「セツヒトさん、いますかー?」
武具屋にやってきた。
ポーチの中身を補充するため、雑貨屋に寄った俺は、あらかた不足のアイテムを購入した。
そして最後に、セツヒトさんの店にやって来た。
ここで武器と防具を見てもらおうと考えたからだ。
と言っても、俺のポーチにはクリーンアップされるギフトが付いているので、見た目にはあまり問題はない。
だが念の為、というやつだ。
人事を尽くす。
実は教官とも、この店に何度か訪ねたことがあるのだが……。
「ソウジ君は手入れがよくできているからな!問題ないだろう!私は、さ、先の喫茶店で待っているから、見てくるといい!それでは!」
「お?今日は雑貨屋でセール中か!私はそっちを見てこよう!ソウジ君はゆっくりとしていくといい!それでは!」
とかなんとか言って、どこかに消えてしまうのだ。
せっかく武器や防具の種類や、手入れの仕方を教えてもらおうと思ったのだが。
おそらくセツヒトさんと、昔何かあったのではないかと思う。
なので、俺にとって武具関係の師匠は、実質セツヒトさんということになる。
「セツヒトさーん。入りますよー?」
一応断ってから店を開ける。
店なのだから、勝手に入ってもいいとは思うのだが。
ドアには「開いてるよん」って木札がかかってるし。
何だこの木札……裏には「おやすみなさーい」って書かれている。
……力が抜ける……。
「ごめん下さーい。武具の点検に来ましたー!」
「あーはいはーい。ちょっとまってねー。」
店の奥から声がした。良かった、いた。
この人、気分で店閉めちゃうから、不安だったのだ。
時刻は夕方。
「おなかすいたー」とかなんとか言って、閉められてもおかしくない時間だ。
「ソウジだー。なーんか久しぶりー。」
「お久しぶりです。何かやってました?忙しいならまた今度来ますが。」
「だいじょーぶ。今終わったからね。……何してたか気になるー?」
「いいえ、気になりません。」
「えー、ソウジ最近冷たいなー。おねーさん寂しいぞー?」
セツヒトさんはことあるごとに俺をいじってくる。
俺が女性に慣れてないのを分かってて、その辺をいじってくるので、質が悪い!
しかもドキドキしながら、いじられて多少喜んでいる自分が、なんとも情けない……
おっさんハートは純情なのだ。
……要件はさっさと済まそう!
「実は明日、クエストを受けることになりまして、武具の点検をしてほしいんです。」
「おー。ついにクエストだ。おめー。で?何系?採取?運搬?んー、小型の討伐もありうるかなー?」
「……バサルモスですよ。」
沈黙。
「……んー?なんて言った?」
「……バサルモスの討伐です。明日朝から三日間。教官は付きますが、ハンター試験と兼ねて、行ってきます。」
セツヒトさんは、珍しく両目とも開いたままだ。驚いている。
そりゃそうだ。
「……そかそか。ソウジは早いねー!もう大型かー!」
「そうなんです。自分でも驚いてますよ。なので、双剣の―――」
「教官は誰?」
「えっ?」
急に真顔にならんといてください。怖いっす。
「教官は、誰ー?」
「えー、えっと。」
「んー、いやねー?最近メキメキ力を付けていくソウジは、ホント嬉しくてねー?もう私としてはー?可愛い可愛い弟のようなのさー。でも、一ヶ月で、たった一ヶ月で大型モンスターの討伐に行かせるのは、ちょーっとどうかなーってね?せっちゃんさんは思うわけー。わかるー?」
アカン。
なんだか急にセツヒトさんの雰囲気が、恐ろしいものになった。
可愛がってくれるのはとても嬉しいのだが、このままではギルドに文句を言いに行きかねないぞ。
それにここで名前を出しては、教官もただでは済まない気がする。
「ま、待ってください、セツヒトさん―――」
「せっちゃん、でしょー?」
「せ、せっちゃんさん!俺は大変教官にはお世話になってましてですね。そのプライバシーと言いますか個人情報をおいそれと言うわけには―――」
「教官はー。…………だれ?」
そう言うや否や、セツヒトさんは顔を至近距離に近づけて目を離さない。
うわあめっちゃ美人!そして目で殺される……!!
