モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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171続けましょう。(後日談①)

後日談です。

ゆっくり進みます、基本蛇足です。

 

――――――――――――

 

 

目が覚めた。

さて……今から寝相の悪いあの人を起こし、洗濯とトレーニングの準備……。

 

……できない。

 

目が覚めたら、動けない。

 

 

落ち着いて状況確認。

ただいま、万力の如き力で締め付けられている。

この人に。

服は……着ているな。矯正の成果が出ている。

だが、この寝相の悪さはまだ改善しない……。

そしておそらく、力ではまだまだ全く敵わない。

 

いかん。

このパターンは……。

 

 

「んー……ソウジー……。」

「あの、セツヒトさん?いい加減起きないと、俺の身体がおそらく無事ではーーー」

「せっちゃんーーー……。」

 

 

ギリギリギリギリ……!!!

 

 

「ぬぁぁぁぁぁ!ぎ、ギブギブ!!し、死ぬ!!!」

「あれー……?…………ふん!」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!も、もう……あ……。」

 

 

あれ?何か見える。

あれは……天国?

 

あっ。

 

……いや内臓が内の臓物が昨日の夕飯が上から下から出ちゃいそういやもうやめてぇぇぇぇぇぇぁ

 

 

チーン。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

「ぬぁぁ……いてぇ……。」

 

 

万力からようやく抜け出し、急いで準備。

何とか、寝起き臓物ごと布団にベっちゃり☆的な大惨事は免れた。

 

かなり遅れた。ショウコ、怒ってるかな……。

 

しかしセツヒトさん……生物学的にありえない力である。

まだまだあの方には敵う気がしない……色々あるこの世界、あの人が一番ファンタジーじゃないだろうか……。

 

 

「……おっ……いかんいかん。」

 

 

遅刻だが、忘れてはいけないことが一つ。

一階に降りた俺は、武具屋の受付の上に顔を向けた。

 

深呼吸して、気持ちを整えて……。

 

 

パンッパンッ!!

 

 

柏手を2回。

 

 

「……行ってきます。」

 

 

目を瞑って、挨拶を申し上げた。

 

忘れてはならない、毎日の習慣。

受付の後ろ上、簡単に作った棚の上には、少しボロくなったアイテムポーチと一枚の白い鱗。

そしていろんな勲章とか、そんなの。

 

それに向かって、一礼した。

 

 

「……やばいっ、ショウコに怒られるっ!」

 

 

ダッシュで家を出た。

女神様、行ってきます。

 

 

…………。

 

 

急いで向かった村の入口には、既にショウコがスタンバっていた。

 

 

 

「ご主人さまー!遅いですよー!!」

「す、すまん……今日はガララアジャラのごとく締め付けられて……うぅ……。」

「……顔を見るに、またやられたんですね……。」

「ショウコ、代わってもいいぞ。ていうか一度やられてみろ。」

「……さ、さーて、今日こそはウチが勝ちますからねー!!しゅっぱーつ!」

「あ、こら!無視して勝手に始めるな!!おい!!」

 

 

セツヒトさんからの愛の抱擁(極強)を、今日も今日とて喰らい。

すっかり慣れ……いや、慣れそうにもないのだが、そんな修羅場?をくぐり抜け。

 

俺とショウコは、いつものランニングを始めた。

 

 

「ふふん!最近はご主人さまも息上がるまでには来ましたからね!今日ぐらいで追いつきます!!」

「ほう……随分と主人思いのオトモだな……だが!!」

 

 

サッ!

コチョコチョ!!

 

 

「ふにゃあぁぁん!!」

「ふはははは!!先はもらったぁ!!」

「み、耳は卑怯です!!こ、こんのご主人さまー!!」

 

 

最近はショウコが体力的にも追いついてきている。

アイルー系亜人の本領発揮。そもそもが人間よりも圧倒的な体力をもつ。

さらには、シャガルマガラ戦の後は、「不甲斐ない自分は嫌なんです!!」と、より体力アップに余念がないのだ。

 

特にここ最近の力の付き具合は尋常ではない。

そろそろもう、俺は追いつけそうにないぐらい。

 

……だが、まだ勝ちは譲らん!

