話がややこしくなってきた。
整理する。
俺は明後日から首都に仕事に向かう。
内容はマショルク教官探し。
ただ名探偵ショウコの推理から、それは口実で単なるご褒美旅行ではないかと推測された。
俺もそう思った。
なのでセツヒトさんをお誘いした。
快く了承をもらった。
セツヒトさんも旅行とお考えの様子。
そしたら件の教官が帰ってきた。
かえって、きた……。
「おや!そこにいるのはショウコくんか!久しぶりだな!!」
「あ……お、お久し振りです。お元気、でしたか?」
「あぁ!全くもって元気だ!!少しばかり外の大陸にでかけていてな!!いや、世界は広いぞ!!」
「へ、へー!そうなんですね~……。(チラッ)」
ショウコが俺を見てくる。
……あぁ、ショウコ。分かってる。
お前が心配していること。
そして俺が今目茶苦茶不安なこと。
旅行が無しになるんじゃないかってことだ。
……仕事を口実にって……その捜索目標が今、目の前で大酒をかっ喰らっているのである。
行く理由が無いじゃない……。
混迷極まる俺の頭。
テンション最高潮のイシザキ亭。
そんな場とも知らず、再び鐘の音を鳴らしてドアが開いた。
カランカランカラン。
「どうもすみません……残業で遅れま……し……ぇぇえええ!?マショルクさん!?」
「おや!ハイビスくん!久しぶりだな!いや、ハイビス部長といえばいいのかな!?」
「え、えーっと……はい。いや、そうじゃなくて!!一体、今までどこに!?」
「今帰ってきた!!」
「…………ええぇぇ…………。(チラッ)」
ハイビスさんが俺を見る。
あ、この人、事情を知っているわ。
だって、俺を見る目が憐れみに満ちているもの。
「そ、ソウジさん……セツヒトさんにお話は……?」
ハイビスさんが、盛り上がる場を抜けて俺に近づいてきた。
「…………既に、旅行を兼ねた仕事……いや、仕事を兼ねた旅行と伝えております。」
「うわぁ……。」
「教官のことは伏せました。」
「うわぁ……。」
「……めちゃくちゃ、喜んでらっしゃいました。」
「……う、うわぁ……。」
いや、そんな顔しないでください。
元はと言えば、ギルドが持ってきた話じゃないですか。
俺に鎮火を任せる?
多分その時、俺はセツヒトさんの業火に焼かれるぞ。
「ハイビスさん。首都に二週間ほど行くような、長期且つ超簡単ほぼ旅行みたいなクエスト、ありませんか……?」
「そんなのあるわけないじゃ無いですか……私だってさっきギルマスから話を聞いて……えぇぇぇ……。」
マショルク教官を見て、ため息とも驚嘆とも取れない声を漏らすハイビスさん。
うん。
ハイビスさんの反応からして、ギルド……またはハスガさんが用意した旅行であることは確定。
そして、それがうまくいかなそうなこともまた、確定。
ギルドも全くもって予想外だろう。
教官はそもそもそういう生物であるけど。
想定外の塊。
「…………ハイビスさん。とりあえず残業、お疲れ様です。」
「ソウジさん……。」
「俺、逝ってきます。」
「えぇ!?ちょ、ちょっと!ソウジさん!一体何を!」
「いや、もう全部打ち明けようと……。」
「待ってください!まだ案は……あります!」
「……ほ、本当ですか!?」
藁にもすがる思い。
ハイビスさんの案とやらを、俺は聞いてみることにした。
* * * * * *
「なるほど……。」
「い、いけるかと思います!女性の立場からしても、これなら!」
「は、はい。……やってみます。」
ハイビスさんからの妙案。
とは言っても、結構普通のことだったが。
俺が冷静になれただけでもめっけもんである。
作戦はこうだ。
まずは、きちんと正直にセツヒトさんに打ち明ける。
「旅行の件ですが、実は内情これこれこういう感じだったんです。」と。
多分そこで、セツヒトさんはガッカリする。
