草原に着いた。
「じゃあな、兄ちゃん、アイルーの嬢ちゃん。頑張れよ。」と言い残し、去る御者のおじさん。
……前回もあの人じゃなかったっけ?
うーん、ダンディ。
「よし、そしたらショウコ。これから狩猟を始めるが、一つだけ、俺が大事にしていることを伝える。」
「はい!何ですか!?」
「絶対に、無理はしない。生きて帰ることを最優先にすることだ。『生きて帰ることが、最もハンターに重要な資質だ』。俺の尊敬する教官の言葉だけどな。そこは必ず、大事にしてくれ。」
「……はいっ!ウチ、その考え好きです。絶対に守ります。」
「うん、まぁ、無理はしないってことだな。よろしく頼む。」
ショウコに大事なことを伝えた上で今回のクエストについて、進め方の打ち合わせを行う。
「じゃあ今回のクエストの話だ。と言っても、やることは単純だ。俺が見つけて、二人で戦う。以上だ。」
「索敵はウチがしなくてええんですか?」
「あぁ、これもギフトの力なんだが……俺はモンスターのいる場所が分かる。」
「……えぇ!?」
「と言っても、ハンターになってまだ新米だ。討伐自体にはまだ不安も残る。ショウコ、おかしなところがあったら遠慮なく教えてくれ。直していきたい。」
「……そんな力があったら、ご主人様強いし、バギィぐらい余裕やと思うんですけど……。」
「尚更だな。存分に力を発揮しているか、油断していないか、クエストの進行に間違いはないか。そういったところは経験がものをいう。頼りにしているぞ、ショウコ。ここではショウコが先輩だ。」
「は、はいっ!ウチ頑張ります!」
「よし、じゃあ出発だ。南東の岩山の向こう、4匹いるぞ。」
「え!?早っ!?」
走りながら武器の最終確認を行う。ショウコも「動きながらその準備ができるのはええですね!」とほめてくれている。
教官に何度も言われてきたからな。常に動きながら何かを行うこと。死ぬ確率がぐんと減る、と。
最初の群れを発見。
小型モンスターらしく、大きさはショウコと同じくらい。小学生高学年の子どもぐらいか?
ギャッギャッと仲間と鳴きながら、周囲の警戒をしている。
「うわぁ、ホンマにおった。ご主人様すごい……。」
「ショウコ、まずは俺だけで行っていいか?」
「はい、ご主人様なら大丈夫かと思います。気を付けてくださいね!」
「あぁ、眠らされたら、その時は頼む。」
「はい!」
慎重に身を低くしながら近づく。
草原は、そのまま草が生い茂るだだっ広い平野だ。
そこかしこに大きい岩山が見えるが、バギィたちがいるのは生い茂った草むらの中。
隠れるには恰好の条件が揃っている。
バギィの見た目は、ちっこい恐竜のような感じ。
薄紫の鱗が鈍く光り、遠目からでも視認しやすいが、曇天ならわかりにくいかも知れない。
大きそうな個体は居ない。警戒の目を向けているのが、この4体のリーダーか……?
鋭い爪は見えるのだが、催眠効果のあるという体液は、当たり前だがわからない。
口から吐き出すという体液……凶暴で頭もいいらしいから、囲まれたら良くないと思う。
速攻で片付ける必要があるな。少し緊張する。
息を潜め近づき、警戒の目が反対に向いた瞬間。
俺は走りだした。
首めがけて二段切り、返して、車輪切り。
2匹ほどまとめて吹っ飛ばす。
追撃はせず、残りの2匹に狙いを向ける。1匹が今にも遠吠えを上げそうになっている。
仲間を呼ぶ気か!?
がら空きの首を回転斬り、間合いを詰めながら、正確に頭と喉を狙う。
振り切った双剣ににじむ血の色は赤。後で手入れしないとな。
その後、起き上がってくるバギィに、もぐら叩きのように追撃を行う。
「ラストっ!」
連続技の最後、斬り上げの直後に吹っ飛んだバギィは、しばらく動いた後に静止した。
「よし、4匹目。周囲には……敵影無し、と。ふぅ……。」
案外あっけなかったが、気を抜いてはいけない。
油断したら、教官から怒声が飛んできそうだ。
「……おーい、ショウコ!」
「はい!」
勢いよくショウコが飛び出してきた。
かなりの速さで俺に近づくと、俺に飛びついてきた。
「ご主人様!やりましたね!あまりの早業に、ウチ驚きました!」
「お、おぉ。そうか、よかった。」
「はい、文句の付け所がありません!しいて言うなら、私にも出番を下さい!」
「はは、すまん。じゃあ次はショウコと一緒にやろうな。」
「はい!」
話しながら、バギィの討伐部位である鱗を剥ぎ取る。
死体は重ねておいて、後で回収がしやすいようにまとめておく。
「ええですね、そうやって後々のことを考えて動くのも、大切なことです。」
「おぉ、ほめられた。そうか、当然だと思っていたが、これも大切なことなんだな。」
再確認。教官が教えてくれたことが生かされているな。
全く、感謝してもし切れない。
……まぁ、ハンターの制度とかアイルーのこととか、肝心の部分は教えられなかったんだけど。
教官らしいと言えば教官らしい。
そう言えばセツヒトさん、元ハンターと言っていたけど、どれだけの方だったんだろう。
聞いてもはぐらかされそうだが、帰ったら武具屋によってみよう。
そう考えながら双剣を研いでおく。こればかりは立ち止まって行うしかない。
