モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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39オトモとの生活を始めましょう。

前略。

前世の万年平社員かと嘆いていた俺へ。

 

喜べ、派遣の就労契約を結んだぞ。

俺は雇用主。

猫の獣人と。

 

契約内容は「クエスト5回分、試用期間アリ、衣食住はこちらで負担、福利厚生不明、1500z、試用期間内は料金をオトモ紹介側が負担」だ。

 

え?労基にかけられたら一発アウトの案件だって?

 

 

そうなんだよ……。

 

 

安すぎだろ、アイルー猫。

一回300z、銅貨3枚って……ガキの使いじゃないんだから。

 

一応紹介側に掛け合いましたよ?「安すぎません!?」って。

 

そしたらオスズが、

 

 

「相場よりはかなり安いですにゃ。でもまぁ衣食住も提供いただくとあっては、こんなもんですにゃあ。」

 

 

というものだから……。

 

ちなみにその後、普通のオトモアイルーの契約代金も一日500zとのことだった。

明らかに需要に対して値段が見合っていないと指摘しておいた。オスズは、

 

 

「まさか値切りじゃなくて値上げを要求されるとは思わなかったにゃあ……。やはりソウジさんは神のようなお方にゃ……。」

 

 

と、わけのわからんことを言っていたのでスルーしておいた。

見合った対価をもらうのは至極当然である。それによって働く側も誇りを持てるというもの。

 

オトモの労働環境は厳しいようだ。

 

 

ともあれ、俺に初めてのオトモアイルーができた。

明日、早速クエストに同行してもらい、様子を見てみたい。

 

今日のところはあれだ。とりあえず……。

 

 

「ショウコさん、とりあえず飯にしましょう。」

「は、はい……。」

「ん?食欲がないですか?」

「あ、あのー、ソウジさん?敬語はいりませんよ?拾われたこの身。気軽にショウコ、と呼んでください!」

 

 

あー。俺も少し迷っていたんだよな。

まぁ本人がいいなら、気楽に呼ばせてもらうか。

 

 

「……ショウコ、飯行こうか。……これでいい?」

「バッチリです!そっちのほうがしっくりきます。」

 

 

呼び方も決まったところで、宿に戻って夕飯を食べることにした。

 

 

* * * * * *

 

 

「あ、おかえり、ソウジさん。……その子は、どうしたの?」

 

 

帰るなり出くわしたドールに、ショウコを紹介しておこう。

 

 

「ただいま、ドール。えーっと、こちら、先程オトモ契約したショウコ。今日から世話になる。ショウコ、こちらこの宿の看板娘のドール。」

「よろしくおねがいします!」

「わわっ、アイルーちゃんだ……よ、よろしく。」

 

 

ドールはおっかなびっくりといった様子で、挨拶をする。

アイルーが珍しいのかな?確か市中そこらにいる存在だと思うのだが。

 

 

「今日から俺の部屋にいることになると思う。料金とかどうなるかな?」

「うーんと……ちょっと待ってて。おじいちゃんに聞いてくるね。しょ、ショウコ……さん?お夕飯は食べるのかな?」

「え、えっと……。」

 

 

不安げに俺を見るショウコ。

夕飯が食べられるのか不安なのか?

 

 

「ああ、ショウコも一緒に頼む。これからしばらく、そうしてほしい。」

「わかった。じゃ、ちょっとまっててね。」

 

 

ドールが若干緊張している気もする。

初めてオトモアイルーに会うのか?分からんが、まぁいいや。

対照的に、ショウコは目を輝かせて喜んでいた。

尻尾をピーンと立ててご機嫌さんである。

 

 

「うれしいです……まさかご主人さまと一緒のご飯が食べられるなんて……。」

「え?衣食住は保証だろ?当然じゃないのか?」

「と、当然ちゃいます!」

 

 

そうなの?

もちろんこうやって部屋や食事を提供するのが契約内容にあったと思うのだが。

 

 

「食事や寝るところは別……馬小屋に寝泊まりすることもあるんです。ウチ、少なくともご主人様と一緒に食事を摂るのは初めてです。」

「そうなのか!?何か……アイルーって大変なのな……。」

 

 

アイルーに対する扱いが、なんかやっぱり軽いよなぁ。

この世界じゃ当たり前なのかもしれないが。

でも、雇用主として、最低限のことだと思う。

ここは我を通させてもらおう。

 

 

「衣食住は俺が保証する。契約にもあっただろ?試用期間とはいえ、俺が背中を預けることになるんだ。きちんと人間……人?らしい生活を送ろう。」

「は、はい……ご主人様!」

 

 

……スルーしていたが、その呼び方はなんとかならないのか。

ご主人様って呼ばれるの、めっちゃ恥ずかしい。

とかなんとか考えていたら、夕飯を持ったドールと、宿「ホエール」の主、ホエールさんがやってきた。

テーブルに夕飯を並べるドールを横目に、ホエールさんが話しかけてきた。

 

 

「ほほほっ、アイルー猫をお連れするとは……ソウジさんも、本格的にハンターになられたのぉ。」

「いやいや、今日契約したばかりですから。明日から本格的にクエストに行こうかと思っています。」

「あぁ、無理はされないようにの。ところで、アイルーの宿泊についてじゃが。」

「はい。」

「基本的に同じ部屋を使ってくれるのであれば、追加はもらっておらん。ただ、食事代は2名分きっちりいただくぞい?それでいいかの?」

 

 

アイルーって人間にカウントされないのか?

