時間的には前回(82、83話)の続きとなっております。
大変遅くなりました……話の展開を考えるのって難しい……。
私はタオカカ周辺のハンターを引退。
ワサドラに住み着いた。
シガイアさんの斡旋もあって、引退間近のおじいちゃんが経営していた武具屋をそのまま継がせてもらった。
跡継ぎがいないという時に、渡りに船。
あっちもこっちも。
うぃんうぃんってやつ?
「筋がいい。お前さん、上手いわ。」
「じいちゃんの教え方がいいんだよー?」
「倅の変わりがこんなに可愛い子とは……嬉しいぞい。新しいギルドの人は、いい人を紹介してくださった。」
「いやー、可愛いなんてそんなー、本当のことを言われてもー。」
「そういう誤魔化し方も、可愛いのー。」
「……バレたかー。」
自分で言うのも何だけど、武具の知識とか器用さなら、負けたことはない。
天才なんて言われて図に乗ってるのは重々承知だけど。
できるなら、とことんやりたいタイプなんだよね。
でも、私が敵わないと思った人。
シガイアさんに、カホ・チータのメンツ。
そしてこのおじいちゃん。
しばらくして、その息子さんがおじいちゃんを連れて、ワサドラを出ていった。
遠く西の漁村、ブラツに行くらしい。
あそこは私も、一回行ったことがあるだけ。
「のどかな所で、余生を過ごすか。」と、名残惜しさも何も無くおじいちゃんは去っていった。
私の一人ぼっちの武具屋経営が始まった。
* * * * * *
超はっきり言うと、計算とかもうめっちゃ苦手。
経理って何!?税金って!?
って感じ。
その辺おじいちゃん教えてくれなかったからなぁ。
何となく帳簿をつけては、武器を売って、武具を打つ毎日。
やってくるハンターのスキル構成を一緒に考えるのは、めっちゃ楽しい。
でも、お金のことになると、ちょいいい加減。
まぁ……私だし?
ご飯とかその辺は、近くの宿のおじいさんに世話になることが多かった。
その人も息子が居ないとか言っていた。
宿の名前は「ホエール」。
おじいさんの名前も「ホエール」。
紛らわしいけど、そこはまぁいいや。
そこには、もうめっちゃ可愛い女の子がいた。
そして私よりも料理が上手で、計算もできる子だった。
「ドールー!!助けてーー!!」
「うわっ……な、何?セツヒトさん。」
「もういつまでも計算が合わないのー!!何がどうなってるのー!?」
帳簿について、逐一聞くような仲になっていた。
あっちは私のこと、お姉さんみたいに思っているんだろうけど。
……完全に女として負けているよね……。
うーん……。
花嫁修業とかしたほうがいいのかなー……。
* * * * * *
数年経った春。
新聞やギルドからの報告で、ハンターチーム「カホ・チータ」が解散したことが分かった。
原因も聞いた。
ウミさんとムルトさんが、亡くなったということだった。
村……町の人はみんな、「カホ・チータ」が無くなったことを嘆いていたけど。
私はそんなことよりも、その二人の死が受け入れられなかった。
あんなに強くて。
あんなにかっこよくて。
ショックで、マジで三日ぐらい寝込んだ。
……それでも、生活は変わらない。
どこか遠い国の話のようで。
しかも見限った人たちの死なんて、とか思う嫌な私もいて。
複雑だった。
* * * * * *
そんなある日。
ある出逢いがあった。
ソウジと名乗るハンターが、店にやってきた。
その子を、私は知っていた。
確か二日前、宿にやってきた新顔。
ある夜、ドールが血相変えて助けを求めてきたので、よく覚えている。
だって、お尻ぴょいーんって出して、泡拭いて気絶してたんだよ?