集中していないと、剣をダメにしてしまいそうで、最低限の周囲の警戒をしながら行う。
「ご主人様、周囲の警戒はウチがやりますよ?」
「あぁそうか。そういう方法もあるな。……ショウコがいると、クエストが本当に楽に感じるよ。」
アイルーがいるだけで心持ちがこんなに楽になるなんて。
ショウコと契約して本当に良かったと思った。
* * * * * *
「ご主人様!左!」
「よしっ!はぁ!!」
「タイミングばっちりや!ウチ、後方から回り込んで追い込みます!2匹同時、いけますか?」
「あぁ平気だ!」
「じゃ、お任せします!」
言うや否や、ダッシュして一瞬でバギィたちの後方に回り込むショウコ。
俺にあの瞬発力は無い。
持久力なら負けないのだが、素早さはショウコの圧勝だな。
「ご主人様っ!」
「あいよ!!鬼人化……!!」
鬼人化を行い、攻撃力を上げる。
最近鬼人化中に、少しだけ力がみなぎる感覚がつかめるようになってきた。
鬼人化を解いた後はどっと疲れるのだが、体力には自信がある。
さっと終わらせてしまおう。
剣を構える。
低い姿勢から、昨夜の訓練を思い出しながら連続技を繰り出す。
斬り応えが無いし、バギィは小さい。
正確に切ることだけ考えよう。
「これでっ!最後!!」
回転切りでケリをつける。
吹っ飛ばされたバギィは、その後動かなくなった。
これで20匹目だ。
討伐部位をさっと回収する。
「ご主人様、ナイスでした!」
「いや、ナイスはショウコだよ。俺が戦いやすいように敵を集めてくれて。すごく楽だった。」
「まぁ、それがウチの得意技ですからね!素早さならだれにも負けません!」
「ははは、頼もしいぞ。次もよろしく頼むな。」
「はい!」
話しながら、バギィたちの体を重ねておくのを忘れない。
部位の数を確認する。20個揃っているな。
信号弾を打つ。これで後は帰還するだけだ。
「ホンマ手際がいいですねぇ。言うことなんかあらへん。こういう基本のところ、大事にしているハンターさんは、やっぱり強い人多いです。ご主人様、すごいです。」
「教官が良かったからな。……うん、よかった。」
遠い目をして教官を思い出す。
今頃新しいハンターをしごき始めているのだろうか。
その名もない見習いさんに、敬礼を送りたい。がんばれ、と。
「それじゃ、帰るか。」
「……はい!」
一応、マップを見てみる。
寄って来る脅威などは無さそうだな……。
ショウコは疑心暗鬼になっている。
そりゃ立て続けに、自分が組んだハンターが予期せぬモンスターに襲われているのだ。無理もない。
だが、俺のギフトで、そうしたモンスターはいないことを確認済み。
「……ショウコ。」
「は、はい!!」
辺りを警戒しているショウコ。
……少し肩の力が入りすぎだ。
「ショウコ。ストップだ。」
「へ?と、止まるんですか?……まさか、モンス―――」
「落ち着け。」
「えっ。」
ポンッと頭に手を置く。
「大丈夫だ。大丈夫。」
「あ……。」
「俺のギフトの話はしたよな?周りに敵なんかいない。」
「…………。」
「信用してくれ、自分だけ頑張るな。俺とショウコは一蓮托生。一緒に、やっていけばいいんだ。」
「……はいっ……。」
緊張が少しはほぐれたようだ。
………クエストの始めに、先輩として教えてほしいなんて俺が言ったからか。
ショウコを立ててやる気になってもらおうと思ったのが、 逆にプレッシャーになったんだな…………反省。
「ごめんな、俺が教えてほしいなんていうから、頼りなかったな。」
「えっ!?……いや!ちゃいます!……。ウチは、ウチは……。」
「うん。」
「…………ウチ、嬉しかったんです。ハンターさんが、私を頼ってくれる。今までもそんなんあったけど……ご主人様がそう言ってくれて、頑張ろうって、思えました。」
目をウルウルさせながら話すショウコ。
「招き猫」なんていない。
俺は誓ったのだ。
このショウコの不名誉を、払拭すると。
「……ショウコ。モンスターは来る気配がないし、俺が周りを警戒するから。」
「はい……。」
「安心してくれ。もうショウコは、『招き猫』じゃないぞ。」
「…………はい!」
いい笑顔だ。
ショウコに泣き顔は似合わない。
やっぱりこの子は、笑顔でいてほしいな。
うーん。
我ながら恥ずかしいです!
キザですね。
うん、死にたくなってきた。
「……よ、よーし!帰還ポイントまでダッシュだ!負けたらスクワット100回!」
「ご主人さま、…………恥ずかしくて、ごまかしてません?」
クスクスと笑うショウコ。
この笑顔は……ちょっとムカつく。
「お先!」
「あー!ヒドい!イケズ!!ちょっ、待ってくださいー!」
* * * * * *
帰還ポイントについた俺達は、ネコタクを使ってワサドラに帰った。
ちなみに、勝負に勝ったのは俺。
ショウコはスクワットで「足が痛いわぁ……!」とかなんとか言っていたので、ヒョイッと抱っこしてネコタクに乗せてやった。
ネコタクのアイルーは、前回と一緒の御仁。
「立派にハンターをやっていてうれしいにゃ。」と言われて、ちょっと照れてしまった。
ニヤニヤしているショウコに再びイラっとしたので、耳を軽く引っ張っておいた。
笑い合う俺たち。
やっぱり。ショウコは笑顔が一番だ。