それとも同じ部屋を使うのであれば、だれでも問題ないのかな。

 

 

「ハンターさんがよく使う宿じゃしの…ほれ、連れ込んだり急に一人になったり、入れ替わりが激しいからの。基本料金は部屋代、というワケじゃ。」

 

 

ホエールさんは「フォフォッ」と言いながら、理由を説明してくれた。

なるほど、ラ〇ホみたいな感じだな。

別に俺も中身はおっさんなわけだし、男のそういった事情に対して忌避感は全くない。

ふとドールを見ると、ホエールさんの説明に顔を赤くしてる。これは分かっているな。

 

ショウコは……よくわかっていないのか、ポカーンとした顔をしている。

 

 

「じゃあとりあえず、夕飯代はきっちり払わせていただきます。」

「あいわかった。1000zじゃ。」

 

 

銀貨を一枚渡し、二人分の食事を頂くとしよう。

テーブルに目を落とす。

……何故、3人分お皿が並んでいるのか。

 

 

「ドール?何か注文より多くないか?」

「私もここで一緒に食べる。」

「えっ?それってどういうーーー」

「食べるから。」

「は、はい。」

 

 

有無を言わさぬ雰囲気に、気圧されてしまった。

何だ?ドールの様子がいつもと違って……ちょっと……むくれている?

 

 

「ご主人様!ご主人様!ウチ、お腹空きました!」

「わかったわかった。じゃあ、いただきます。」

「いただきます!」

「いただきます。」

 

 

こうして、奇妙な組み合わせでの夕飯が始まった。

 

 

「うーん、若いのぅ。」

 

 

ホエールさんがこちらを見ながら、よく分からないことを言っている。

まぁいいや、放っておこう。

 

今日は肉のシチューにサラダ、パン。

俺が大好きなメニューである。

ショウコが夢中で食べているが、無理もない。

ドールのリノプロ肉のシチューは絶品なのだ。

 

ホロホロになった大き目のリノプロ肉は、その旨味を存分にシチューに移してなお味わい深い。最高に柔らかくなったその肉を豪快にいただく。

口の中が濃くなったらサラダで口直し。

今日のドリンクはレモンのようなさわやかな酸味がほのかに香る、のど越しさわやかな冷水。

濃い目の味付けに、さわやかな風味が合うのである。

パンでシチューをすくって一口。

あぁぁぁ……うめえっす……。

 

 

「うまい……うまいよ、ドール。」

「そ、そう。今日はいいリノプロ肉が入ったんだ。」

「あぁ、みたいだな。最高に柔らかい。俺の大好物メニューだ……。」

「知って……そ、そうなんだ。よかったら、おかわりもあるから。」

 

 

俺は胃に問いかける。

いいのか。あぁ。お代わりもあるぞ。やったー!!

 

内臓に承認を受けた俺は、ドールにお皿を渡してお代わりをもらった。

 

 

「ショウコはどうだ?俺の大好物なんだ。」

「……。」

「ショウコ……?えっ!?ショウコ!?」

 

 

驚いた。

泣いているではないか。

何か猫的にアウトなものが入っていたのか?もしや玉ねぎで貧血を起こすとか!?

でもそれって犬じゃなかった!?

 

 

「す、すみません……あまりのおいしさに……ウチ、泣いてしもうた……。」

「わわっ。泣かないで、ショウコさん。お代わり、いる?」

「ぐすっ……はい!ウチもお代わり、下さい!」

 

 

ドールも戸惑っていた。

なんだか見ているこっちが心配になってくる。

そりゃ泣くほどにうまいんだが……アイルーの食事事情って一体……?

 

さっきまでむくれていたように見えたドールも、いつもの笑顔になっていた。

3人の食事は、夢中で食べていたので会話はほとんどなかったが、とてもほんわかしたものになったのだった。

 

 

* * * * * *

 

 

「あー……超満足……。」

 

 

うまいものって、人を幸せにするよなあ……。

この世界の食事がうまくて本当に良かった。というか、ドールがいてくれてよかった。

この子、本格的にレストランとか出店すれば、かなりいい線行くのではないか?

 

レストランかぁ……イシザキ亭もとにかくおいしいのだが、あちらはレストランとしての俺の中での最高の味だ。

ドールは対照的に、家庭的な意味での最高の味。

 

ひとり暮らしをしばらくして久しぶりに帰ってきた実家で飲む、あの味噌汁のうまいことうまいこと。

「俺の原点はここだったんだ!」的な感動。

それに近いものが、ドールの食事には感じられる。

 

 

「ドール、ありがとう。おかげで明日からまた、頑張れそうだ。」

「ううん。こんなにぺろりと平らげてくれて、私もうれしいよ。」

 

 

そりゃ食べますよ。だっておいしいんだもん。

 

 

「俺の中では、家庭的な味の最高到達点にいるよ。これからもずっと、作ってほしい。」

「…………えっ?」

「ん?」

「……あ、あー!ま、任せて。じゃあ、わ、私、片づけるから。」

「あ、あぁ。」

 

 

照れるようなことを言っただろうか。ほっぺを赤らめたドールが水場に消えていく。

 

ほめ過ぎたのだろうか……?

俺としては、このリノプロシチューについてまだまだ語れるのだが。

 

 

「ご主人様……ウチ、大体わかりましたわ……。」

「おぉ!?何だショウコ、藪から棒に。」

「女の勘が働きまして……ご主人様……いけず。」

 

 

……いけずって何だろう。……まぁいいや。

よく分からないままだったが、とりあえず今からの話をしよう。

 

 

「よし、ショウコ。次はこっちに来てくれ。」

「はい!何をするんでしょうか?」

「特訓だ!」

「と、特訓?」

 

 

頭の上に「?」が浮かんだままのショウコを連れて、俺は宿の庭に向かうのだった。

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