モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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セツヒト視点です。
前回からの続きになっています。
時系列的には、本編を飛び越えます。終盤です。


164あるソロハンターの話⑤

ラージャンの狩猟後、チダイ村を経由してワサドラに帰ってきた。

私は医務室に直行。

マショルクにいきなり担がれたのがムカついて、ぶん殴っておいた。

 

 

「こらー!!もうちょっと優しく運べこのバカマショルク!!」

 

 

ズドゴォン!!

 

 

「ぐぅぉぉぉ……い、今のは効いたぞ!セツヒト!」

「…………ふんっ!」

 

 

こいつとウマが合うなんてことは、やっぱり一生無い!!

ふんだ!!

 

 

 

 

医務室で安静にするよう言われた私。

そしたらソウジがやってきて。

腕のことをかなり心配してきた。

 

……古傷の上。正直、痛い。

本気で腕の振りを試したら、次こそ本当に動かなくなりそうで。

そしたらソウジに嫌われちゃうんじゃないかって。

怖かった。

 

でもソウジは、間髪入れずに否定してくれた。

 

 

「……万一、腕がどうにかなってたとして……そんなことで嫌いになるわけないです。」

「そんなことってー……だって私はソウジにとって最強なんでしょー?……強くないとーーー」

「いいえ、関係ないです。……これから俺とセツヒトさんがどういう間柄になろうが、この件は関係ない。……もう一度聞きますけど、腕、本当に大丈夫ですか?」

 

 

真剣に心配してくれた。

まるで、私の考えなんてお見通し、みたいに。

ちょびっと悔しくて。

 

だけど、とっても嬉しかった。

 

 

「……っ………ちょっとまだ痛むけどー……だ、大丈夫、かなー。」

「……本当ですか?」

「ほ、本当だよー。痛むのは傷のところでー、その、獄狼竜の時みたいに筋とかじゃないからー……多分、大丈夫。」

「……よかった……。」

 

 

痛いのは痛いし……本気で動かしたらどうなのかはわからないけど。

ソウジは本当に心配してくれたみたいで。

 

う、嬉しいなー……。

 

でもやっぱり、ちょっと悔しいから。

苦し紛れにいじっておいた。

 

 

* * * * * *

 

 

そうこうしているうちに。

ワサドラ周辺の事態は急展開。

 

チダイ村、その西の大森林の湖で見た黒いモンスター。

黒蝕竜ゴア・マガラ、というらしいけど。

そいつがワサドラ近くの丘陵地帯に出たらしい。

……黒い霧を発生させ、周囲一帯に影響を与える厄介なモンスター、と。

 

ソウジの体調不良の原因も、多分そいつ。

 

ソウジから依頼された防具の作製を急いだ。

もう、急ピッチも急ピッチ。

ちょっと前に矢で射られた人間とは思えないぐらいには、働いた。

 

辛くはない。

だってソウジの為だし。

…………わ、我ながら愛が重いかなー。

 

そして。

しかしというかやはりというか、ソウジはゴア・マガラの狩猟を頼まれていた。

シガイアさんの信頼も厚いもんだよねー。

……頼りすぎだとは思うんだけどねー……デビューして一年半の新人にさ?

それだけソウジは強くなった、ということだけど。

 

ソウジの装備の最終調整をして、送り出した。

そりゃ、私も行けるなら行きたかったけど。

 

……怪我はまだ、治りきっていない。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

ソウジは、帰ってきた。

 

そりゃ、完璧に無事でってわけではなかったけど。

ちゃんと帰ってきてくれて、よかった。

ソウジの周りの人、みんな喜んでいた。

 

ショウコちゃんが体を張ってソウジを守ったって聞いた。

体を張ったのは、私だけじゃないってこと。

……ソウジ、愛されてるねー。

 

 

いつもの様にみんなでわちゃわちゃと騒ぎ立てた。

町中どこも、お祝いムード。

そりゃ、流通も何もかもストップって聞いたら、みんなキッツいよねー。

……それをソウジは救ったわけだ。

 

やるじゃん、と素直に思った。

 

……うーん。そう思うと、何か胸がキュンキュンするなー。

 

むー。

 

 

 

