「クエストのスタートは、明日朝からです。期間は三日以内。それまでにバサルモスを討伐し、証明部位をお持ち帰りください。部位に関しては……。」
ハイビスさんから、懇切丁寧にクエストの内容についての説明を受ける。
確認は大事だと思うので、メモをしっかり取っておく。
「…………また、今回は試験を兼ねるため、教官としてマショルクさんが同行します。ただし、アドバイスや手助けは厳禁です。命の危機に遭った時のみ、手助けを許可します。マショルクさんが手出しをすれば、試験は不合格となります。」
ソロ討伐というからには、そういうことだろうな。
俺が一人で討伐することに意味がある。
教官を頼るようでは、半人前のままだ。
「説明は以上になります……ソウジさん、何かご質問はありますか?」
「いえ、また確認してわからないことがあれば聞きます。」
「ええ、そうして下さい。明日の朝までに準備を整える、こういうのも全て、試験内容に含まれますので。」
ということはアレかな?
準備段階で教官を頼るのもNGということか。
準備は入念にしなければ。
そのまま俺と教官はハイビスさんに礼を言って、ギルドを後にすることにした。
特例中の特例なのだろう、ハイビスさんは挨拶もそこそこに、忙しなくギルド内を回り始めた。
何とか頑張ろう。
教官にいつだか教えてもらった、「命あればこそ!」の教えは徹底して守る。
その上で、このクエスト。絶対にクリアしてみせる。
* * * * * *
準備から自分で行わなければならない。
いつもの様に昼食を「イシザキ亭」で取った俺たちは、宿の前で別れた。
「近くにいるとあれこれと教えそうでな!教えたことを思い出しながら、準備をするといい!」と言って、その場を去っていった。
待ち合わせは明日の朝、ガーグァ車乗り場の前で。
そこまでに、何とかしてみよう。
ポーチの中身を確認するため、俺は一旦宿に戻ることにした。
宿に戻ると、ドールと鉢合わせた。
今日はブラウンのパーカーに、デニム生地の七分丈のズボンを履いている。
いつもと違う時間帯に「ホエール」に帰ってきたため、不思議に思われたようだ。
「あれ?ソウジさん。早いね。」
「あぁ、今日はね。」
「今日は、って。明日は遅いみたいな言い方。」
「そうかもしれない。実は、大型モンスターの討伐クエストを受けることになった。」
「……えっ?」
「期間は三日間。だから、明日明後日帰ってこなくても、心配しないでくれ。」
「……も、もう大型モンスターの討伐に行くの!?」
「うん。今から準備をしないとなぁ。」
頭をポリポリ掻きながら、これからのことをさっと考える。
部屋に戻って、ポーチの中身を確認。
必要なものがあれば買い揃えるつもりだ。
セツヒトさんのいる武具屋は夕方には閉まるはずだ、少し急ぐか。
「それじゃ、ドール。これから準備をするから……ドール?」
ドールに話しかけるが、返事がない。
何か俺、失敗した?
「ど、ドール?大丈夫か??」
頭に手を伸ばした、その時だった。
「っ!」
バシンっ!
手を払われた。
痛い。
そのままドールは、宿の外に出て行ってしまった。
「…………えっ。」
突然の出来事に、呆然としてしまう。
…………。
……………思春期真っ只中の女の子の頭を気安く触ろうとするのは、良くなかった………………。
いかん。とんだセクハラ野郎だ!
相手は子どもだが、立派なレディ。
安易な俺を呪いたい…………!
どうしよう、心が痛い。
「ソウジさん、どうした?」
「のわっ!」
急に後ろから声をかけられてビックリした。
ホエールさんだった。あー驚いた。
「ホッホッホッ、わしの気配に気づかんとは。油断しておったな?」
「すみません、急に色々ありまして……。」
おたくの可愛い孫娘をセクハラしかけて、手を払われました。
なんて言ったら俺殺されるんじゃ……。
「まぁ、一部始終は見ておった。ソウジさん、大型モンスターの討伐に行くんじゃな?」
「見ていたんですね……。失礼しました。実は明日の朝から、バサルモスを討伐するクエストを受注しまして。」
見られていたらしい。
あぁショック。
我が人生第二の住まいと言っても過言ではないこの宿で、その店主と看板娘に嫌われてはもうやっていけないぞ。
「心配なさんな、ソウジさん。ドールがああなったのは、少しタイミングが悪かっただけじゃ。」
……タイミング?
