ガーグァ車に揺られること、1時間ほど。
俺とマショルク教官は、岩山地帯にたどり着いた。
御者のおじさんは俺たちを降ろした後、「ご武運を。」と渋い一言と共に、村に戻っていった。
これで、帰りのネコタクチケットを使うまで、基本的に村に戻る手段は無いということか。
乗り場の横は、簡易的なテントと休憩するスペースが用意されている。
ここは安全地帯なのだろうか。疲れたら休むこともできるらしい。
アイテムを入れるボックスも用意されており、中には簡単な道具類が入っていた。
まぁ結構な道具類を用意してきたので、必要はなさそうだが。
「ソウジ君!ここから私は一切の口出しができない!自分の力でモンスターを倒すのだ!」
「サーイエッサー!」
そう言うと教官は近くで一番高い岩山まで走って行ってしまった。
……速すぎるって。人間辞めてんなー、あの人。
まぁ気にしないことにする。
「落ち着いていこう。」
自分に言い聞かせるように、つぶやいた。
ようし、まずはバサルモスの姿を確認するか。
バサルモスは擬態が得意だ。
逆に言えば、岩がゴツンと飛び出ている、そんなオブジェをしらみつぶしに調べていけば、バサルモスにたどり着くことができるはずだ。
……そして正直に言おう。
情報画面のマップには、すでにバサルモスの位置が分かるようになっている。
自分の位置が赤く点滅しており、大型モンスターは緑色。
うーん、やはり恐ろしいぞこの情報画面。
クエストに来ると、その便利さ、もといおそろしさが分かる。
その他にも、<採取アイテム>というタブに合わせると、採取アイテムのある場所がピンク色で見える。
……このマップがあれば、金儲けとかすぐできるのではないか……?
と、とりあえず、教官に教えてもらった方法でバサルモスを探りながら、マップに表示されている表示に間違いはないか、確認してみよう。
「よし、出発!」
俺は周囲の警戒を怠らないようにしながら、進んでいった。
* * * * * *
「……いた。」
バサルモスを発見した。
発見したのはいいのだが。
「バレバレやんけ……。」
隠れる気はあるのか、あのバサルモスは。
<モンスター情報>によると、バサルモスは地中に潜ったりビームを吐いたりと、意外と器用なモンスターらしいのだが……
なーんの岩山もない地帯で、一つだけポツンと背中の岩石を出しているとは。
緊張感に欠けるが……。
まぁいい!ここから講習の成果を教官に披露するときだ。
多分どこかで見ているはず。
バサルモスに近づく。
地面から露出した背中。その奥、出現してくるであろう部分にシビレ罠を設置。
背中の横に大タル爆弾も設置。
まずは大タル爆弾で、バサルモスを地中から出す!
「せーの!」
……ドガァァァン!!
石ころを思いっきりぶつけて起爆する。
大タルでこの威力。やはりあの時の「大タル爆弾G」は威力おかしかったんだな……。
すると、地中からのそり。
バサルモスが、姿を現した。
だがここでひるまない。
この後すぐバサルモスは罠にかかるであろう。
その隙に弱点である頭部にある程度ダメージを与える、という算段だ。
さーてここから双剣の出番だ!
バサルモスがシビレ罠にかかる。
「ウォォォォ……!!」
動けなくなるバサルモス。
前も見たけどこいつ顔厳ついよなあ……。
剣を抜いて、構える。
あの時とは違う。今はこの武器を手にしている。
「鬼人……乱舞!!」
何か中二病みたいなことを叫びながら、双剣の乱舞を、バサルモスの頭部に集中させる。
使わせてもらいます!セツヒトさん!
(『双剣は手数の武器!一太刀一太刀丁寧に素早く!回転を上げれば、他の武器を圧倒する性能がある!』)
あの時の教官の言葉を思い出す。
「うおおおおおおおお!!!!!!」
叫びながら、確実にダメージを削っていく。
(すごいぞ、この双剣……!固い敵なのに、弾かれることが全くない!!)
セツヒトさんが手渡してくれたハリケーンは、バサルモスの体に弾かれることなく、一太刀一太刀ダメージを与えられている。
これは助かる!