ギルドで打ち上げも行われていた。

私もその話を聞いて、ギルドの集会所に向かった。

無関係なんだけど、何だか行かなきゃいけない気がして。

ついでにソウジに会えるかなって。

 

……そしたら、ソウジは既に帰っていて。

カウンターで、シガイアさんとミヤコさんがヒソヒソ話をしていた。

 

 

「……こんばんはー、シガイアさんと……ミヤコさん。帰ってたんですねー。」

「あー、セツヒト、久しぶり……あなた、相当無理したんですって?」

「うわー、耳が早いなーミヤコさーん。」

「もう、ソウジくんに影響されたのかしらね……セツヒト、怪我は平気なの?」

「はははー、まぁ……多分大丈夫でーす。」

 

 

嘘をついた。

本気の振りは、まだ試していない。

そして……。

 

 

「……セツヒト、腕の調子、よくないだろ。」

「……シガイアさーん。」

「隠しても無駄だ。どれだけ長い付き合いだと思っている。」

「……はーい。」

 

 

シガイアさんにはバレバレだった。

すぐに見破ったねー……。

 

 

「……しばらく狩猟は厳禁。町から出るなよ?」

「善処しまーす。」

「……セツヒト。」

「……はい……休みまーす。」

 

 

腕の調子。

ちょっとまぁ……今までのようにはいかないかなー……。

 

まぁでも、それはいい。

ソウジが助かったなら、私は本望。

そこに、迷いはない。

 

 

せっかくここに来たんだし。

二人の話を聞いておこうと思った。

聞かなきゃいけない気がした。

 

 

「シガイアさん達、何の話してたんですかー?」

「…………。」

「…………。」

「うわー……そんなヤバい系の話ですかー……?」

 

 

二人が押し黙る理由。

相当な厄ネタか、私には聞かせたくない理由があるか、だ。

 

 

「……セツヒト、他言無用、そして絶対安静。」

「約束します。」

「……わかった。」

 

 

そこから、シガイアさんとミヤコさんから、とんでもないことを聞いた。

 

 

ソウジが倒した黒蝕竜ゴア・マガラが、復活。

古龍、天廻龍シャガルマガラとして。

場所は、首都西部の禁足地。

その討伐メンバーに……ソウジが加わるという。

そんな話……。

 

 

「……マジですかー?」

「本当だ。」

「わー……。」

 

 

シガイアさんとの付き合いは長い。

この人の本気は、すぐわかる。

 

古龍、復活。

……でも。

 

 

「……ソウジに依頼したのはー?」

「……誤解無いように私から言うけど、中央も切羽詰まってる。……ハンターの数を集めてなお、結構ピンチなの。ソウジ君の手伝いがなければキツいってね……で、派遣されたのが私。」

「ミヤコさんが、直々にー?」

「そう。だから……シガイアさんの独断でもなければ、中央の謀略とかそういうんでもなく……純粋で遠回しな救援要請……そういうこと。」

「…………。」

 

 

ミヤコさんには悪いけど。

首都の考えなんて分からないし、知りたくもない。

 

だが、結構まずい事態ってことは伝わってきた。

 

 

「セツヒトのことだろうから、付いていくって言い出すと思ってな。先に釘を差させてもらった。」

「…………いやー、シガイアさん。流石です。」

「ソウジさんのことに関しては、セツヒトは無茶をしかねないからな。……フォローとして、うちからはハイビスさんを派遣する。セツヒトは、怪我をまず治すんだ。」

「……はーい。」

 

 

……なんて、口では言ってたけど。

私は諦めてなかった。

 

ソウジが、もっと強いモンスターに立ち向かうんだ。

ゴア・マガラで、ボロボロになったのに。

それよりもっと強いやつと。

 

……そんなの、1人で行かせられるわけ、無いじゃん。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

というわけで、ソウジの部屋に侵入した。

窓から。

自分一人を支えるくらいなら、腕もそこまで痛くない。

 

ソウジは部屋にいた。

一人で。

……あれ?チャンス?

