「も、もうええですか?」
「は、はいぃ!ありがとうございました。」
主人の俺が見つめる中、美女が俺と契約中のアイルーを撫でまくる。
そんな意味がよくわからないプチ寝取られ状況に俺が困惑する中、二人の撫で撫でられが終わった。
ハイビスさんがキラキラの笑顔。
対してショウコはなんだかお疲れ気味。
「そ、それではハイビスさん。俺たち、行くので。」
「はい!ご武運を!」
明らかに元気になっているハイビスさんを横目で見ながら、俺たちはガーグァ車へ向かった。
「ショウコ、大丈夫か?」
「は、はい。お待たせしました、ご主人様……。」
憔悴しているぞ!?
「車の中でよく休んでおけよ?」
「はい!ご主人様はやっぱり優しいわぁ……。」
いやそれぐらい普通だよ。
ともあれ、草原まで出発。
ガーグァ車で目的地まで1時間以上かかるという。
俺は昨日から疑問だったことを、思い切ってショウコに聞いてみることにした。
「なぁ、ショウコ。村での、いやこの世界でのアイルー猫の扱いについて教えてくれないか?」
「へ?扱い、ですか?どうしてです?」
昨日から気になっていたのだ。
明らかに安すぎる給金。昨日のショウコの感動具合からもわかるように、衣食住について、待遇が悪いこともわかっている。
この世界に、どこか根強い差別意識のようなものがあれば、何とかしてあげたい。
そう思うほどには、アイルーに対する意識が低いと思うし、俺自身アイルーへの愛着が湧いてしまっている。
なので、そういったことを、ショウコに打ち明けてみた。
「なあ、正直に教えてくれ。この世界で、ショウコ達アイルーが差別を受けているというなら、何とかしたいんだ。」
「さ、差別ってご主人様、大げさ―――」
「大げさでも何でもない。この世界で一生懸命生きるのに、人もアイルーもないだろ?たしかに身体的、心情的な違いはあるのかもしれないが、その辺を認め合ってこそ、楽しい世界になるんじゃないか。」
共生社会。
前世でこの考えを聞く度に、そうだよなぁ、位にしか思っていなかった。
だが、今この世界に来たからこそわかる。
モンスターの脅威に常に晒され続けているこの世界で、種族とかそんなことを気にしてはいられない。
「どうなんだ?」
「ん、んー……。」
ショウコが考え込んでいる。
無理もない、辛い思い出もあるのかもしれない。
すまんショウコ。嫌なことを思い出させるのなら、それは俺の責任だ……。
だが、何とかしたいと思うのも事実。教えてほしい。
「例えば、道を歩いていると、特にさっきのハイビスさんみたいに、女の人にキャーキャー言われて、『撫でてもいい?』みたいなことを言われることがあります。でもそれは何というか、気持ちええなー、としか。……あ、お風呂に入るのを拒否されたことがあります!何でも『可愛らしいアイルーが一緒に銭湯なんて!もっと自分を大切にしなさい!』とか言われたんです。でもウチ、銭湯好きで。だからいつもアイルー用の銭湯に行くんです。」
「そうか……ん?」
これは差別なのか?
「そのアイルー用の銭湯というのが、また面白ぅてですね。銭湯の周りを、人間さんのけーびいん?さんがめっちゃガードしてはるんです。何でこんなことするのか聞いてみたら『俺たちに任せて!君たちには指一本触れさせないからね!』とかよう分からん事ばっかり言わはって。いやぁ、大変ちゃう?とか友達と言い合いながら、いつも感謝して銭湯に入るんです。」
マシンガントークが止まらないショウコ。
というかなんだ、これはもしかして差別とかじゃなくて……?
