「いつぶりだっけ?」
「ソウジさんが首都に旅立つ時に、一緒に出ましたから……。」
「三年前か。……早いなぁ。」
時が経つのは早いものです。
あのおっちょこちょい女子大生風の子が、すっかり大人の女性に変貌しているのですから。
「……あれから、どうしてたんだ?」
数年の間、気になっていなかったわけではない。
ハンズは帰郷の後、ワサドラに戻ることは無かった。
ショウコやドールが文でやり取りしていたから、何となくの近況なんかは聞いていたけど……正式に本人の口から聞きたい。
「移動集落のゴタゴタが片付いてからは……ずっと、ハンターをしていました。」
「そうか。……ちょっと聞いた話だと、色んなところで狩猟しているって。」
「たまに、ですけどね。タオカカら辺にもう一度行ったり、遠いところだと西のブラツ港とか……自分の腕試しを兼ねて。」
「へぇ……。」
大陸を股にかけて……なんて言えばいいのかはわからんけど。
要は放浪のハンターである。
そういえばフットワークがやたらと軽い子であった。
「雪山でガムートとかザボアザギルにリベンジしてジンオウガを倒して……東の湿地では、タマミツネとオロミドロも。港のショウグンギザミは怖かったなあ……。」
「いや、凄いな。俺が知らないモンスターもいる。」
「世界は……広いです。思い知らされた3年でした。」
「へえぇ……。」
うーん……達観した顔をしている。
何だろうこの気持ち。
近所の年下の妹みたいな子が、社会人になって帰省して、世間の荒波に揉まれた顔つきになった、みたいな。
いや、そのまんまだが。
「……ソウジさんの、おかげです。」
「ん?俺の?」
俺たちが座るのは、ギルド内の酒場。
いつだかシガイアさんといた、例のバーカウンターだ。
すっかり大人になった素敵な女性と、二人でグラスをかたむけつつ。
まだ午前中だし、中身はジュースだけど。
そんな雰囲気たっぷりの中、ハンズが話を続ける。
「三年前のあの偉業を聞いて……私も奮い立ったといいますか。いつか、私もG級になって、肩を並べたいって……。そう思って、がんばれました。」
「おぉ……そうか。……ちなみに今はHRは?」
「えと……ろ、6です。」
「おぉ!……すごいなハンズ!!」
「ソウジさんにはまだまだ、ですけどね。がんばりました。つい最近昇格したばかり、です。……ふふ、やっとソウジさんに報告できました!」
パタパタ。
嬉しそうな様子。
尻尾をブンブン振り回しながら笑う姿は、昔のままで。
少し安心した。
いや、尻尾なんて見えないけども。
しかし数年、この若さでHR6って。
俺が言うのも何だけど、相当凄いのではないか?
「いい節目だと思ってワサドラに戻ってきたら、ソウジさんが、そ、その……セツヒトさんと抱き合ってて……。」
「すみませんでもあれは俺悪くないんです信じてください。」
「は、早口ですね。」
改めて言われると、本当にただのおバカップルである。
恥ずい……。
せめて俺からではないと伝えておく。
「……何だか複雑な気持ちでした。」
「複雑?」
「その、憧れのお二人が仲良くされているのを見て……嬉しい反面、こう、ドス黒い感情が。」
そういえば。
この子はかなりのセツヒトさんマニアであった。
ドス黒いって。
…………しかし、何だかからかいたくなってきた。
ちょっとおすまし美人さんみたいにしてるけど、俺の中でハンズはおっちょこちょいのワンコさんである。
……意地悪してやろう。
「今、一緒に暮らしてるんだ。」
「うっ!」
「3年間、一緒に。」
「はぅ!!」
「そして、さっきの抱擁はセツヒトさんからだ。」
「ぐはぁ!!!」
バタン。
カウンターに突っ伏すハンズ。
ノリがいい。
「私の心にクリーンヒット……砂糖吐きそう……い……いつからソウジさん、そんなドSさんに……。」
「周りがあんまりからかうもんでな……慣れた。」
「そ、そんな……あの頃のソウジさんはどこに……!?」
「ふっ……俺も成長したのだよ、ハンズくん。」
嘘です。
慣れるわけありません。
ただの強がりでございます。
……まぁオフザケはこの辺にして。
「……あんまり変わってないぞ。みんな。」
「え?」
「俺は相変わらずヘタレだし、セツヒトさんはのんびりだし、ショウコはちっちゃいし……あ、ドールは少し背が伸びて、大人っぽくなったぞ?でもホエールさんは本当にそのまんまだし……まぁ全部が全部あの時のままってわけじゃないが、そんなに変わらない。」
「あ…………。」
「だから……おかえり。ハンズ。」
「……はいっ!」
そう言って笑ったハンズは、三年前と全く変わらない明るさだった。
* * * * * *
それからいろんなことを話した後、ハンズはギルドを後にした。
今日は宿「ホエール」に泊まるという。
久々にドールと楽しく過ごしてくれればと思う。
ちなみに、お兄さんのハンザさん。
