モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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37損害賠償と雇用契約について考えましょう。

からくり蛙が壊れた。

講習中、苦楽を共にしてきたからくり蛙が。

 

チクショウ!誰の仕業だ!

 

俺だよ!

 

教官の強烈無比な連撃でも壊れなかったんだぞこの蛙!!

どんなにボコボコにしてもアホみたいに動き続けていたのに!!

 

憎たらしすぎて「いつか壊してやる」とかちょっと考えてみたこともあったけども!

……ごめんな、蛙!そんなつもりはなかった!勝手に俺の中で「壊れないもの」として認識されていた!

 

 

しばらく待っても壊れたまま動かない。

シガイアさんが、ようやく口を開ける。

 

 

「……そ、ソウジさん。」

「は、はい!」

 

 

損害賠償請求!?保険は効くのか!?

保険ってなんだ!修練場の機器を壊した際に効く保険とか知らんぞ!

 

 

「落ち着いてくださいソウジさん。私は今、歓喜している。」

「……えっ?」

「ハイビスさん、今の動きはどう思います?」

 

 

尋ねられたハイビスさんは、ハッとしてこちらに向き直った。

 

 

「ソウジさんの剣は、常に見てまいりました。……全く別物です。彼がやったとは……目の当たりにした今でさえ、彼がやったとは思えません。」

「……なるほど。やはり、本物のようだ。」

 

 

……ハイビスさん、常に見ていたのね。

恥ずかしいやら嬉しいやら。

 

シガイアさんが話し始める。

 

 

「私も、これまでに数々のハンターを見てきました。かの有名な『カホ・チータ』のハンマー使いのハスガ、ヘビィボウガンの名手マショルク、ソロハンターの頂点にいた『百手』セツヒト…………彼らをもってしても、この蛙は破壊できなかった。いや、破壊しようとも思わなかったでしょう。それほどまでにこのからくり蛙は硬い。」

「……。」

「装甲にこそ、ありふれた硬金属マカライトを使っていますが、骨組みや関節、作動部位には希少なユニオン鉱石や強力なモンスターの素材が使われている。理論上、ソウジさんの剣は、古龍を相手にできるほど、ということになります。」

 

 

へぇぇすごいなあ。

 

古龍まで話に出てきた。

 

 

「……ハイビスさん、この事は、先程も言いましたが他言無用です。」

「は、はい。」

「責任はすべて私がとります。そして、ハイビスさん。ギルドマスター命令です。新人担当から解任。ソウジ君のいる下位ハンター受付で、ソウジさん担当として正式に任命します。」

「はい!」

 

 

ハイビスさんがかしこまって返事をする。

上司と部下の関係がようやく見えた気がする。

 

 

「ソウジさん。」

 

 

シガイアさんがこちらに向き直る。

 

 

「あなたはその力を、大いに振るいたいと思いますか?」

「えっ?」

「やろうと思えば、簡単に金儲けが可能でしょう。悪事に手を染めて、裏の世界の頂点にも立てそうだ。あなたはそのつもりはありますか?」

「……いえ、全く。……俺は今が楽しいんです。この世界で、精一杯生きること。それが、俺の目標ですから。」

 

 

うん、悪事とか、全くそんなつもりはない。

この世界に来て短いが、愛着が湧いている。

努力をして、成果を出す。

その達成感に勝るものはない。

 

まあ、多少ギフトは使わせてもらうかも。

お金がないときとか。

でも、悪い事に使ったり、金儲けするって………。

 

なんか違うよな。

 

 

「…………それを聞いて安心しました。」

 

 

心底安心したような表情を見せるシガイアさん。

 

 

「……改めて、あなたをHR3として、認定します。実績を積み重ねてください。ワサドラで初めてのG級ハンターが誕生するかもしれませんね。」

「あ、ありがとうございます。」

「秘密は保持します。専属担当はハイビスさんです。あなたの力は、無闇に広めないほうがいい。何かあればすぐに私を頼ってください。」

 

 

頼りにできる存在が増えた……と思っていいのかな?

シガイアさんは信用できると思う。

 

 

 

こうして俺は、無事?HR3に昇格した。

新人としては前代未聞らしいが……あまり実感無いなぁ。

まぁいいか。

 

これからクエストを数々受けるんだ。

こなしながら少しずつ実感も湧くだろう。

 

 

* * * * * *

 

 

イシザキ亭で昼を取ったあと、俺は今日の本当の目的地に向かう。

 

ギルドには、ハイビスさんに報告をするためだけだったんだが……かなり長居してしまった。

あのあとギルドマスターの部屋に戻り、秘密を保持する上で気をつけることについて話し合った。

 

とは言っても、基本俺はハンター業を本格的に開始するだけだ。

ギフトに関する話は、極力ギルト内のできるだけ人のいないところで行うこと。その内容はハイビスさんを通して3人で共有すること、などを話し合った。

 