笑うって。
「きょ、今日は、そのお礼に参りました。」
「んー、いーよいーよ。元気ならそれだけでめっけもんだって。」
「助かりました、セツヒト……さん。」
「その名前、あんまり好きじゃないんだよねー。せっちゃんでいいよー?」
「せっちゃんさん、ありがとうございました。」
「うーん、何かかしこまりすぎな気もするけどー?まぁいいやー。」
顔は結構好みだったので、余計に覚えていた。
しかも律儀にお礼を言いに来るとか。
さてはこのソウジとかいうの…………いいやつだな?
「まあ、でもさー。……心配かけちゃ、駄目だよー?」
「はい、もう二度と。」
「……うーん、よろしい。いいね君。気に入ったよー。」
「そ、それはどうも。」
真っ直ぐな目。
どこかその辺の若いのとは違う何かを感じた。
何ていうのかなー……年齢に雰囲気に体つきに……。
ちぐはぐなんだよなー。
ソウジ……よし、名前覚えた。
…………何だろうな…………いじってやりたい欲がガンガン湧いてきた。
ソウジは、お礼ついでに武具屋としての私と顔を合わせておきたいようだった。
まぁつまり、自分のためでもある、と。
うんうん、そういう打算的なところもいいねー。
「ん、いーよ。そういうことなら。よろしくされてもー?袖振り合うも多生の縁ってね。いつでもおいでー?お姉さんが教えてあげるよー。」
「あ、ありがとうございます!」
「とりあえず、得意な武器だけ聞いといていいー?」
「片手剣と双剣、とりあえずこの2つです。」
「……へー、了解りょうかーい。」
私が最後に握った武器。
好んで使っていた、双剣。
別に全武器使えるけどさ。
少しだけ驚いた。
「うん、今日はちょーっと忙しいんだー。でも明日からなら、いつでもおいでよー。だい、かんげーい。」
「それでは、お忙しい中失礼しました!」
「えーっ?もう行っちゃうのー?」
「実はこのあとギルドに行くんです。講習会?というのに参加するので。」
「あー、そかそかー。なーる。じゃー、気をつけていってらっしゃい?」
「はい!」
関係がここで終わるのも嫌なので、私からあるものをプレゼントした。
新人ハンターならよく身につける「初心の護石」。
笑顔で爽やかに受け取るソウジを見て。
心臓がちょっとだけ、ドキッとした。
* * * * * *
メキメキ力をつけていくソウジ。
しかもそれを教えていたのは、何の因果がマショルクだった。
私の心の黒い部分。
その嫌なところが、マショルクを遠ざけたくて仕方がなかった。
今思えば、逃げていたんだよね。
惨劇から、あのミヨシの惨状から。
そしたら、ソウジが大型の狩りに行くと聞いた。
バカな。
早すぎる、と思った。
とりあえずマショルクに何か言ってやらなきゃいけない気がして。
狩りの出掛けに、釘を差しておいた。
久々に、しかも町中で殺気を出してしまった。
受付嬢のハイビスちゃんが震え上がっていた。
うーん……未熟だなー、私。
そして。
結果として、ソウジはいとも簡単にバサルモスを倒してきた。
マジで拍子抜けだった。
マショルクの見立ては正しかったわけだ。
恥ずかしかったけど。
とにかくソウジが無事で安心した。
心から。
そこからの狩猟で、ちょいちょい会う内に、ソウジとは自然と仲良くなっていた。
私の方は、だけど。
だって明らかにソウジ、心の距離開けてるんだもんなー。
ちょっと……怖すぎたかな。マショルクに。
寝ずに防具を作ったりもした。
なーんでここまでやるんだろう自分はー、なんて思ったりしたけど。
多分……惹かれてるんだろうなー、ソウジに。
どっちかって言うと、放っておけないって感じだけどさ。
せっちゃんと呼ばせるのは、ソウジだけだし。