「あーでもでも、ハンターさんと寝泊まりするときに馬小屋に行かされた時!あれはちょっとウチ嫌でしたねぇ。」
おっ、そうだった。ショウコは馬小屋に寝かされて嫌な思いをした経験があるのだ。
これは明らかに悪意を感じる。
「その時組んだハンターさんが『すまない…パーティーメンバーに信用ならない奴がいるんだ……。』とか眉をひそめてヒソヒソ声で話してきてですね?その人が信用ならないとか、よぅ意味が分からんかったんですけど……そのまま馬小屋の二階まで案内されまして。その2階は内装をきれいに施されて、清潔なベッドが運び込まれてまして、とても快適やったんですが……ウチ、そんなんよりハンターさん達と仲よぅおしゃべりして眠りたかったんです。ひどい扱いや-思たんですけど……まぁベッドも気持ちよかったし、お馬さんたちも静かにしてくれはったし。だから、いまご主人様と一緒に眠れるってすごく嬉しいんです!ありがとうございます、ご主人様!」
悪意というか善意しか感じねえ!!
……あ!お給金は!?お給金!!安いぞ!?
「……ちなみに、給料は安いとは思わないか!?」
「うーん、確かにお金はあったら助かりますねえ。まぁでも、集落維持のための村からの募金がかなりあるんです。そもそも国の税金からうちらの集落維持賄われてますし。ありがたいことですよホンマ。何でも、大昔に人間さんが、ごっつ強いモンスター撃退するのに協力を惜しまなかったアイルー達がいたとかで、そこから人間さんとの関係は始まっているって聞いたことあります。」
伝承レベルでアイルーは敬われているってことか!?
あれ!?もはや差別対象どころか敬愛対象と化してない!?国レベルで!?
「せやから、生活には困ってないんですよね。……いつだかオスズさん宛に白金貨100枚が寄付されたときは、流石に集落中大慌てになりましたわ!あのお金、怖くて手を付けられんと、そのままなんちゃうかなぁ…?」
……話がよく分からなくなってきた。
だが、今までのショウコの話を総合すると……。
「差別とかそんなの、無い感じ?」
「ありませんって、そんなの!むしろ人間さんには感謝するばかりです。可愛がってくれるし、優しくしてくれはります。大切にされ過ぎて最近はアイルー達が逆に困ってしまうというか……ウチらかて、自分たちで生活できるんですよ?ま、まぁウチみたいにサボってまう輩もいるので、その辺は気をつけなアカン!って思いますけど。甘やかされ過ぎないように、自分たちでがんばろうっていうのが、今のところ集落の目標ですね!」
……。
盛大な勘違いをしていたようで。
恥ずかしいですよ俺。
差別意識をなくしたい!と、崇高な目標をもってやる気を出して。
俺が何とかしたい!と奮起しようとしたら。
ふたを開けたら、お互い大事に思いながら生活しているという……。
ちなみに、ガーグァ車の御者さんに話を伺うと、昔からアイルーというのは人間と共生していくもの、敬愛の対象であるということだった。
なので国が公的な基金を設立し、アイルー保護を行っているそうだ。
最近ではもはやアイドルのようになっているが、ぞんざいに扱ったり性愛の対象にしたりするのはもっての外。
この鉄の掟を破ろうものなら、公的にアイルーとの接触禁止令が出るとか。
それは、アイルーをこよなく愛する人間にとって、死に値すること。
兄ちゃんも気をつけな、と大変失礼なアドバイスを頂いた。
まぁ基本的には普通に接することがいいのだと教えてくれた。
なるほど、可愛い子どもに女性が寄っていって、男性が離れて見守る感じか。
……盛大な勘違いをしておりました、申し訳ありません。
しかし、何がまずいって、昨日銭湯に行ったとき、そういった目線を全く気にしていなかったショウコだ。
アイルー用の銭湯の周りに警備が付くってことは、まぁ、つまり、そういった不届きな輩が少なからずいるってことだ。
守っていかないといけないな、と思った。
……俺は大丈夫なの!!ロ〇コンちゃうわ!
……一体誰に訴えたかったのかよくわからん俺の心の叫びは、誰に聞かれるでもなく、虚空に消えていくのだった。