シガイアさんとしては、寝泊まりする場所もギルド内部にしてほしかったようだ。

実はギルドにも寝泊まりするところはある。

要人を招いたときや、緊急時にハンターを泊めるためらしい。

 

ただ、そこは丁重にお断りした。

確かに、秘密を保持するのに、普通の宿では危険が伴うかもしれない。

ただ俺が、宿「ホエール」に居たいのだ。

それに秘密と言っても、俺が、俺のポーチを触らないことには始まらないので、セキュリティという面ではあまり困らない。

 

ちなみに、他の人がポーチを開けたらどうなるのか試してみたところ、中身が少し入っているだけ、という結果だった。

ハイビスさんが少しワクワクしながらポーチを開け、落胆した顔で回復薬とおにぎりを出すという面白い一幕があったのだ。  

「ズルいです、ソウジさん……。」と落胆するハイビスさん。

俺もそう思います。そして落ち込むハイビスさんかわいい。

 

 

 

本気でシガイアさんが俺の秘密保持に動いてくれて、安心している。

これが悪い人だったらと思うと………カミングアウトするにも、ちょっと不用心だったかも、と反省している。

 

 

そんなこんなで。

 

 

今日の目的地に着いた。

 

そこの見た目はまるで、子どもの遊び場だった。

周囲を大木に囲まれ、柔らかい木漏れ日に地面が照らされている。

見上げると、アスレチックパークのように、木々の間に吊り橋が張り巡らされていた。

広がる木々の向こう、木漏れ日の切れた先には、小さめの集落のようなものが見える。

何より異様なのが、中央にそびえるからくり蛙。

トレーニング用かな?ここにもあるのか。

他に何か無いか、よく目を凝らす。

 

 

「受付って……どこだ……?」

 

 

わからん。

公園にやってきて、受付を探している気分。

そんなものはない、と言われても納得である。

 

 

「お?あそこにあるのは……。」

 

 

ようやく人影らしきものが見えた。

切り株に座り、膝に大きな本を抱えている。

柔らかい木漏れ日を明かりにして、分厚目の本に一生懸命何かを書いていた。

忙しそうだが、話しかけてみよう。誰もいないんだし。

 

 

「あのー、すみません。」

「わわっ!何だにゃ何だにゃ!」

 

 

驚かせてしまった。

おぉ……語尾がいかにもって感じ。

 

獣人と話すのは、生涯2回目の体験である。

初めてはクエストの帰りのネコタクの御者さんだったが、あまり話せてはいない。

 

白い木綿のような生地のワンピースの後ろから、茶色いシッポがゆらゆら揺れている。

頭からはみ出している三角の耳と鋭い2つの八重歯が、この人が獣人であることを教えてくれている。

赤い髪の毛にきっちり猫目。見た目は人間に近いが、体の大きさが明らかに違う。

 

可愛らしい姿に惑わされぬように、一人の人間と同じ様に話さなければ。

相手に失礼があってはいけない。

 

 

「失礼しました。ハンターをしていますソウジと申します。驚かせてしまって、すみません。」

「あー!こちらこそ失礼しましたにゃ!受付の子、どっかにエスケープしたのかにゃ……アイツはおやつ抜き決定にゃ!!」

 

 

その子は可哀想だが、自業自得っぽいのでスルーしておこう。

 

 

「ようこそ、アイルーの集落へ!僭越ながら、ここの取りまとめをしています、オスズと申します。あちしのことは、気楽にオスズ、とお呼びください。以後お見知りおきを。」

「はい、よろしくおねがいします。」

 

 

はあぁかわえぇ…………。

何なの!?何でこんなかわいいの!?一人称あちしって!なのにこんなに立派に喋っちゃって!偉い偉い!!

 

 

……。

 

…………。

 

いかん。平常心平常心。

 

……俺は無類の猫派である。

実は猫系の写真を集めたりグッズを見て買ってしまったりするほどには、猫が好きだ。

なので、猫っぽいちっちゃい獣人なんか大好き。

 

気持ちに嘘はつけないが、おっさんが悶えてもただただ気持ち悪いので、せめて心の中で愛でよう。

 

ちなみに犬も好き。動物全般好き。

愛玩動物に貴賎なし。

 

閑話休題。

 

 

「ハンターさん、今日はオトモをお探しですかにゃ?それともご依頼で?」

「えぇ、俺、新人でして。今日はオトモを探しに来ました。」

「にゃるほど。それではまず、ギルドカードを貸してくださいますかにゃ?」

 

 

そう言われて、ギルドカードを渡す。

小さい手を器用に使って、ギルドカードをしげしげと眺めるオスズ。

うん、可愛い。

 

 

「……新人さんで……HR3……ですかにゃ?」

「え、ええ。まあ色々ありまして。」

「ほいほい……承知しましたにゃ。そうしましたら、こちらへどうぞ!」

 

 

怪しまれなくてよかった。

 

そう、俺がここにやってきた理由、それは……。

 

 

ズバリ、オトモアイルーを探しに来たのだ!