あーもう……。
……自分が自分でわかんない。
* * * * * *
嫌な知らせが舞い込んだ。
ソウジと最近付いたオトモの子が狩猟に行き、とんでもないモンスターに出会ったという話だった。
駆け込んできたマショルクに教えられた。
最初は今更何の用だとか思ったけど。
それどころじゃなかった。
「いけるか!セツヒト!」
「当たり前!!私が助ける!」
「……そうか!よろしく頼む!」
ギルドにすっ飛んでいくと、もうてんやわんや。
オトモの子は意気消沈していた。
でも、相手は斬竜ディノバルド。
まだまだソウジ達には手強すぎるモンスター。
むしろ、すっ飛んでソウジの救援を要請しに来たこの子に、好感をもてた。
狩り場に急行した。
ファンゴ車に乗るのも、何なら狩りに行くのも久々だったけど。
やられそうなソウジを見たら、瞬間的に全てを思い出した。
ソウジ、見てて。
これがG級だよ。
マショルクと交代でダメージを与えると、ディノバルドはすぐにぶっ倒れた。
結構ダメージが入っていた。
やるじゃん、ソウジ。
ズタボロだったけど。
とにかく、無事で良かった。
必死になって救援に来て、良かったって思った。
この時だったかなー。
……あー、好きなんだ、私って。
自覚したのは。
* * * * * *
ソウジは私の教えを請いにやってきた。
狩りはもう、って思っていたけど。
……ソウジのためなら、復帰だって構いやしない。
とにかく、ソウジは必死だったから、私もいろんな訓練法を考えた。
小型を素手で仕留める方法は、実はあんまりみんなやってない。
でも、弱点の把握とか体の動かし方とか……そういう基礎にはもってこいだと思うんだよねー。
……ソウジは目的をちょっと勘違いしていたけど。
結果として、いい感じにレベルアップできていたから、よし。
そして、今年もワサドラ周辺に冬がやってきた。
モンスター……特に大型の数は激減する。
…………あそこに行くしか、無いかな。
しばらく里帰りもしてないし。
というわけで、ギルドに直談判して、冬山の遠征に向かうことになった。
もうトラウマとかどうでもよくて、ソウジと二人きりとかどうなっちゃうのー!?とか、結構舞い上がってたんだけど。
………受付嬢のハイビスちゃんもついてくることになった。
…………まぁいいんだけどー。
* * * * * *
ちょっと思うところはあったけど。
ハイビスちゃんは、もう本当にめっちゃいい子だった。
そして可愛い。
更には美人。
お胸も結構ある。
……うーん、私が男だったら放っておかないねー。
隙だらけで抜けてるところも結構あって。
更に言えば、ソウジのことが好きだった。
…………も、超意気投合したよねー。
お互いにソウジの不満を言い合って。
好きなところも言い合って。
始めはあんなにビビられていたのに、冬山を降りる頃には凄く仲良くなれた。
親友ってやつが、できた気がした。
ソウジはソウジで、かなり強くなった。
冬山や氷海の手強い敵……ザボアザギルとかガムートとか。
その辺をクリアできたから、まぁ及第点かなーとか思っていたら。
雪鬼獣ゴシャハギまで、倒してのけた。
更に、あの轟竜ティガレックスまで。
なんの冗談かと思うほどに、ソウジは強くなっていった。
…………このまま行けば、ソウジは恐ろしいほどに強くなるんじゃ、って。
思った。
思っちゃった。
ますます好きになってしまった。
…………あー、もうこれやばーい。
* * * * * *
ソウジはさらなるレベルアップを求めて、装備の充実を図っていた。
冬山では、新しい武器を私が作り。
ワサドラに戻っては、私と最強のスキル構成の装備を考えた。
というか、私のプロデュース!
