ハンターズギルド入口に着いた。
昼も過ぎ、人はまばら。ハンター達は、すでにそこかしこでクエストを進めているのだろう。
そんな中俺ときたら。
……両頬をバチンと叩いて、気合いを入れ直す。
先程のセツヒトさんとの一件で、何だか心がユルユルになっております。
おっさんなのに。中身30過ぎのおっさんなのに。
気持ちを切り替えて、ギルドのドアを開いた。
前回の受付に行けばいいと言うことだったので、そこに向かう。
誰もいなかったが、一応待ってみよう。
5分ぐらい待つと、声をかけられた。
「ソウジさん……ですね?講習会参加の。」
「あ、こんにちは。お世話になります。」
「は、はい。お世話になります。」
思わず出てくる社会人の癖。
許して、社畜根性は早々消えないんです……。
話しかけてきたのは、前回の受付嬢のお姉さん。
首からかかった名札が今日は見える。ハイビスさん…というらしい。
「お待ちしてました。では案内しますので、こちらにどうぞ。」
ハイビスさんに着いていく。
何かチラチラと見られている気がする……気のせいか?
そんな微妙な空気のまま、案内されたのは屋外だった。
修練場という看板が見える。
ここで講習会が開かれるのだろうか。
「私はここまでです。ソウジさん……頑張ってくださいね。」
「は、はい!」
そう言って、ハイビスさんは去っていっ……去っていかない?
何してるんだあの人、見つからないと思っているのか、訓練場の入り口からこちらを覗いている。
万引きGメンみたいだな……。
ま、まぁいいや。気にしないことにする。
無かったことにするスキルは、社会人になってかなり鍛えられてきたんだ。
ここで役に立つとは思わなかったが。
* * * * * *
20分程は経った。
俺は直立不動のまま。
このままでいいのか、なんて思いながら、目だけを動かして周囲を確認する。
ハイビスさん、見えてますよ!
顔だけギリギリ出しているつもりでしょうが、ロングヘアーがバッチリはみ出てますよ!
もうすっごい気になる!
何なんだあの人!しかしやっぱり美人だな!
ち、ちがうちがう!無かったことにするスキル発動!
そんな邪念だらけの頭の中。
突如として、寒気が襲ってきた。
ほんの一瞬。
(えっ、何この感じ怖い)
そのまま立ち尽くすのはやばい気がして。
即座に俺は左に倒れ込むように転がった。
その瞬間だった。
ズドッ!
「……チッ。」
怖そうな人が、俺のいた場所に、木剣を振り落としていた。
「…………………えっ?」
沈黙。
しばし後。
その怖そうな人が、木剣を地面から引き抜き肩に乗せると、ゆっくりとこちらを振り向いた。
めっちゃいい笑顔で。
「やぁっ!君が新人のソウジ君だね!歓迎する!私の名はマショルク!今日から君を担当することになった教官役のハンターだ!」
「……えっ。」
「驚かせてしまってすまない!君を試すつもりが、多少強めになってしまったな!ハーハッハッハッハッハ!」
待て。
ちょっと待て。
今俺、かなりやばかったんじゃないか!?
「どうしたんだい?腰が抜けてしまったかい?手を貸してあげよう!」
「ちょっと待てぇぇえ!!!」
俺の声が、訓練場に木霊する。
「どうした?何か質問があるのかい?」
「違いますよ!危うく大怪我するところでしたよ!」
「いやいや、当てるつもりなど無かったさ!手加減の具合は間違えてしまったようだがね!すまない!」
「舌打ちしてたでしょう!明らかに殺る気満々だったでしょう!」
「ハーハッハッハ!」
「誤魔化してるぅ!」
外してからの舌打ちだったぞ。
しかも!地面にめり込む程の強さで!
「ハーハッハッハッ……おや、剣が折れてしまったな!」
「折れてんじゃねえか!」
もはやタメ口。
女神様と同レベルになったぞこの男。
いや女神様と同レベルって。ある意味神か。
「しかし、避けられるとは全く予想してなかったぞ!ソウジ君!なぜ避けられた!?」
「そりゃ……殺気を感じて気づいたら横に転げてました……。」
「うむ!第一関門は突破だな!立派立派!」
「第一関門?」
第一関門?なんだそりゃ。
「……モンスターは、急襲する。こちらの及びもつかないところで、動き、反撃する。しかも相手を殺すほどの勢いでな!だが人間ほど感情をコントロールできるわけではない!殺気を感じ取り、ここぞというときに避ける。これが、<緊急回避>だ!」
「緊急回避……。」
「うむ!対人間ではないハンターだからこそ、必要不可欠な技と言える。」
そういえば、先程の武具屋のセツヒトさんからも、強者の雰囲気を感じた。
あれは殺気というか、雰囲気だったが。
そこらへんの空気に、俺、敏感になっているのか。
「本当に驚いている!誇りたまえ、ソウジ君!次は第二関門だ!」
「早くない!?」
俺のツッコミは、全く通らないらしい。
教官……マショルクさんは、木剣を俺に向けた。
「続いては、先を読む訓練だ!多少スパルタで行くが、覚悟してくれ!」
「ちょっと待って下さい!説明を!説明をしてください!」
「避けろ!」
超シンプルな説明を終えると、教官は構える。
美しい。単純にそう思った。
そして、この後恐ろしい斬り筋が来るのも、なんとなくわかる。
だって、目が笑ってないんだよこの教官!
「ハァっ!」
「うぉあ!」
思わず飛び退く。鼻の数センチ先を、剣先が掠める。
「君は双剣使いの様だな!なら、防御を捨てろ!避けるんだ!痛みを覚えろ!慣れるんだ!」
「慣れるかってんだちくしょおおおおお!!」
教官が持つ木剣が、ものすごい速度で斬りかかってくる。
俺は無手。
背中の双剣を抜く暇もない。
というか、反撃はしてはいけないんだろう。
その為の訓練だ。
とにかく避けるしかないんだなチクショウ!
「ハッ!ハッ!ヤァ!!!」
「てっ!いうか!無理っ!………あだっ!!」
ついに肩に、剣先が当たってしまう。
それだけなのに。
それだけなのに、めっちゃ痛い。
「足は生きている!動きを止めない!」
「は、はいぃ!!」
迫りくる剣先を見つめることは、しない。
大体剣の長さは分かった。
だって当たってしまったから。
間合いが分かった。
太刀筋もわかりやすい。
教官がそういう風にしているのだろうが。
さっき教官は言った。「先を読む訓練」と。
とにかく見るんだ。
(足運び……重心……かぶり、予備動作……ここ!)
不思議だ。
怖い。
怖いんだが、何かワクワクする。
某戦闘民族みたいなことを考えていた。
「ハッ!ヤァ!セィ!タァァァ!」
(上……からの右!フェイント……突き……!)
避けまくる。
なんで避けられているのか、自分でもよくわからない。
「………フッ!」
(っ!!まるで予備動作がない!?抜刀術!!?)
ついに読みきれない一撃がきた。
剣を納めた体勢から、一気に横薙ぎをかましてきた。
正気かよこの人。
そんなことを思った瞬間、思わず腕でガードしてしまう。
木剣を。
腕で。
………。
…………。
数秒の沈黙後。
「いってええええええ!!!」
あまりの痛さに、俺は膝をついてしまった。