…………すんませんマショルク教官。
この人に隠し事は無理です…………。
「まっ、……。」
「まー?」
天井を見上げて目を瞑り、覚悟する。
冷や汗が止まらない。
「マショルク教官です……!」
「…………んー?」
……。
沈黙。
「わーぉ…………。流石に予想外。」
セツヒトさんは俺から離れると、受付にあったイスにゆっくり腰掛ける。
そしてなにか考え事をするように、右手を顎にかけた。
「……お、お知り合いですか!?」
「んー、んんっとねー。説明が難しいんだけどー………敵?」
「……な、なるほどー。」
すんませんマショルク教官。
弟子は今、師匠を売ってしまいました。
目の前の銀髪美しい女性に。
お許し願いたい。
しかしどうやら、今から殴り込みに行こうとか、そんな剣呑な雰囲気ではなくなった。
「しかしアイツが教官ねー。どーゆー風の吹き回しー?…………まーでも、昔から見る目はあったからねー。」
「……えっと。せつひ――せっちゃんさん。」
「あー、ごめんねー。ソウジに何かしようってんじゃないから、安心してねー?武具の様子、見るから出してみー?」
いつもの口調に戻ったセツヒトさんは、俺から装備と双剣を預かると、点検を始めた。
おしゃべりが好きな人なのに、いたく真剣に武具の点検を進めていく。
俺はすることもなく、なんとも気まずい雰囲気の中、店の中の武器を眺めていた。
15分ほどして、セツヒトさんから声がかかった。
「おまたせー。いやー、ソウジはしっかり手入れしてるねー。新品みたいで言うことないわー。」
「あ、ありがとうございます。」
ほぼポーチのおかげなんだが。
「うんうん。おねーさん嬉しいぞー?大切にされている装備、愛を感じるね。」
「ははは……。きょ、教官の指導が良かったのかも?なーんて。」
「あはははは…………チッ。」
「……す、すごい嫌ってるんですね。」
こんなあからさまに態度に出す?
目が笑っていない。
舌打ちをかますところが教官と似ていますね、なんて。死んでも言えない。
ますます過去に何があったのか気になる。
でも今日は聞くのはやめておこう。
絶対ろくなことにならない気がする。
「……まー、切り替えてー。」
「は、はい。」
「とりあえず、このままクエストに行って問題なっしんぐー、ですよ。しいて言うなら、ちょーっと斬れ味がー、心もとないかなー?」
「この剣じゃ厳しいですかね?」
「んー。バサルモスはねー、とにかく固いのさ。だから、近接武器はあくまで陽動で、遠距離組が、こうバコバコーって削る感じ?」
「そこなんですよね。弱点の腹部は狙うにしても、刀がすぐダメになりそうで。あ、砥石はたくさん用意してます。」
双剣のよさは手数。教官にみっちり教え込まれた。
そして攻撃を行うと、武器の斬れ味が下がる。
つまり双剣は、斬れ味が悪くなりやすい武器と言える。
なので戦闘中、時には危険な中、何回も刀を研ぐ必要がある。
装備のスキルに<砥石使用高速化>があるとはいえ、攻撃が止まる機会はなるべく少なくしたい。
「んー。よぅくわかってるねー。やっぱりソウジはいいねー。」
「相手の特徴を知らないと、戦略は立てられませんからね。そう教えられました。」
「いい教官やってるなー、アイツ。むかつくけどー。」
「ははは……。」
いかんいかん、教官の話はしないようにしたかったが、俺の今のハンターとしての礎は、間違いなく教官の講習のおかげ。
どうしても、話に上がってしまう。
「じゃあさー、明日の朝だっけー?それまで、この武器預かっていーい?」
「えっ?……なにをなさるおつもりですか……?」
「んふふー。可愛い可愛いソウジのために―?おねーさんが一肌二肌脱いであげようかなってねー?」
「それは……。」
……。
いかんいかん!やらしいこと考えている場合か。
「お、何か別の意味で、期待してなーい?」
「し、してません!」
「うそつけー。お顔真っ赤にしてー。」
「はい嘘ですちょっと違う意味に捉えましたごめんなさい。」
「うわー。ソウジやらしーねー。」
「もう勘弁して……。」
今日も今日とてからかわれた。
「まー冗談は置いといてねー。明日の朝までに、武器の斬れ味上げておくよー。」
「えっ?可能なんですか!?」
「うん、かのーかのー。まあ料金は……結構いくけど。」
「ぐっ……でもそれは、しょうがないかも……。」
「まー後払いでもいいしー?それともー?体で払ってもらおうかなー?」
「後払いでお願いします。」
きっぱりと断ってから、おれはポーチをふれて残り所持金を確認する。
5000z。残り銀貨5枚ほどか。こりゃ無理だ、稼がなければ。
「それともソウジ、違う武器とか装備もってない―?」
「えっ、まあありますけど。」
「あるんだ。それ、買い取ってもいいよー?」
「ホントですか?」
「うん、流石に今持ってくるのは大変だろうから、クエストの後にでも持ってきてー。精算してあげるよー?」
「助かります!」
実はポーチの中にある大量の武器。
これが売ることができたら、少しはお金になるのでは、と思っていた。
今すぐ出したら不審に思われること間違いないので、次回に清算ならありがたい。
「じゃ、今日はゆっくり休んでおきなー?モンスターは寝かせてくれないぞー?」
「はい、ありがとうございます。お言葉に甘えます。」
「うんうん、よろしー。じゃ、明日朝車乗り場の前に持っていくねー?」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして、セツヒトさんは俺の双剣を手にすると、「まかせてー」と言って、奥の工房に入っていった。
俺も付き合いましょうか?とか言おうと思ったが、「そんなに私と一緒にいたいのかなー?んー?」とかなんとかからかわれそうなので、そっと店を出る。
日も沈みかけ、宿に戻ることにした。
「あっ。」
そういえば。
明日朝ガーグァ車乗り場の前って。
教官と鉢合わせになるんじゃ。
……。
よし決めた!
「スキル!なかったことに!」
こうして、何の解決にもならないスキルを発動した俺は、教官にそっと心の中で謝っておくのだった。