うーん……楽しい……。
ソウジは引いてたけど。
そして一つ、おっきなハードルがあった。
金獅子、ラージャン。
こいつの素材が、必要。必須。
でも……こいつは他の大型と比べるべくも無いほどに、別格。
古龍とか、その辺の強さ。
だから、何なら私が素材を用意したって構わない、と。
そう本気でソウジに言ってみた。
そしたら……断られた。
「せ、せっちゃんさん……。素材はその、ありがたいんですけど……できたら、自分で倒したモンスター達の力をモノにしたいと言うか。」
「…………。」
「ラージャンはやめるように言われているんですけどね……。なのでその、わがままなんですけど。残りの素材も、頑張って集めたいと言うか。」
「…………ふんふん。」
「……ハンターになって……やっぱり俺はまだ甘い。どこか、命をとることに対して臆病なんです。これは、この世界の人間ではないことが関係しています。だから……せめて自分の装備だけは、きちんと自分の手で倒したモンスターの物を使いたい。」
はっきりと、言われた。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけショックだったけど。
かっこよかった。
「…………いーねー。やっぱいいよー、ソウジー。」
「…………いや、すみません。急を要するって時に……。」
「いやー、男を見たねー。気持ちはわかるよー?うん。」
「……ありがとうございます。」
「まー、ラージャンはキツイだろうから……その時は私が組んでもいいよー?」
「えっ!?本当ですか!?」
「うん。お力になれるかは分かりませんがー。」
更には一緒に狩猟の約束も取り付けた。
よし……やるねー、自分。
狩れる時に狩らないとねー。
モンスターと、同じー?
* * * * * *
渡りに船と言えばいいのか。
ラージャンの狩猟は、すぐにやってきた。
シガイアさんがウッキウキでとってきたクエストだった。
首都に意趣返しができると、もうニコニコ笑顔のシガイアさん。
うーん。
この人こういうところ、怖いよねー。
まぁ私も楽しいからいいけどねー!
……ラージャン戦に同行したのは、私とソウジ、ショウコちゃん。
更にはフェニク……キリッとした金髪のおねーちゃんと、そのちっこいオトモのトツバって子。
そして御者のおじさん。
結構大所帯だった。
まぁ……二人きりなワケないと思ってたけど。
しょうがないか。
しっかしフェニクって……やっぱりなにか隠してるな……。
とは思っていたけど。
その鈍く光るクロムメタル装備は、ぐっときた。
触らせてもらった。
ソウジに注意された。
ごめーん。
そして、フェニクのオトモのトツバ。
やけにちっこい、なのに秘めたパワーは半端なさそう。
ショウコちゃんとはまるでタイプの違うアイルー。
ハンマーとか、珍しいよねー。
…………ふとハスガを思い出してしまった。
体格とかまるで違うのに。
アイツもパワーは凄まじかった。
今でも、敵う気はしない。
そんなこんなで、チダイ村を経由して大森林へ入った。
環境不安定の土地。なのにモンスターの影も無く。
あからさまにおかしかったけど。
原因はすぐに見つかった。
真っ黒なモンスター……ソウジが湖で見つけた途端、おかしくなってしまった。
目を痛がっていた。
大丈夫か、本当に心配した。
……ソウジはたった二年足らずで、アホみたいに強くなって来ているけど。
その反動とか、無理してないかなとか、毎回不安になる。
いつか、消えてなくなっちゃうんじゃないかって。
心の奥底で、心配が絶えない。
…………。
爆睡しているラージャンを見つけた。
それに、奇襲を仕掛けようとした時。
事件は起きた。
実はちょっと怪しいと思っていたフェニク。
一応気をつけるか、と思っていたら。
全く明後日の方向から、ソウジを狙う矢が見えた。
反射的に、体が動いた。
「避けろぉ!!ソウジさん!!」
「えーーー」
ソウジを守らなきゃって。
死なないでって。
「っ!!ソウジ!!……ぐぁっっ!?」
「セツヒトさん!!」
振り返れば、もうちょっと矢を受ける場所を考えればよかったかなーって思うけど。
必死だったよねー。
「ぐぅ……あー……痛すぎー……!」
「セツヒトさん!す、すまない!私としたことが!!」
「だいじょーぶ……フェニク!!」
「!!あ、あぁ!」
バッ!