 

そう思って、何ならチューでもかましてやろうかと思ったんだけど。

完全にストーカーだと思って自重した。

それに……ソウジの目は、覚悟が決まっていた。

 

この目を、私はよく知っている。

死にに行くようなハンターの、恐れを知らない様な、キマった目。

 

……やっぱり私、行く。

ソウジに、ついていく。

 

 

「いや、危険な狩猟になりますし。」

「いやいやー、私だよー?この天下のセツヒトさんだよー?古龍なんて、ボッコボコにするってー。」

「……………ふっ!」

「!!?」

 

 

ヒュン!!

 

お遊びで格闘の動きの真似をしてみたら。

ソウジがいきなり私にグーパンチを繰り出してきた。

お?何だ?私を試そうってのー?とか、頭の中では余裕ぶっこいてたんだけど。

反応、できなかった。

頭ではなく、腕が。

 

上がらなかった。

 

 

「……俺を庇った、傷ですね。」

「うー……そうなんだけどー。で、でもねー?右手だって戦え―――」

「―――絶対に、ダメです。」

「…………。」

「俺の前で傷つくのは……もう、させたくない。」

 

 

ソウジにもバレバレだったかー。

嬉しいような、悲しいような。

そんな複雑な気持ち。

 

 

「いやー、流石に古龍はねー。ちょっちー……キツいか。」

「ちょっとではなく、キツイですよ。……というか、俺が気づいてなかったら付いてくるつもりだったんですか?」

「…………うん。」

「いや、それは―――」

「―――ソウジが、好きだから。」

「っ!!」

 

 

言っちゃった。

……もう、そのまま気持ちを押し出すことにした。

 

好きだから、心配ですって。

ソウジに、ストレートに伝える。

 

ソウジは、ストレートに弱い。

 

 

「……ただ、それだけ。……ソウジ、目が、本気だから。」

「…………。」

「考えたくないんだよー?でもさー……そんな目をして、消えてった奴なんて、たくさん見てきてからさー……。」

「…………。」

「ふ、不安……なんだよー。うん。本当に……。ついていって、少しでも、ソウジが生きていられるならさー……そりゃー、い、行きたいよねー。」

「…………セツヒトさん。」

「…………。」

 

 

ここまで言って、ソウジは考えた。

 

狩猟は無理かもだけど。

なら、先達として教えられることは山ほどあるし。

私だって、役に立ってみせる。

 

だから、ソウジ。

私も連れてけー、って。

心の中で、全力で念じた。

 

 

「……ダメです。」

「えーーー!?なんでよーー!!」

 

 

はーい、はっきりと断られましたー。

えー!ダメなのー!?って思ったけど。

 

ソウジは私のことをとにかく心配してくれていて。

その気持ちは嬉しかった。

普通の女の子の様に扱ってくれて。

 

 

「……絶対に、帰ります。俺。絶対に。」

「…………約束、だよー?」

「…………はい。」

「…………ま、まぁ?よーし。」

 

 

ソウジが絶対に約束すると、念押ししてきた。

こりゃ、だめか。

 

どさくさでキスもかまそうとしたら、「殺す気か」と言われた。

人の唇をなんだと思ってるんだよー。もー。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

仕方がないのでお留守番。

ワサドラは今日も平和。

 

ソウジ達はとっくに首都に着いた頃かなー。

 

……さーみーしーいー!

まぁしょうがないかー……。

 

 

 

とか思ってたら。

 

私の武具屋に来てほしくない人ランキング、堂々1位の男が、暑苦しくやってきた。

 

 

「セツヒト!セツヒトはいるか!!」

「…………うるさいよー、もー。」

「おお!いたか!よかった!」

 

 

こんな爽やかな朝っぱらから……何の用だ。

冷やかしだったら容赦しないけど。

 

 

「何の用ー?私こう見えて忙しいんだよー?」

「暇そうではないか!いや、可及的速やかに伝えたいことがある!!」

「…………聞くー。」

「うむ!」

 

 

マショルクはふざけた態度にしか見えないけど、目は真剣だった。

この男読めないところがあるけど。

 

すると、たっぷりの間を空けてマショルクが話を続けた。

 

 

「…………雷狼竜だ!」

「…………はあ?」

「首都北西部に雷狼竜が現れた!」

「………………だから、何?」

 

 

雷狼竜。

ジンオウガ。

 

その名を聞いて、拍子が抜ける。

 

確かに、ワサドラ以南にジンオウガは珍しいけど……それがどうしたっていうの。

 

 

「経緯はこうだ!まず、首都西部でシャガルマガラによって引き起こされた超大規模なスタンピードが確認された!」

「まぁ……それはありうるよねー。」

「更に続報!スタンピードは進路を南に向けて変更し始めた!」

「…………北から強いやつが現れたとかー?」

「うむ!私の見立てもそれだ!ギルドが対応に追われているそうだ!」

「ふーん……。」

 

 

別にまぁ、おかしいところはない。

いや、おかしいっちゃおかしいのかなー。

 

進路を……変える?

