。」

「は、はい。そのように。……失礼します。」

 

 

バタン。

 

 

そそくさと去る女性。

ドアを閉めた途端、駆け足で戻る足音が聞こえた。

 

こんな朝早くから対応に追われているのだろう。

 

 

「……ソウジ。」

「はい。」

「……お前はどう思う?」

「…………。」

 

 

どう思う、と聞かれて。

少し考える。

 

 

まず、モンスターの移動。

これはシガイアさんやセツヒトさん、教官たちからも色々聞いてきたため、わかる。

スタンピード、というやつだろう。

 

強力な個体、シャガルマガラの出現。

それによる、モンスター達の縄張りの大きな変化。

弱肉強食の世界に生きる彼らにとって、敵わないほどの強力な敵からは逃れるしかなく。

且つ、生きていくために、新しい地に活路を求める。

 

そういう現象。

 

それが首都近辺、人の多く住む地域にまで及べば、大変なことになる。

 

だが、もう一つの情報。

移動のおかしさ。

西方から来ていたモンスターが南下……北部に強力な個体がいると仮定して……。

 

 

「…………確証は全く無いですけど。」

「いい。考えを教えてほしい。」

 

 

ハスガさんの顔が、真剣味を増す。

俺の言葉を信頼してもらえるのかは分からないが。

 

まぁ、言ってみるか。

 

 

「……モンスター達の移動の原因が、まずはシャガルマガラだとして、ですね。」

「あぁ。」

「アイツらからしたら、古龍は最強種。逃げるしかない。でも、生きてきた地を逃げるのは、相当な決断です。縄張りを変えるというのは、簡単なことではない。それこそ命がけです。」

「…………。」

「そして、先程の話。俺も倒しましたからわかりますが……ジンオウガは強いです。でも、ゴア・マガラやラージャンほどの理不尽な強さは感じなかった。」

「…………あぁ。」

「…………ジンオウガ相手に、大型モンスターたちが経路をかえるほど逃げることは、あまりないんじゃないかと思います。」

「…………。」

 

 

結論が遠回しになったが、俺の考えは。

 

 

「シャガルマガラや、そういう恐ろしいほどの強さを誇る個体が……山地から出現したんじゃないんでしょうか。」

「…………。」

「ジンオウガは強いですが、他の大型だって必死だ。何だったら、移動しているモンスターには狂竜化して獰猛な個体だっているはずです。……それらさえも逃げ出すって……ヤバいんじゃないかな、と。」

「…………。」

 

 

黙りながらも、表情は重苦しくなり思案するハスガさん。

そりゃそうだ。ここに来て違う問題が噴出しているかもしれなんだから。

 

 

俺の話は単なる推測に過ぎない。

 

だが、モンスターは自然の中で生きる存在。

散々ファンタジーを経験してきた俺だが、この世界のモンスターたちに共通していたこと。

それは、生態に関しては、その自然に対してかなり順応して生きていることだ。

 

極端な話、ザボアザギルが氷の無い草原に出るわけが無いし、乾燥した場所にオロミドロが出るなんてことも、まぁない。

わざと追い込めばいけるかもしれんけど。

 

モンスター自身が変に動くのだって、理由があるはずだ。

 

単に、生き物として。

素直に、何か理由があっての行動と考えるべき。

 

 

この推測は、多分そこまで大きく間違ってはいない……と思う。

 

 

「…………悪い予感が拭えねえな。」

 

 

ゴツい頭をでかい手でボリボリと掻きながら、ハスガさんが話し出す。

 

 

「……すまねぇ、前言撤回だ。……ソウジの推測を信じたい。……直感もかなり入っているが、山地帯から嫌な感じがする。」

「いや、完全に素人判断ですけど……。」

「うーんとな……何だかな、ソウジからは……こう、その辺の奴とは違う感じが伝わるんだよな……達観してるっつうか、若く見えねぇんだ。」

「あ、あー……そ、そうですかね。」

 

 

思い出す。

教官やシガイアさんたちにカミングアウトした時のことを。

あの人達が俺のギフトなんかに気づいたのも、俺自身の在り方の歪さに違和感を持ったからだ。

 

ハスガさんも、あのレベルの強者と言えるわけで。

 

まぁ話すことは無いが。

 

 

ふと横を見ると、ハイビスさんもショウコもハスガさんの話をスルーしている様子。

…………いや、二人とも誤魔化しきれてないな…………。

 

表情が硬すぎる。

 

 