 

 

「待ってくだ……待てやご主人さまー!!」

「ははははは!!勝てばいいのだ勝てば!!」

 

 

……だってちっちゃい女の子に負けるって、悔しいじゃないですか。

しばらくは、負ける気はない。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

「いただきまーす。」

「い、いただきます……。」

 

 

宿「ホエール」で朝食を。

もちろんセツヒトさんも一緒に。

 

ちなみにショウコは「くやしい!今日は2セットやります!!もうぜっっったい負けへん!!」といって、辛うじてランニング勝負に勝った俺を残して走り去っていった。

ドールの朝食を置いてまで行くとか……ショウコの本気具合が伺える。

……もう明日にも抜かれる気がする……。

 

そんな疲れ気味の俺に、セツヒトさんが寝ぼけ眼で話しかけてきた。

 

 

「ソウジー、ほっぺ、ご飯粒ついてるー。」

「あ、すいません……。」

「……ついにショウコちゃんに抜かされたー?」

「い、いえ。今日はまだ。」

「あの子もソウジも、そろそろ私とかマショルク抜くよー?もう二人の体力やばいってー。」

「ま、マジすか。」

 

 

そんな怪物たちを超えていくというのか、ショウコ。

というか俺も。

 

うーん。

継続は力なり。

 

 

コトッ……。

 

 

そんなことを考えていると、ドールが最後のおかずを持ってくる。

机に並ぶのは、純和食の食卓。

ドールはまた腕を上げた。

 

 

「はい、冷奴。ご飯のおかわりは、いる?」

「あードールちゃーん。おねがーい。」

「ん。ソウジさんは?」

「い、いや、今日は止めておく……。」

「そう?じゃあ……。」

 

 

スタスタスタ……。

 

 

いつものようにおかわりを聞きに来てくれたドール。

セツヒトさんもまた、いつものようにおかわりをした。

俺?

もう吐きそう……。

 

 

 

こうやって、朝食と夕食は、俺たちは完全にドールのお世話になっている。

自炊も考えたが、「ご近所に最高に料理が上手くて可愛い子がいる食堂があるじゃんねー。」とか何とかセツヒトさんが言い、現在のように落ち着いた。

これでいいのか、と言われればこう答えよう。

 

もう大正解。

 

だってこの世界に来てからこっち、この味から離れられないのだ。

しょうがないったらないのだ。

 

 

「ホッホッ。今日もふたりとも、元気そうじゃのー。」

「ホエールさん、おはようございます。頂いております。」

「えぇ、えぇ。払うもんは払ってもらっておるしの。……セツヒトは、少しは料理を覚えんのかの?」

「んー、前向きに善処いたしております次第でしてー。」

「……やる気はあるようじゃのー。」

 

 

政治家のようなセツヒトさんの答弁に皮肉を返すほどには、ホエールさんは相変わらず元気。

今日もいつものように笑い、いつものように宿の業務をこなしている。

 

俺もあとから聞いて驚いたのだが、村長さんだった。

……正確には村長代理さんだった。

何でもワサドラの相談役……みたいな役回りらしい。

 

え、いや、全然知らなかったんですけど!?何で教えてくれなかったの!?

そりゃ、(やたら事情通だなー。)とは思っていたんですけど!!

なんて聞いたら、「聞かれんかったしのー。」と、さも当然のように返された。

 

……納得はいかんが、まぁいいかと思うことにした。

 

 

「そういえばソウジさん。前回のモンスターはどうじゃ?」

「前回……あぁ、あの正体不明で現地調査に行かされたやつですか?」

 

 

ホエールさんに聞かれ、思い出す。

ギルドマスターから、無茶振りともいうべきクエストを受けた。

「正体不明、環境不安定。じゃ、頼んだ。」と。

ゴア・マガラだったら、ソウジの出番だからな、と。

 

そりゃ正体不明の変なモンスターが現れたら、優先して回してほしいとお願いしたけど……。

 