俺が首を傾げていると、おじいさんが続けて言う。
「……少し来てくれるかの?」
「は、はい。わかりました。」
ホエールさんに付いていく。
そこは店の奥。二人の居住スペース兼事務所のようなところだった。
おじいさんは徐ろに、ブレスレットのような物を持ってきて、俺に見せてきた。
金属製のそれは、宝石のような青い石が数個くっついていて、女性がつけるには少し無骨な造りだった。
「これは……?」
すごい装飾品、というのが分かる。
放つ雰囲気が凄まじい。
何かしら曰く付きの一品なのかもしれない。
しばらく眺めていると、ホエールさんがゆっくりと話し始めた。
「これは、わしの倅の形見じゃ。」
倅ってことは、息子?
それってつまり……。
「……ドールの父親の形見、とも言えるの。」
「それは……。」
知らなかった。言葉が続かない。
ホエールさんが、重い口を開き始めた。
「……息子は、村で一番のハンターじゃった。ワサドラが、ここまで発展しておらんかった頃、まだまだモンスターはうようよと周りにおってのぅ……。そんなモンスター共を、息子はソロで何頭も仕留めてきおった。村の男たちが束になっても勝てないような、そんなモンスター共をな。」
おじいさんは、心底誇らしげに話す。
生息圏を賭けた、人間とモンスターの戦いということだろう。
開拓地は、ある意味モンスターとのせめぎあいで、恐ろしい数のクエストが舞い込むと、教官に聞いたことがある。
「バサルモスやイャンクック、テツカブラにアオアシラ。村のそばに現れた、と聞いたらすぐさま対処する。誇らしかったのう。そのうち結婚し、ドールが生まれた。そんな矢先じゃ………あの怪物が現れた。」
そう言うと、ホエールさんは戸棚から、ドス黒く鋭利で平たい石の様なものを取り出した。
「暴食竜、イビルジョー。この黒いのは、そやつの鱗での。」
「イビル、ジョー……。」
「……第一級災害指定種に指定されておる、正真正銘の化け物じゃ。」
「……息子さんは、そのイビルジョーに?」
「ああ、食われた……のかもしれん。確かかなことは何も分からん。ただおびただしい量の血と、装備品が見つかった。」
「…………。」
「観測班も確認はしておらん……ハンターズギルドに正式に登録されてもいない、村付きのハンターじゃ。こうした末路は、必然じゃったのかものぅ……。」
食われたのか、とは聞けなかった。
あまりに残酷すぎるから。
「明日は……倅の、ドールの父の、命日じゃ。」
「えっ……。」
「……色々考えてしまったんじゃろうの。」
奇妙ではあった。
二人だけで宿を経営する姿が。
どこか無意識に、聞かないように、知らないようにしていた。
藪をつついて蛇を出すようなことは、したくなかったから。
「ソウジさん、さっきも言ったがあまり気になさんな。ドールにも、わしから言っておく。」
「ホエールさん……。」
「……ドールは、お前さんのことを、慕っておる。まるで父のようにな。…………倅に頭を撫でられた記憶は、今も鮮明に残っておるそうじゃ。」
すまない、と謝るのは簡単だ。
でも、それは違う気がする。
俺だって、ドールに好意を向けられて嬉しかった。
男女のそれとは違う、家族のような好意。
温かく、それだけで辛い講習にも耐えられた。
知ってしまった。
ドールの悲しみを知ってしまったから。
俺は、負けられない。
「ホエールさん。」
「……なんじゃ?」
「おれ、負けません。強くなりました。胸を張って、ドールにただいまと、言ってやりますよ。」
俺なりの決意を口にする。
「ホッホッホッ!心配はいらんようじゃな!……すまんの、ソウジ君。お前さんなら、話しても良いと思った。まぁ、あのマショルクも一緒じゃろ?滅多なことにはなるまいて。」
「はい。でも、俺はソロでやり遂げるつもりです。」
「ふむ。……ええの、ソウジ君。頑張ってきなさい!」
「……はい!」
おじいさんに背を向けて、部屋を出る。
大きな決意を胸にして。
「俺は、絶対に負けない。」
口にすると同時に、改めて気合を入れ直した。