もしくは不機嫌になられる。
だがしかし、もうそれはいい。
俺が、俺から、自分から「旅行に行きましょう。もうギルドとか抜きで。」と言うのだ。
セツヒトさんも修練場の仕事は休みと言っていたんだし、多分いける。
何なら、「俺が自発的にセツヒトさんを誘った」という事実が大切らしい。
ハイビスさんからのお墨付きである。
うーん……ナイスだぜ、ハイビスさん。
「よし……お二人の力になれるなら、何よりです!」
胸を張って、そう言うハイビスさん。
こういうところ……強くなったなぁと思う。
この方、俺とセツヒトさんと3人でよく飲みに行くのだが……正直すごい。
3年前、一段落して3人で飲みに行った時。
俺のことが好きだ、と言った。
セツヒトさんの目の前で。
これを打ち明ける時点で、もうかなりすごい。
さらには、セツヒトさんは私にとって、とても大切な人です、とも言った。
だから、お二人を全力で応援します、と。
ど、どんだけいい人なんだこの人。
なんて思ったりしたものである。
度々俺やセツヒトさんのいろんな相談に乗ってもらっている。
もちろんハイビスさんの様々な愚痴にも付き合っている。
ていうかそれがメイン。
そんな折。
数年前の回想。
『なんで私じゃ無いんですかー!ソウジさーん!!』
『えー?ハイビスちゃーん!それ私の前で言うー?』
『じゃー!わ、私は今までどーりソウジさんにアプローチしますよー!?』
『お、いーねーハイビスちゃーん!望むところー!!』
『よっしゃ言質取ったーーー!!!』
『……あ、あのー、お二人さーん?飲み過ぎですよー?』
『『ああん!?』』
『イエナンデモアリマセン。』
……回想終わり。
怖かった……あの時は怖かった。
あの2人が酔っ払ってタッグを組んだら、もう俺に太刀打ちできる手段はない。
「……ハイビスさん、何かすみません。色々と。」
「……言ったじゃ無いですか。私、お二人のことが大好きなんです。」
「……。」
「応援、していますよ?」
「は、はい。」
「8割は、ですけど。」
「お、おぉ……。」
残り2割は何ですか、とは、とても聞けない。
聞いちゃいけない。
察しろ、俺。
「……じゃ、行ってきます。」
「はい!……ご武運を!!」
かっこよく話すハイビスさん。
それは、ギルド受付嬢のお決まりの文句。
クエストに向かうハンターへの励ましとなってきたその言葉。
まぁ今回は全く状況が違うけど。
……行ってきます。
俺は勇気を出してセツヒトさんに突貫した。
作戦、実行!!
* * * * * *
結論から言います。
……作戦成功しました。
「もー、お金使いたくないからー、マショルクもう一回行方不明になっちゃえばいいじゃーん。」
「はっはっは!!セツヒトは面白いことを言うな!!せっかくお前の兄貴分が帰ってきたというのに!!」
「本気だよー!ていうかー!だ・れ・が、兄貴だー!!」
セツヒトさんは色々な経緯を聞いた後、結局俺の旅行の提案に乗ってくれた。
よ、よかった……。
何か矛先が教官に行ってるけど。
まぁ仕事で完全にタダ、ってわけにはいかなくなったわけで。
……だがしかし!
俺には一応蓄えがある!!
ロイヤルなんとかだかなんだか知らんが、2週間の滞在ぐらい何だ。
任せろ!!
「しかしソウジ君も剛毅だな!あの様な高級な所に長期滞在とは!!」
「いや、どうせ行くならいいとこ行きたいじゃないですか。そもそもその予定でしたし。」
「ははははは!確かにな!!」
ちなみに俺の意を決した作戦遂行は、皆に注目されてしまった。
当たり前だけど。
まさか何処かの純情中学生のように、呼び出して告白するようなことでもないし。
公然の仲だし。
俺の話を聞いていた教官が、俺を剛毅だと言う。
そこまで高いのか。
だが心配はいらない!