 

 

オトモアイルー。

ハンターはお供としてアイルーを一匹または二匹まで、伴ってクエストに出られる。

アイテムの使用や回復など、ハンターの支援を主としていて、クエストの快適さが違うらしい。

 

 

他のハンターとパーティーを組んで、クエストに行って助け合いながら………というのが普通らしいのだが、シガイアさんに固く止められてしまった。

 

万が一の時、俺がギフトを発動して間近で見られたら、それをごまかすのは厳しい。

なので心底信頼できる人でなければ、パーティを組むことは控えるようにと言われた。

 

 

寂しいなぁ……。

と、思ったが。

 

 

今朝女神様と話した時に思いついたのが、俺がオトモを雇うというもの。

 

そう、可愛らしい獣人ならば!

万人にウケること間違いなし!!

しかもソロを強いられる俺にとってうってつけの存在!

そして俺、猫っぽいもの大好き!

 

一石二鳥どころか三鳥である。

 

 

オスズは集落の奥まったところ、机と椅子が並んだエリアに俺を案内してくれた。

小さめの可愛らしい椅子に腰掛ける。

オスズも向かいに座って、本を広げだした。

 

 

「すみませんにゃ、今日は殆どの紹介できるアイルーが出払っておりましてにゃ。受付のショウコも、姿が見えにゃいし……どうもアイルーはその辺テキトーなやつが多いにゃ!あちしは、この状況を憂いておりましてにゃあ…………。」

「い、いえいえ、気になさらず。急いでいる訳ではありませんから。」

「そう言って頂けるとありがたいですにゃあ。」

 

 

そう言いながら広げた本には、オトモ候補と思しきアイルーたちの名前、性格、得意なスタイルなどがズラッと並んでいた。

一覧表になっており、契約状況とわかる表示には、大体のアイルー猫が「契約中:〇〇〇」と、ハンターの方の名前も書かれている。

 

個人情報的に大丈夫なのかと多少心配したが、まぁその辺は気にしないんだろうな。

 

オスズは、本とにらめっこしたかと思うと、小さい眉間にシワを寄せてウンウン唸りだした。

 

 

「うーん……えーっと、さ、サウジさん?」

「ソウジ、です。オスズさん。」

「し、失礼しましたにゃ!ソウジさん。…………大変申し訳にゃいのですが、まぁ先程申し上げたように、現在大半のアイルーが出払っておりましてにゃ。」

「はい。」

「案内できるアイルーは、いると言えばいるのですがにゃあ。うーん……。」

 

 

またも唸りだした。

 

 

「オススメできない感じですか??」

「はい。新人ハンターさんということで、経験がある程度あるオトモを案内したいのですにゃ。ところがこのワサドラ、近年の急成長に伴ってハンターさんの数も大幅に増加。アイルーの需要がここに来て拡大、中々良いヤツがおりませんにゃあ……。」

 

 

なんと。

リアルな事情が聞けた。

なるほど、新人ハンターも増えれば、それだけ需要も多くなる。新人はパーティーを組みにくいからなぁ。

 

しかし、俺のためにこの可愛いアイルーが一生懸命考えてくれている……。

やはりこの村、人だけじゃなくアイルー猫まで優しい。

無理させているようで、悪いな。

 

 

「いいですよ、そこまで急ぎじゃありません。また来ますので。」

「…………にゃ、にゃあ〜。申し訳にゃあです。次、優先して案内いたしますので。」

 

 

残念だが仕方ない。

これ以上オスズを困らせたくないしね。

 

しかしどうするかな、とりあえず宿に戻って考え直すか。

ハイビスさんに相談して見るのもありだ。

 

そしたらまずは宿に―――

 

 

「ちょーーーっと待ったあああぁぁ!!!」

「えっ!?」

 

 

急に声をかけられた。

声のする方、上を見上げる。

 

…………アイルーが俺の頭めがけて落ちてくる!!

 

危ない!

と、思った時には既に手が出ていた。

 

 

シュタ!

 

 

思わず両手で受け止めてしまう。

落ちてきたアイルーは、器用にも俺の手に着地。

顔が近い!

 

するとそのアイルーは、更に顔を近づけて、顔を赤らめて言う。

 

 

「う、ウチはいかがですか!」

「しょ、ショウコ!」

「ウチを、ウチをあなたのオトモにさせて下さい!」

 

 

荒い鼻息が顔に当たる。

 

状況についていけない俺は、両腕を出したまま中腰。

マヌケな格好でキョトンとするしかなかったのだった。

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