「……勘の域は出ねぇ。だが、俺はソウジの説を推したい。ハイビスさんはどうだ?」

「えっ?わ、私ですか!?」

「あぁ。シガイアさんの元で鍛えられてきたんだろ?意見を聞きたい。」

「そ、そうですね……。」

 

 

俺の出自をなんとか誤魔化そうと、能面を頑張って保っていたハイビスさん。

だが、この人そこまで腹芸が得意な方ではない。

ハスガさんに気圧されてしまった様子。

 

 

しかし、少しの間を開けてハイビスさんが話し始めた。

顔つきは、いつもの仕事モード。

 

このギャップこそ、この人の持ち味だ。

 

 

「……ソウジさんのお考えは、信憑性が高いかと思います。詳しくは言えませんが、そういう推測などに必要な情報を、ソウジさんはたくさんお持ちです。」

「ハイビスさんも、同意見ってことでいいな?」

「……はい。」

 

 

俺の力をギリギリのところで隠しつつ、説を推してくれた。

ハイビスさんも同じ考えか……。

 

 

「……ショウコは?」

「う、ウチも、ご主人様のお考えは正しいんじゃないかと思います!……ご主人さまは、こういう所では外しませんから!」

「そうか……。」

 

 

ショウコにも意見を求めたハスガさん。

仲間として扱ってくれているんだな。

 

嬉しい。

 

 

ハスガさんは、少し息を吐くと、これからの方針を打ち出した。

 

 

「……ギルド……観測班とソウジを信じる。俺は北西に向かう。山地帯に、何がありそうだ。モンスターの移動に当たるのを、他の支部にも協力を願う。中央は……無視だ無視。」

「い、いいんですか?」

「もはや別の機関だしな、あれ。気にするな。何かあっても、俺の首一つで済むだろうよ。」

「うわぁ……。」

 

 

辞める気満々である。

そういや嫌々ギルマスやらされているとか言ってたなこの人。

本音だとしたら、確かに首一つ程度、なんだろうけど。

 

 

「ソウジ達は禁足地の方に向かってくれ。山地帯が杞憂で済むなら、すぐに合流する。」

「了解です。」

「他のトップハンター達も、軒並みモンスターの移動の方に割いている……全くもって人手が足りてねぇ。すまん。」

「……いえ。望むところです。俺もチームの狩りには慣れてませんし、そもそも俺が取り逃がしたモンスターです。……尻を拭わせて下さい。」

「……あぁ。結局、こうなっちまったな。」

 

 

こうなっちまった、というのは……俺とショウコ二人で狩りに行くということだろう。

まぁ、そもそもそのつもりであった。

 

特に異論はない。

 

それに、禁足地に佇むモンスターに、トップハンターたちのリソースを割いたとして。

現状被害を出しているのは、こちらにやってくる食い詰めたモンスターたちだ。

目の前のモンスターには、やはり地理的に詳しい首都のハンターたちが当たる。

最強戦力であろうハスガさんが、北西の山地帯の調査へ。

俺は経験を活かして、シャガルマガラへ。

 

ありえる采配だとは思う。

 

 

「……少し外す。お前たちは、いつでも出られるようにしておいてくれ。御者の御仁は?」

「えっと、まだ寝ているかも……。」

「起こしてくれ。シガイアさんから、移動運搬で信頼できる人間と聞いている。お前たちの、禁足地までの移動を依頼しよう。」

「……分かりました。」

 

 

おじさんの信頼は、シガイアさんも折り紙付きだ。

流石。

 

 

「よしっ!動くぞ!」

「「はいっ!」」

 

 

俺とショウコがハスガさんに返事をすると、全員が一斉に動き出した。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

何と、おじさんは起きていた。

何ならガーグァ達を起こし、ギルド裏で既に荷車の用意をしていた。

 

 

「トラブルメーカーのソウジさんが朝早くからいねぇからよ!間違いねぇと思ったぜ!」

「ははは……。」

 

 

俺への変な信頼は置いといて。

仕事の速さには恐れ入る。

 

かっこいい。

 

 

「ソウジさん。私はここで。」

「はい。ハイビスさんも、無理しないよう。」

「はい……どうか、ご武運を。」

「……はい!」

 

 

ハイビスさんとは短めに挨拶。

昨晩たくさん話したしな。

 

そこまで言葉は必要ない。

 

 

「おぅ、もう準備はいいのか。」

「はい。」

「流石だな……御者の御仁。二人を頼む。」

「へ、へい!」

 

 

流石のおじさんも、ハスガさんの厳つさにはたじろぐ様子。

まぁ無理もないか。

 

ハンターとしての功績とかは置いておいて、単にプレッシャーが凄い。

 

 

