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息遣いが聞こえるほどには、近づいてきている。
獄狼竜。私の、因縁の相手。
抑えきれない衝動を、必死に抑える。
(屠る……殺す……ヤル……!!!)
そんな漏れ出そうなほどの殺気を抑えられたのは、マショルクのおかげだった。
隣にこいつが居なかったら、もう今頃私は一撃をお見舞いしている。
だが、私の体は万全ではない。
いいようにやられるのが目に見えている。
助けられた。
……うん、落ち着いてきた。
「…………。」
スッ……スッ……。
歩みを止めることなく、静かに進む獄狼竜。
その動きが、モンスターとしての凄みを実感させる。
すぐにでも次の動作へ移せるような、そんな足運び。
音もわずか。この体重でそれはすごい。
わたしたちには気づいていないようだが、一度姿を現せばたちまちのうちに激しい攻撃を喰らうことだろう。
強い。こいつは、相変わらず。
(角……無い、ねー……。)
あの時。
へし折ってやった、自慢の角。
その形と全く同じ。
こいつは、
あの時の。
よくも……みんなを!!
(……セツヒト!!)
「あ。」
迂闊だった。
ヤツだと、そう認識を改めた瞬間、
溜めに溜めていた感情が。憎しみが。殺気が。
少し、こぼれた。
「……グワァァァァァァァ!!!!」
「ちぃ!!セツヒト!!跳べ!!」
「くっ……!!」
気づかれた。気づかれてしまった。
私たちの存在を。
油断しているヤツに、一発ぶちかます予定が、その作戦が。
崩れた。
「ガァァァァァ!!」
ズガァン!!
獄狼竜は、モーションも何もなしに、赤黒い何かを激しく打ち下ろしてきた。
閃光、雷光、いや、もっと恐ろしいなにか。
どこか気味の悪い赤と黒。
これが、かなり痛い。
私とマショルクは、左右に広がった。
「セツヒト!横からいけ!!私は援護する!!」
「……うん!!」
油断したのは悪かった。
いや、最悪だった。
未熟すぎる。
「ガァァァ!!」
「ふん……動きは変わんない……ね!!」
ガッ……。
ヒュッ……ザザザザザザシュッ!!
ズザン!!
連続で振り下ろされる、その前脚。
駄目な自分を払拭するように、交わして、一撃だけ入れる。
飽きるほどにイメトレで回想した、ジンオウガお得意の連続攻撃。
雷狼竜と変わらない。
違うのは、その回数と尋常じゃない速度。
コツは、怖気付かないこと。
「ふっ……!」
懐に入り込み。
「うらぁあぁぁ!!!」
ズザアァ!!!
「ギャァァァァァ!!?……グルルルル……!!」
斬り刻む。それだけ。
憎い。
鳴けばいい。
苦しめばいい。
お前は、それだけのことをしたんだ。
許さない。
……許さない許さない許さない!!
「まだまだぁ!!」
「!!!よせっ!セツヒト!!」
マショルクの警告が聞こえた。
だが、怒りに任せた私の体は、もう動き出していた。
その頭部めがけて狙いすました追撃は、止まらない。
(あ。)
そして、またしてもやってしまった。
そうだ、こいつには。
「ガァァァァァ!!!」
ズガァァァァァァァ!!
カウンターがあったんだ。
ドガァッ!!!