フェニクを、犯人の捕縛に向かわせた。
……疑って悪かったね、フェニク。
放たれた矢と、ソウジの間。
自分でも信じられないぐらいの速度で、割り込んだ。
腕に刺さった。
いったぁ……うわぁ、こういうの久々……っ!!
「セツヒトさん!」
ショウコちゃんもソウジも、駆け寄ってきた。
まぁ……私は多分平気……じゃなさそー。
毒かなー、これ……。
私はモンスターかっての。
「いやー、やっちったねー……ぐ……んー!!」
グジュ……ジュバッ……。
「うーわ、毒テングダケのやつかー……キッツイわけだよー……。」
「す、すみません……俺を庇って……今、解毒薬と回復薬を出します。……撤退しましょう。」
「うん……ありがとー……ソウジ?気にしないでー。ソウジを守れたなら、本望だよー。」
「セツヒトさん……。」
「…………好きな人を守れたんだ…………私もうれしーーー」
「グァァァァァァ!!!!!!!!」
「「「!?」」」
最悪。
もう、考えうる可能性の中で、一番最悪な事態だった。
私が負傷して、ラージャンは起きて。
私の体は、ちょっと起こすので精一杯。
少しだけ逡巡していると、ソウジがすぐに大声で指示を飛ばした。
「……ショウコ!!」
「は、はい!!」
「……セツヒトさん最優先!一緒に逃げろ!」
「いやっ、でもーーー」
「ショウコ!!今はこれしかない!!俺も隙を見て逃げる!」
「ソウジーーー」
「二人とも!早く!」
「…………っ!!はい!セツヒトさん!はよぅ!」
「ショウコちゃん……ソウジィ!」
ショウコちゃんに引っ張られ、もつれる足をなんとか動かす。
ソウジ。
ソウジは。
「セツヒトさん!!」
「ショウコちゃん……。」
「……ご主人さまなら平気です!もうめっちゃ強いんです!お陰様で!…………今は、逃げましょう!」
ショウコちゃんは目にいっぱいの涙をためて。
でも、渾身の力で私を引っ張っていた。
この子は。
この子は、なんて強い子だろう。
いいオトモを得たね、ソウジ。
…………信じる。
ソウジなら、絶対に大丈夫。
「うん……ぐぅぅ…………ショウコちゃん、ごめんねー、何とか、歩く……。」
「…………はいっ!」
とても戦えそうにない体。
ラージャンに挑めば、足手まといは必至。
あっという間に、三つの死体が出来上がるだろう。
……ソウジの判断は、正しい。
自分を省みないという一点を除いて。
「ふっ……ふっ……。」
「はあっ……はぁっ……。」
息を上がらせ、でも少しでも体力を温存しながら。
私達は、何とかスタートキャンプに戻ってきた。
「な、何だ!?セツヒトさんか!?……おいおいおい!!怪我してるじゃねえか!!」
「…………いけない。テントに入って。おじさん、お湯沸かして。」
「お、おぅ!」
ショウコちゃんとトツバとおじさん。
三人で、介抱してくれた。
私は、正直限界で。
テントで寝転がった。
「ソウジ……ソウジ…………。」
「ご主人さまなら大丈夫です!……セツヒトさん、寝といて下さいね!救援も、出しときますから!」
「ショウコちゃんは……強いね……。」
「ウチも…………心配やけど。今は、信じるしかない。あの人の無茶を止めるのがウチの役目やのに……。」
ショウコちゃんの涙が、私の横に落ちてくる。
そう……だよね。
ショウコちゃんも、辛いよね。
……ソウジ、絶対に帰ってきて。
女の子が、泣いてるよ。
* * * * * *
全部ショウコちゃんから聞いた話だけど。
私が寝ている間に、フェニクが犯人を捕縛して連行してきた。
尋問中らしい。
一発ぶん殴ってやろうかとも思ったけど、まぁただの食い詰め者だろうし。
いいやー、もう。
そして。
ソウジは……無事に帰ってきた。
怪我していたけど、問題はなさそうって聞いて。