結構な金持ちですからね!俺!
「ソウジさんもすごいわねぇ!いやぁ、トップハンターになるとやることが違うわぁ!」
「いや、それほどでも……。」
ケイさんも感心しきり。
そんなに褒められても困りますよ、と返事しようとしたら。
「だって一泊これぐらいよー?」
そう言って4本の指を立てるケイさん。
……4,000z?
い、いやいや高級な宿らしいし……。
一泊40,000zと言ったところか。
移動日抜いて、大体10日で……。
……ま、まぁまぁ!
それぐらいならいける!!全然!!
「うわわ、やっぱりすごいね。一泊でうちの2千倍。」
「あそこはね、とんでもないんだから!お付きの人は常に部屋に常駐。窓からの景色は、それはもう絶景らしいわよー?高級なお酒をグラスに注がれて……夕焼けに染まる街を見下ろしながら乾杯……いいわよねぇ!」
「うーん……うちも何とかかっこよくしようかな……。」
「いいのよ!『ホエール』には『ホエール』にしかない良さがあるもの!」
ドールがとんでもないことを言い出す。
しかしケイさんがナイスフォロー。
あそこを高級志向に変えるなど、とんでもないことである。
「そうだぞ、ドール。あそこはもう、何というか、完璧なんだ。俺にとっての家だ。そのままであってほしい。」
「そーそー。ドールちゃんのご飯がないとー、私も困るー。」
「……うん、ありがとう。みんな。……あのまま、みんなの安心できる場所にする。」
……かっこよく言い切るドールであった。
うん、本当に、大きくなったなぁ。
……ん?
ちょっとまて。
なんか引っかかる。
何だろう。
『うわわ、やっぱりすごいね。一泊でうちの2千倍。』
……。
……えーっと……。
「お待たせしましたにゃー!ビールの追加だにゃー!!」
「お、オスズさん。ちょうどよかった。ちょっと計算を頼んでいいですか?」
「ケイさんならそこにいるにゃ?」
「いや、そっちでなく。数字の方の。」
「なんだややこしいにゃ!おまかせにゃ!!」
ちょうどよくやってきたオスズ。
かなり不安になってきたところに、丁度この店のマスコット的存在がやってきた。
オスズは計算が得意なのだ。
え、えーっと……ドールのところの一泊は銀貨2枚で2000z……。
「一泊2,000zの宿があったとします。」
「ふむふむ。」
「2000回泊まったら―――」
「―――4,000,000zですにゃ!」
……………………………………えっ。
一泊で?
「それに10をかけると……?」
「40,000,000z、ですにゃ!!」
オスズが、元気に可愛く胸を張る。
あぁ、ヒナタさんなら今頃鼻血でも出してるんだろうな、とか思いながら。
俺は頭が真っ白になってしまったのであった。
い、家買えるやんけ……。
* * * * * *
2日後。
ガーグァ車乗り場前。
御者のおじさんが、二人分の荷物を荷台に載せていく。
「おぅ、おはようさん!しばらくよろしくな!」
「よ、よろしくお願いします……。」
「……どうしたソウジさん?元気ねぇなぁ……とりあえず俺はあいつらの様子見てくるからな!」
おじさんに心配されてしまった。
そのままガーグァたちの方へと向かっていく。
すると、後ろから低い声がかかった。
「よぉソウジ……。」
「あ、ハスガさん……。」
暗めの顔でやってきたのは、ハスガさん。
……すんごい申し訳無さそうな顔をしていらっしゃる。
「……ま、まだ間に合うぞ?シガイアさんに掛け合って、何とか無理矢理予約キャンセルってこともーーー」
「ーーーい、いえ。大丈夫です。流石にそういうお願いはちょっと……。」
「……すまねぇ……いっそこのままあの
「本末転倒ですよ……。」
ハスガさんとは、昨日話した。
「教官が帰ってきました、話は変わりますが首都に旅行に行ってきます。」と言った辺りで全てを察したハスガさん。
金銭的な援助を申し出てくれたが、俺たちは完全な私用。
お断り申し上げた。
だってもうしょうがないじゃない。
「うっわー!ワクワクしてきたねー!ソウジー!!」
「は、はい、セツヒーーー」
「ーーーせっちゃんー!!」
「……せっちゃんさん。」
「うん!よろしー!!」
この人はもうご機嫌さんなのだから。
も超笑顔。
……好きな人の、この表情を見られるのだ。
く、悔いは無いぞ!!
