モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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再びのセツヒト視点です。
164の⑤の続きになっています。


167あるソロハンターの話⑥

息遣いが聞こえるほどには、近づいてきている。

獄狼竜。私の、因縁の相手。

 

抑えきれない衝動を、必死に抑える。

 

 

(屠る……殺す……ヤル……!!!)

 

 

そんな漏れ出そうなほどの殺気を抑えられたのは、マショルクのおかげだった。

隣にこいつが居なかったら、もう今頃私は一撃をお見舞いしている。

だが、私の体は万全ではない。

いいようにやられるのが目に見えている。

 

助けられた。

……うん、落ち着いてきた。

 

 

「…………。」

 

 

スッ……スッ……。

 

 

歩みを止めることなく、静かに進む獄狼竜。

その動きが、モンスターとしての凄みを実感させる。

 

すぐにでも次の動作へ移せるような、そんな足運び。

音もわずか。この体重でそれはすごい。

わたしたちには気づいていないようだが、一度姿を現せばたちまちのうちに激しい攻撃を喰らうことだろう。

 

強い。こいつは、相変わらず。

 

 

(角……無い、ねー……。)

 

 

あの時。

へし折ってやった、自慢の角。

その形と全く同じ。

 

こいつは、()()

 

あの時の。

よくも……みんなを!!

 

 

(……セツヒト!!)

「あ。」

 

 

迂闊だった。

 

ヤツだと、そう認識を改めた瞬間、

溜めに溜めていた感情が。憎しみが。殺気が。

 

少し、こぼれた。

 

 

「……グワァァァァァァァ!!!!」

「ちぃ!!セツヒト!!跳べ!!」

「くっ……!!」

 

 

気づかれた。気づかれてしまった。

私たちの存在を。

油断しているヤツに、一発ぶちかます予定が、その作戦が。

崩れた。

 

 

「ガァァァァァ!!」

 

 

ズガァン!!

 

 

獄狼竜は、モーションも何もなしに、赤黒い何かを激しく打ち下ろしてきた。

閃光、雷光、いや、もっと恐ろしいなにか。

どこか気味の悪い赤と黒。

これが、かなり痛い。

 

私とマショルクは、左右に広がった。

 

 

「セツヒト!横からいけ!!私は援護する!!」

「……うん!!」

 

 

油断したのは悪かった。

いや、最悪だった。

未熟すぎる。

 

 

「ガァァァ!!」

「ふん……動きは変わんない……ね!!」

 

 

ガッ……。

ヒュッ……ザザザザザザシュッ!!

ズザン!!

 

 

連続で振り下ろされる、その前脚。

駄目な自分を払拭するように、交わして、一撃だけ入れる。

 

飽きるほどにイメトレで回想した、ジンオウガお得意の連続攻撃。

雷狼竜と変わらない。

違うのは、その回数と尋常じゃない速度。

 

コツは、怖気付かないこと。

 

 

「ふっ……!」

 

 

懐に入り込み。

 

 

「うらぁあぁぁ!!!」

 

 

ズザアァ!!!

 

 

「ギャァァァァァ!!?……グルルルル……!!」

 

 

斬り刻む。それだけ。

 

 

 

憎い。

鳴けばいい。

苦しめばいい。

お前は、それだけのことをしたんだ。

 

許さない。

……許さない許さない許さない!!

 

 

「まだまだぁ!!」

「!!!よせっ!セツヒト!!」

 

 

マショルクの警告が聞こえた。

だが、怒りに任せた私の体は、もう動き出していた。

その頭部めがけて狙いすました追撃は、止まらない。

 

 

(あ。)

 

 

そして、またしてもやってしまった。

そうだ、こいつには。

 

 

「ガァァァァァ!!!」

 

 

ズガァァァァァァァ!!

 

 

カウンターがあったんだ。

 

 

ドガァッ!!!