私はテントの中で下着1丁のまま、安心した。
何でこんな格好かって……寝てたら脱いじゃうんだよねー、私。
更に驚いたことに。
ソウジは結構やばかったみたいで。
それを助けてくれたのが、何とマショルクだった。
救援とかそれ以前に、ラージャン狩猟と聞いて嫌な予感がしたとかで、首都からすっ飛んできたらしい。
…………タイミングいいじゃん。
逆にムカつくけど。
ソウジは運がいい。
アイツとソウジなら……ラージャンはイケるだろう。
マショルクは、首都にいるって聞いてたけど。
ふーん。
チダイ村に帰ったら、安静にさせられた。
毒の方も体の方も、もうかなり平気だったんだけど。
腕はまだ痛むので、お言葉に甘えた。
だってソウジと二人きりなわけで。
役得だと思うことにした。
……そしてついでに、言いたくても言えなかったことを、話すことにした。
「…………ソウジー?」
「は、はい。」
「あの時さー……私が言ったこと、覚えてるー?」
「あの時……?」
矢を受けたとき、私は反射的に好きって言ってしまっていた。
でもソウジは聞こえてなかったみたい。
まぁあの時は、事が事、だったしねー……。
だから……今しかないと、覚悟を決めて言った。
「『好きな人を守れたなら本望』って……そう言ったんだよー……。」
「…………!?」
「……やっぱり聞こえてなかったかー……その耳、一度見てもらったほうがいいねー。頭と一緒にさー?」
「あ、頭って―――」
「ソウジー?私、本気だよー?」
「…………。」
「一生懸命でー、たまにバカでー……でも、心の底から応援したくなる、ソウジがー………………す、好きー……なんだよねー。」
「…………へ、へ、へい。」
「…………んふふー…………あーーー!やーーーっと言えたー…………うん。すっきりー。」
うん。
めっちゃスッキリした。
やっと言えたから。
そしたらソウジはあたふたしていた。
ふふん。
今までの私の想いを受け取って、たくさん困るといいよー?
ちょっとしたお仕置きだねー。
「…………え、えーっと、ですね、ちょちょちょいお待ちを……!」
「…………ぷっ……あははははは!!」
「うぇっ!?な、何で笑うんですか!!」
「いやー、ソウジ、めっちゃテンパってるからー……その顔、おもしろーい。」
「えぇ!?い、いや、俺なりに今真剣に考えて!……そ、その、……純粋に嬉しいなぁ……と……。」
「……う、うん……。」
ヤバい。
可愛い。
ソウジ可愛い。
ストレートなのに弱いんだね、ソウジは。
……もっと早くからストレートで攻めればよかったなー。
しかし、もう告白してしまった。
ハイビスちゃんとかショウコちゃんとかドールとか……その辺には申し訳ない。
でも。
もう、止められないよー。うん。
「…………ちょ、超真剣に考えてまして!そ、その…………。」
「…………ふふふー、いーよー?ソウジー。」
「へ?」
「返事とか、そういうんじゃないからさー。……どーしてもー、伝えたかったんだー。」
「…………。」
「いつかまたー、私を好きになることがあったらさー……嬉しいよー。」
「………は、はい。」
「だからさー、今はー……。」
もうここで決めてしまおう、と。
何かもう、今まで我慢していた気持ちが爆発してしまった。
ソウジの顔を目の前にして。
私は、キスをかます!!
よーし!!
……いってきまーす!!
* * * * * *
……………………キス作戦は、失敗した。
何であのタイミングでショウコちゃんもマショルクも来るかなー!!
もう少しだったのにーー!!
……と、その時は思ったんだけど。
よく考えたら、周りを出し抜いたのは私なわけで。
それに冷静になって考えたら、怪我をかばってあげた相手、それをいいことにキスを迫ったわけで。
うーん!
……痴女じゃん!!
