モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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ドール視点です。
思いが溢れすぎて……長い……。


31ある宿の看板娘の話①

私はドール。

 

ワサドラ村で、宿の手伝いをしながらおじいちゃんと一緒に暮らしている。

 

宿の名前は「ホエール」。おじいちゃんの名前をそのまま使っている。

 

 

私のお父さんは、ハンターだった。

でも、私が小さい頃に、モンスターにやられて亡くなった。

とんでもなく大きな刀を背負う父が少し怖くて、でも私の頭を撫でるその手はとても優しくて温かかった。

そのことだけは、今でも鮮明に覚えている。

 

 

お母さんは、首都ザキミーユシティのギルドで働いている。

なので、私はおじいちゃんと二人暮らし。

寂しくないかと言われれば寂しいけど。

でも、おじいちゃんは、家族としての距離感がちょうどよくて、宿も居心地がいい。

 

私は、毎日お客さんの為のご飯を作って、宿中を掃除して、ベッドメイキングを丁寧に行っていく。

お買い物も節約しながら、計画的に。

おじいちゃん、お客さんへのサービスにはマメなんだけど、お金に関しては結構ズボラだから。 

お母さんの仕送りがあるとはいえ、経営はギリギリ黒字程度。

お母さんに算術は習っていたので、宿の会計は私が担当している。

 

 

そんな生活を始めて数年。

 

とある男性が、宿にやってきた。

名前はソウジさん。

きちんとした装備を身に着けていたので、若いのにハンターとして頑張っているんだな、と思った。

 

 

ところが、その人は私が作った朝食を食べながら、変な質問をしてきた。

 

 

「モンスターと戦う職業、といえば、どんなのが思い浮かぶ?」

「……え?」

 

 

それは、ハンターだ。ハンターしかない。

キョトンとしてしまった。

 

だって、ハンターを知らない人なんて、初めて見たから。

 

でも、事情を聞いたら納得。

ソウジさんは、この村に来る前までの記憶を、一切無くしてしまったと教えてくれた。

 

 

記憶喪失。

ハンターさんが強く頭を打ったり屈強なモンスターと戦ったりして、そうなる話を聞いたことがある。

 

 

「ごめんなさい、ソウジさん。私よくわかっていなくて。」

 

 

ソウジさんがハンターだと勘違いしていたのは私。

できる限り力になりたいな、と。そう思ったんだ。

 

……まさかその後、すぐさま宿を飛び出して、ギルドに向かうとは思わなかったんだけど……。

 

 

* * * * * *

 

 

ソウジさんはあわてんぼうさんだった。

 

ハンターは、すぐなれるものじゃなくて。

たくさん訓練をしたり経験を積んだりしなきゃいけないって。そうお母さんから聞いていた。

 

だから、帰ってきたソウジさんが庭で素振りを始めた時は、何だか……応援したくなった。

 

記憶を無くした人。

だけどとてもがんばっている。

 

あれだけハンターにこだわっているんだ。

きっと記憶を無くす前は、ハンターだったんだと思う。

 

何とか力になりたいと、そう思えるほどに、ソウジさんは必死に剣を振っていた。

 

 

「ねぇ、何してるの?」

「おわっ!」

「わわ、びっくりしないでよ。私だよ、ドール。」

 

 

驚かせちゃった。

 

 

「いつから見てたんだ?」

「えっと、剣を振った音が聞こえて、ソウジさん帰ってきたんだって。それで見に来たらすごい顔で集中していたから。」

「そうか。いや、恥ずかしい……。」

「気に障ったらごめん。続けていいよ。」

 

 

この宿にやってくるお客さんは、大体ハンターさんか商人さんだ。

そんな人たちが、庭で練習するのを見るのは、とても楽しい。

 

だから、ソウジさんがまだまだ新米なんだって、すぐわかった。

……あまり言いたくないけど、下手だったから。

 

 

 

