こちらが赤い信号弾を打ってから少しして。
ギルドの回収班が放ったと思われる青い信号弾が、南後方に上がった。
モンスターの亡骸は、即回収される。
小型モンスターが餌を貪りに来るからだ。すると必然、大型モンスターがそれを狙ってやってくる。
まだ狩猟者の気配が残っているうちに、ギルドの回収班がモンスターを解体し、ギルド支部まで持ち帰る。
ギルドにはそうした役割がいくつもあり、俺たちハンターはその恩恵を大いに受けている。
その費用の大部分は税金と寄付金、何よりこの大型モンスターの素材の代金で賄われている。
このシステムは画期的だと思う。
人々の暮らしは、正直言って前世よりも数世紀遅れている印象だが、ことハンターに関するシステムについては、よく考えられているな、と思わされる。
まぁ、自分の手元に残る素材はほんの少しなのだが、それを持ってもあまりある恩恵だと俺は感じている。
「さて!日もまだ高い!これなら今日中に村に帰れるぞ!素晴らしい狩猟スピードだったな!」
教官は先程から、今までで一番ではないかと思うほど褒めてくれている。
恥ずかしいし、なんだか照れくさい。
だが、心底嬉しい。
あの辛い講習の日々が、報われたのだから。
「これからそのアイルー……?のネコタクとやらに乗れば、夕方には間に合いますか?」
「あぁ!十分間に合うだろう!今夜は祝杯だな!私の奢りだぞ!」
「サーイエッサー!」
「よろしい!それでは初めのポイントまで私と競争だ!」
そう言って教官は、とんでもないスピードで最短ルートを進んでいった。
……お、追いつけるか!
仕方がないので、俺はマップを確認しながら、自分なりの最短ルートを突っ走ることにした。
「あの人に追いつくにはまだまだ特訓が必要だな……。」
* * * * * *
ネコタクが来るまでには、早くてもあと一時間はかかるらしい。
どういう仕組みかはよくわからなかったが、討伐完了を終えたハンターのいる休憩ポイントに、そのアイルーのネコタクがやってくるらしい。
あとはそのアイルーにネコタクチケットを渡せば、村まで連れて行ってくれるという。
……アイルーってすごく便利なんじゃないか?
帰ったら色々調べてみよう。
そんなことを考えていると、教官から声がかかった。
「さて!ソウジ君!無事公認のハンターになった君に、伝えておきたいことと聞きたいことがある!そこに座ってくれたまえ!」
「サーイエッサー!」
「もうその返事も必要ないぞ!これからは私と同格の、プロとして働くのだからな!」
それもそうか。
……そうなのだが、何だか心がそれを許してくれない。
「……教官は、俺にとっていつまでも教官です!いつか肩を並べられる時まで、このままでいようと思います。」
俺にハンターのイロハを叩き込んでくれた恩は、いくら感謝してもしきれない。
……俺にとっての教官は、マショルク教官、ただ一人だ。
「……うむ!そうか!ならば、好きにするがいいさ!」
見たこともないいい笑顔で答える教官。
その笑顔を見れて、改めてクエストをクリアしてよかったと思った。
「伝えることは2つ!まず1つ目!……君はこれから様々な大型モンスターと戦うことになる!だが、基本は同じことだ!相手を観察し、己のすべてを叩き込む!今回の様に、決して準備を怠るんじゃないぞ!」
「サーイエッサー!」
「良し!そしてもう1つ!……死なないことだ!命があれば、また戦える!例え無様でも卑怯でもいい!生きて帰るんだ!それが最も、ハンターとして大切な資質だ!」
「……サーイエッサー!」
これは確認に過ぎない。
だが改めて教えてくれる。
とても大切なことだから。
口を酸っぱくしてもなお、俺に言い続けてきたこと。
決して忘れない。
そして、そのことを改めてこの場で言うということは。
つまり。
「……私の講習は、以上だ!」
ここで、マショルク教官の教えは、終わりだということ。
「…………ありがとうございました!」
万感の思いを込めて、礼を言う。
感謝を忘れず、ハンターを極めていこう。
「いい顔だな!なに、また会うことがあれば、いつでも相談に乗る!迷ったら、また私を頼るといい!」
「サーイエッサー!」
寂しい。
けど、悲しくはない。
繋がりは切れない、講習は短い間だったが、まだまだ教官との付き合いはありそうだ。
「そして……聞きたいこと。これはソウジ君のプライベートに関わることだ。答えたくないなら、答えてくれなくてもいい。いいな!」
「さ、サーイエッサー!何でありますか!?」
勢いが少し弱まり、真面目トーンで話す教官。
こちらも構えてしまう。
「あー。なんだ。その……。」
教官らしくない。
そんなに聞きにくいことなのか。
「……教官?」
「うむ。……。」
沈黙が怖い。
何だろう、何かやらかしてしまったのか。
「……すまない!私は、このような性格だからな!単刀直入に聞こうと思う!不愉快なら、黙っていてくれて構わないぞ!」
「は、はい!」
もしやセツヒトさんとのこと?