「ぐうっ!!!!」
ドン!……ドン!……ゴロゴロゴロゴロ……。
体ごと、地面に吹っ飛ばされた私。
なんとかその勢いを止める。
「……ごめん……油断したー……。」
「セツヒト!!無事か!!」
「んー……へーき。」
五体確認。
うん、異常なし。
擦り傷は勘定に入れてないけど。
「……ヤツの放電は、ノーモーションか……。」
「うん。……いや、ごめん。今のは私の油断だよ。……もうやんない。」
そうだった。
雷狼竜とは違うところ。
その一つが、帯電と放電の仕方。
まず、ジンオウガの放電の正体である雷光虫は、獄狼竜にはない。
その生態とかはまるっきりわかんないけど、赤黒いアレは間違いなく雷光虫ではない。
もっと恐ろしい何か。
だから、マショルクの言う放電攻撃は、正しくは放電ではない。
まぁどっちでもいいんだけどさ。
大切なのは、その速度と威力。
頑丈な私が吹っ飛ばされて怪我をするぐらいには強くて、最強の私が反応できないほどの速度で帯電、放電するってこと。
これは、並のハンターならやばい。
ソウジならどうかなー……避けるのうまいからなー。
「うむ!私も気をつけることとしよう!いくぞ!!」
「……言われなくても!!」
憎しみが、冷静さを欠く。
よくある話だけど、自分がそうなっちゃうなんて。
未熟だ。
「でもっ……!!」
ズガガガガガ!!
マショルクの援護射撃が、獄狼竜の頭を弾く。
「グアッ!?」
「負けない!!」
心を囚われてはいけない。
思い切りを、冷静に、相手にぶつける。
ザザザザザザン!!
ザシュ!!ヒュパ!!
「ガァ……!!」
ザッ。
攻撃してもなお、呼吸はそのままに。
基本のキ、だよねー……思い出したよ。
「グルルル……。」
憎々しげにこちらを見つめる獄狼竜。
そう、それでいいよ。その感情にお前が囚われる限り。
「…………スキができるからねー!!」
ヒュッ……。
「ガァ!?」
獄狼竜には、私は見えたのか。
そこまではわからないけど。
私の動きを捕らえるのは、そう簡単じゃないよ。
「…………ふんっ!!」
ザン!!
「ギャァァァァァァ!!?」
一発。
私は瞬時に後ろに回り込み。
ムチのようにしなった体を使って、最大の一撃を叩き込んだ。
尻尾めがけて。
こいつがうっとおしいのは、尻尾。
斬ってやりたい。
「うむ!力みのない、素晴らしい一撃だ!」
「あんが……と!!」
トンッ……。
「らぁっ!!!」
ザザザザザザザザ!!
「ギャァァァァァァ!!」
私はそのまま尻尾から飛び。
背中に連続斬りを叩き込んだ。
尻尾を攻撃された瞬間の、一瞬のたじろぎ。
逃すか。
「うむ!!」
ズガガガガガガガ!!!
ビシッ!ビシビシビシビシ!!!
「ギャァァァァァァ!!?」
マショルクの恐ろしさ。
それは、とにかくその射撃の精度にある。
これはもはや、天賦の才としか言えない。
どんな体勢だろうが、どんな弾だろうが、外すのを見たことがない。
風、気温、湿度。
銃身の温度、射出から狙いまでの弾のブレ。
自身の体調、傾き具合まで。
余すところなく、計算のうち。
……現に私が剣を当てたところに、寸分違わず弾を撃ち込んでいる。
流石の私も、これはできない。
「…………グルルルルル…………!!」
私を睨みつけながら、憎々しげにこちらに殺気を向けてくる獄狼竜。
強いね。
強いけど。
「…………負けない。」
それは、獄狼竜に、なのか、マショルクに、なのか。
自分でもわからないけど。
「ここで、お前を、殺す。ハンターとして。」
「…………ガァァァァァァ!!!」
なんて、かっちょいいことを言って、私は獄狼竜に突っ込んだ。
* * * * * *
獄狼竜は、呆れるほどの体力だった。
いくら斬り刻もうと、いくら撃ち込もうと、その様子に変わりはない。
でも、ね。
「体力で私達を凌ぐのは、ちょっち無理ー?」
ヒョイッ。
「ガァ!?」
「ふっ……!!」
ズザシュ!ザザン!!