 

「……ゴア・マガラじゃありませんでした。バゼルギウスっていう……爆撃機みたいなデカブツでした。」

「ばくげき……というのはよくわからんが。まぁ、ゆっくりやんなさい。古龍なんて恐ろしいモンスター、出んほうがええわい。」

「それもそうですね……。」

 

 

何度目かわからない、ギルドからの、急な俺個人への雑な依頼。

そういったクエストをクリアしつつ、ショウコとトレーニングしつつ、セツヒトさんと生活を共にして。

 

そんな日々が、続いている。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

「んー……今日もいい天気だねー……。」

「そうですね。」

 

 

セツヒトさんが、道の往来で思いっきり伸びをする。

見慣れたワサドラの大通り、二人で歩く。

街並みは色々変わったし道行く人も様々。それでも、この街は落ち着く。

俺の、ふるさとだ。

 

 

 

シャガルマガラ討伐から3年が経過した。

 

大陸全土にまで影響を与えていたモンスター。

ハンターズギルドを困りに困らせていた存在、黒蝕竜ゴア・マガラ……改め、天廻龍シャガルマガラ。

多数のモンスターの異常強化を引き起こす狂竜ウイルスは、ハンターたちの回復力を奪い、身体を蝕む。

 

そんな最悪の厄災を断ち切ったハンターとオトモして、俺とショウコは何かもう色んな人にチヤホヤされた。

 

 

よくやった、とか、アンタすげぇよ、とか。

酒奢らせてくれとか、一戦交えてくれとか、キャーサインちょーだーい!とか。

今夜うちに来ない?なんて、見目麗しい女性から幻のようなお誘いを頂いたりもした。

明らかにハニートラップだと思ったので、丁重にお断り申し上げた。

 

ショウコもショウコで、名のあるハンターたちからたくさんお誘いを頂いていた。

「ウチはご主人さまのものです!!」と盛大に誤解を生む発言を繰り返していたらしく、俺はアイルーを愛する主に男性の方々から、殺したろかの目で見られ続けた。

ていうか今も見られ続けている。

ショウコには言い方を考えてほしいものであるが、完全に後の祭りなので気にしないことにした。

 

そして終いには、よくわからん王族とかいう人たちに首都に招かれ、勲章とか賞金とかいらない称号をもらった。

勲章とかは、一応神棚に飾ってあるけど……ホコリ被っていたなぁ……。

それに「ドラゴンキラー」なんて厨二病っぽい称号。

いらんわ……。

 

 

偉業を成し遂げた……なんて言う大仰な実感は、いまいち湧いてこなかった。

ヤツを倒し切ったとは思っていない。

絶対に、シャガルマガラは復活する。

その日まで、いやその日からも、俺はみんなを守るハンターでいたい。

だから、ここワサドラで、トレーニングと狩猟を続ける日々を送っている。

 

 

シャガルマガラがいつかは復活する、という市井の混乱を引き起こしかねない情報。

これは、ギルドのトップシークレットとして一部の人しか知らない。

俺を始めとしたあの狩猟に関わった人間には、きっちり正式に箝口令が布かれた。

だが、なんというか、人の口に戸は立てられないとはよく言ったもので。

人々の間では、噂レベルで「また出るんじゃね?」と囁かれている。

 

まぁそれぐらいの緊張感があった方がいい。

古代の遺跡にシャガルマガラのことを書き残した人達も、そういう危機感から言い伝えを後世に残そうとしたわけで。

 

天廻龍シャガルマガラ。

名指しで俺に襲いかかってくれればいいのに。

 

 

『あ、もしもし、お世話になっております。私、天廻龍のシャガルマガラと申します……ソウジさんいらっしゃいます?』

『あ、はい。私、本人です。すみませんわざわざご連絡いただきまして。例の件ですよね。場所は禁足地で?』

『あ、いえ、ワサドラ近くの丘陵地帯に一旦幼体で出ますので、まずはそこでいかがでしょうか?』

『あ、はい。承知しました。では日取りを……。』

 

 

