見晴らしの良い草原。ところどころ大きな岩や木が生えている。
空は曇天。まったく知らない世界にやってきたというのに、心躍ることなんて一つもない。
とにかく生きなければならない。
生存本能が告げるのだ、「頭を使え!何とか切り抜けろ!」と。
とにかく目の前にいる大岩モンスター、バサルモスを、何とかしなければ。
<モンスター情報>の画面で、こいつの弱点や生態は何となくわかった。
もしかしたら、多少ひるませることができるかもしれない。
逃げる隙を作れば、こいつはそこまで速くないから、逃げ切れる目算はある。この体なら。
「グルルルル……。」
「こ、こええ!!……けど!やるしかない!」
ズシンズシンと、テレビの中でしか聞いたことの無い効果音が、リアルに鳴り響く。
その度に、俺の弱虫が「はよ逃げや」と忠告してくる。
うるさい、俺は反撃するんだ。
考えた行動に移る。
とはいってもやることは単純だ。
さっき見たアイテムの中で、こいつを足止めできそうなもの。
そう、シビレ罠を使う。
シビレ罠は、基本的に「弱った敵を捕獲するのに使用する」他に「相手の自由を奪うことができる」らしい。
なので、動けなくなったバサルモスにある程度ダメージを与える。
そこでもう一つ。恐ろしいものを見つけている。
アイテムポーチに「大タル爆弾G」なるものが、二つ入っていたのだ。
この爆弾、持ち運びもできないほど大きい。
だが俺のアイテムポーチなら入る。入ってしまう。
「アイテム」ならば、何でも入りそうだ。
シビレ罠を何とか仕掛ける。
罠とか言うぐらいなんだから、多少の足止めにはなる……はずだ。
かかった瞬間大タル爆弾を二つ設置。しびれている間に爆弾に着火。
そしたらひたすらに逃げよう。
もしかしたら腹の装甲とやらが剥げて弱点になり、チャンスになるのかもしれないが、あいにくこれ以外に攻撃が思い浮かばない。
第一、武器もないのだ。
頭の中でやることの算段が付いた。
あとはやる気だ。気合だ。
「ふうー……。よし!」
深呼吸して、気持ちを整える。
バサルモスが、後ずさりする俺に近づいてくる。
さっきのビームを放つ様子はない。成人男子が歩くぐらいの速度で俺を追ってくる。
「……今だ!!」
振り返り、とにかく全速力で反対方向に走る!
追ってくるバサルモス。
だが遅い。少しずつ距離が開いてくる。
この体、めちゃくちゃ軽い。いくら走っても疲れない気がする。
やはり加齢とは恐ろしいものだ。
このまま逃げ切れるかとも考えたが、バサルモスには翼がある。
モンスター情報では飛ぶことができるらしい。
何とかダメージを与えて、逃げる時間を稼ぐ。
距離が少し開いたところで、急いでアイテムポーチを触り、アイテム一覧からシビレ罠を選択する。
途端に「ドサッ」と、シビレ罠が落ちて、そして地面に「カチッ」と設置された。
……全自動?俺は何も仕掛けなくていいのか?楽な罠だな!
おそらくこれでいい。はずだ。やってみなくちゃ分からない。
もはや博打だ。
バサルモスはのっそのっそと俺を追ってきている。
心なしか疲れているようにも見えてきた。
人間、慣れるものだ。初めは怖くて仕方なかったのに、今や落ち着いて相手を見ることができる。
怖いけど!めちゃくちゃ怖いけど!
「おい!こっちだバサルモス!!こっちにこい!!」
「グアアアアアアアア!!!!!」
俺と罠の延長線上にバサルモスが来るようにして、相手を挑発する。
すると、突然。
ゆっくりだったバサルモスが、頭を突き出してこっちまで突進してきた。
あまりの急な速度の変わりように、何の対処もできない。
「あ、死んだわ。」と思った。目の前に迫ってくるバサルモスに思わず目をつむった。
……。
………。
あれ?生きている?
目を開ける。
「ク…オアアアア……!」
目の前には、罠が発動して、びりびりと音を立てながら、動けないでいるバサルモスがいた。
シビレ罠、成功だ!
バサルモスが、うまいこと罠に引っかかってくれたようだ。
しかも俺と衝突寸前のところで。目の前にはバサルモスの苦悶?の表情が見られる。……死ぬかと思った。
しかしこいつ、近くで見ると厳ついなあ……。
……観察している場合ではない。急いで腹部に大タル爆弾Gを二つ設置しよう。
シビレ罠はどういうわけか、バサルモスにしか効いていない。俺には一切痺れが来ないのだ。
原理がよくわからない。
もうどうにでもなれ精神で、情報画面の<アイテム一覧>から、大タル爆弾Gを選んだ。2回選べたから2回押す。
すると俺の目の前にありえないぐらいでかいタルが現れた。
もうちょっと、ワイン蔵のタルぐらいを想像していたのだが……醤油蔵のタルぐらいあるなこれ。
これ全部爆弾!?こわっ!しかも2つ!?こわっ!
「やばい、巻き込まれたら死ぬな……離れたところから着火しよう!急げ!!」
アイテム情報には、小さい刀やクナイ、石ころで着火は可能、と書いてあった。
俺は石が当てられそうな15mほどの距離を開けて、ソフトボールぐらいの大きめの石を構える。
爆弾の位置は、想定通り腹部の下。まだバサルモスは、痺れ続けている。
「爆弾を起爆させるには、爆弾上部に強い衝撃を与えるとよい、か。よし!」
シビレ罠がだんだんと弱まってきた。もう少しでバサルモスが動き出すだろう。
深呼吸する。
落ち着いて石ころで狙いを定める。
「いけっ!!」
石を思いっきり、爆弾めがけて投げる。
念のため、3~4個石を持っていたが、運よく全力投球が、タルの上部に当たってくれた。
やはりこの体、身体能力がハンパ無い。ものすごい剛速球だった。
「ガッ」とタルに石が当たった。
頭の中で「よしっ!」と思った、その次の瞬間だった。
ドゴオオオオオオオオオン!!!!!!
「~!!!!!!」
ハチャメチャな爆発音とともに、俺は吹き飛ばされた。