「ソウジさん……あなたは何者なのですか?」
シガイアさんの雰囲気が冷たいものに変わった。
何者、というのはどういうことだろうか。
「…………えっ?」
とりあえずどういうことかわからないから、こう返しておこう。
「……いや、すみません。不躾な言い方をしてしまいました。記憶を無くされているのですから。分からないものはわからないと、仰ってください。」
少し言い方が柔らかくなる。
でも、何故か安心できない。
目が、俺を見極めようとしている。
俺が何者かを、何としても知らねばと。
そう俺には伝わる。
「ハイビスさんからの報告通り、非常に真面目で礼儀正しい。周囲との関係も良好。例外中の例外ですが、あなたをHR3に昇格しても構わない、それだけの実力があると思う。だが、
「……。」
「ちなみにハイビスさん。あなたも同じように感じたはずです。違いますか?」
「い、いえ。初め見たときから、違和感のようなものは……。」
「……そうですよね。」
マショルク教官は見抜いた。
俺が異世界から来たことを。
そして目の前にいる二人。
この二人も気づいている?
勘の域は出ないのだろう。
聞き方が曖昧だし、何の確証も無い筈。
なのに、なのに。
目の前にいるギルドマスターのシガイアさん、そしてハイビスさんは……。
「お話しいただけませんか。あなたが隠しているであろう、その何かを。」
気付いてしまうのか。
……いや、すごいわ。この人たち。
素直に驚く。だって、分かるわけないもの。
でも、自分の第六感に自信があるからこそ、そこに辿り着いたんだろうな。
俺が、異世界人の俺が、どこかおかしいって事を。
「……。」
「……あぁ、安心してください。秘密は守ります。そうですね、情報が漏れるようなことがあれば……。」
「……あれば?」
「私は死んでもいい。」
「…………。」
「いやいや、ものの例えですよ?秘密保持については、それほど自信があります。」
いきなり死という言葉を出され、ますます緊張してきた。
情報は死ぬ気で守るということか。
「ソウジさん、その反応……何か秘密を持っていると、言っているようなものじゃないですか。」
「……。」
「あなたはどうやら嘘をつくのが苦手なようだ。好感が持てますよ。」
シガイアさんの張り詰めた雰囲気が、少し砕けた。
……まぁ、これ以上隠しても、ギルドに不審がられるだけだよな。
何せそのトップが俺を怪しんでいるんだし。
ハイビスさんも違和感には気づいていたか。
……気を付けないとなぁ。
俺のギフトは、やろうと思えば簡単に悪事に転用できる。
だから、打ち明ける人は本当に信頼できる人間だけにしたい。
でも俺がポンコツな為、気付かれてしまった。
……秘密を保持しないと死ぬ、とまで言うんだから、信頼してみるか。
「…………分かりました。でも、約束してください。秘密は、守ってほしい。」
「ええ、約束します。ギルドマスターの名に誓って。」
「……信頼します。」
「ハイビスさんはともかく、私は信頼できないでしょう。今日会ったばっかりですし。なので……。」
そう言うと、シガイアさんはハイビスさんの肩を叩く。
「彼女も道連れにしましょう。」
「「えっ?」」
「この際、この秘密保持の約束に、ハイビスも巻き込んでしまいましょう。」
「「……え!?」」
ハイビスさんとハモる。
勢いよく立ち上がるハイビスさん。
「ギ、ギルドマスター!?私は関係ないですよ!?」
「何を言ってますか。ここに居ろと言われた時点で、察していたでしょう。」
「こ、こんな深刻な話にまで及ぶとは思ってませんでした!」
「でも、聞いちゃいましたね!ドンマイです!」
「こ、こんのタヌキオヤジィィィ……!」
巻き込まれまいと頑ななハイビスさんだが、もうここまで聞いてしまった以上、一蓮托生だ。
少し可愛そうだけど。
ハイビスさんとシガイアさん、上司と部下の関係なはずだが、ハイビスさん割とフランク。
怒りも相まって文句が止まらない。
タヌキオヤジて。
「だ、大体ギルマスはいっつもそうです!マショルクさんが来た時だって適当に私に丸投げしましたし!今回だって『私に任せてください』なーんて言って!!結局巻き込むつもりだったんじゃないですか!!」
「迷惑をかけましたね。すみません(笑)」
「謝っているように聞こえませんが!笑っているようにしか見えませんが!!」
「でも、仕方がないですよ、ハイビスさん。今回担当をしている受付嬢はあなたですし、異例のバサルモス討伐を許可してあらゆる部署に働きかけたのもあなたです。今回の昇格に一役買っている、そしてソウジさんの秘密について知らないまでも怪しんでいる。」
「それは……そうですけど……。」
「なら、ソウジさんのことをある程度は知っておかなければならない立場にあると言えますね。ソウジさん、ハイビスに知られるのは問題ないですか?」
「はい、問題ないです。」
「ほら、信頼されてますね、ハイビスさん。」
ハイビスさん、新人にもならない俺がクエストを受けられるよう尽力してくれたんだな……。いい人や……。
「ソウジさん。あなたの担当であるハイビスさんもあなたの秘密を知りたいそうです。もし漏らすようなことがあれば、
「よ、よろしくおねがいします。」
いいんですかシガイアさん?
後ろでハイビスさんが般若の顔で睨んでますけどいいんですか??