みたいな。

俺だけ頑張ってなんとかなるなら、ぜひともシャガルマガラにはそうしてほしい次第である。

 

……なんてアホなことを考えながら、セツヒトさんと二人でギルドに向かっている。

 

 

いきなり、セツヒトさんから声がかかった。

 

 

「……ソウジー。また自分だけが、なんて考えてるんでしょー?」

「え!?いや……はい、すみません。」

「もー、いったじゃーん。……わ、私がそばにいるってー……。」

「……はい。」

 

 

あの日。

セツヒトさんから「そばにいる」と言われた、首都でのあの日。

俺は、セツヒトさんとともに生きていくことを決意した。

 

プロポーズのように「ずっと、一緒にいてください。」と伝えた。

なので、ずっと一緒にいる。

少なくとも今日まで。

これからも、そのつもり満々である。

 

……思い出すと顔から火が出そうなので、回想はこの辺にしておこう……。

 

 

「ソウジー?」

「は、はい!!」

「ギルドに着いたよー?なーんか今日はボーッとしてんねー。」

「い、色々と……思うことがありまして。」

「……ふーん。」

 

 

上手くごまかせただろうか。

「あなたへのプロポーズを思い出してニヤニヤしてました。」なんて、口が裂けても言えない。

 

 

「じゃー私、修練場行ってくるねー。」

「あ、はいはい!お気をつけて!」

「……ふふふー……ソウジー?」

「へ?」

 

 

ここは市中、町中、ギルド前。

街の人もハンターも往来の激しい、朝の時分。

 

そんな中で。

 

 

ギュッ。

 

 

抱きしめられた。

 

 

「せ、セツヒトさん!……こ、こんなところで……。」

「んー、せっちゃんー……ソウジはモテるからねー……示威行為ってやつー?」

「せっちゃんさん……じ、示威行為って、意味が違う気が……。」

「んふふー……ソウジー、さっき私のことも考えてたでしょー?」

「うえっ!?な、なんでそれを!?」

「やっぱりねー……もー、愛の言葉なら面と向かって言えばいいのにー。」

「いや、さすがにそれは……。」

 

 

恥ずいでしょ……。

 

しかし、俺の思うことなんてばっちりお見通しである。

隠し事なんて、この人の前ではできないな……いや、そんなもんないけど。

勘が鋭いのは、相変わらずである。

 

 

セツヒトさんは満足したのか、ようやく俺から離れた。

 

 

「よーし、帯電かんりょー!……いってくるねー、ソウジー。」

「へ、へい。」

 

 

そう言って右手をヒラヒラ上げると、セツヒトさんはギルドの中に入っていった。

帯電って……アンタジンオウガかよ……。

いや、怒ったらジンオウガより怖いかも。

 

…………。

 

めっちゃ見られてますねすみませんはいごめんなさい私もギルド入ります。

お願いですから必殺の表情で睨みつけないでセツヒトファンらしきそこの女ハンターさん。

 

俺は悪くないんです悪くないんで……。

 

 

「…………んん?」

「……どうも、お久しぶりです。」

 

 

そそくさとギルドに入ろうとしたら、久しぶりですと声をかけられましたけど。

こんな美人さん、俺の知り合いにいたっけ。

いつだかお誘い頂いたお姉さんズの一人?

いや、違うな。相当若い。

じゃあ……誰だっけ…………。

 

!?

 

 

「……あ、あああああ!?」

「……ずーっと見てたのに、気づかないまま抱きしめ合うなんて……ソウジさん!!」

「は、はい!」

「……本当に、お久しぶりです!お元気でしたか!?」

「……あぁもちろんだ。そっちも、元気だったか。」

 

 

数年ぶりだが、こんな濃い印象の子、忘れるわけがない。

いや、すぐには分からなかったけど。

 

身長も少し伸びて、ショートヘアはすっかりロング。

ロングパンツに、白いシャツの上には茶色の革のコート。

どこか大人の女性風になり……だいぶ変わったけど。

 

幻の尻尾が見える、ワンコ系ハンター。

放牧の民のプリンセス、ハンズだった。


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