シスコンぶりは少し収まり、結婚もしたとか。
というか嫁さんが既に3人いるらしい。
……流石である。
まぁそういう立場にある人だし、あれだけ頼り甲斐のある人だ。
重婚、と聞いても全く驚かなかった。
これからも幸せになって欲しいと思う。
「さて……。」
今日ギルドにやってきたのは、クエストの為ではない。
ギルドマスターに呼び出しを食らっているのだ。
いつでも来ていいと言われて、余裕ぶっこいてこんな時間になってしまったけど。
まぁ大丈夫だろ。
あの人だし。
…………。
コンコン。
「ソウジです。来ました。」
「おぅ、入ってくれ。」
ガチャ。
相変わらずの重厚な石造りの室内。
そして……相変わらず書類が散乱している。
まぁ首都西支部の部屋も、そういえばこんな感じだった。
シガイアさんはきっちり整理整頓していた為、ギャップが凄い。
「おぅ、早かったな。まぁ座ってくれ。」
「はい……結構遅くなったつもりなんですが。」
「ん?そうか?……こんなもんだろ?」
既に時刻は早めの昼食をとっても差し支えないぐらいなのだが。
うん。やっぱり大丈夫だった。
「急げ急げと、ここの職員は優秀すぎるんだよ……シガイアさんの凄まじさを毎日味わっている。」
「ははは……やっぱり、慣れません?」
「あぁ、もう一年以上いるがな。まさか西支部が懐かしく思える日が来るとは思わなかった。」
隆々とした筋肉。
初めてあった人間は、威圧感に圧倒されること間違いなし。
ワサドラギルドマスター、ハスガさん。
まだ慣れないとは言うが、職員や街の方からはとても受けがいい。
第一印象こそアレだが、頼りがいのある、親分肌の人だ。
シガイアさんとは180度違う方向で、気配りもできる。
「あー……またクエスト行きたくなったきた……。」
「だめですよ。またハイビスさんに怒られますよ?」
「……もうアイツがギルドマスターになればいいんじゃねえか?」
「………………。」
「おい、黙るな。冗談だ。」
「本当に?」
「……5割は。」
おいおい。
半分本気かよ……。
そう、ハスガさんは、二刀流。
双剣使いとかそういう意味ではなく。
ギルマスとハンター、そのどっちもこなすという人間である。
当たり前ながら、シガイアさんには到底無理な芸当であって。
これがまぁ、ハンター連中から尊敬の念を集めている。
そもそもが半端ない実力を持っている伝説のハンター。
就任当初はハンターと職員の間で温度差が凄かったけど。
俺個人としては、非常によいギルドマスターだと思う。
ここに来て一年と少し。
前任のシガイアさんが偉大すぎてどうか、みたいな声を払拭し、非常にこの人らしくやってらっしゃると思う。
「…………人が良すぎるんですよ、ハスガさんは。」
「そうは言うがな、ソウジ。元はと言えばお前が…………いや、いいわ。もう言わねぇ。」
「ははは……。」
……その実績に本人の意欲が伴っているかと言われれば、微妙だ。
ちなみにシガイアさんは、首都ギルドの重役に昇進した。
手腕を発揮し、首都内部のギルドの横のつながりを強化。並行して、ハンター業とは関係ないような業務を片っ端から廃止、簡素化を進めている。
ギルド中央制度そのものを無くし、首都ハンターズギルドをきっちり4分割するのが最終目標らしい。
風通しをよくするという理念の基、改革に躍起になっている。
ここまでたった3年である。ギルド職員の若手にはウケはいい。
だが、急な改革に敵はつきもの。保守派や王族側からは本気で目の敵にされているとか。
近くに護衛を置いているけど……それだけ物騒ってことだよな……。
まぁつまり、シガイアさんは前世のドラマとか漫画でよくあったような話を、マジでやっている。
本当にかっこいいと思う。
そのあおりを食らったのはハスガさんだ。
このワサドラの街は大陸の地理的な中心であり、今尚発展著しい。
そんな場所にあるギルド、相当な人物にしか後任をお願いできない。
そこに白羽の矢が立ったのがハスガさんだ。
あんなに現役一本に戻りたがっていたハスガさんが、ワサドラのギルマスになると聞いた時は、驚いたものだ。
……そして、ワサドラに俺がいることも無関係ではないらしい。
トラブルメーカーだから、という。
申し訳ない限りである。
俺が「シャガルマガラは復活する」なんて事を言うものだから。
そして俺がワサドラでハンターをするとこだわるものだから。
「俺が近くにいたほうが色々やりやすいだろ。」と、すんなりギルマスに就任した。
……そういう意味で、ハスガさんには頭が上がらない。
閑話休題。
ハスガさんは一枚の紙を取り出した。
やけに小さく見えるその書類を手に、俺が座る革張りのソファの向かいに座る。
「…………気になる報告があった。」
「……気になる?」
「あぁ、ちょっと長いぞ。」
そう言うと、ハスガさんは本題を始めた。