 

 

「ぐうっ!!!!」

 

 

ドン!……ドン!……ゴロゴロゴロゴロ……。

 

 

体ごと、地面に吹っ飛ばされた私。

なんとかその勢いを止める。

 

 

「……ごめん……油断したー……。」

「セツヒト!!無事か!!」

「んー……へーき。」

 

 

五体確認。

うん、異常なし。

擦り傷は勘定に入れてないけど。

 

 

「……ヤツの放電は、ノーモーションか……。」

「うん。……いや、ごめん。今のは私の油断だよ。……もうやんない。」

 

 

そうだった。

雷狼竜とは違うところ。

その一つが、帯電と放電の仕方。

まず、ジンオウガの放電の正体である雷光虫は、獄狼竜にはない。

その生態とかはまるっきりわかんないけど、赤黒いアレは間違いなく雷光虫ではない。

 

もっと恐ろしい何か。

 

だから、マショルクの言う放電攻撃は、正しくは放電ではない。

まぁどっちでもいいんだけどさ。

 

 

大切なのは、その速度と威力。

頑丈な私が吹っ飛ばされて怪我をするぐらいには強くて、最強の私が反応できないほどの速度で帯電、放電するってこと。

 

これは、並のハンターならやばい。

ソウジならどうかなー……避けるのうまいからなー。

 

 

「うむ!私も気をつけることとしよう!いくぞ!!」

「……言われなくても!!」

 

 

憎しみが、冷静さを欠く。

よくある話だけど、自分がそうなっちゃうなんて。

 

未熟だ。

 

 

「でもっ……!!」

 

 

ズガガガガガ!!

 

 

マショルクの援護射撃が、獄狼竜の頭を弾く。

 

 

「グアッ!?」

「負けない!!」

 

 

心を囚われてはいけない。

思い切りを、冷静に、相手にぶつける。

 

 

ザザザザザザン!!

ザシュ!!ヒュパ!!

 

 

「ガァ……!!」

 

 

ザッ。

 

 

攻撃してもなお、呼吸はそのままに。

基本のキ、だよねー……思い出したよ。

 

 

「グルルル……。」

 

 

憎々しげにこちらを見つめる獄狼竜。

そう、それでいいよ。その感情にお前が囚われる限り。

 

 

「…………スキができるからねー!!」

 

 

ヒュッ……。

 

 

「ガァ!?」

 

 

獄狼竜には、私は見えたのか。

そこまではわからないけど。

 

私の動きを捕らえるのは、そう簡単じゃないよ。

 

 

「…………ふんっ!!」

 

 

ザン!!

 

 

「ギャァァァァァァ!!?」

 

 

一発。

私は瞬時に後ろに回り込み。

ムチのようにしなった体を使って、最大の一撃を叩き込んだ。

 

尻尾めがけて。

 

こいつがうっとおしいのは、尻尾。

斬ってやりたい。

 

 

「うむ!力みのない、素晴らしい一撃だ!」

「あんが……と!!」

 

 

トンッ……。

 

 

「らぁっ!!!」

 

 

ザザザザザザザザ!!

 

 

「ギャァァァァァァ!!」

 

 

私はそのまま尻尾から飛び。

背中に連続斬りを叩き込んだ。

 

尻尾を攻撃された瞬間の、一瞬のたじろぎ。

逃すか。

 

 

「うむ!!」

 

 

ズガガガガガガガ!!!

ビシッ!ビシビシビシビシ!!!

 

 

「ギャァァァァァァ!!?」

 

 

マショルクの恐ろしさ。

それは、とにかくその射撃の精度にある。

これはもはや、天賦の才としか言えない。

 

どんな体勢だろうが、どんな弾だろうが、外すのを見たことがない。

風、気温、湿度。

銃身の温度、射出から狙いまでの弾のブレ。

自身の体調、傾き具合まで。

余すところなく、計算のうち。

 

……現に私が剣を当てたところに、寸分違わず弾を撃ち込んでいる。

 

流石の私も、これはできない。

 

 

「…………グルルルルル…………!!」

 

 

私を睨みつけながら、憎々しげにこちらに殺気を向けてくる獄狼竜。

強いね。

 

強いけど。

 

 

「…………負けない。」

 

 

それは、獄狼竜に、なのか、マショルクに、なのか。

自分でもわからないけど。

 

 

「ここで、お前を、殺す。ハンターとして。」

「…………ガァァァァァァ!!!」

 

 

なんて、かっちょいいことを言って、私は獄狼竜に突っ込んだ。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

獄狼竜は、呆れるほどの体力だった。

いくら斬り刻もうと、いくら撃ち込もうと、その様子に変わりはない。

 

でも、ね。

 

 

「体力で私達を凌ぐのは、ちょっち無理ー?」

 

 

ヒョイッ。

 

 

「ガァ!?」

「ふっ……!!」

 

 

ズザシュ!ザザン!!

