目が覚める。
ここは……。
「見慣れた天井だ。」
2日しか寝泊まりしていないのに、見慣れたも何もないのだが、一応お決まりのセリフを発してみる。
日は既に昇っていて、外からは人の声や生活音が聞こえてきた。
コンコン。
ノックの音が。
「はいはい、おります。」
まだ頭痛が残る体を無理やり起こして、ドアを開ける。
いや、開けようとしたら、向こうが勝手に開けてきた。
「ソウジさん!」
「おわっと。」
ドアを開こうとしたらグイッと開いたので、バランスを崩しかけた。
つんのめった先は、心優しき従業員さん。
ドールだ。
「あぁ、良かった……。起きたんだね。」
目に涙を浮かべた少女が、安堵の顔で笑いかけてくれた。
おそらくは、俺を部屋まで運んでくれたのだろう。
心配をかけてしまった。
「すまん、世話をかけてしまって……。」
「……。もう、ビックリしたんだよ?」
いつもの淡々とした口調に戻ったドール。
「えーっと……。本当に、ごめん。心配かけた。」
「ううん。大丈夫。でも、心配はしたよ。」
もう一度謝ったあと、ドールは椅子に座らせて、俺はベッドに腰掛けて、色々と聞いた。
俺が意識を失ったとき、ドールは俺の部屋にいたらしい。
体を拭く桶の回収に来たが、俺がいないと気づいて、宿を何となく探していると、庭から大きな声がした。
ただ事ではない様子に慌てて庭に行くと、尻を突き出し、口から泡を吹いて白目で倒れる俺を発見。
最初は何かの冗談かと思ったとか。
でも様子がおかしいことに気が付き、慌てて宿のおじいさんに連絡。
2件隣の武具屋の人の手を借りて、とりあえず俺を部屋まで運んだらしい。
「夜中も何回か見に来たんだ。でもソウジさん、目を覚まさないから。」
「……重ね重ね、すみませんでした!」
まさか女神様に会ってました、なんて言えるわけもない。
夢みたいなものだし。
「ドールは一晩中診ていてくれたのか?」
「そのつもりだったんだけどね。セツヒトさん……近所の武具屋の人なんだけど、容態が悪いわけではなさそうだし、疲労が溜まっだけだろうから、心配はいらないだろうって。だから私も休んだよ。」
「何にせよ助かったよ……。感謝してる。」
「いいよ。お客さんだしね。それにーーー」
なにか言いたげなドールだったが、遮るように部屋にノックの音が響いた。
「お、気が付いたかの?よかったよかった。」
宿のおじいさんだった。
「驚いたよ、まさか倒れているなんてのぉ。元気そうで何より。」
「ご心配とご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません。」
深々と頭を下げる。当然だ。
「気にしなさんな。お客さんだからの。礼ならドールと、セツヒトに言っておくれ。部屋まで運んでくれたんじゃ。」
おじいさんもおじいさんで本当にいい人だ。
この宿に決めて、心から良かったと思う。
「あー、セツヒトというのはのぅ……。」
「私から説明したよ、おじいちゃん。」
「そうかい、そりゃ良かった。アイツがいなきゃ、部屋まで運ぶこともできなかったろうしの。」
「後で必ずお礼に行きます!」
まだ会ったこともない人だが、恩を仇で返すわけにはいかない。いずれ装備は新調したい。今から挨拶に行こう。
「あ。」
しまった。
講習会のことをすっかり忘れていた!
「すみません!今日ギルドにまた行かなくてはいけないんです!今の時間は……!?」
「お昼にはまだなっておらん。初心者講習会のことだろう?まだ時間はあるさ。」
よかった。
テンパっても仕方がないが、初日ドタキャンなんて洒落にならん。
「じゃあ、まずはご飯を食べよう。ドール、用意してきてくれるかい?」
「うん、わかった。ソウジさん、準備してくるから、ゆっくり降りてきて。食べる場所は食堂でいい?」
「ありがとう!大丈夫だ。」
そう言うと、二人は部屋を出ていった。
「よかったのぅ、ドール。」
「もう、おじいちゃん…っ!…。」
ドア越しに二人が何か言っているが、とにかく急いで準備をしよう。
ポーチを手に取り、<装備><武器装備>から一式装備と双剣を選択する。
一瞬で着替えられた。
「準備終わっちゃったよ……。」
ドールに、ゆっくり、と言われた手前、あんまり早く行きすぎても仕方がない。
ベッドに寝転んで、しばらくボーッとすることにした。
* * * * * *
遅めの朝食、いや早めの昼食を取ったあと、もう一度二人にお礼を言った。
ついでに宿の予約を3日分ほどしておいた。
銀貨6枚を渡すと、
「武具屋に行くなら、わしの名前、ホエールを伝えるといい。まあお前さんの顔は覚えられてると思うがの。」
と笑われた。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい。無理しちゃ、だめだよ?」
優しい送り出しに、心が温まった。
武具屋にはすぐ着いた。
本当に近所だ。
看板に「武具屋セツヒト」と、無骨に書かれてある。
レストランのイシザキ亭でも思ったが、商売っ気のない感じが伺える。
武具屋の、俺を運べるほどの力を持つ人。
厳つそうだ……怖い人ではないことを祈ろう。
「ごめんください!」
ドアの前で呼びかけてみる。
…………反応なし。
「……失礼します!」
思い切ってドアを開ける。
店の中は、宿の部屋ぐらいの広さだった。
両壁にあらゆる武器や装備が並んでいる。
目の玉が飛び出るほど高いものや、「値段応相談」という恐ろしいものまで。双剣や片手剣も、それなりにあった。
正面の受付の横には、「強化受け付けます。」「鎧玉買い取り要相談」など、何かよくわからない貼り紙が並んでいた。
「ごめんくださーい……ホエールさんの紹介で、お礼に参りました……。」
「あぁー、はいはい。」
奥から女性の声が聞こえる。
「はいはい、お待たせー。お客さん、何かご所望?」
「いえっ、私はですねーーー」
「おー?その顔はもしかしてー!?」
ん?
「えっと、ホエールさんの紹介で参りました……もしかして、セツヒトさん……ですか?」
「そうだよー、私、セツヒト。やっぱり昨日のぶっ倒れたお兄さんじゃなーい。やっほー、元気??」
お、女の人かーい。
驚きの中、よくわからないツッコミが俺の頭の中にこだました。