必死こいて逃げてたモンスターたちが?

そんなことって……。

 

 

「…………マショルク。」

「ん!?なんだ!」

「…………まだ続き、あるんでしょ?」

「…………ああ!」

「勿体つけずに教えて。」

 

 

だから何が言いたいんだコイツは。

ソワソワし始める私。

 

何だかなー……。

すごく嫌な予感がする。

 

 

「……更に更に続報だ!その山地帯に出現……いや、観測されたジンオウガ。」

「…………?」

「…………体色が、通常と比べて黒っぽかったそうだ!!」

「!?」

 

 

ジンオウガ。

黒。

進路を変えたモンスター達のスタンピード。

強力個体の出現の可能性。

山地帯。

 

…………。

 

 

「………………獄狼竜?」

「確度は低い!だが!」

「…………。」

「……嫌な予感しかせん!!!」

 

 

わかる。

……その感じは、分かる。

 

私だって。

黒っぽいジンオウガなんて聞いたら。

 

獄狼竜(ヤツ)としか、思えないよ。

 

 

「……どこ情報?」

「ワサドラギルドの方の観測班だ!!首都ギルドは唯のジンオウガだろうと結論づけて、動き出すか迷っているところらしい!!」

「……。」

 

 

はっきり言うけど。

 

アイツは、別格中の別格。

全盛期の私が、良いようにやられた相手。

私の……私の周りの人たちみんなの、因縁の相手。

 

でも、すでに首都が動いているかもしれない。

 

そんな状況なのに。

マショルクは、アホ丸出しの提案をしてきた。

 

 

「セツヒト!!」

「なに。」

「行くぞ!!」

「……どこに。」

「その山地帯、ジンオウガのところにだ!!」

「…………アンタ、バカなの?」

 

 

ここから首都まで数日の距離。

そこから更に北西に向かって半日の場所、それが山地帯。

禁足地よりは近いし、ワサドラとザキミーユの管轄の狭間。

 

……とはいえ。

 

 

「……間に合う訳無いじゃん。首都もアホじゃないし?ヤバい奴の可能性があるなら、もう行ってるんじゃない?」

「うむ!それはそうだ!!討伐に向かっている間に、ジンオウガもどこにいくかわからんだろう!普通に向かっては、我々が間に合うわけがない!」

「じゃあーーー」

「普通では、だがな!!」

「普通普通ってうるさ……アンタ、まさか……!!」

「ああ!」

 

 

実に自慢げに、そして誇らしげに胸を張ったマショルクが、大声で話す。

 

 

「アレに乗れば、間に合うかもしれん!!」

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

ヒュオォォォ…………!!

 

 

風が強い。

いや、そうじゃない。

私達が、速いんだ。

 

ビシビシと顔に当たる風。

鼻の上まで布を覆ってきたけど……寒すぎ!!

 

 

「うっわー……寒っ!!」

「何だだらしない!セツヒトは北の山出身だろう!?」

「それでもー!キツいもんはキツいってのー!!」

「ハッハッハッ!!だが!速いだろう!!」

「確かに……移動速度はダンチ!」

 

 

マショルクが提案してきた、とんでもない手段。

普通じゃない、移動方法。

 

 

……竜便に乗って。

いや、ぶら下がって移動するという。

 

 

…………まぁその辺の人からしたら、ただの自殺行為だよねー……。

提案に乗った私も私だけどさー。

「前の貸しは、これでチャラだな!」なんて言われたら、もう行くしかなかった。

 

 

竜便。

ギルド自慢の、この大陸最速の情報伝達手段。

ギルドでもトップレベルの人間しか使えないこれは、はっきり言って人が運ばれるものではない。

 