「ガァァァァ!!」
先程から、同じことの繰り返し。
避けては刻み、弾丸が援護し、スキを作っては刻み、避け……。
認めたくはないが、マショルクのおかげか、攻撃のルーティンができつつある。
私一人では到底無理だった狩猟方法。
これが、あの時出来ていればと思う。
「私
「うるさい!!一緒にすんなー!」
「はっはっはっ!照れるな照れるな!!」
ジャキィ!!
ズガガガガガガガ!!
ビシッ!ビシビシビシビシッ!!
「うむ!いいな!」
(認めたくないけどねー……すごいよ、コイツは。)
射撃に必要な、もう一つの要素。
何事にも揺れない、精神力。
それが、正確無比な一撃を更に恐ろしいものに変える。
コイツにヘビィボウガンをもたせたら、右に出るやつはいないと思う。
私はお構いなしに突っ込んでいるけど、射線を切られないように移動しながら、私に指示を飛ばしながら……。
認めざるは、得ないよね。
「……しかし!こいつは強い!!くぅ!!たまらんな!!」
そしてアホなことも言いながら。
実力だけは、世界一なんじゃないだろうか。
嫌いだけど。
「グルルルルル…………!」
ようやく疲労の色を見せ始めた獄狼竜。
いや、そんな感じがしただけ、だけど。
なんとなく、分かる。
「マショルクー!!」
「あぁ!!」
二つ返事。
アイツにも分かるか。
流石。
「一気にいくよー!」
「あぁ!!とっておきを見…………セツヒトぉ!止まれぇ!!」
「え!?」
マショルクの指示が無かったら、私はどうなっていたのか。
わかんないけど。
とにかく、助かった。
だって。
気づいたら、獄狼竜の脚が、
「……は?」
「退避ぃ!!」
ジャキ!
ズガガガガガガガ!!!
「くっ……!」
すんなり終わるとは、思っていなかったから。
だから、止まれた。
気づいたら、攻撃を終えた脚が地面にあった。
つまり、要するに、ヤツは。
「…………わぁお、やるねー…………。」
「…………気をつけろセツヒト!どんな隠し玉がわからない!!」
「…………りょー!回避に徹する!」
「あぁ!!」
冷静なんだけど。
怖さがあった。
何かわからない攻撃ほど、恐ろしいものはない。
それが強烈無比な、命を刈り取るものならなおさら。
(しかも、マショルクの目ですら追えない……?)
視認できなかった?
…………わからない。
わからないけど……。
「あの時は、本気じゃなかったってわけだね……!」
あの時。
ミヨシ村が襲撃された、あの日。
村を気にせずに、周りに人もいなければ、私はやれたと思う。
頭の中で、何度も何度もシミュレーションしてきた。
でも違った。
想定外の攻撃。
何をした?どうやった?
考えてもわからない。
ただわかるのは……。
(……上っ!!)
嫌な感じがした方向から、逃げなければいけない、と言うことだけ。
ズガア!!
(下から振り上げ!!)
ヒョイッ。
グワァ!!
目にも止まらない、というのは、こういう攻撃を言うんだろう。
超速の連撃。
その風切る音が、鼓膜に響いてキーンと痛い。
それを避けられている私。
なぜかなんて、自分でも分からない。
「セツヒト!!引け!!無理はするな!!」
「わかって……いるけど!!」
そんなこと、いうけどさ。
無理をして避け続けない限りは、ジリ貧。
感覚を研ぎ澄ましまくって、なお鋭敏に保って。
ようやく、これ。
逃げようものなら、猛追に猛追を食らって、殺される。
間違いなく。
……きっつい。
なんて、少しの弱音が心をよぎった、その時だった。
ズキイ!!!
「っ〜!?」
「セツヒトぉ!!くっ!!」
避けるしかない、連撃。
相当に、体に無理をかけた。
無理な体勢で体をひねった、その瞬間。
右肩に、痛烈な痛みが走った。
(赤黒い……キズ……!?)
目の端で捉えられたのは、自分の右肩の血。
その向こうには、赤黒い光。
(反応……したのに……!)