……いや、それはどちらかというと、教官のプライベートだ。
だとしたら何だ。
「ソウジ君!君は……。」
思わず構える。
何を聞かれるのか。わからん。
「君は、何故…………実力を隠している?」
「……………………えっ?」
沈黙。
「…………いや、勘違いだったら本当に申し訳ない!ただ、なんと言えばいいのか!私の直感としか言えない!君は、君には、何か凄まじいまでの力を感じるのだ!」
「…………。」
「出会った時。最初に私の攻撃を避けた時。正直に言おう。……寒気がした!古龍を目の前にした時とはまた違う、得も言われぬ寒気が!」
教官は。
教官はもしかして。
無意識に、俺のギフトに気付いているのか?
百戦錬磨。一騎当千。
そんな、右に出る者はいないであろう達人の域にいるからこそ。
俺から、女神の恩恵を受けた俺から、その雰囲気を感じ取ったのでは。
「教官……。」
「ソウジ君。教えてはくれまいか?その凄まじいまでの実力を。セツヒトには言ってしまったが、おそらく君は、私やセツヒトよりも強い。そう確かに感じたのだ。」
……教官は、不器用なのだ。
恐ろしいほどに鈍感で天然。
だが、とても優しい。
今だって、俺を思って、苦手な気遣いをしてくれている。
俺はどうだ?
教官に感謝している。
恩を感じている。
俺は黙ったままか?
……それでは義理が無い。
…………教官には、すべてを話そう。
そう、決意した。
「……教官、ありがとうございます。気を使っていただいて。」
「なに、そこは問題ない!」
「…………教えます。俺の全てを。」
打ち明けよう。
教官は、俺の教官なのだから。
* * * * * *
「まずはじめに。俺は、この世界の人ではないです。」
「……な、なんと!」
俺は全てを打ち明けた。
この世界の人間ではないこと。
情報画面というギフトを、女神様からもらったこと。
実力をつけるために、敢えてそれを隠していたこと。
それら全てを、打ち明けた。
「と、いうわけなんです。」
「……ふむ。」
教官は、分かっているのか分かっていないのか、その中間の顔をしながら相槌を打つ。
「で、でも!実力をつけようとしたのは本当なんです。本当にズブの素人だった。でも、やろうと思えば調合もアイテム採取も簡単にできるこのギフトは、俺には余りあるもの。ギフトを使うと、何だか……味気なくて。」
「……剣技はどうなのだ?その……<操作方法>とやらを使えば、君は剣をかなり振るえるのだろう?」
「そこは、一切使ってません。誓って言えます。バサルモスを倒せたのは、教官が、1から俺にハンターのイロハを教えてくれたからです。」
「…………そうか!」
何だか、教官を騙していたような気分になる。
でも、嘘はない。
回復薬グレートを調合したときも、「何だか味気ないな」と思って、自分で頑張った。
だから作れるようになった。
その達成感がたまらなく嬉しくて。
だから、頑張ってきた、と思う。
……と言っても、モンスターの位置把握とか、弱点とか、その辺は頼ってしまったしなぁ…………。
胸を張って、「小細工一切なしです」なんて、とても言えない。
「だから、実力を隠しているわけではないんです。むしろ実力がないからこそ、頑張れたというか。……わ、わかります?」
……教官の眉間に、しわが幾重も出来ている。
がんばって考えてくれている……のかも知れない。
「……よし、分かった!ソウジ君!」
「……えっ?理解してくれたんですか!?」
「いや!異世界とか女神とか画面とか正直良くわからんし、どうでもよろしい!」
「いいのかよ!」
よくないだろ!
結構決心してカミングアウトしたつもりだったのに!
「その様々な情報とやらは、正直言って、調べればすぐわかるものだ!何らズルいとは、私は思わない!そんなことより、その剣技が気になる!」
「さ、さいですか。」
「さぁソウジ君!私にその『ぎふと』とやらの剣技で、打ち込んできたまえ!」
「…………えぇえ!?」
何と。
正直怒られると思っていた。そんなズルをしていたとは!みたいな。
なんでワクワクした目で俺を見つめるのですかマショルク教官。
「きょ、教官?怒らないんですか?私はズルをしていたようなものです。」
「ん?なぜだ!持ちうるものを最大限駆使して戦うのがハンターだ!それに先程の狩猟は、私が教えたことをしっかりと身に着けた、弟子として完璧なものだったぞ!これを褒めずして何が教官か!誇りこそすれど、怒りなど微塵もわかない!」
…………何だろう。
めっちゃ褒められてる。
嬉しくて照れる。
教官も照れてる。
いい年した男同士で照れている。
…………いやキモいわ!
「うむ!いい年した男同士照れあって!キモいな!」
「わざわざ口に出して言わないでください!」
「まぁよい!さぁソウジ君!君のその力とやら、見せてみたまえ!」
どうしよう。
この人本気なんだよなぁ…………。
…………仕方がない。教官が望んでいるんだ。
俺は、ポーチに触れ、情報画面を起動した。