常人ならざる腕力と何より度胸が必要。

そりゃー……私とかマショルクならワケないけどさー。

怪我も、自分を支えるくらいならそこまで痛くはない。

 

 

「メルノス……だっけー!?これー!?」

「あぁ!!ギルドの中でも最速の二体だ!!力も強い!!」

「それはすごいけど……!うわっ!?」

「気をつけてくれ!バランスを取り間違えると、地上に真っ逆さまだ!!」

「そういうのは乗る前に言えっての……。」

「ん!?何か言ったか!!」

「……なんでもない!!」

 

 

風切る音で、マショルクとの会話は常に大声。

まぁマショルクは常に大声だけど。

 

 

ヒュオォォォ……!!

 

 

この風だ。

よく聞こえないったらない。

 

 

翼竜という、モンスターの中では比較的おとなしいモンスター。

この大陸には生息しておらず、今ぶら下がっているコイツも多分外から連れて来られた翼竜種。

ギルド専属の調教師が、野生の翼竜を飼い慣らして、荷物や郵便の運搬等に使えるよう鍛えたモンスターだ。

 

ザキミーユにしか居ないってことになっているけど……。

 

 

「シガイアさんの許可が取れて良かった!」

「……私が狩猟に向かうことはー?」

「黙っている!」

「……なーんか悪いことしてる気がしてきた。」

「実際悪いことだ!シガイアさんのお気に入りの二体をこのように扱ってはな!しかもお前は絶対安静!……はっはっはっ!!これは怒られるな!!」

「……笑うな!!」

 

 

シガイアさん秘蔵の翼竜。

それを、二体持ち出す。

しかも、私が。

 

……どうやったって、シガイアさんに大目玉を喰らうだろうなー……。

 

 

「……セツヒト!大森林を抜けたら一度降りる!」

「降り方ってどうやるの!?」

「フィーリングだ!!」

「……アホかー!!」

 

 

獄狼竜とかシガイアさんとか言う前に、私無事でいられるのかなー。

 

とにかく頑張って、私とマショルクは降下した。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

ワサドラから首都までの道のりは、どう頑張っても数日はかかる。

南西に向かって行き、大森林を迂回してチダイを経由。

南下を続けて、首都へ。

 

だが空を飛ぶことで、目的地の山地帯まで直線で進める。

 

一日足らずでたどり着くことができた。

竜便が早いわけだ。

 

タオカカから一日ちょっとで首都に文が届くんだから、そりゃ早いって分かってはいたけど。

すごい。

 

 

「………では!メルノス達はここで首都へ!行けっ!」

 

 

バサッ……。

 

 

文句も言わずに飛び立つと、あっという間に南東、首都方面に飛び立った二体。

私達とその荷物を降ろして本来の重量に戻ったからか、軽々と去っていった。

 

 

「…………帰りは歩きで首都へ行くとしてー……山地帯って初めて来たなー。」

「……私は何度もある!だが!……ここまで異様なのは初めてだな!」

 

 

相変わらず暑苦しく話すマショルク。

だが流石に歴戦の猛者。その指摘は合っているだろう。

 

周囲に生物がいる感覚は無く、感じるのは異様な気配。

 

いるねー……これ。

 

 

「もう少し西だな!……セツヒト!動けるか!?」

「今更聞くなっつーの。……いけるよ。でも、過度な期待はしないで。」

 

 

……ジャキン!

 

 

徐ろに取り出した双剣。

一回振っただけでわかる。

 

恐らく、そこまで動けはしない。

 

 

「……多分、前みたいな動きはできない。陽動に徹する。」

「ああ!それでいい!私がいる!」

「……はいはい。」

 

 

ムカつく。

ムカつくけど、頼もしいっちゃ頼もしい。

 

その辺の信頼は厚い。

 

 

「………うわっ……。」

「………………凄まじいな……。」

 

 

山地帯の山を登り、ふと西に目を向けた。

眼の前の光景に、胸が痛くなる。

 

遠く見える、山。

その一つが、黒い霧で周囲をドス黒く覆われていたからだ。

 

アレが、例の古龍の影響だというのだから、凄まじいというほかない。

あそこに、ソウジが行く……。

 

 

「マショルク。」

「ん?何だ?」

 

 

唐突に聞いてみる。

なぜ、私を連れてきたのか。

 

