モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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32ただいまを伝えましょう。

「「乾杯!」」

 

 

グラスを合わせる。

 

お客さんでいっぱいの「イシザキ亭」で、俺と教官は打ち上げをすることにした。

 

店に入れるか心配だったが、

 

 

「開けておいたよ!でもまさか今日帰ってくるなんてね!驚いちゃったよ!」

 

 

と言われた。

教官が予約を取ってくれていたらしい。

粋なことするなぁ、と教官を見る。

 

 

「うむ!クエストの後のこの一杯はたまらんな!心に染み渡るようだ!」

「教官、お疲れさまでした。予約まで、ありがとうございます。」

「気にするな!しかしまさか、今日帰ってくることになるとはな!」

 

 

大声で笑いながら、ビールをどんどんあおっていく教官。

俺も結構いける口だと思っていたのだが、これを目の前にすると、まだまだだなー。

 

まぁいい、自分のペースで飲もう。

 

 

* * * * * *

 

 

村に着いたのは、夕方少し前のこと。

まずはギルドに報告を、と思い、ハイビスさんを探す。

 

ところがハイビスさんは、今日お休みだということ。

それもそうか、朝はかなり眠そうだったし。

 

既にギルドには俺の報告が入っているらしく、証明部位である腹膜の提出をすれば良かった。

 

引き換えに5400z受け取る。

ついでに報酬素材も受け取れるらしい。

 

なんでこんなにすぐ受け取れるのか疑問だったが、モンスターの素材はギルドにもある程度ストックがあるらしく、今回受け取れたのは10個ほどだった。

モンスターによってはギルドに在庫がないこともあり、その際は後ほど届けるシステムらしい。

 

ギルドに預けるか直接受け取るか、そのまま売るか選べるとのことだったので、ひとまず預けることにした。

受付でギルドカードを提示すれば、どの素材をどれだけ預かっているか教えてくれるそうだ。

 

……これは便利だと思った。と同時に、それらを管理するギルドの事務職に恐れいった。

個人個人のもつ素材を人の手で一括管理するなんて、考えただけで目が回る。

前世で資材調達関係の仕事をしていた俺は、PCの前でウンウン唸りながら管理していたというのに。

 

 

しかも、ギルド全体でそれらの情報を共有しているとか。

 

……ネットも何もないのに……どうやって!?

 

……この世界、やはりハンター関係の仕事については恐ろしいほどシステマチックだ。

 

そんなこんなでギルドを後にすると、教官から声がかかった。

 

 

「それでは、打ち上げをする前に私は銭湯に行ってくる!ソウジ君は宿に一旦戻るのだろう?」

「はい。あんなに盛大に送ってもらったあと、こんなすぐに帰るのは気が引けますが……。」

 

 

少し気まずい。

 

 

「まぁ気持ちはわかる!だが、ただいまと言うのだろう?善は急げ、だな!」

「……はい!」

「イシザキ亭で落ち合うとしよう!それでは!」

 

 

教官は三角巾を首から下げたまま、去っていった。

…………あの人骨折れてるんだよなぁ。

 

ギルドの職員も「えっ!?何でマショルクさんが怪我してるの!?」みたいな顔をしていた。

 

観測班とやらが俺の討伐の様子を見ていなければ、まず間違いなく、俺の狩猟とは認められなかっただろう。

 

うーん、やはりギルド、恐るべし。

今回は助けられたな。

 

 

そう思いながら、俺は宿に足を向けた。

 

 

* * * * * *

 

 

ホエールでは大変だった。

 

あんまり早く帰ってきたものだから、何かあったのではないかと心配されてしまった。

無事に討伐できました、と伝え、なんとか二人を宥める。

 

やっと状況を飲み込むと、ドールは大笑いし、ホエールさんはニコニコして俺を歓迎してくれた。

 

 

「ドール、ホエールさん、ただいま帰りました。」

「うん。おかえり、ソウジさん。」

 

 

ドールが笑いながら、おかえりと言ってくれる。

 

安心した。

ドールも、安心した顔をしていた。

 

なんだかホッとする。

家に帰ってきた気分だ。

 

 

「これから荷物の整理をしたら、教官と打ち上げに行ってきます。」

「それはいいのぉ。全く、こんなに明るい倅の命日は初めてじゃ!……またゆっくり狩猟の話を聞かせておくれ。」

「わかりました。楽しみにしていてください!」

 

 

二人に見送られ部屋に戻る。

<情報画面>から装備を選択し、普段着に着替える。

ベッドに寝転んで人心地。

 

あぁ、長い一日だった……。

 

 

そして冷静になった頭で考える。

 

 

「今回の討伐で得た収入は5400z……。宿が2回とちょっとの分しかないのか……。」

 

 