 

 

「ガァァァァ!!」

 

 

先程から、同じことの繰り返し。

避けては刻み、弾丸が援護し、スキを作っては刻み、避け……。

認めたくはないが、マショルクのおかげか、攻撃のルーティンができつつある。

 

私一人では到底無理だった狩猟方法。

これが、あの時出来ていればと思う。

 

 

「私()、とは!嬉しいぞ!セツヒト!!」

「うるさい!!一緒にすんなー!」

「はっはっはっ!照れるな照れるな!!」

 

 

ジャキィ!!

ズガガガガガガガ!!

 

 

ビシッ!ビシビシビシビシッ!!

 

 

「うむ!いいな!」

(認めたくないけどねー……すごいよ、コイツは。)

 

 

射撃に必要な、もう一つの要素。

何事にも揺れない、精神力。

それが、正確無比な一撃を更に恐ろしいものに変える。

コイツにヘビィボウガンをもたせたら、右に出るやつはいないと思う。

私はお構いなしに突っ込んでいるけど、射線を切られないように移動しながら、私に指示を飛ばしながら……。

 

認めざるは、得ないよね。

 

 

「……しかし!こいつは強い!!くぅ!!たまらんな!!」

 

 

そしてアホなことも言いながら。

 

実力だけは、世界一なんじゃないだろうか。

嫌いだけど。

 

 

「グルルルルル…………!」

 

 

ようやく疲労の色を見せ始めた獄狼竜。

いや、そんな感じがしただけ、だけど。

なんとなく、分かる。

 

 

「マショルクー!!」

「あぁ!!」

 

 

二つ返事。

アイツにも分かるか。

流石。

 

 

「一気にいくよー!」

「あぁ!!とっておきを見…………セツヒトぉ!止まれぇ!!」

「え!?」

 

 

マショルクの指示が無かったら、私はどうなっていたのか。

わかんないけど。

とにかく、助かった。

 

だって。

 

気づいたら、獄狼竜の脚が、()()()()()()()()()()()()()()から。

 

 

「……は?」

「退避ぃ!!」

 

 

ジャキ!

ズガガガガガガガ!!!

 

 

「くっ……!」

 

 

すんなり終わるとは、思っていなかったから。

だから、止まれた。

 

気づいたら、攻撃を終えた脚が地面にあった。

つまり、要するに、ヤツは。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけだ。

 

 

「…………わぁお、やるねー…………。」

「…………気をつけろセツヒト!どんな隠し玉がわからない!!」

「…………りょー!回避に徹する!」

「あぁ!!」

 

 

冷静なんだけど。

怖さがあった。

 

何かわからない攻撃ほど、恐ろしいものはない。

それが強烈無比な、命を刈り取るものならなおさら。

 

 

(しかも、マショルクの目ですら追えない……?)

 

 

視認できなかった?

 

…………わからない。

わからないけど……。

 

 

「あの時は、本気じゃなかったってわけだね……!」

 

 

あの時。

ミヨシ村が襲撃された、あの日。

 

村を気にせずに、周りに人もいなければ、私はやれたと思う。

頭の中で、何度も何度もシミュレーションしてきた。

 

でも違った。

 

想定外の攻撃。

 

何をした?どうやった?

考えてもわからない。

 

ただわかるのは……。

 

 

(……上っ!!)

 

 

嫌な感じがした方向から、逃げなければいけない、と言うことだけ。

 

 

ズガア!!

 

 

(下から振り上げ!!)

 

 

ヒョイッ。

 

 

グワァ!!

 

 

目にも止まらない、というのは、こういう攻撃を言うんだろう。

超速の連撃。

その風切る音が、鼓膜に響いてキーンと痛い。

 

それを避けられている私。

なぜかなんて、自分でも分からない。

 

 

「セツヒト!!引け!!無理はするな!!」

「わかって……いるけど!!」

 

 

そんなこと、いうけどさ。

無理をして避け続けない限りは、ジリ貧。

感覚を研ぎ澄ましまくって、なお鋭敏に保って。

ようやく、これ。

逃げようものなら、猛追に猛追を食らって、殺される。

間違いなく。

 

……きっつい。

 

 

なんて、少しの弱音が心をよぎった、その時だった。

 

 

ズキイ!!!

 

 

「っ〜!?」

「セツヒトぉ!!くっ!!」

 

 

避けるしかない、連撃。

相当に、体に無理をかけた。

無理な体勢で体をひねった、その瞬間。

 

右肩に、痛烈な痛みが走った。

 

 

(赤黒い……キズ……!?)