わかりきってること、だけど。

 

 

「何で……私を、ここに?」

「…………ソウジ君についてきたかったのだろう?」

「…………。」

「何もしないで黙ってソウジ君を待つなど、セツヒトは辛いだろうと思ってな。それに……仮にここにいるのが獄狼竜だとした場合だ。……お前の枷を外したいと思った。」

「枷?」

「あの時のように、悲劇は生ませない。獄狼竜なら、首都近郊の住人はただでは済まない。おとなしい個体ならば見逃してもいいが……観測班に見つかるほどだ。やつは、動いている。」

「…………。」

「今回は。今回こそは。我々が倒す。引導を渡し、過去の私達を払拭する。……それが、セツヒトを連れてきた理由だ。」

「…………。」

 

 

ムカつくやつだけど。

コイツは、一貫して自分の正義を貫いてきた。

 

今回も、かなりの無茶をして私をここに連れてきた。

私も、何も言わずに付いてきた。

 

 

「……急ごう、マショルク。何か、雰囲気がおかしい。」

「…………ああ!」

 

 

礼は言わない。

心の中で感謝はしておこう。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

山地帯は、はっきり言って狩り場には向いていない地形と言えた。

ゴツゴツでむき出しの岩場が多く、日の当たらない場所には苔むしたものまである。

峻険な、とまでは言わないが、傾斜は多く、広き場所は少な目。

そこかしこにある木々も含めて、モンスターが身を潜めやすい場所とも言えた。

 

 

まぁ、どこだろうと油断などしない。

私達はG級。

気の緩みがあっては、ここまで生きてこられてはいない。

 

 

自然と言葉を控え、嫌な予感がする方へ進む。

 

 

極限まで集中していたからだろうか。

それとも、過去の記憶が呼び起こされたからか。

それはわからない。

 

わからないが。

 

 

「…………マショルク。」

「…………。」

 

 

スッ。

 

 

つぶやくような私の声を聞き逃さず、身を低くするマショルク。

この辺りの察しの良さは、流石。

 

一声で、状況を把握したようだ。

 

 

 

大きめの木の裏に身を潜めた私達。

その向こう。目立った音は聞こえない。

 

だが、木々が触れ合う僅かな音がして。

その草木のさざめきに違和感を感じた。

 

そして、身をかがめた直後。

 

 

 

遠く向こうに、見えた。

山地帯の中腹に。

 

禍々しい体色。

この山に似つかわしくない、黒と白。

時々弾けるように、体から発せられる赤い雷光。

凶悪な色合いは、全身の棘々にも散見される。

 

何より、ようやく見えた頭部。

 

折れた角が、見えた。

あの時私がへし折った、角。

 

 

……間違いない。

 

間違いなく、ヤツだ。

 

ジンオウガ亜種。

 

 

 

獄狼竜。

 

 

 

 

「…………。」

「…………。」

 

 

言葉を、出せないでいた。

私達、二人とも。

 

怖気づいているわけではない。

寧ろ、迸るほどの感情を抑えられない。

興奮、怒り、悔しさ、悲しさ、後悔。

色んな思いが、頭を渦巻く。

 

唯一つ、私の心の中で共通して響くのは。

 

 

アイツが、憎い。

 

 

「………………っ!!」

「…………。」

 

 

私が、抑えきれぬ殺気を放とうとすると。

マショルクが、手で制してきた。

 

間合いを測れ、と。

落ち着け、と。

 

そう言ってる気がした。

 

 

「…………。」

 

 

コクン。

 

 

素直に応じる。

そうだ。

 

ここで逃すわけには行かない。

 

ヤツは、気づいていない。

己を屠る、ハンター達の姿に。

 

 

 

落ち着け。

奴が、一歩一歩、足音も立てずに近づいてくる。

流石の足運び。

無双の狩人……雷狼竜に遥かに勝る強さ。

 

一つひとつの所作からも、その強さが伝わる。

 

 

そして。

 

正面に位置する私達には、気づいている様子はない。

 

 

焦れる。

焦れるが、焦らない。

チャンスを。

初撃の間合いを、逃すな。

 

 

迫りくる、対決の時。

雌雄を決するまで。

 

 

あと、数十秒。

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