倒れた人間を運ぶ。
酔っぱらいの介抱をしたことのある御仁なら、その大変さがわかると思う。
まず、重い。
酔っ払いが女性ならまだいい。可愛い女の子なら、運ぶこっちもモチベーションは上がるというものだ。
ならおっさんはどうか。
重い、酒臭い、夏なら汗の匂いも追加される。
そんな人をタクシー乗り場まで運ぶ。
こっちも酔っているのだ、辛いったら無い。
では、目の前のお姉さんはどうか。
ケツ突き出して泡吹いて白目をむいた男性を、お姫様抱っこで部屋まで運んだというのだ。
信じられるだろうか。
ていうか何?俺は女性にお姫様抱っこで運ばれたということか?
死ぬほど恥ずかしい……。
「……と言うわけで、涙を浮かべたドールちゃんの要請の元、私は馳せ参じたわけ。そしたら……何と!」
「……。」
「泡吹いてオシリ突き出して白目をむいたお兄さんがいたってわけー!」
「………。」
「仕方がないから、ヒョイッと抱えて、部屋まで運んであげたわけですよー。あの宿、爺さんと女の子しかいないからねー。」
「……………。」
「いやー笑えたよー昨夜は。だってイケメンが白目向いて泡吹いてオシリをぷりって出してさー。流石に元ハンターの私も、笑いがこらえきれなくって………。」
「もうやめて!人の醜態ほじくり返さないで!というか何回も同じ話しないでぇ!」
「あははー!ごめんねー!君、ノリが良さそうだったし。」
お姉さんの発言を纏めると。
お姉さんは元ハンターで、俺を運ぶとか余裕で、むしろ現場を楽しんでいた、と。
うん、ヒドい。
だが、この場合アホなポーズで倒れた俺が一番ヒドい。
「きょ、今日は、そのお礼に参りました。」
「んー、いーよいーよ。元気ならそれだけでめっけもんだって。」
「助かりました、セツヒト……さん。」
「その名前、あんまり好きじゃないんだよねー。せっちゃんでいいよー?」
「せっちゃんさん、ありがとうございました。」
「うーん、何かかしこまりすぎな気もするけどー?まぁいいやー。」
とってもいい笑顔。ニコニコしながら俺を見つめてくる。
長い銀色のストレートの髪。
口は常ににやにやしている。
糸目で表情は読みにくいが、先程から笑顔は絶えてない。
そして、年齢が全くわからない。
現在の俺と同じ位?いやいや、そしたらハンターを引退して自分の店を構えるなんてできないだろう。
……いろいろ紆余曲折あったのだろう。深く考えないことにする。
女性のそういう部分は、邪推すると痛い目を見る。
これは前世でも経験済みです。
セツヒトさんの口調は、何だかマイペースでのんびりした感じだが、何というか隙がない。
やはり元ハンターということか、強いんだろうな、というのはよくわかった。
だって男の俺をひょいって、ひょいって……ハンターってすごい。
「まあ、でもさー。」
セツヒト……せっちゃんさんが続ける。
「心配かけちゃ、駄目だよー?」
糸目が片方若干開き、俺を見つめてくる。
目を逸らさず、答える。
「はい、もう二度と。」
「……うーん、よろしい。いいね君。気に入ったよー。」
「そ、それはどうも。」
怖っ。目開くの怖っ。
モンスターに見つめられたかと思ったわ!
この人めちゃくちゃ強いよ!絶対!
嫌な汗が何故か止まらない。
変なことは言わないように自重しつつ、武器について尋ねてみる。
「セツ……せっちゃんさんは、武具屋はお一人でやられているんですか?」
「お、何々ー。私に興味湧いてきた感じー?」
「いやいやいやいや!そんな失礼なことではなく!」
「なーんだ、期待しちゃったー。」
「はいぃ。」
だから、その目で見つめてくるのはやめてほしい。
心臓が止まりそうになる。
「うーん、武具屋を始めた理由は、何か楽しそうだったからかなー?キミみたいな新人君をイジってニヤニヤするの、楽しいよね〜。」
「イジってるって、自覚はあるんですね……。」
「そー。性格悪いよねー。でも、君、格別に面白いよー。うん。そそられるー……。」
値踏みされるように、じっと見つめられる。
いや、むしろ獲物を探す獣みたいな……?
いかん!視線に取り込まれる!
話題を本題に戻そう。
「その、俺まだハンター駆け出しでして。これからもしかしたらお世話になるかもしれないので、お礼と挨拶に来た次第で。」
「あー、なーるほどー。君かー、おとといこの村に来た新人ハンターさんってー。」
そ、そうですー。
いかんいかん、つられるな。
「そ、そうです。」
「ん、いーよ。そういうことなら。よろしくされてもー?袖振り合うも多生の縁ってね。いつでもおいでー?お姉さんが教えてあげるよー。」
「あ、ありがとうございます!」
「とりあえず、得意な武器だけ聞いといていいー?」
「片手剣と双剣、とりあえずこの2つです。」
「……へー、了解りょうかーい。」
今なんか変な間があったような……。
「うん、今日はちょーっと忙しいんだー。でも明日からなら、いつでもおいでよー。だい、かんげーい。」
そういうとセツヒトさん……せっちゃんさんは両手を広げて変なポーズをとった。
◯しざんまいの社長さんみたいだ……。
良かった、これでお礼を伝えることもできたし、武具屋と既知の仲になることができた。
「それでは、お忙しい中失礼しました!」
「えーっ?もう行っちゃうのー?」
「実はこのあとギルドに行くんです。講習会?というのに参加するので。」
「あー、そかそかー。なーる。」
のんびりとした口調に惑わされそうになる……でも、やっぱりこの人強いよ。隙がない。
いや、隙なんか探してどうするんだ俺。アホか。
「じゃー、気をつけていってらっしゃい?」
「はい!」
「あー。待って待って。」
そう言うと、セツヒトさんが近寄ってきて、何かを俺に手渡す。
ていうか並ぶと背が高いなこの人!スタイル良すぎだろ!顔近い!いい匂い!
「これー、お礼。」
「?」
「<初心の護石>。まー、先輩からの餞別ってやつー?」
「餞別って……使い方間違えてません?」
「硬いことは、いいからいいからー。昨日笑わせてくれた、おーれーいー。」
手をギュッと握って、<初心の護石>とやらを渡してくれた。
……普通こういうのは断るものだろうが、拒否するのも失礼な気がする。
「……ありがとうございます!大切にします!」
「んー、よろしい。やっぱり君、いいねー。」
「えっと、じゃ、じゃあ、行ってきます!」
何かとても恥ずかしい気持ちになって、逃げ出すように店を出ていく。
「がんばってね〜。」
後ろから声がしたが、振り返ることができなかった。
だって耳まで真っ赤になっていただろうから。
俺、おっさんなのに……女性への耐性は皆無のようです。