 

 

目の端で捉えられたのは、自分の右肩の血。

その向こうには、赤黒い光。

 

 

(反応……したのに……!)

 

 

反応はできていた。

少なくとも、直撃は避けられた。

 

でも、相手は手負いの獄狼竜。

火事場の馬鹿力なのかわからないけど。

やられかけのモンスターほど、手強いものはない。

 

何か、された。

 

油断はしていない。

体力も負けていない。

あるならば、それは反応速度の負け。

 

私の速さを、ヤツのわけわからない攻撃が上回った。

 

それだけのこと。

 

 

「セツヒトぉ!!!」

 

 

ガガガガガガガガガ!!!

 

 

強烈な弾の音がする。

マショルクの声が近づいてくる。

 

私は、腕が上がらなくなった。

もう、完全に。

 

痛みが、頭を鈍くする。

 

 

「ガァッ!!」

 

ヒュオン!!

 

 

短い、獄狼竜の叫び。

同時に攻撃が私にくる。

音が聞こえる。

だが、足が反応できない。

 

やばい。

 

ヤバイヤバイヤバイ。

 

 

頭の中で分かる。

なのに、体は動かないって。

最悪じゃん。

 

死が目の前に迫るというのに。

私は、アイツのことを考えていた。

 

 

 

 

ソウジ。

 

 

 

…………ソウジ、ゴメンね。

 

 

 

死ぬかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらぁ!!!!!!」

 

 

 

ズドゴォ!!!

 

 

「ギャァァァ!!?」

 

 

グラッ……。

 

 

「えっ。」

「もういっ……ちょおぉぉぉ!!!」

 

 

ドゴォォォ!!!!

 

 

「ギャィン!!?」

 

 

とっくに死んだと思っていた。

でも、生きてる。

 

 

「セツヒト!!動けるか!?」

「あ、アンタは……。」

「………………全く!!さすが、いいタイミングだ!!」

「うるせぇよ馬鹿野郎!!しっかりお前が援護しやがれ!!」

「……はっはっはっ!!すまん!!ちょっとヤツは強すぎる!!」

「ったく……せ、セツヒト!!お前、その、無事か!?」

「…………あ、うん…………。」

 

 

死んだと、そう思ったら。

バカでかい何かが、獄狼竜に突っ込んで。

 

その攻撃が、外れた。

 

バカでかい……でも、懐かしい。

ハンマー。

つるっつるのハゲ頭。

 

 

「……は、ハスガ、さん。」

「…………おぅ。元気そうじゃねえか。」

「…………。」

「…………悪い、遅れちまった……ていうかお前ら、なんでいるんだよ!!どうやって来た!!」

「はっはっはっ!!企業機密だ!!」

「…………竜便か……無茶しやがる…………。」

 

 

私は。

助け、られた。

 

覚えてる。

忘れられるわけがない。

 

これは、()()()だ。

 

 

「…………話は後だ!ハスガ!ヤツは結構ダメージを食らっている!!」

「お前が言うなよ……ていうか、あれ獄狼竜かぁ?……ソウジ達の見立ては合ってたなぁ……。」

 

 

そうか。

ハスガ……さんは、初見。

 

 

「……まぁ……俺らが揃ったなら、負ける気がしねぇけどよ。」

「…………は、ハスガさ―――」

「セツヒトォ!!」

「う、うん!!」

「お前からもらった毛生え薬!全く効き目がねぇ!!後で色々聞くことがあるからよ!!」

「うん……。」

「…………一緒に、狩るぞ!!」

「あぁ!我々で屠るぞ!!セツヒト!!!」

「…………うん、りょうかーい!!」

 

 

体が、漲る。

心が、昂ぶる。

腕は上がらない。

だから、何だ。

 

やれることはある。

 

 

私達は。

私達なら。

 

 

無敵だ。

 

 

 

「さて!獄狼竜!!」

「グルルルルル……。」

「死ぬほど素早い前衛1!そしてバカなほど強烈な一撃のある前衛2!そして完璧な援護の後衛!!」

「グァ……。」

「流石に同情する!我々に負ける要素が無くなった!!」

「…………グァァ………。」

「…………とっとと倒れるがいい!!全員突撃ぃ!!」

「なんでお前が仕切るんだ……よっと!」

「ふっ……!!」

 

 

不思議だ。

マショルクへの憎しみが、消えた。

ハスガさんにだって。

 

だって。

 

この人たちは。

 

あの時の、そしてさっきの……命の恩人だ。

私を、二度も助けてくれた二人。

 

 

 

借りは…………返さないとねー!!