…………止められて、良かったかも…………。
……それから。
チダイ村を出て、ワサドラまでゆっくりと車に揺られた。
ソウジは今までの鈍感野郎のツケが回ってきて、色々と悩んでいた。
よしよし、存分に悩むがいいよ、ソウジ。
そういうところも、いいからねー。
ちなみに、ワサドラに着く前夜。キャンプを張ったとき。
マショルクと、色々話をした。
「セツヒト。……怪我は大丈夫か。」
「…………へーきだよ。」
「……そうか。」
…………。
ワサドラに続く道の脇。
行商とか、ハンターがキャンプを張るための場所。
吹き抜ける草原の風が心地いい。
マショルクに死ぬほど頭にきていたのが嘘だったかのように。
その夜は、冷静に話ができた。
「…………ソウジを助けてくれて……ありがとう。……貸しにしといて。」
「貸しなど。私自身が心配だったのだ。」
「それでも。私の気が晴れないから。」
「そうか……わかった。」
マショルクに恩を借りっぱなしでは、気持ちが悪い。
素直に礼を言って、とっとと返すに限る。
「……間に合って良かった。ソウジ君は、本当に死ぬ間際だった。」
「うん……聞いたー。」
「……セツヒトに言うのもどうかと思うが……私はもう、惨事は起こしたくない。」
「…………。」
「ミヨシ……あの獄狼竜が招いた悲劇は、私は一生忘れない。だから、間に合ったんだ。」
「……そう。」
「セツヒトがいつまでも恨んでくれているおかげで、私は私を許さずにいられる。」
「…………許せないよ。そりゃあ、さ。」
「あぁ。もちろんだ。それでいい。」
許せない自分と、感謝する自分。
2つが交差し、モヤモヤが晴れない。
少しだけ息を吐くと、マショルクが話を続けた。
「セツヒト。」
「なに。」
「……ムルトとウミが亡くなる時……二人は、お前の名を口にしていた。」
「え…………。」
思わぬ話。思わぬ二人の名前。
マショルクの方を見る。
その目は、とても優しい目をしていた。
「……ごめん、と。つらい思いをさせてすまない、と。……繰り返しな。」
「…………。」
「私達の中で、ミヨシの惨劇は一生忘れてはならないと決めていた。沸き立つ首都の歓声も、私達はどこか上の空だった。」
「ウミさん……ムルトさん……。」
私の思い出の中の二人。
凸凹で、仲睦まじくて、とても強くて……。
憧れの人たち。
最後まで、私のことを気遣ってくれていた。
……そんな二人がこの世からいなくなったことに対して、心の整理はまだできていなかった。
胸に、キュッと寂しい思いがやってきて。
悲しくなってきて。
ちょっと心細くなって。
そしたら。
ポン。
マショルクが、私の頭に手を置いてきた。
あの時と同じように。
アヤで少女だった私を慰めてくれた、あの時みたいに。
「…………立派なハンターになった。セツヒト。」
「あ……。」
「…………俺たちが愛した村を守ってくれて……ありがとう。」
「…………どの口が言うのよ。」
「……すまん。」
スッ。
手を離したマショルクは、どこか落ち着かない様子でいた。
いつもなら、さっきの発言で私は激昂していたと思う。
……なのに、私は落ち着いていた。
あの時のままの関係性ってわけにはいかないし……色々思うところはあるけれど。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
……安心している自分がいた。
サアァ……。
……優しい夜風か頬を撫でて。
でもほんのりと胸の内が温かくなった。
「ソウジ君との仲を、私は全力で応援しよう。」
「……へっ!?」
「……はっはっはっ!セツヒト!お前は私の妹のような存在だ!!幸せを願わずして、何が兄か!」
「あ、兄貴面すんな!バカマショルク!!」
「はーはっはっは!!ソウジ君は断れまい!とっとといてこましてしまえばいい!!」
「それを邪魔したのはあんたでしょ!!」
「…………そうだったな!!はーはっはっはっはっ!!!」
優しくする……。
多分一生……いーーーーーーーっしょうコイツと馬が合うことは無いけどー!!