なんとも気になる新人ハンター、ソウジさんの対応に、私が右往左往していたその日。
ハンターズギルドワサドラ支部も、少し大変なことになっていました。
理由は2つです。
まず、一つ目の問題。
村にほど近い岩山地帯でバサルモスが発見されたのです。
まぁ、いること自体は大した問題ではないのです。
中堅ハンターがパーティーを組めば、大抵は討伐可能なモンスターですから。
しかも近年増えてきているモンスター。討伐対象になるため、屠ること自体は問題ないと判断できます。
ですが今回は話が違いました。
すでにかなりのダメージを、負っていたというのです。
しかも、バサルモスが
これは憂慮すべき事態なんです。
弱点を的確に狙うのは、ほぼ間違いなく人間の仕業です。
しかも武器ではなく、大型爆弾による攻撃。
無認可ハンターの密猟行為の可能性が出てきたんです。
ハンターズギルドは、ただただハンターさんのお手伝いをしているだけではありません。
人間とモンスターの生息域を維持し、モンスターの生態系を守るという大切な役目も担います。
密猟行為は、村付きの登録をされていないハンターさんの狩猟行為も含まれますので、半ば黙認されてきました。
ですがそういった方々ほど、モンスターの生態系の維持にはとても気を配ってらっしゃいます。
ですが、今回のケースは、あの屈強なバサルモスを追い込むほどの大型爆弾を使った攻撃です。
もし大量にその爆弾があるというなら……。
うーん、これはギルドも騒ぎますよねぇ……。
由々しき事です。ギルマスも慌てていますね。
こういうときは、新人担当で良かったと思います!大きな問題にはほとんど関わりのないところですからね!
なーんて考えいたんですけどね。
……ソウジさんのハント履歴。
なんですかこの「バサルモス撃退」って。
えぇぇぇ……。
どうやったら武器も何も持っていない、存在も知らないような人が、撃退できるんですか!!
本人に問い正して、上に報告すべきでしょうか……。
やはり明日見極めておきましょう!謎が多すぎますあの人!
そして2つ目の問題。
かの有名なG級ハンターのマショルクさんが、突如として村に訪れたのです。
しかも首都ザキミーユシティのハンターズギルドマスターの紹介状付きで。
しかもたった一文、
「教官に推薦する。以上。」
…………なんですかこの投げやりな紹介状は!
マショルクさんと言えば、あの有名なG級ハンターのクラン「カホ・チータ」のメインメンバーですよ!?
泣く子も黙る、ヘビィボウガン使いですよ!?
おかげでギルド内は騒然。
いきなり伝説が目の前にいらしたんですから、そりゃ皆さん、浮足立ちます。
しかも教官て!私の管轄になっちゃう!
そんなこんなで。
「すまない!ギルドマスターに尋ねたところ、君が担当ということでやってきたぞ!私はマショルク!しがないボウガン使いだ!」
もう来ちゃった!私に!
ギルドマスター!忙しいからって私に投げましたね!
いつか化けて出てやるぅ……。
「ほう!君はハイビス君というのだね!私のことは気軽にマショルクと呼んでくれ給え!」
呼べません!
伝説のハンターさんを呼び捨てなんてできません!
まずいです。
私の受付嬢人生の中で、一番の難題がやってきました。
「恐れ多いです。改めて私、ハイビスと申します。」
「うむ!よろしく!」
「え、えーとですね、つかぬことをお聞きしますが、このワサドラに教官として務めたい、ということでお間違いなかったでしょうか……?」
「ああその通りだ!私のいたクランはこの度活動を休止してね!私もそろそろ弟子を取りたいと思っていたのだ!」
G級ハンタークラン「カホ・チータ」は、数年前の古龍襲来の際、撃退に成功。
演劇になるほどの有名なお話です。
しかし、所属G級ハンターの2名が死亡、他のメンバーの負傷も残り、惜しまれながらも活動休止になったんです。
もちろん覚えております。
大陸中が、厄災からの解放による安堵と、トップハンターたちの活動休止による不安に包まれましたから。
「昔世話になったワサドラに、私ができることは!」
「は、はい!」
「より良きハンターを、輩出していくことではないかな!?」
「な、なるほどぉ……。」
「ではいきなりで済まない、ハイビスくん!早速弟子候補を紹介してくれないか!?」
「わ、わかりました!」
どうしましょう。
どうしましょうどうしましょうどうしましょう!?
紹介しないわけにはいきません。
でも現在いる、そして明日にはすぐ来られる新人ハンターさんって……。
ソウジさんしかいないんですけど…………。
「じ……実は明日昼過ぎから、一人新人ハンターさんがいらっしゃいます。」
「おぉ!それはタイミングがいいな!」
「ですので、まずは明日ぜひ面接など行っていただいてから――」
「手配が早くて助かる!さすがギルドマスター推薦の受付嬢だ!早速明日から、私の教官人生をスタートさせるとしよう!」
「……え、えと、ですから――」
「それでは明日また参る!よろしく頼む!」
そう言うと、マショルクさん、もといマショルク教官は颯爽と去っていきました。
嵐のような方でした。
G級にはアレな方が多いと聞いておりますが、先行きが不安しかありません。
ま、まぁでも!経験豊富なハンターさんを新人に紹介できると考えれば、悪い話ではないですよね!
………ソウジさん、礼儀正しい方でしたし。
経歴はもう本当に疑問しかありませんが、マショルクさんなら大丈夫でしょう!