 

 

 

「ははははははは!!」

 

 

ズガガガガガガガ!!

 

 

後ろからは、弾丸の射出音。

笑いながらぶっ放すマショルク。

その射線の中を、お構いなしに突っ込む。

 

だって、マショルクだ。

 

私達に、当てる訳が無い。

 

 

ヒュン……!!

 

ズザッ!!

ザザザザザ!!

 

 

ちょっと突っ込み気味に、獄狼竜の体を斬り刻む。

隙だらけの私。

 

 

「ガァ!!!」

 

 

まぁ、反撃は来るよね。

しかも、超速の、私の反応を超えたやつ。

 

このままなら、私は八つ裂き。

 

でも。

 

 

「らぁっ!!!!」

 

 

ドゴォォォ!!!

 

 

「ギャァァァ!!?」

 

 

こっちばかり狙ってたら、痛いしっぺ返しが来るよー?

 

ハスガさんの渾身の一撃を喰らい、フラつく獄狼竜。

どんなに超速の攻撃だろうと。

当たらなければ、どうということはない。

 

 

「ガアッ……!!」

 

 

ハスガさんのハンマーの威力は、もう半端ない。

加えてその速度と弱点を狙う正確さ。

 

私からすっかり目を離し、ハスガに対峙する獄狼竜。

 

うん。そうなるよね。

ハスガさん強いもんねー。

 

…………悪手、だよー。

 

 

「ハッハッハッ!!!」

 

 

ズガガガガガガガガガガ!!!

 

 

ビシビシ!!ビシィッ!!

 

 

「グァァ!!!」

 

 

攻撃は、私達一人ひとりのものではない。

私達が連携を取れば、それは一つの大きな生き物のように。

うねりとなって、襲いかかる。

 

攻撃の手を絶やさない。

 

しかし……容赦ないねー、マショルク。

目に飛び込んだ弾丸に、獄狼竜が怯んでいるよ。

 

 

「セツヒトを傷つけた恨み、返させてもらおう!!」

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガ!!!

 

 

「フハハハハハハハハ!!」

 

 

恨みを返す……?

……いやー、あれはむしろ楽しんでるようなー……。

 

そんな時。

 

 

「ガァッ!!!」

 

 

バリバリバリ!!

ドオォン!!

 

 

獄狼竜の放つ赤黒い閃光が、辺りに散らばり始める。

コレだ、これが痛い。

 

これを食らっては、こちらの波状攻撃が止まる。

 

一人の例外を除いて。

 

 

ズガア!!

 

 

「ぬぉっ!!」

 

 

一番近くにいたハスガさんに、直撃した。

 

 

「グゥゥゥ……!」

 

 

あ、油断しないほうがいいよー、獄狼竜ー。

 

 

「…………何勝ち誇った顔してやがる!!!」

 

 

ブォン……。

ドガァッ!!!!!!

 

 

「ギャィン!!!??」

「はっはっはっ!!相変わらず丈夫だな!!ハスガ!!」

「うるせぇ!痛えんだぞ実際!!」

 

 

ハスガさんは相変わらず強い。

もう、人間としての強度は軽く超えていると思う。

…………人間かなー、あれ。

 

 

なんてことを考えながら。

おそらく、そろそろ私に目を向けるであろう獄狼竜の、その呼吸を読んで。

 

私は、瞬時に動いた。

 

 

「ガァ!!」

 

 

ズドォ!!

 

 

地を抉る、その爪撃。

しかし、私はそこにはいない。

 

 

「ここだよー。」

 

 

余裕綽々。

来るとわかっているなら、避けるのなんて朝飯前。

 

 

「ふっ……!!」

 

 

ヒュイッ……ズザザザザザザザ!!

ザシュッ!!