「それじゃ……ソウジさん、ショウコ!準備はいいか!?」

「はい!よろしくお願いします!」

「はいっ!」

 

 

ガラガラガラガラ……。

 

 

「そっちも気をつけろよ!合流できそうなら、合図を送る!!緑だ!!」

「はい!!」

 

 

信号弾を上げるということか。

承知した。

 

何時ものように手綱を引き、ガーグァ達を走らせ始めたおじさん。

向かうのは、西。禁足地。

狙うは、天廻龍シャガルマガラだ。

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

街を出ると、外には多くのハンターたちの車が走っていくのが見えた。

その大半は、俺たちとは違う方向に向かう。

 

 

「あれは南の支部のハンターらしいぜ?」

「他の支部のハンターですか?」

「あぁ。つっても俺も、さっき聞いたんだけどな?若い、手柄を立てたがるような血気盛んな連中が、南には多いんだと。」

「へぇ……。」

 

 

なかなか興味深い話である。

 

 

「北は狩り場が広いからなぁ。今出られるのは南と西と……。東は……まぁ、アレだなぁ。」

「アレ?って、何です?」

「……ガラが悪いらしいぜ?」

「えっ?な、何で?」

「さてなぁ……昔、首都に来たときから既にそんな感じだ。街からして治安悪いしなぁ。そういうのが集まるんだろうなぁ。」

「へぇ……。」

 

 

そういえば俺を狙ってセツヒトさんを傷つけたあの狼藉者。

アイツも確か、東がどうとか言ってたな。

気をつけよう。

 

 

「ご主人さま。」

「お、どうした。」

 

 

ショウコがおずおずと話しかけてくる。

昨日はハイビスさんと同じ部屋で休んでいたショウコ。

 

何だかしっかり話すのも久しぶりな気がする。

 

 

「その、ギルドでゆうてた山地?のモンスター。大丈夫でしょうか。」

「強力かもしれないヤツ……か?」

「はい。ウチ、その、うまくいえんと申し訳ないんですが、めっちゃ嫌な予感がします。」

「…………。」

 

 

ショウコはアイルー亜人、感覚が鋭い。

嗅覚や聴覚なんていう部分では、人間よりも相当に。

 

直感的な部分ももちろんである。

不安が拭えない、か。

 

 

「…………ここに来て慌ただしくなってきたところに、更に北にヤバいモンスターがいるとなると……確かに嫌だな。」

「ウチらも山地に向かった方がええんちゃうかな、と。」

「…………。」

 

 

判断が難しい。

……だけど。

 

 

「……ここはハスガさんを信じよう。あの人、実際に戦うところは見たことないけど、多分教官とかその辺のレベルの人だ。逆にそれでも敵わない相手だったら……。」

「…………だったら?」

「…………諦めるしかないぐらい、ヤバいな。」

「うわぁ……。」

 

 

実際そうだろう。

じゃあ他に誰がいいというのか。そういう話である。

 

 

「……だから、信じる他ない。もしかしたら完全に杞憂で、すぐに俺たちと合流するかもしれないし。」

「やったらええんですけど……。」

「とにかく、今は目の前のことに集中しよう。……おじさん、禁足地まではどれぐらいかかりますか?」

「この辺はあまり来たことねぇが、まぁ大体半日もあれば麓に着くだろうよ!それまでゆっくりしていてくれ!」

「……ありがとうございます。」

 

 

気持ちばかりはやるが、焦っても仕方ない。

俺とショウコは、おじさんの言葉に甘えて休むことにした。

 

 

 

シャガルマガラの影響は大きい。

何事も無いといいけど……。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

車を走らせて数時間ほど。

 

何事もなければ、なんて言う俺の願いも虚しく。

一つ問題が起きた。

 

 

「あれは、ちょいとすげえわ……。」

「…………おじさん、やめときましょう。」

 

 

停止した車。

地面の草を踏みしめ、ガーグーたちが所在なさげにしている。

 

停まった理由。

それは、少しずつ見えてきた禁足地が、ドス黒く覆われていたからだ。

シャガルマガラの霧。

だが、ゴア・マガラのような霧とは少し違う。

最早、天候さえ変わっている。

分厚い雲、薄暗くこちらの方まで伸びたそれは、辺りの雰囲気を鬱屈としたものにしていた。

 

更には、この先。

霧が立ち込めていて、進むのには躊躇してしまう。

 

 

「……俺たちここから、歩いていきますよ。」

「いやいや!それはいけねぇ!まだ距離はあるぞ!?」

「おじさんやガーグー達に影響があるかもしれないんです。……あの黒い霧、ヤバいんですよ。」

「それは……そうらしいけどよ。」

 

 

霧。

その正体は、恐らくゴア・マガラやシャガルマガラの鱗粉。

狂竜症の原因であり、多くのモンスターの獰猛化にも影響している。

 

辺りはモンスターどころか、生き物の影も形もない。

禁足地のある山一帯に広がっている黒い霧は、生きとし生けるもの全てを拒むようであった。

 

おじさんやガーグー達にまで、迷惑はかけられない。

……と思ったのだが。

 

 

「…………っし!出すぞ!」

「うえっ!?ちょ、おじさん!?」

 

 

ガラガラガラガラ……!