そしたらソウジさんが変なことを言ってきた。

私に練習を見てもらいたいって。

 

私が?なんで?えっと、見るのは楽しいからいいんだけど。

 

……でも、少しでも力になれるのならって思っていたから。

OKした。

 

 

何回かアドバイス?みたいなものをして。

何度も練習して、少しずつ様になってきたソウジさん。

 

 

そしたら。

最後ね、と私が言って剣を構えたら、急にブツブツ言い出したんだ。

 

 

「ドール……そこからもう少し離れて見てて。」

「えっ?」

「頼む……。」

「わ、分かった。離れるね。そ、ソウジさん?大丈夫?」

「……いくよ。」

 

 

ブツブツ言いながら、私に離れて見るように伝えてくる。

少しだけ怖くなった私は、距離をとった。

 

 

そしたら次の瞬間。

 

 

ソウジさんが、もう見えないぐらいの速さで剣を振り始めた。

 

空気を切る音からして違う。

ソウジさんの顔つきが違う。

 

 

「すごい…。」

 

 

やっぱりソウジさんは、ハンターさんだったんだ。それも、凄腕の。

 

だって、こんな剣の乱舞、見たことない。

 

 

やけに感動の薄いソウジさんだったけど、申し訳なさそうに私に「もう少しだけ練習を見ててほしい」と頼まれて。

 

なんだかオジさんみたいな低姿勢が面白くて。

 

 

 

久しぶりに、私、大声で笑っちゃった。

 

 

* * * * * *

 

 

その後、昼食から戻ってきたらしいソウジさんは、いつの間にか部屋にこもっていた。

 

そしたら夕方過ぎても出てこないから、心配になって部屋に行ってみた。

誰もいなかった。

 

まぁどこかにフラッと出かけたのかもしれない。

 

……一言言って欲しかったな……。

 

……なぜ私は少し怒っているのか。

何だか、自分の心がよくコントロールできていない。

 

 

……ここにいないソウジさんは気にしないようにして、体をふくための桶を回収する。

……汚れていないな。そうか、もしかしたら銭湯に行ったのかな。

 

とか思っていたら。

 

 

「うっ……ぃい!!ぁぁあああ!!」

 

 

庭から、男の人の叫びが聞こえてきた。

……まさかソウジさん!?

 

庭に行くと、なんか変な格好で、白目を剥いて、泡を吹いて倒れているソウジさんがいた。

最初見た時はただの冗談なのかと思ったけど。

 

本当に気絶していた。

 

 

「お、おじいちゃーん!!!!」

 

 

慌てておじいちゃんを呼ぶ私。

そこからはもう必死でよく覚えていない。

 

近くのセツヒトさんに助けを求めに行って。

すぐセツヒトさんが来てくれて、部屋まで運んでくれた。

 

 

「だーいじょうぶ。きっと疲れているのに、無理したんだろうねー。後は寝かしとけば目覚ますってー。」

 

 

セツヒトさんがそう言ってくれて、少し安心した。

セツヒトさんは元ハンターで、こういう時頼りにするようお母さんから言われていたから。

 

私のお姉さんみたいな人だ。

 

 

 

 

次の日。

目を覚ましたソウジさんに、何度も謝られた。

普通で、元気そうで、本当に良かった。

 

 

「よかったのぅ、ドール。」

「もう、おじいちゃん…っ!」

 

 

おじいちゃんにはからかわれちゃったけど、本当に良かったって思った。

 

 

* * * * * *

 

 

その日からソウジさんは、本格的にハンターになるための練習を始めた。

講習の教官は、とても強いハンターさんなんだって、おじいちゃんが教えてくれた。

おじいちゃんに何で知ってるの?と聞いたら、「ちょっとの。」とだけ言って、教えてくれなかった。

 

おじいちゃんも、よくわからないところがある。

 

 

「だからの、ドール?心配はせんでええぞ?」

「べ、別に心配なんて。」

「……顔が赤くなっとる……。」

「もうっ!おじいちゃん!!」

 

