そんなこんなで。
イシザキ亭での打ち上げが始まった。
「教官、料理が来ましたよ……って!なんで脱いでるんですか!」
「うむ!暑いからだ!腕もだいぶ良くなってきたしな!」
そんなアホな。
どこの世界にたった数時間足らずで骨折が治る人間がいるというのだ。
「うむ!絶好調だな!この骨も食えば完璧だろう!」
「うわー……。」
上半身裸になって骨をバリバリ食う教官。
両腕を使って食べている。
……本当に治ったんじゃないか?それとも強がり?
酔っているのかそれとも素面なのか、判別がつかない。
更には三角巾を頭に巻き、いよいよ原始人じみてきた。
ちなみに止める気はない。
正確に言おう。俺には止められない。
そんな俺を見兼ねてか、ケイさんが近寄ってきた。
「あーいいのいいの、もうドンチャンやっちゃって!」
「でも、いいんですか?こう、店の雰囲気が。」
そう、いつだか俺が前世の知識を引っ張り出してこの店を助けるアイデアを出した時。
コンセプトは「隠れた名店」だったはずだ。
一流の食事、美しき若女将、落ち着いた雰囲気。
それを、目の前の骨バリバリ白三角巾原人が、ぶち壊してくれている。
「んー、昼間はねちょっと小洒落た感じなんだけどさ。夜はもう、こんな感じよ?」
「えっ、そうなんですか?」
「そうなのよ。マショルクさんたら、夜にはよく知り合いの方を連れてきては愉快に騒ぐもんだから、夜はもう普通の居酒屋よ?そしたらまぁそれ目当てでお客も増えたもんだからさぁ。私達もまぁいいかって。」
なんて事だ。
店のコンセプトを揺るがした張本人が、今目の前に!
ていうか講習中もここに足繁く通っていたのね、教官。
……何か腹立ってきた。
「でもまぁ、いいのさ!昼の顔と夜の顔、ギャップがあって面白いじゃない!」
「ケイさん達がいいなら、俺は何も言えませんが……。」
「それにね、いろんなお客さんが増えて嬉しいのよ!昼間は女性とかカップルとかオシャレな人たちが来てくれるし、夜はハンターさん達がドンチャン騒ぎ!楽しいのよねー、これがまた。」
ケイさんの話を聞きながら、周りを眺めてみる。
たしかに昼間とは雰囲気が違う。
でも、何だろう。これはこれで、店の一体感があって、楽しい気分になる。
いろんな客層にウケる、か。
それもありかも知れない。
……なんかどこぞの女神様SNS話を思い出してしまった。
そういえば、俺もこの店でケイさんにオッサン心を掴まれた一人だ。
そんなケイさんは、今日は少し胸元が空いた藍色のシャツにGパンを着ている。
そしていつもはエプロンなのに、今日は前掛け。
前世の居酒屋を思い出す。
大きな夢と希望が詰まった2つの凶器が、私はここよと主張激しい。
同じく2つの刀を操る俺の心にバーニング。
……何を言っているのかわからなくなってきた。
酔いが回ってきた気がする。全くペース配分ができていない。
とにかく、店が繁盛しているようで何よりです。
「そうそう、ソウジ君!今日は初の大型モンスター狩猟の記念日なんだろ?」
「え、ええ。そうです。」
「それじゃーこれ。私達からのプレゼントだよ。」
「えっ!?」
包みをもらう。
ケイさんを見つめ返すと、笑顔でうなずいた。
開けていいってことだよな。
キレイに包みを開けると、中に液体が入った小瓶が入っていた。
「それねぇ、迷ったんだけど、薬なんだ。何でもいにしえの秘薬って言って、どんなに疲れていても、たちどころに回復してしまうそうだよ。」
えっ、何それすごい。
狩猟中の万一に備えて、持っておくのといいかもしれない。
一応情報画面で見てみると、
【名前】いにしえの秘薬
【レア度】4
【現在の相場】????z
【説明】体力とスタミナを完全回復する薬
とあった。これ、本物だ。
「いいんですか?こんなに貴重なもの。」
「兄貴が昔使おうとしていたらしいけど、結局使わないままになってたらしくてね。ハンターさんにあげたほうがいいよねってなってさ。貰っておくれよ!お祝い!」