「これは取引です。私達の信用と職責を担保に、あなたの秘密を教えてもらいます。」
「そこまでしていただかなくても……。」
「いえ、そこまでしておけば、あなたは我々を無下にはできない。そこも算段の内ですよ。お気になさらず。」
「は、はははは。」
乾いた笑いしか出ない。
きっとこの人、ハイビスさんを使って俺を呼ばせた時点で、ここまでの展開を読んでいたのだろう。
食えない人である。
タヌキっていうより、スマートな感じだからキツネだな。
「えーっと、ではまず……。」
こうして俺は、2回目になるカミングアウトを行い始めた。
* * * * * *
「……信じられません。」
えー。
人が一世一代のカミングアウト(1日ぶり2回目)をしたっていうのに。
シガイアさんは微妙な顔をしている。
一応洗いざらい話したつもりだ。
だがまぁ確かに、そんな顔になるのもうなずける。
「異世界にいたがこっちの世界に来ることになりました。神のギフトをもらってます。一応ズルはなるべくせずにここまでやってきましたが、やろうと思えばすごい力が使えます。」
なーんて言われて信じられるか?
うん、俺なら無理だな。
シガイアさんが質問を投げかけてくる。
「まず……その<情報画面>?とやらです。アイテムを自在に取り出せたり装備をすぐに付け替えられたりする……。今披露してもらうのは可能ですか?」
「あ、はい。」
そう言われて俺は情報画面を操作して「大タル爆弾G」を選択。
すると、目の前にドンッとバカでかいそれが出てくる。
「!!!!」
「えっ……えっ!??」
二人とも驚いている。
そういえば人前でやるのは初めてだ。
「すみません、物騒なものを出して。」
すぐにしまう。
元から何もなかったかのように消える爆弾。
「……これは、本物のようだ。」
「………………。」
ハイビスさんが口を開けてポカーンとしている。
気にせず次に<装備>から「ミヨシ村装備」を、頭から足まで一つずつ選択。
俺の装備が一瞬で変わっていく。
「な、何と…………!」
「……………………。」
人ってここまで困惑した顔ができるんだな。
ハイビスさんが、世界で一番困ったさんの顔をしている。
さすがのギルドマスター、シガイアさんは冷静だ。
「…………なにかの手品と言われても納得できませんね。これは本物、神の御業だ……。」
「俺がすごいってわけじゃないんですけどね。この装備変更はとても便利で、着替えに重宝してます。」
そう言いながら、また普段着に戻る俺。
ハイビスさんはそろそろ白目を戻してください。現実ですよー。
「いやはや……。人生で一番の衝撃でしたよ。ソウジさん、この技に制限などはありますか?」
「んー、何回もしたことはないですから何とも……。あ、でも、<操作方法>を使った技、あれは少し疲れます。」
「…………ぜひそれも見せていただきたい。」
興味津々といった様子で、すぐに修練場へと直行することになった。
ハイビスさんは心ここにあらずな様子だったので、俺が恐れ多くも手を引いてエスコート。
女性の手って柔らかいなぁとか、そんなおっさんスケベ心を全開にしつつ、修練場にたどり着く。
「私の権限で人払いを済ませました。念の為、入り口も封鎖済みです。ここは岩山に囲まれて、人の目も入りにくい。」
確かにうってつけだ。
しかしまたここに来ることになるとは。
思い起こされる講習の日々。
マショルク教官に投げ飛ばされたり、ゴキブリのようにそびえ立つ岩山を登ったり。
俺はその真ん中に鎮座する、通称カラクリ蛙と対峙した。
「双剣でよろしいですか?」
「ええ、ひとまずは、機能が停止するまで斬撃を繰り返すというのでどうでしょう。」
「……分かりました。」
機能が停止する、というのは、マショルク教官が見せてくれたあれか。
ある一定のダメージを短時間に与えると、からくり蛙が緊急停止するあれ。
「やってみます…………!」
意識を現実に戻したハイビスさんは、食い入るように俺を見ている。
ハイビスさんなら、普段の修練場の俺と今からの俺の違いがわかるだろう。
「…………フッ!!!」
まずは鬼神化、そこから突進連斬、逆手、2連斬り、そして乱舞につなげよう。
技をセット、息を吐き出して連撃を開始する。
自分の体が自分でわからなくなるこの感覚。
いつになったら慣れるんだろうな。まぁ回数こなすしかないのか。
「ハッ!……フッ!ハァァァァァア!!!!」
声は自然に出てしまう。
テニスも、サーブの際声を吐き出して打つが、その気持ちがよくわかる。
出ちゃうんだな、これ。
「……アァァァ!」
連撃を重ねていく。
見慣れた蛙の顔を、首元を、正確に斬り刻んだ。
乱舞が終わる。
感覚が戻る。
体が軋む……ほどでもないな。疲労もそこまで。
やはり教官による講習で地力が付いてきている。
目の前の蛙を見ると、首をダランと下げ、なんかバチバチ言っていた。
「とりあえず、機能停止は―――」
そこまで言いかけた途端。
ガ!ガタガタ!
ボンッ!
シューーー………………。
からくり蛙に亀裂が入り、音を立てて崩れた。
…………これって。
「や、やりすぎました……。」
「………………。」
「………………。」
口をポカーンと開ける二人を見て。
保険って効くのかなぁとかアホな事を考えながら、しばらく沈黙の時間が流れたのだった。