 

……おじいちゃん。からかうのはやめてよ。

……なんだか意識しちゃうから。

 

何なんだろうこの気持ち。

大丈夫かなって、何か困ってないかなって、思ってしまう。

 

……気になるっていうか、心配過ぎるっていうか……。

 

 

「……。そうじゃドール。そんなに心配なら―――。」

「心配じゃないよ!」

「まぁまぁ。おそらく今日はソウジ君、かなり疲れて帰ってくるじゃろうの。」

「……そ、そうなの?」

「あぁ。じゃから、銭湯にでも案内してあげなさい。」

「あ、それはいいかもね。さすがおじいちゃん。」

「何ならワシみたいに、体を洗ってきてあげたらどうじゃ?」

「あ、なるほ……ど?」

 

 

あれ?なんでだろう?

おじいちゃんみたいに洗えばいいんだ。

別に特別なことは何もないのに。

 

なんか恥ずかしいような……。

 

 

 

その日の夕方。

ソウジさんはボロボロになって帰ってきた。

おじいちゃんの言う通りだった。

 

なので、ソウジさんを銭湯まで案内する。

 

おじいちゃんみたいに体でも洗おうか、と尋ねたら、顔を真っ赤にしたソウジさんに断られた。

 

拒否されて、ちょっとむっとした。

 

……なんで頭にきているの、私。

やっぱりよくわからない。

 

 

* * * * * *

 

 

毎日自主練を続けるソウジさんは、本当に、すごいと思った。

講習というのは相当きついんだと思う。

初めの頃なんて、夕飯を食べるのも辛そうだったから。

 

それでも夜の練習は欠かしていないみたいで。

がんばって、がんばって、と心の中でいっぱい応援していた。

同時に無理をし過ぎないか、ハラハラもしていた。

 

 

たまに練習を見せてもらうこともあった。

前は剣と盾を持っていたけど、最近はもっぱら双剣を使っている。

 

……だんだん様になっていく姿は、ちょっとかっこいいなって思った。

 

 

* * * * * *

 

 

そんな日々が1ヶ月ぐらい続いた。

 

明日は、お父さんの命日。

お墓にお参りに行って、いろいろ報告をする日。

お母さんも帰ってくるって言っていたけど、到着は遅れるみたい。

 

 

そんな、少しだけしんみりした気分でいた時だった。

いつもはいない時間に宿に帰ってきたソウジさんが、とんでもないことを言い出した。

 

 

「実は、大型モンスターの討伐クエストを受けることになった。」

「……も、もう大型モンスターの討伐に行くの!?」

「うん、今から準備をしないとなぁ。」

 

 

大型モンスターの狩猟。

 

早すぎるって思った。

だって、お母さんから聞いていた話だと、ハンターの訓練は1年ぐらいかかるって聞いていたから。

 

いつか、ソウジさんがそういうクエストを受けるって、分かっていた。

分かっていたんだけど。

 

分かっていたつもり、だったんだろうな。

 

いざその話を目の前にすると、大丈夫かなって、心配だなって、不安が襲ってきて。

お父さんが帰ってこなかった、あの日のことを思い出しちゃって。

 

 

お父さんは、あの日、大きな手で私を撫でてくれた。

そしてお父さんは、帰ってこなかった。

 

 

「ど、ドール?大丈夫か??」

 

 

ソウジさんが心配してくれている。

いけない、何か返事しなきゃ。

 

そう思っていたら。

ソウジさんが私の頭に手を伸ばしてきた。

 

ちっとも嫌じゃない。嫌じゃないのに。

頭を撫でられたらいけないって。

そうしたら、ソウジさんは……ソウジさんは……。

 

 

帰ってこないんじゃないかって。

 

 

「っ!」

 

 

バシン!