反応はできていた。
少なくとも、直撃は避けられた。
でも、相手は手負いの獄狼竜。
火事場の馬鹿力なのかわからないけど。
やられかけのモンスターほど、手強いものはない。
何か、された。
油断はしていない。
体力も負けていない。
あるならば、それは反応速度の負け。
私の速さを、ヤツのわけわからない攻撃が上回った。
それだけのこと。
「セツヒトぉ!!!」
ガガガガガガガガガ!!!
強烈な弾の音がする。
マショルクの声が近づいてくる。
私は、腕が上がらなくなった。
もう、完全に。
痛みが、頭を鈍くする。
「ガァッ!!」
ヒュオン!!
短い、獄狼竜の叫び。
同時に攻撃が私にくる。
音が聞こえる。
だが、足が反応できない。
やばい。
ヤバイヤバイヤバイ。
頭の中で分かる。
なのに、体は動かないって。
最悪じゃん。
死が目の前に迫るというのに。
私は、アイツのことを考えていた。
ソウジ。
…………ソウジ、ゴメンね。
死ぬかも。
「うらぁ!!!!!!」
ズドゴォ!!!
「ギャァァァ!!?」
グラッ……。
「えっ。」
「もういっ……ちょおぉぉぉ!!!」
ドゴォォォ!!!!
「ギャィン!!?」
とっくに死んだと思っていた。
でも、生きてる。
「セツヒト!!動けるか!?」
「あ、アンタは……。」
「………………全く!!さすが、いいタイミングだ!!」
「うるせぇよ馬鹿野郎!!しっかりお前が援護しやがれ!!」
「……はっはっはっ!!すまん!!ちょっとヤツは強すぎる!!」
「ったく……せ、セツヒト!!お前、その、無事か!?」
「…………あ、うん…………。」
死んだと、そう思ったら。
バカでかい何かが、獄狼竜に突っ込んで。
その攻撃が、外れた。
バカでかい……でも、懐かしい。
ハンマー。
つるっつるのハゲ頭。
「……は、ハスガ、さん。」
「…………おぅ。元気そうじゃねえか。」
「…………。」
「…………悪い、遅れちまった……ていうかお前ら、なんでいるんだよ!!どうやって来た!!」
「はっはっはっ!!企業機密だ!!」
「…………竜便か……無茶しやがる…………。」
私は。
助け、られた。
覚えてる。
忘れられるわけがない。
これは、
「…………話は後だ!ハスガ!ヤツは結構ダメージを食らっている!!」
「お前が言うなよ……ていうか、あれ獄狼竜かぁ?……ソウジ達の見立ては合ってたなぁ……。」
そうか。
ハスガ……さんは、初見。
「……まぁ……俺らが揃ったなら、負ける気がしねぇけどよ。」
「…………は、ハスガさ―――」
「セツヒトォ!!」
「う、うん!!」
「お前からもらった毛生え薬!全く効き目がねぇ!!後で色々聞くことがあるからよ!!」
「うん……。」
「…………一緒に、狩るぞ!!」
「あぁ!我々で屠るぞ!!セツヒト!!!」
「…………うん、りょうかーい!!」
体が、漲る。
心が、昂ぶる。
腕は上がらない。
だから、何だ。
やれることはある。
私達は。
私達なら。
無敵だ。
「さて!獄狼竜!!」
「グルルルルル……。」
「死ぬほど素早い前衛1!そしてバカなほど強烈な一撃のある前衛2!そして完璧な援護の後衛!!」
「グァ……。」
「流石に同情する!我々に負ける要素が無くなった!!」
「…………グァァ………。」
「…………とっとと倒れるがいい!!全員突撃ぃ!!」
「なんでお前が仕切るんだ……よっと!」
「ふっ……!!」
不思議だ。
マショルクへの憎しみが、消えた。
ハスガさんにだって。
だって。
この人たちは。
あの時の、そしてさっきの……命の恩人だ。
私を、二度も助けてくれた二人。
借りは…………返さないとねー!!