 

 

「ギャァァァァァァァ!!!?」

 

 

ザン!……ドンッ!……ドサ……。

 

 

ぶっとい尻尾が切れて、宙を舞った。

 

私がやったこと。

視界に入らないように、獄狼竜の瞬きのスキを盗んで移動。

あとは、回り込んで、尻尾を狙う。

それだけ。

手元にあるしっぽなら、腕は振れる。

上がらない腕だって、まぁ使いようだねー。

 

尻尾が切れたのは、ラッキー。

 

 

「おー、切れた切れた。へっへー。」

「…………あいつが一番エグいな…………。」

「はっはっはっ!!さすがソロのG級は伊達ではないな!!」

「……ホントに強くなったなぁ、セツヒトよぉ……!!」

 

 

嬉しいこと言ってくれるけど。

とっととアンタらも、攻撃してー。

流石に一人はキツイってー。

 

 

「マショルク!潰すぞ!!多少俺に弾当てても構わねぇ!」

「はっはっはっ!安心しろ!!絶対に仲間には当てん!!!」

「そりゃ結構!!」

 

 

二人が笑いながら獄狼竜に突っ込む。

その姿を見て。

どこか懐かしいと思った。

 

 

…………。

 

 

その後は、もうムチャクチャだった。

獄狼竜は私達3人に対して、代わる代わる攻撃を繰り出してきた。

でも、ちょっとねー。

 

 

多勢に無勢ー?

 

 

少しずつ、だが確実に体力を減らしていく獄狼竜。

だが、油断はしない。

冷静に、きっちりと、命を刈り取る。

 

落ち着いて……落ち着いて……。

 

 

「……おい!セツヒト!!」

「な、なにー!?」

 

 

ハスガさんが、戦闘中なのに思いっきり話しかけてきた。

そして、冷静になろうという私に、とんでもない事を言ってきた。

 

 

「……遠慮なんかするんじゃねぇ!!」

「え……。」

「全部叩き込んじまえ!!俺たちへの恨みも、村のみんなを失った悲しみも!!フン!!」

 

 

ドゴォォォ!!

 

 

「グァァァァ!?」

 

 

怯む獄狼竜。

ハスガさんは器用に攻撃をしながら、なおも言葉を続ける。

 

 

「憎しみも、苦しみも全部!!」

「ハスガさん……。」

「冷静さなんかいるか!!お前の今までを、ぶつけろぉ!」

「………………はいっ!!!」

 

 

いいんだ。

なんだ。

それでいいのか。

 

…………なりふり構わず。

 

 

怒りを、ぶつける…………!!

 

 

 

そこからはもう、凄惨に。

強烈に、力を込めて。

 

心構えなんて気にせずに、自分のできる限りを全てぶつけた。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

「しっかし……遠目にお前らを見つけたときは、何の冗談かと思ったぜ。」

「冗談でもいいよー……こいつと二人きりとか、今でも虫酸が走るもん。」

「ハッハッハッ!!セツヒトは冗談が上手いな!!」

「本気だってのー!このバカマショルク!!」

 

 

獄狼竜。

私の中で、最強の敵。

屠るべき、最も憎い相手。

 

それが今、骸となって私の前に横たわっている。

 

倒した。

倒したけど。

 

…………。

 

感慨とか、そういうのは……無いかなー。

「そっか」って感じ。

 

ハスガさんの言うとおり。自分の全ての思いと技をぶつけた。

獄狼竜は、ついに私達に反撃もままならないまま、倒れ伏した。

 

……スッキリしたわけじゃないけど。

ありったけの思いを爆発させたから、少しは気が晴れた。

 

ミヨシやタオカカ、アヤのみんなに、後で報告しよう。

 

 

 

そんなことを考えていると、ハスガさんが近寄ってきた。

相変わらずでっかい。

頭は、そのまんまなんだねー。

 

険しい顔をして、私に頭を下げる。

 

 

「セツヒト……。その、なんだ。」

「んー?」

「…………あの時は。いや、今もか。……苦しい思いをさせてしまって、すまなかった。」

「…………うん。」

「……いや、『うん』ってお前。」

「……わからないんだよー……二人には、カホ・チータのみんなには……恨みもあるし感謝も恩もあるし……でも、今日だって助けられたしさー。」

 

 

ハスガさんは、そのでかい体を折り曲げて謝罪してきた。

今更……なんだろうけど。

 

それで何かが終わるわけでも始まるわけでもない。

死んだ皆が帰ってくるわけでも、報われるわけでもない。

 

ただ、わかるのは。

この二人が、カホ・チータが、あの日のことをしっかり想っていたってこと。

忘れずに、今だって。

 

それでまぁ、いいんじゃないかって……思えた。

 

私は、感謝も怒りも、もう色んな気持ちがごちゃまぜになってたけど。

うん。このままで、いいや。

全てを抱えて、これからも生きていこうと思う。

 