 

 

思わず手を払ってしまった。

 

 

あぁ。違う、ソウジさん。

ソウジさんが嫌いなんじゃない。

行ってらっしゃいって、そう言えばいいだけなのに。

 

 

気付いたら私は、宿の外に飛び出していた。

涙が流れていた。

 

どこか心の冷静なところで、「いってらっしゃい」って言えばいいのにって。

そう思うのに、心は言うことを聞いてくれない。

 

ソウジさんを思うと、胸が痛い。

 

 

そこで気づいた。

 

 

わたし、ソウジさんが好きなんだって。

 

 

 

好きな人が、帰って来ないかも知れないなんて考えたら。

悲しくて、寂しくて。

 

あてもなく走り続けて。

 

そしたら心配してくれた野菜売りのおばさんに声を掛けられて。

「心配かけてごめんなさい。」って謝った。

 

少し落着いた私は、おばさんに送られて、宿に戻った。

そしたらおじいちゃんに慰められた。

そして、今回のクエストでは、滅多なことにはならないだろうと教えてくれた。

 

 

……ソウジさんに謝りたいと思った。

でも合わせる顔もない。

 

 

その日私は初めて、体調不良以外の理由で、宿の仕事を休んだ。

おじいちゃんにも休んでおくよう言われて、正直安心した。

 

 

* * * * * *

 

 

「お父さん。」

 

 

明朝、まだ日も明け切らない時間。

何だかよく眠れなかった私は、おじいちゃんに一言断りを入れ、お父さんのお墓に向かった。

 

墓前でお父さんに話す。

 

 

「お父さん、あのね……。今、私、好きな人がいるんだ。」

 

 

言葉にすると、恥ずかしいな。

 

 

「その人は、何だか放っておけなくて、記憶が無くて大変なのに、でもすごくがんばっていて、かっこよくて、でも心配で……ごめんね、よくわからないよね。」

 

 

村近くの見晴らしの良い丘にあるお墓で、お父さんに話をする。

 

 

「……今からその人は、大型モンスター討伐のクエストに行くの。……でも私、ひどいことしちゃって……どうすればいいんだろう。……ねぇお父さん―――。」

 

 

その時。

急に風が吹いた。

周りの草花が揺れる。

 

 

風が吹き抜けた、その先。村の入口のガーグァ車乗り場に。

 

ソウジさんが見えた。

 

 

「……お父さん、ありがとう!私、行ってくる!」

 

 

走りだす。

間に合えって、願った。

 

風を切る音が、耳に入る。

丘を下り、無我夢中で村の入口まで走り続けた。

 

 

「ソウジさん!」

「ど、ドール!?」

 

 

息が切れて、うまく話せない。

周りに人がいるし、恥ずかしい。

 

 

「昨日はごめんなさい。……私、お父さんのこと、誇りに思ってる。ソウジさんが頑張っていることも、よく分かってる。だから―――。」

 

 

言うんだ。

行ってらっしゃいって。

 

 

「気をつけて、行ってきてね。それだけ、伝えたくて。」

「……あぁ、任せておけ。ただいまって、必ず帰るから。」

 

 

よかった、言えた。

心配だし不安。だけど、頑張ってほしいから。

 

 

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい。」

 

 

手を振って、見送った。

 

 

 

 

ソウジさん……心から応援しているからね。

帰ってきたら、いつか伝えたいな、この気持ち。

 

だから、今は祈ろうと思う。ソウジさんが帰ってくる宿「ホエール」で。

 

 

ソウジさんの無事を。

 

 

* * * * * *

 

 

……結論から言うと、ソウジさんはその日に帰ってきた。

 

 

「た、ただいまー……。」

 

 

ばつが悪そうに宿の扉を開けて言うソウジさん。

おじいちゃんはお茶を噴き出して。私は、キョトンとして帳簿を落としちゃって。

 

 

聞いたら、何か早く討伐できちゃったって、気まずそうに言うものだから。

 

なんだかロマンのかけらもないな、とか思っちゃって。

 

 

3人で、心から笑い合った。

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