「ははははははは!!」
ズガガガガガガガ!!
後ろからは、弾丸の射出音。
笑いながらぶっ放すマショルク。
その射線の中を、お構いなしに突っ込む。
だって、マショルクだ。
私達に、当てる訳が無い。
ヒュン……!!
ズザッ!!
ザザザザザ!!
ちょっと突っ込み気味に、獄狼竜の体を斬り刻む。
隙だらけの私。
「ガァ!!!」
まぁ、反撃は来るよね。
しかも、超速の、私の反応を超えたやつ。
このままなら、私は八つ裂き。
でも。
「らぁっ!!!!」
ドゴォォォ!!!
「ギャァァァ!!?」
こっちばかり狙ってたら、痛いしっぺ返しが来るよー?
ハスガさんの渾身の一撃を喰らい、フラつく獄狼竜。
どんなに超速の攻撃だろうと。
当たらなければ、どうということはない。
「ガアッ……!!」
ハスガさんのハンマーの威力は、もう半端ない。
加えてその速度と弱点を狙う正確さ。
私からすっかり目を離し、ハスガに対峙する獄狼竜。
うん。そうなるよね。
ハスガさん強いもんねー。
…………悪手、だよー。
「ハッハッハッ!!!」
ズガガガガガガガガガガ!!!
ビシビシ!!ビシィッ!!
「グァァ!!!」
攻撃は、私達一人ひとりのものではない。
私達が連携を取れば、それは一つの大きな生き物のように。
うねりとなって、襲いかかる。
攻撃の手を絶やさない。
しかし……容赦ないねー、マショルク。
目に飛び込んだ弾丸に、獄狼竜が怯んでいるよ。
「セツヒトを傷つけた恨み、返させてもらおう!!」
ズガガガガガガガガガガガガガ!!!
「フハハハハハハハハ!!」
恨みを返す……?
……いやー、あれはむしろ楽しんでるようなー……。
そんな時。
「ガァッ!!!」
バリバリバリ!!
ドオォン!!
獄狼竜の放つ赤黒い閃光が、辺りに散らばり始める。
コレだ、これが痛い。
これを食らっては、こちらの波状攻撃が止まる。
一人の例外を除いて。
ズガア!!
「ぬぉっ!!」
一番近くにいたハスガさんに、直撃した。
「グゥゥゥ……!」
あ、油断しないほうがいいよー、獄狼竜ー。
「…………何勝ち誇った顔してやがる!!!」
ブォン……。
ドガァッ!!!!!!
「ギャィン!!!??」
「はっはっはっ!!相変わらず丈夫だな!!ハスガ!!」
「うるせぇ!痛えんだぞ実際!!」
ハスガさんは相変わらず強い。
もう、人間としての強度は軽く超えていると思う。
…………人間かなー、あれ。
なんてことを考えながら。
おそらく、そろそろ私に目を向けるであろう獄狼竜の、その呼吸を読んで。
私は、瞬時に動いた。
「ガァ!!」
ズドォ!!
地を抉る、その爪撃。
しかし、私はそこにはいない。
「ここだよー。」
余裕綽々。
来るとわかっているなら、避けるのなんて朝飯前。
「ふっ……!!」
ヒュイッ……ズザザザザザザザ!!
ザシュッ!!
「ギャァァァァァァァ!!!?」
ザン!……ドンッ!……ドサ……。
ぶっとい尻尾が切れて、宙を舞った。
私がやったこと。
視界に入らないように、獄狼竜の瞬きのスキを盗んで移動。
あとは、回り込んで、尻尾を狙う。
それだけ。
手元にあるしっぽなら、腕は振れる。
上がらない腕だって、まぁ使いようだねー。
尻尾が切れたのは、ラッキー。
「おー、切れた切れた。へっへー。」
「…………あいつが一番エグいな…………。」
「はっはっはっ!!さすがソロのG級は伊達ではないな!!」
「……ホントに強くなったなぁ、セツヒトよぉ……!!」
嬉しいこと言ってくれるけど。
とっととアンタらも、攻撃してー。
流石に一人はキツイってー。
「マショルク!潰すぞ!!多少俺に弾当てても構わねぇ!」
「はっはっはっ!安心しろ!!絶対に仲間には当てん!!!」
「そりゃ結構!!」
二人が笑いながら獄狼竜に突っ込む。
その姿を見て。
どこか懐かしいと思った。
…………。
その後は、もうムチャクチャだった。
獄狼竜は私達3人に対して、代わる代わる攻撃を繰り出してきた。
でも、ちょっとねー。
多勢に無勢ー?