「ヴ…ヲオオオオオオオオオ!!!!!」
シビレ罠の効果が終わるや否や、咆哮を上げるバサルモス。
だが、その前の動作を見切った俺は、すぐさま離れて攻撃に備える。
「よっし!ふうううう……ここまでは順調!!」
むしろこれからだ。バサルモスが本格的に動き出す。
まずは…………突進攻撃だな!
ーーー遅い!教官の抜刀の方が、数百倍は速いぞ!
予備動作も大きく、難なく避けていく。
その間も目を離しはしない。
(『モンスターは必ず予備動作がある!初見のモンスターは、見極めることがすなわち攻略となる!目を離さない!』)
「サーイエッサ―!」
別に教官がすぐそばにいるわけではないのだが。
尋常ではないあの講習の日々が、今こうして生かされている。
それが、とても頼もしい。
続いて、バサルモスが全身を振り回して、薙ぎ払ってくる。
落ち着いて、
薙ぎ払い攻撃は、振り回す方向を読めば、近くにいる方が避けやすい。
これは<モンスター情報>で確認済み。
中々攻撃が当たらない俺に業を煮やしたバサルモスは、ついに例の攻撃に移った。
そう、俺がトラウマになった、あの怪獣ビームだ。
あの時は、そのトンでも威力に度肝を抜かれてしまった。
だが今はどうか。
体力にも十分余裕がある。
斬れ味にも注意してみるが、まだ問題はない。
常々、あの攻撃にどう対処すればよいか考えていた。
試してみたい。
そう考えた俺は、あえて攻撃を誘導した。
赤くなるバサルモスの体。首が震える。
ここだ、このタイミング。
「グ…アアアァァァァァァァァ!!!!」
ついにビームが発射される。
その寸前。
俺は斜め前に転んで回避した。
「よっしゃ!成功!」
ずっと考えていたのだ。ビームと俺が形容してしまったのは何故か。
それは、ビームがまっすぐ飛ぶ光線だと、認識しているから。
ならば、ビームを出すタイミングで避けてしまえばいいのではないか。
予想は見事に的中した。
そしてそれはすなわち、
「隙ありぃぃ!」
ビーム攻撃中から攻撃後にかけて、がら空きになった腹部に、もう一度「鬼人乱舞」をぶちかます。
するとバサルモスは、まるで燃料切れのロボットのようにガタガタしたあと、腹部をさらして転がった。
(これは……チャンス?)
ここで一気に叩こうと考える。
しかし、またしても教官の声が、頭の中で響く。
(『双剣は、特に気を配るべき部分が多い武器だ!乱舞や回避で、スタミナは削られ、手数が多い分斬れ味も落ちやすい!常に確認を怠らないように!』)
「サーイエッサ―!」
よく見れば、双剣ハリケーンの青かった刀身は鈍色になり、俺自身も興奮して息も少し上がっている。
まだ狩猟は始まったばかりだ。
ここは……。
「離脱!」
俺は足早に、少し遠めの岩山の上に身を潜めた。
岩山を昇るのは、全く苦じゃない。
教官に、つるっつるの滝の壁を昇らされた時に比べれば、なんてことはない。
「グアアァァァァァァ!!!!」
「アイツどこ行ったんや!許さへんでえええ!」とでも言いたげな咆哮。
すまん。バサルモス。休戦休戦。
また油断してくれたら、狩猟再開するからさ。
* * * * * *
「ヤッ!ハァ!……よっと!」
「ガァ!グア……ガァァァ!!」
バサルモスの一撃一撃を避けながら、確実にダメージを重ねていく。
あちらはだいぶ疲れていると思う。
こっちはまだ余裕がある。でも油断はしてはいけない。
(『手痛いしっぺ返しは、討伐寸前に起こるものだ!決して最後まで、油断しない!常に慎重に!』)
「サーイエッサ―!」
絶対に油断しない。
とか何とかいいながら、実はさっき2回ほど、しっぽの振り回しに当たってしまっている。
動きが分からないまま突撃するからだ……教官。すみません。
しっぽが当たった腹と頬がめっちゃ痛い。
でも痛いのは慣れているんだ。
教官の腕の強さに比べれば、これぐらいの痛み、へっちゃらだ。
反省はすぐに生かす。
着実によけ、確実にダメージを稼ぐ!
