まずい。
まずいまずいまずい。
現状を簡単にまとめる。
一休みしていた岩が、実は大きな怪物の背中でした。
例えば、自分の周りに蚊が飛んでいたらどうするか。
答えは至極単純。打ち払う。
じゃあ、今目の前にいる巨大生物は、俺のことを見逃してくれるのか。
……思いっきり背もたれにしてゴロゴロさせていただいたわけだが。
そんなうっとおしい羽虫のような俺を見逃してくれるのだろうか。
「ウヲオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「~~~~!!!!」
ものすごい鳴き声……もはや雄たけび?咆哮?が響き渡る。
思わず目をつぶって耳を押さえる。
許してくれるわけがないよな。
同時にとんでもない恐怖心が心の底から湧いて出てくる。
「……み、見逃してくれませんよね……。」
映画に出てくるすぐやられそうなしょぼい敵役のようなセリフが出てくる。
巨大生物の上だからということもあるが、腰が抜けて動けない。体が馬鹿みたいに震えている。
恐怖。これは恐怖の感情だ。
しかも上司に怒られたとかとんでもないミスをしたとか、かみさんの誕生日を忘れていたとか、そんな生易しいものじゃない。
生き物として、本能的に悟る。
今俺は圧倒的にピンチなのだと。
「グルルルル……グアア!!」
「うをおおお!??」
小便を漏らす暇も与えてくれないのか、明らかに不機嫌そうな大岩モンスターは、俺を自分の背中から振り落とした。
地面に衝突する。めちゃくちゃ痛い。
血の味が口の中全体に広がる。
とにかく生き残らなければ。
気合を入れて立ち上がる。
足はまるで生まれたての小鹿のようにブルブル震えているが、何とか両の足で地面を踏みしめる。
怪物を見据える。
まずはとにかく大きい……。
公園のジャングルジムなんか優に超える高さ。何より圧倒的な存在感。
15mぐらい吹っ飛ばされたが、あまりの大きさに笑いが込み上げてきた。
体は岩に覆われていて、頭はごつごつのドラゴンのような風貌だが、体はずんぐりむっくりしている。
……岩が動いていると言われれば、そう見えなくもない……。
「ウォォォォォォォ………!」
「な、何かあれやばい気がする……?」
大岩モンスターが遠吠え?をすると同時に、口が光りだした!体の岩と岩の間が赤く光っている。
まずい!多分だが、あれはゴジ〇みたいにビームが来る前触れな気がする……!
走る!足がもたつくが、コケる前に足を出す!先にある岩陰に飛び込んだ。
その直後だった。
怪物が口からビームを放った。
「……マジかよ……!!」
とんでもない衝撃を、岩を背にして受ける。ストーブの目の前に全身をさらけ出すような、それ以上の熱さを感じる……!
歯を食いしばって耐えた。おそらく時間はそこまで経っていない。2秒間ぐらいといったところなのだろう。でも俺の中ではとんでもなく長い時間に感じられた。
全身の感覚を確かめる。5体満足で済んだ……体が何とか反応したんだ。
「岩溶けてんじゃねえか……!なんで俺生きてるんだよ…!!」
大岩モンスターを見る。とにかく観察、隙を見つけて逃げるしかない。
どうやらヤツはそこまで速くない。体が重いのか、のっそのっそと歩いて俺に向かってくる。
少し落ち着いてきた。死ぬかもしれないという状況だと人間落ち着くもんだな……。
「グルルルル……」
「ん?なんか様子が…?」
明らかに最初より挙動がおかしい。動きが遅い。もしやチャンスなのではないか。
ビームを放つと遅くなるとかそういうモンスターなのか……?ダメだ。情報が足りない。
情報……情報……。
「あっ!」
あるじゃないか、情報画面が!
さっき見ていた、俺への神様からのギフトが!
急いで情報画面でモンスターの情報が無いか探す。
モンスターモンスター……モンスター一覧のような画面は無い……ん?ハンターノート?
「これか!!」
<ハンターノート>という項目を開くと、モンスターの情報はおろか、武器やアイテムの使用方法や、町の情報などが見られるようになっていた。
だが、今はゆっくり見ている時間は無い。
とにかく今は目の前にいるモンスターの情報を見つけなければ。
「グオオオアアアアアア!!!!」
「ッ!!やばい!動きが元に戻ってきた!」
情報画面越しに見える大岩モンスターは、先ほどよりは明らかに体が軽そうに動き出している。
時間の猶予はなさそうだ。急いでモンスターの一覧を開く。
「これだ……バサル…モス……。」
<モンスター情報>の中に、唯一名前が載っている。他はみな、「????」と表示されている。
恐らく、見たことのあるモンスターの情報しか開示されないんだろうな。
アニメ版のポケ〇ン図鑑みたいな。
【モンスター名】バサルモス
【種族】飛竜種
【別名】岩竜
【詳細】
鎧竜グラビモスの幼体。成体の半分ほどのサイズで比較的おとなしいが、外敵と判断した相手には積極的に襲い掛かる。
普段は背中だけを地表に出した状態で岩に擬態している。岩の様な外殻は圧倒的な強度を誇り、並の攻撃では歯が立たない。
筋肉の発達している腹部だけは若干装甲が薄く、割れると大きな弱点となる。……
驚いた。
すごいぞ。
ついさっきまで見たことも無かったモンスターの情報が、ここまで網羅されているとは。
恐るべしギフト。
ここで少しわかったのは、腹部が弱点……とまではいかなくても、弱い場所ということ。
よし、じゃあ反撃だ!!
……などと言えたらかっこいいのだが、それは無理だ。
こちとらずぶの素人。武器も何も持っていない。
だが、ある一つの考えが浮かんできた。
情報画面、アイテム、ギフト、でかいモンスターの腹……なるほど。これは、いけるかもしれない。
俺は、ゆっくりと迫りくるモンスターを前にして、多少は反撃をしてみようと決意した。
どうせ拾った命だ。やってやろうじゃないか。