少しずつ、だが確実に体力を減らしていく獄狼竜。
だが、油断はしない。
冷静に、きっちりと、命を刈り取る。
落ち着いて……落ち着いて……。
「……おい!セツヒト!!」
「な、なにー!?」
ハスガさんが、戦闘中なのに思いっきり話しかけてきた。
そして、冷静になろうという私に、とんでもない事を言ってきた。
「……遠慮なんかするんじゃねぇ!!」
「え……。」
「全部叩き込んじまえ!!俺たちへの恨みも、村のみんなを失った悲しみも!!フン!!」
ドゴォォォ!!
「グァァァァ!?」
怯む獄狼竜。
ハスガさんは器用に攻撃をしながら、なおも言葉を続ける。
「憎しみも、苦しみも全部!!」
「ハスガさん……。」
「冷静さなんかいるか!!お前の今までを、ぶつけろぉ!」
「………………はいっ!!!」
いいんだ。
なんだ。
それでいいのか。
…………なりふり構わず。
怒りを、ぶつける…………!!
そこからはもう、凄惨に。
強烈に、力を込めて。
心構えなんて気にせずに、自分のできる限りを全てぶつけた。
* * * * * *
「しっかし……遠目にお前らを見つけたときは、何の冗談かと思ったぜ。」
「冗談でもいいよー……こいつと二人きりとか、今でも虫酸が走るもん。」
「ハッハッハッ!!セツヒトは冗談が上手いな!!」
「本気だってのー!このバカマショルク!!」
獄狼竜。
私の中で、最強の敵。
屠るべき、最も憎い相手。
それが今、骸となって私の前に横たわっている。
倒した。
倒したけど。
…………。
感慨とか、そういうのは……無いかなー。
「そっか」って感じ。
ハスガさんの言うとおり。自分の全ての思いと技をぶつけた。
獄狼竜は、ついに私達に反撃もままならないまま、倒れ伏した。
……スッキリしたわけじゃないけど。
ありったけの思いを爆発させたから、少しは気が晴れた。
ミヨシやタオカカ、アヤのみんなに、後で報告しよう。
そんなことを考えていると、ハスガさんが近寄ってきた。
相変わらずでっかい。
頭は、そのまんまなんだねー。
険しい顔をして、私に頭を下げる。
「セツヒト……。その、なんだ。」
「んー?」
「…………あの時は。いや、今もか。……苦しい思いをさせてしまって、すまなかった。」
「…………うん。」
「……いや、『うん』ってお前。」
「……わからないんだよー……二人には、カホ・チータのみんなには……恨みもあるし感謝も恩もあるし……でも、今日だって助けられたしさー。」
ハスガさんは、そのでかい体を折り曲げて謝罪してきた。
今更……なんだろうけど。
それで何かが終わるわけでも始まるわけでもない。
死んだ皆が帰ってくるわけでも、報われるわけでもない。
ただ、わかるのは。
この二人が、カホ・チータが、あの日のことをしっかり想っていたってこと。
忘れずに、今だって。
それでまぁ、いいんじゃないかって……思えた。
私は、感謝も怒りも、もう色んな気持ちがごちゃまぜになってたけど。
うん。このままで、いいや。
全てを抱えて、これからも生きていこうと思う。
……それに、今は。
ソウジが気になって、しょうがない。
「…………ハスガさん。そんなことよりー……ソウジとショウコちゃんは、どうなったのー?」
「……あぁ。そうだ、気になるよな。」
古龍、天廻龍シャガルマガラ。
獄狼竜より弱い、なんてことはないだろう。
ピンチなら、すぐに向かいたい。