 

……それに、今は。

ソウジが気になって、しょうがない。

 

 

「…………ハスガさん。そんなことよりー……ソウジとショウコちゃんは、どうなったのー?」

「……あぁ。そうだ、気になるよな。」

 

 

古龍、天廻龍シャガルマガラ。

獄狼竜より弱い、なんてことはないだろう。

 

ピンチなら、すぐに向かいたい。

 

 

「さっき、緑の信号弾を打った……だが、あの霧だ。見えてねぇかもしれねぇ。」

「緑の?」

「あぁ。ソウジたちには伝えたんだがな?コッチのカタがついたら、連絡するってよ。だが、黒い霧は晴れてねぇ。もしかしたら、今まさに、やってる時かもしれねぇ。」

「…………ソウジ…………。」

 

 

心配するな、なんて無理だ。

できるなら、今からでも向かいたい。

 

ソウジなら、やってくれると思う。

私が惚れた男が、負けるわけない。

 

…………と思いたいんだけど。

 

 

「…………ソウジのところ、行きたい。」

「…………ま、そう言うよなぁ。」

 

 

だって、近くにいたいんだもん。

 

 

「……うむ!ハスガ!セツヒトがこう言ってるわけだ!ガーグァ車か何かを手配してやって来たのだろう?それで行こうではないか!」

「……あぁ……あ、いや、やっぱりダメだ。」

「えー!?なんでー!?」

 

 

だめなのー?

 

 

「セツヒト……お前、性格まるっきり変わったな……昔はこう、もっと純粋で素直でかわいい……。」

「む、むむ昔の話はいいからー!!なんで行っちゃだめなのさー!!」

 

 

昔の話って……あの頃の私の性格の話はしないでほしい。

自分で言うのも何だけど、可愛らしい女の子だったと思うし……。

今は……自由?うん。

まぁカワイゲは無いかなー……。

 

とか何とか思っていると、ハスガからシャガルマガラのところに行けない理由が話された。

 

 

「…………狂竜症だ。人体への影響が計り知れん。」

「……あ……。」

 

 

すっかり忘れていた。

ゴア・マガラ……シャガルマガラの恐ろしさは、その強さもそうだけど、原因不明の病気になるところにある。

確かシガイアさんが、鱗粉の影響って話してた気がするけど……。

 

 

「どういうわけかは分からねぇが、ソウジはそれを克服しているようだ。……俺たちが手を合わせればシャガルマガラにも負けねえと思う。さっきの狩猟で、よくわかった。だが、狂竜症は別だ。わざわざ毒を食らってまで死にに行くバカがどこにいる。」

「私は行きたいぞ!!」

マショルク(バカ代表)は黙ってろ。……そういうわけだ。」

「…………。」

 

 

何も言えなくなる。

ワサドラでの被害。

その死傷者には、痛々しい傷があった。

体が動かなくなる……だっけ。

詳しいことはわからないけど、それが事実なら致命的だ。

 

 

……でもさー。

 

ソウジが心配。

…………近くに行きたい。

 

 

「…………禁足地の近くには、行けるよねー?」

「ま、まあな。霧の影響が及ばない範囲なら……。」

「…………そこまで行く。」

「…………本気か。」

 

 

本気だよ。

だって、二人が、ソウジが、心配なんだもん。

 

ハスガさんをじっと見つめる。

私の気持ちが伝わったのか、ハスガさんは大きい手でつるつる頭をポリポリかいて、口を開けた。

 

 

「……あぁ、分かった。但し、何かあったらすぐに引き返す。もちろんソウジに何かあったら、逆に突っ込む。……それでいいか?」

「…………うん。ありがとー、ハスガさん。」

「おぅ。……マショルクも、それでいい……あぁ!?いねぇ!!」

 

 

 

私達はすぐに山地帯を下りた。

マショルクは既に車の上に乗って、私達を待っていた。

 

さすがの速さとアホさに、私達はため息をついたけど。

急いでいたのは確かなので、すぐに西に向けて出発した。

 

目指すは、禁足地の近く。

 

 

ソウジ、頑張って。

ソウジなら、できるよ。

 

応援しか、今はできないけど。

 

ソウジなら、大丈夫。

 

 

私は西のドス黒い空を見ながら。

あの空が綺麗に晴れますように、と。

ソウジが無事でありますように、と。

 

心の中で祈った。

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