気を遣わせてしまったか。
でも、ありがたくいただくとしよう。
「それに……店をこれだけ盛り上げてくれた功労者に、労いたいってのもあってさ。感謝しているよ。」
改めて礼を言われると、何だか恥ずかしいな。
「ありがとうございます、大切にします!」
お礼をちゃんと伝えた。
そのまま小瓶を眺めていると、夢中で骨を食べていたマショルク教官が、こちらに声をかけてきた。
「おお!それはいにしえの秘薬ではないか!」
「そうなんです。いただきました。」
「そうか!いや、それは非常に効果が高いぞ!」
やはり貴重なものなんだな、大切にしよう。
「教官も使ったことがあるんですか?」
「うむ!あるぞ!」
やはり教官ともなると、この辺の貴重な薬をバンバン使って、屈強なモンスターを相手にしていたのだろうな。
「いや、あの時は連戦連戦で大変だったな!」
「ぜひ聞かせてください!」
「私も興味があるねぇ!」
ケイさんも乗り気だ。
教官の昔話はあまり聞いたことがないので、俺も興味がある。
「ザキミーユシティで昔良く使っていた!いや、あの時は大変だったぞ!」
……ん?街中でモンスターを相手にしたのか?
「私も経験がまだ不足していてな!体力には自信があったのだが、相手もまた無尽蔵のスタミナであった!おかげで朝まで眠れぬ戦いを繰り広げたものだ!」
「へぇー!マショルクさんもそんな時代があったんだねぇ。」
…………ちょっと待て。
なんか話の方向が。
「教官?」
「お、どうした?ソウジ君!君も使ってみるといいぞ!」
「そうではなくてですね。なぜ街中でいにしえの秘薬を?」
おかしいよな。
ザキミーユシティは難攻不落。
モンスターの中でも別格の古龍種でも来ない限り、街中にモンスターが入ることなんてありえないはず。
この辺の話は、教官から聞いたことだ。
「モンスターの狩猟の道具ではないのですか?」
「もちろん、そもそもの用途はそちらだがな!私たち男の楽園!娼館で使用するのだ!」
「………………。」
「………………。」
絶句する俺とケイさん。
「さすがの私の愚息も、連戦続きで役に立たなくなった。目の前には、まだ尚、私を求めるお嬢さんたち。これに応えねば男がすたると、私は徐に小瓶を手に取り―――」
「ちょっと待てええぇぇぇ!」
あかん。
これ、つまり…………そういうこと!?
そういう系のヤツなのこの薬!?
ケイさんを見ると、顔をもう茹でダコの様に赤くして、今にも沸騰しそうに口をあわあわさせている。
…………よく知らなかったんだな。
「たちどころに完全回復した私は、反り立った愚息を相手にあてがい―――」
「ストオォーーーーップ!!止まって!!教官ステイ!ステイして!!」
「なぜ止める!ここから私の快進撃が始まるというのに!」
「そういうことじゃねぇわ!」
「あわ……あわあわあわ…………!」
ケイさんが分かりやすく慌てている!!
「蜜を光らせ濡れそぼった泉に、私の怒り狂ったハイニンジャソードが攻め―――」
「無駄に官能的な表現!!いや違うなんだこのツッコミ!」
「………………ふえぇぇ…………。」
バタン。
ケイさんが倒れる。
何か目が渦巻いてバタンキューって感じで。
「む!どうしたケイさん!!まさか毒でも盛られ―――」
「どう考えても教官のせいだよ!!ちょっと耐性無さすぎるだろケイさん!と、とりあえず、お兄さん!お兄さんちょっと来てぇ!!」
その後、ケイさんを介抱しながらお兄さんに平謝り。
お兄さんは「まさか使い方を知らなかったとは……。」と逆に驚いていた。
後から分かった話だが、教官は酒が入ると、とんでもない下ネタ発信酔っぱらい野郎になることが判明。
結局俺は教官にお説教した。
この際だから、自重という言葉を頭に叩き込ませた。
最後の最後で、教官に教えることになるとは……なんともアホらしい打ち上げになった。
まぁ楽しかったんだけど。
ケイさんには、また日を改めて謝罪しよう…………。