「さっき、緑の信号弾を打った……だが、あの霧だ。見えてねぇかもしれねぇ。」
「緑の?」
「あぁ。ソウジたちには伝えたんだがな?コッチのカタがついたら、連絡するってよ。だが、黒い霧は晴れてねぇ。もしかしたら、今まさに、やってる時かもしれねぇ。」
「…………ソウジ…………。」
心配するな、なんて無理だ。
できるなら、今からでも向かいたい。
ソウジなら、やってくれると思う。
私が惚れた男が、負けるわけない。
…………と思いたいんだけど。
「…………ソウジのところ、行きたい。」
「…………ま、そう言うよなぁ。」
だって、近くにいたいんだもん。
「……うむ!ハスガ!セツヒトがこう言ってるわけだ!ガーグァ車か何かを手配してやって来たのだろう?それで行こうではないか!」
「……あぁ……あ、いや、やっぱりダメだ。」
「えー!?なんでー!?」
だめなのー?
「セツヒト……お前、性格まるっきり変わったな……昔はこう、もっと純粋で素直でかわいい……。」
「む、むむ昔の話はいいからー!!なんで行っちゃだめなのさー!!」
昔の話って……あの頃の私の性格の話はしないでほしい。
自分で言うのも何だけど、可愛らしい女の子だったと思うし……。
今は……自由?うん。
まぁカワイゲは無いかなー……。
とか何とか思っていると、ハスガからシャガルマガラのところに行けない理由が話された。
「…………狂竜症だ。人体への影響が計り知れん。」
「……あ……。」
すっかり忘れていた。
ゴア・マガラ……シャガルマガラの恐ろしさは、その強さもそうだけど、原因不明の病気になるところにある。
確かシガイアさんが、鱗粉の影響って話してた気がするけど……。
「どういうわけかは分からねぇが、ソウジはそれを克服しているようだ。……俺たちが手を合わせればシャガルマガラにも負けねえと思う。さっきの狩猟で、よくわかった。だが、狂竜症は別だ。わざわざ毒を食らってまで死にに行くバカがどこにいる。」
「私は行きたいぞ!!」
「
「…………。」
何も言えなくなる。
ワサドラでの被害。
その死傷者には、痛々しい傷があった。
体が動かなくなる……だっけ。
詳しいことはわからないけど、それが事実なら致命的だ。
……でもさー。
ソウジが心配。
…………近くに行きたい。
「…………禁足地の近くには、行けるよねー?」
「ま、まあな。霧の影響が及ばない範囲なら……。」
「…………そこまで行く。」
「…………本気か。」
本気だよ。
だって、二人が、ソウジが、心配なんだもん。
ハスガさんをじっと見つめる。
私の気持ちが伝わったのか、ハスガさんは大きい手でつるつる頭をポリポリかいて、口を開けた。
「……あぁ、分かった。但し、何かあったらすぐに引き返す。もちろんソウジに何かあったら、逆に突っ込む。……それでいいか?」
「…………うん。ありがとー、ハスガさん。」
「おぅ。……マショルクも、それでいい……あぁ!?いねぇ!!」
私達はすぐに山地帯を下りた。
マショルクは既に車の上に乗って、私達を待っていた。
さすがの速さとアホさに、私達はため息をついたけど。
急いでいたのは確かなので、すぐに西に向けて出発した。
目指すは、禁足地の近く。
ソウジ、頑張って。
ソウジなら、できるよ。
応援しか、今はできないけど。
ソウジなら、大丈夫。
私は西のドス黒い空を見ながら。
あの空が綺麗に晴れますように、と。
ソウジが無事でありますように、と。
心の中で祈った。