実はそこが少し疑問だった。

命をかける対価としては、少ない気もしていた。

 

 

……徐に、起動している<情報画面>から<アイテム一覧>を開く。

…………やはりあった。先程預けたはずのアイテム。

 

 

バサルモスの素材である「岩竜の甲殻」や「岩竜の胸殻」「岩竜の尻尾」「岩竜の翼」など、先程ギルドで確認し計計9点が、何故か<アイテム一覧>で確認できる。

念の為、目録と数を照合してみるが、間違いない。

 

ただし、アイテム名の表示はグレーがかっている。

どうやら取り出すことはできないようだが、これはつまり……。

 

 

「ギルドに預けている分も、()()()()()()として認識されているから、表示されるってこと?」

 

 

そういうことかもしれない。

 

そして、アイテムの情報自体はこれでいつでも確認できる、と言うわけか。

やはり便利である、このギフト。

 

そうとなれば、気になるのが素材の値段だ。実は先程、素材をギルドで売ってみてもいいのではと思ったのだ。

 

世知辛いが、金がなければ生きていけない。

 

そしてハンターにとってそもそもお金になるのは、モンスターの素材である。

本来ならば、モンスターから出る大量の素材は全て自分のものだ。

 

 

だが、そうは問屋が卸さない。

 

 

ギルドの運営費って、かなりかかるんじゃないかと推測できる。

人件費だけでも、相当なものになるだろう。

クエストを受注する人、ハンターの対応をする受付嬢に、クエストの難易度やハンターの人員調整をする担当、ギルドカード発行紛失管理関係、各地ハンターズギルドとの連絡役、素材の管理、ハンターたちが狩猟を無事に行えるように調査班や観測班、ガーグァ車をはじめとしたハンターが利用する交通手段の管理、その人たちの人事管理と管理職……

 

俺が思いつくだけでもこれだけある。

 

更にそれらの業務に必要な費用を考えると……いくら寄付と税金から賄われているとはいえ、やはり大部分はモンスターの素材の売却費なのではないか?

そうすると、ギルドである程度素材を確保しているのもうなずける。

銀行が資金を運用して利益を得るように、素材の需要が低い時はため込み、需要が高まると売却して、利益を得ているのでは?

ハンターが素材売却時に困らないように需要と供給のバランスを保っています、という大義名分のもと、利益を出し、ハンターズギルドに必要なお金を捻出しているのでは?

 

 

……ちょっとこのシステムを作った方、すごいじゃないの。

ハンターズギルドのトップにいる方々にお会いしたくなってきた。

 

 

……いやいやいや、会ってどうするんだ。

 

というかこのようなハンターズギルドの経営に関する話をしたいわけではない。

 

そんなマクロで壮大なことではなく、自分の明日の飯さえままならないという小さいミクロのお話だ。

 

 

「……えーと、……バサルモスの素材の売値は現在の相場で、甲殻は430z、尻尾は920z……」

 

 

素材10点で大体…7000zぐらいか。

すると、今回の報酬は総額約12400z。宿に6回は泊まれるな!!

 

 

……ハンターって、意外と世知辛い仕事なんだな……。

でも、モンスター素材をそれだけギルド側に取られるのもわかる。

だってハンターズギルドが行っている業務は業務ですごいんだもの。

 

 

……もっと強くなって、稼げるようになろう。

教官なんか、白金貨10枚をはした金って言ってたしな……。

 

 

ドールやおじいさんの暖かい出迎えの後に、一気に守銭奴じみた発想をしてしまう自分が、情けないやら恥ずかしいやら。

でも、お金を目標にするのではなく、モチベーションにするのは、決して悪いことではないと思う。

 

……思う。

 

ドールに悪影響を与えないようにしたい……。

 

 

コンコン。

 

ノックの音が響く。

 

 

「はいどーぞ?」

 

 

扉を開けたのは、ドールだった。

 

 

「そ、ソウジさん!」

「おお!?な、なんだ?」

 

 

何か気合が感じられるドール。

何事?

 

 

「えっと……すごく早かったね。ビックリしちゃった。」

「あ、ああ。そのことか。」

 

 

狩猟のことを聞きたくなったのかな?