だ、大丈夫……ですよねぇ……。
* * * * * *
翌日。
ついにソウジさんがいらっしゃいました。
時間通りです、やはり真面目な新人ハンターさんということで……いやいやいや、もしかしたら密猟組織の末端……いやいやいやいや、私は何を考えているのでしょう。
とにもかくにも、本日はマショルク教官との顔合わせのみの予定です。
いつものように…いつものように……。
「ソウジさん……ですね?講習会参加の。」
「あ、こんにちは。お世話になります。」
「は、はい。お世話になります。」
礼儀正しいです。
しかも話し方も自然ですね……。
年齢の割に経験が豊富……幼いときから悪い組織に育てられ……ギルトに潜入して内部から……
いけませんいけません、何を考えているんでしょうか私は!
憶測でモノは言えません!教官とのお話を見ながら見極めましょう!
「お待ちしてました。では案内しますので、こちらにどうぞ。」
修練場に向かいます。
マショルクさんからここへ案内するように指定されました。面接などをここで行うのでしょうか、不思議な方です。
しかしソウジさんのことが、気になって仕方ないです。
案内中も不審な点はないか、目が離せません。
「私はここまでです。ソウジさん……頑張ってくださいね。」
「は、はい!」
さて、私も仕事に戻りましょう!
……ソウジさんの監視という名の仕事に!
ご心配なく。しっかり建物に隠れながら、見つからないようにしております。午後の仕事も全て引き継ぎ済み!
万事抜かりはありませんよ!
有能な受付嬢として、ここはしっかりと見張らせて頂きます!
* * * * * *
おかしいです……。
マショルクさんが、時間になってもいらっしゃいません。
(もしや私、時間を間違えたでしょうか!?)
かれこれ20分ほど立っております。
その間ソウジさんは直立不動のままです。
(これはよくないですね……私の落ち度かもしれませんし、一度確認を……)
そんなことを考えたいた矢先でした。
急にソウジさんの背後に、マショルク教官が現れたのです!
え?何あれ手品!?
とか何とか思っていたら、次の瞬間!
マショルク教官が、木剣を両手で持ち上げ、振り下ろしたのです。
それはもう、思いっ切り。
(~~~~~~!!!!!!)
人間ビックリしすぎると、声が出ないものなんですね……。
しかも、驚いたのはこれだけじゃありません。
まるで打合せしていたかのように、先ほどまで直立不動で立っていたソウジさんが、急に左に転んで避けたのです。
新人のソウジさんが。
マショルクさんの剣を。
お二人のあまりの速さに、もう口をパクパクさせるしかありませんでした。
ソウジさんは、全く予期していなかったのか、怒ってらっしゃいます。
すごいです!伝説のハンターに向かって、大声で突っ込んでらっしゃいます!
わたしには無理です。
(どうやらマショルク教官なりの面接だったようですね……ですよね?)
マショルクさんが何やらお話をされているのですが、ここからだとよく聞こえません。
緊急回避……?という言葉がかろうじて聞こえた程度です。
そういうと、マショルクさんが急にソウジさんを攻撃し始めました!
えぇぇ!!??
危ないですよ!?
木剣とはいえ、当たればまず間違いなく怪我しますよ!!
(ソウジさんが死んでしまいます……!!)
……あれ?
避けてる。
避けてますよ!
ソウジさん避けられていますよ!
少なくともあのマショルクさんの剣速、私が受付嬢として数々のハンターさんを見てきた中でも、かなり速い方です。
なのに、ソウジさん。
避けていますよ!!
(すごい!
そこ!そう!
あぁ危ない!
わっすごい!)
素晴らしい反応速度です!ソウジさん!
反撃しないのは、避ける訓練だからでしょうか?
ずっと回避を繰り返すソウジさん、恐ろしい速度の連続技を繰り出し続けるマショルク教官。
レベルの高いエンターテイメントを見ているかのような、そんな気持ちになってきます。
でも、流石にソウジさん、体力が尽きたのでしょうね。
マショルクさんの低い姿勢からの抜刀に対応できず、腕でガードしました。
(うわあ痛そう……。でもでも、見直しましたよ!)
あの回避速度!一線級でやっていけそうな程、いやそれ以上ですね!
私の「逃してはいけない」予感は当たっていたのかもしれません。
そこからの武器の扱いについては、体力も底をついたのでしょう、実に新人らしい動きでしたが。
そこはいいのです。筋力や技術は、後でいくらでもついてきます。
反応速度は、いくら鍛えても中々伸びないものです。
今後が楽しみなハンターさんだと、再評価できましたね!
新人ハンター担当として、嬉しい限りです。
* * * * * *
本日は無事お開きになりました。
時刻はもう夕方。
ソウジさん、ボロボロですね。
やめてほしくないので、あとでフォローをしておきましょう。
……私はなぜ監視をしていたのでしょうか……。
あっ!
そうでした!ソウジさんは何者なのか見極めるためです!
見直している場合じゃありません!
(人となりなんて何もわからなかったです!というかむしろ、「実は裏組織の実力ある刺客」説が濃厚になっている気がします!)
うん!
決めました!
………………この問題は、先送りにしましょう!!
………………。
………だって難しいっていうか……まだまだ実力がちぐはぐと言うか……
やっぱり今後も監視を継続していきます。
新人担当受付嬢として!