 

 

突如として車を前進させ始めたおじさん。

愚直にも言うことを聞いて、ただ走り出すガーグー達。

 

 

「お、おじさん!この霧マジでヤバいんですって!俺たちを降ろして引き返して―――」

「馬鹿野郎!」

「!?」

 

 

おじさんの大声。

しかも馬鹿野郎ときた。

な、何で。

 

 

「………ソウジさんもショウコも、これからあの原因を倒すため命をかけるんだろ!?ここで俺たちが頑張らなきゃよ!何の為の御者だってんだ!」

「ガァー。」

「グァー。」

「……おじさん。」

 

 

おじさんが、真っ直ぐ前を見ながら言う。

ガーグー達も、まるで呼応する様に鳴き声を上げた。

 

……おじさんはこういう人だった。

そうだったわ。

 

 

「……マジで行くんですね。」

「マジも大マジだ!!当たり前だろ!!……も、もちろん、モンスターの側なんて無茶はしねぇがな!」

「それこそ当たり前ですよ。」

「ご主人さま……。」

 

 

ショウコが心配げに俺を見つめてくる。

ショウコとしては、ここから二人で行くべきだと言いたいんだろう。

 

そりゃそうだ。

まず間違いなく、何かしらの影響は出るだろう。

おじさんやガーグー達に。

 

 

「……おじさん、着いたら、すぐに引き返してください。影響は最小限にしたい。」

「……おぅ!」

「状況が好転したら……もし霧が晴れたり、天候が回復したなら迎えを頼みます。……何も変わらなければ……。」

「あぁ!その時は、その時だ!」

「……はい。」

 

 

俺たちをフォローするという気持ちはありがたい。

無碍にはしたくない。

ここが譲れる最大限だ。

 

 

「口の周りに布を巻いておきましょう。ガーグー達もできるなら。あまり吸い込まないほうがいい。」

「おぉ。分かった。」

「ご、ご主人さま。」

「おじさん達の気持ちを尊重する。霧の正体がゴア・マガラと同じ鱗粉なら、目に見える大きさだ。細菌やウイルスレベルの微細さとは考えにくい。気休めかもしれないけど、口に覆いをすれば、多少は防げると思う。」

「さ、さいきんとかウイ?とか、そ、そのよくわかりませんけど……了解です!」

「あ、すまん。」

 

 

現代日本ならマスクとかあったんだろうけど。

仕方がない。布を巻いておこう。

 

 

おじさんと俺たちで、ガーグー達にも布当てを装着した。

鼻とくちばしを覆えるようにするのは大変だったが、意外にも素直に着けてくれたので良かった。

 

俺達自身も装着。

これで怪しい集団の一丁上がり。

見た目が完全に砂漠のならず者たち、である。

 

 

「逆に心配になってくるな……。」

「お、おじさん。ウチも我慢しますから、頑張りましょう!」

「俺も恥ずかしくなってきた……。」

「ご主人さまも!?」

 

 

冗談は置いといて。

 

おじさんには、ガーグー達にその辺の草木や虫を与えないように伝えておいた。

荷車にあった飼葉にも、覆いをしておく。

更にはウチケシの実をたくさん譲った。

服用すれば、対症療法だが軽減はする。

ガーグー達に効くのかまではわからん。

そもそも薬とか……食べるのかな。

 

 

「逆に迷惑かけたな。すまん!」

「いえ。できることはやっておきましょう。水は……。」

「あぁ!最悪、飲まず食わずで霧の外に出る!……ソウジさんとショウコは、狩猟に集中してくれ!」

「……はい!」

「おじさん!ありがとうございます!!」

 

 

ショウコと共に、礼を言う。

本当に、この人には頭が上がらない。

 

 

そこから、俺達はなりふり構わぬ行軍を続けた。

モンスターも居ないため、スピードは速い。

順調……なのかはわからんが、とにかく急いだ。

 

 

禁足地の麓まで、あと少しだ。

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