「閃光玉!」
「グアァァ!!?」
閃光玉は、絶命の瞬間にとてつもなくまぶしく光る「光蟲」を使用したアイテムだ。
モンスターがひるみ、少しの間だけ視界を奪うことができる。
その隙に、「砥石」で斬れ味をもどしつつ、「携帯食料(おにぎり)」を「回復薬」でがぶ飲み。
うぇぇ……合わない!まずい!
まずいけど……耐える!
徐々に視界が戻っていくバサルモス。
だがその寸前に、奴の懐に潜り込む。
「くらえ!」
二刀の斬り下ろしからの振り上げ、回転切りの連続技をお見舞いする。
すると、ついに腹部の皮が破れ、赤い皮膚がむき出しになった。
「弱点!ここだ!」
狙いを一点に変え、集中して腹部を攻撃する。
たまらずひっくり返るバサルモス。隙だらけ。
斬れ味、よし。体力、よし。
いける!
「鬼人……乱っ舞ぅ!!!!」
鬼人乱舞を決める。終わった後も攻撃は止めない。
突進連斬からの斬り上げ、同時振り下ろし……と連続技を決めていく。
「グ……グオォォォォ……。」
ズゥン……。
「はあっ……はあっ……やった、のか?」
びくとも動かなくなったバサルモス。
念のため触ってみるが、何の反応もない。
「や、やったぁぁぁぁ…………!」
その場に座り込む。
バサルモス、討伐完了だ。
正直に言おう。
意外とイケた。自分がかなり強くなってることがわかった。
あの時と同じ敵だからこそ、思える。
俺は、力がついた。体力がついた。
剣の技術が、ハンターの技術がついた。
がんばったと、胸を張って言える。
だからこそ、嬉しい。自分の成長が。
そして。
「バサルモス。ごめんな。お前に罪はないよな。」
息絶えた目の前のバサルモスを見ながら、つぶやく。
モンスターは、ただそこに生きているだけ。
これは、人間が生息するための、ただそれだけのための狩猟だ。
「……お前を倒したこと。忘れない。そしてその命、無駄にはしない。」
証明部位である腹膜を剥ぎ取る。
普通はモンスターの耳やらしっぽやら爪やら、数が少ない部位をギルドに持ち帰ることになっている。
だが、バサルモスは固い。
唯一普通の刃でも通りそうな腹膜が、証明部位なのだそう。
喜びと、命を頂くその行為に、何とも微妙な気持ちでいた時。
後ろの岩山から、マショルク教官が飛び降りてきた。
「ソウジ君!!!よくやったな!!!!これで君も正式なハンターの一員だ!!!!」
「は、はい!ありがとうございます!」
「驚かされっぱなしだったぞ!討伐時間も4時間半!素晴らしい腕前だ!!」
「教官……教官、俺、感謝します。」
狩猟中浮かんできたのは、きつかった講習の日々で叩きこまれた、教官の教えだった。
あの言葉がなければ、狩猟成功は無かったかもしれない。
「感謝だと!それを言うのはまだ早いぞ!」
「えっ?」
「ギルドに報告し、5体満足で『ただいま』と家に帰る。ここまでがハンターのクエストだ!忘れてしまったのかな!?」
「……サーイエッサ―!申し訳ありません!」
そう、それも教官の教え。
いのちをだいじに、だ。
絶対に生きて帰る。無様でも、途中で投げ出してでも、命を持って、帰る。
もっともハンターに大事な資質だと、教えてくれた。
「うむ!それでは信号弾を打つんだ!あとは解体等をギルドがやってくれる!それまで、休憩だ!」
「サーイエッサ―!」
信号弾はまるで発煙筒のようになっていて、空に発砲すると赤い煙幕が空高く上がるようになっている。
空目がけて、信号弾を放つ。
それは、お祝いの花火のようにも、バサルモスの弔いの礼砲のようにも見えた。