……………………。
…………。
出発の時分が近づくと、なぜか知り合いが続々と集まってきた。
「ご主人様ー!お土産よろしくお願いしますねー!!」
「ショウコ……お前色々容赦ないなあ。」
「もう諦めてください!そしてウチにザキミーユ名物の高級マタタビ団子を!!」
「前向きに検討しつつ、善処します。」
「あー!絶対に買わんやつや!」
ショウコに適当に返事をしておく。
だって首都でどんな出費があるか分からないのだ。
聞いた話だと、食事代別なんですって。
…………ひぃぃ…………。
「ソウジさん!私はバックなんか欲しいです!」
「エプロンとか、首都のオシャレなやつをお願いしますニャ!!」
「そういうファッション系は自分で買ってくださいお二人共。」
ハイビスさんとオスズが、ショウコに続いてお土産ねだりをしてくる。
買うとか以前に、そういうセンスは俺には皆無である。
自分で買いなさい。
「私はお土産はいらないよ!!」
「け、ケイさん!」
「あーでも、お店で仕入れる首都名産のお酒……直接買えると安いんだけどねぇ……。」
「ケイさん……。」
もう欲望まみれである。
何なのこの人たち!!
俺に金があると分かってこんな寄ってたかって!!
いや、払えるんですけどね!それぐらいは蓄えありましたけど!
…………流石にちょっと桁が違いすぎる。
貯金がキレイに吹っ飛んだ。
「あ、ソウジさん……。」
「ドール。」
そこにやってきたのは、ドール。
やけに心配げな顔つき。
……あぁ、流石はドールだ。
きっと、俺が金を使いすぎていることを心配しているんだろう。
この子は、優しい子なのだ。
……きっと『気をつけて、行ってきてね。』といつも通りに言ってくれ―――
「私、宝石がいいな。」
「一番エグい要求!!?」
「できたら、ネックレス。紅玉の。」
「しかもめっちゃ具体的!!」
はい、ドールも欲まみれでした。
……チクショウ!
「よーし、出発するぞー!」
「あ、はい。」
「じゃーみんなー。いってきまーす!」
ヒラヒラ。
セツヒトさんが手を振る。
俺も、見送りのみんなに手を振った。
…………お土産は買ってこよう。
普通のやつを。
「…………ソウジー。」
「はい?」
セツヒトさんが、少し心配そうな顔で俺を見てくる。
「……ずっと言わないけどー……お金、やばいんでしょー?」
「…………いいえ、大丈夫です。」
「ほんとにー?」
「本当です。」
ニヤニヤと俺に笑いかけるセツヒトさん。
好きな女性の前では、少なくとも虚勢を張っていたい。
男の悲しい性である。
「…………まー、私と、一緒にいながらさー。」
「は、はい。」
ガラガラガラガラ。
後ろにワサドラの入り口が見える。
徐々に小さくなるそれを見つめながら、セツヒトさんに返事をした。
「一緒にー、稼いでいこっかー。ねー?」
「…………はい。」
「…………んー!よーし!じゃー、楽しもー!!」
「……はい!!」
まるで逆プロポーズみたいな言葉をかけられながら。
ごきげんなセツヒトさんを見つめた。
この人と、一緒に歩いて行こう。
この先も。
……今日も、いい天気だ。
後日談、以上で終わりになります。
蛇足にお付き合いいただき、感謝申し上げます。
それでは、またどこかでお会いしましょうm(_ _)m