 

 

「バサルモスは強かったよ。目の前にしたら……本当にこわかった。でも、教官の強さや速さと比べたら、大丈夫だったし。それに……。」

「……それに?」

「ドールや村の人が、優しく送り出してくれたから。絶対ただいまって言うんだって。だから、がんばれたよ。」

 

 

間違いじゃない。

だから、慎重になれた。ハイビスさんはわざわざ朝まで待ってくれていたし、セツヒトさんは武器をかなり強化してくれた。

二人共、ほとんど寝ていないはずだ。

 

それに、ドールが俺に行ってらっしゃいと言ってくれた。

 

 

だから、がんばれたんだ。

 

 

「…………。」

「…………。」

 

 

だ、黙られるとただの自慢話みたいで居心地が悪くなる……。

 

 

「そ、それに、一度相手したモンスターだったしな!落ち着いて対処できて、気づいたら……倒していた。」

「……うん、本当に良かったよ。」

 

 

心配してくれていたんだろう。

父の命日、ただでさえ心穏やかではないその日に。

 

心配をかけてしまったが、こうして無事に帰れたんだ。

良かった。

 

 

「ソウジさん。改めて、ね…………。」

 

 

そういうと、ドールは俺の近くに立って、目を合わせてくる。

大きな瞳に、吸い込まれそうになる。

少しほっぺたが赤い。

 

 

「お、おかえり。」

「……うん、ただいま。」

 

 

改めて言うのが、恥ずかしかったんだろう。

赤い頬が、更に赤みを増した。

 

ドールって、こんなに表情豊かな子だったっけ?

 

 

「そ、それでね。あの時のやり直し、したくて。」

「……ん?あの時?」

 

 

どの時ですかドールさん。

 

 

「ほら、私が……宿を飛び出したとき……。」

「あぁ、あの時……。」

 

 

……何だっけ?

 

 

……あぁ!そうだ!俺がセクハラじみた行為に及ぼうとしたあれか!

それをやり直し!?改めて訴えられたりするのか!?

 

 

「……ソウジさん、私、別に嫌じゃないよ。」

「えっ?あのセクハラ行為が!?」

「せくは……?よくわからないけど…………あの時、私を心配してくれたんだよね。」

 

 

そうです。

うつむいて黙ったままのドールが心配で。

頭を撫でようと…………。

 

 

「うあぁぁぁ…………。」

「そ、ソウジさん?」

 

 

頭を抱える。

思い出すと、改めて冷静に思い起こすと、何たるセクハラ行為……。

年頃の娘にすることじゃないよ……。

俺は何だ?なぜあの時、頭を撫でようとした……!?

 

心配なら声をかければええやんけ!

 

心の中でツッコミ。そして反省。

 

 

「いや、すまん。己の蛮行を恥じていた次第です。」

「そ、そう?」

 

 

不思議そうに首を傾げるドール。

すると、更に俺の近くにやってきた。

 

 

「じゃあ……。ん。」

「…………。」

「…………。」

「…………えっ?」

 

 

何だ。俺の目の前に立ったと思ったら。

頭を俺に見せてきた。

つむじ、右巻きなんだな。

 

 

「……だから、やり直し。はい。」

「…………あぁ…………えっ!?」

 

 

……あぁ!撫でろってこと!?

……いやいやいやいや、更に俺に蛮行を重ねろと!?

 

 

「…………ソウジさん?嫌なの?」

 

 

上目遣いで俺を心配そうに見つめてくるドール。

嫌とかしたいとかそういう問題ではない気がする。

そもそもやり直しってなんだ。

 

 

「いやいや!嫌じゃないぞ!そういうわけではなくて―――」

「じゃあ、はい。」

 

 

頭を再度見せるドール。

 

……俺って押しに弱いのな……。

 

 

ぽんっと、ドールの頭に手を置いた。

 

 

「…………。」

「…………こ、こんな感じか?」

「……撫でないの?」

「……さ、サーイエッサー……」

 

 

キャラがぶれている、俺。

あぁよくわからんが、撫でよう!

 

 

男は度胸!

もうどうにでもな〜れ!

 

 

ナデナデ。

 

 

……ドールの髪の毛は、ツヤツヤしている。

触ると余計に分かるな、それにクセもないストレート。

 

肩にかからないぐらいのミドルヘアーを、優しく撫で続けた。

 

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

……。

 

 

 

…………ダメだ!何かダメだ!

変態じみてきてきたので、手を放す。

 

 

「んっ……。」

「あぁっ!すまん!ビックリするよな!すまん!これでやり直しできたかな!」

「…………大丈夫。」

 

 

いや、大丈夫じゃないような。

俺もだけど、ドールも顔が真っ赤だ。

 

 

なんだろうこのいたたまれない空気。

非常に恥ずかしいわけで。

 

 

「じゃあ、やり直しもできたし、これで。」

「お、おお。」

「打ち上げ、楽しんできてね。」

「……あぁ、ありがとう。」

「ううん。私も……なんでもない。」

 

 

そう言うと、ドールはクルッと後ろを向き、何かおぼつかない足取りで部屋を出ていった。

 

ドールの髪の毛、柔らかかったな…………。

 

…………。

 

 

と、とにかく今は色々忘れて!教官と呑もう!

 

 

俺は、パンっと頬を叩くと、イシザキ亭に向かった。

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