ギルドに着いたのは昼過ぎ頃。
腹が減った。だが、先に報告を済ませてしまいたい。
とりあえずショウコは先に宿に戻るように伝えておいた。
「うちもいますよ?」と言ってはくれたが、ドールたちに先に報告してほしいことと、ギルドマスター絡みの案件で時間がかかるかもしれない旨を伝えて、納得してもらった。
先に食べててもいいと言ったのだが、頑なに俺を待つと言うので、そこは折れた。
せっかく村に早く帰ってきたのだ。携帯食料じゃなくて、ちゃんとしたものを食べたい。
ショウコに悪いので、なるべく早く終わらせたいところではある。
だが、予想よりかなり早く終わってしまったため、ハイビスさんに何て報告したものか迷っている。
まぁそのまま伝えればいいか。
ギルド前、ハンターの数はまばらだ。
それもそうか、まだ昼だもんな。
ハンターズギルド内が混むのは朝と夕方。
逆に昼は、こうして閑散としていることがほとんどである。
ギルドを見渡す。いつもより人がいないので、ハイビスさんを見つけるのも簡単だろう。
………………。
…………。
あれ?
いないぞ?
どっかに隠れて……いやいや、どこの世界に勤務中にかくれんぼする者がいるのだ。
「どうかされましたか?」
アホな事を考えていたら、黒髪のポニーテールの女性が話しかけてきた。
どこかで見たことがあるような……。
スラリとした高めの身長、キリッとした目は力強さを感じさせる。
その女性は俺の顔をマジマジと見つめると、話を続けた。
「すみません。もしかして、ハイビス先輩の……。」
「あぁ、はい。あなたは新人受付にいた……。」
「はい、ヒナタと申します。」
わかった。
昨日朝、ギルマスに呼び出された際に受付にいた受付嬢だ。
あのときは座っていて、身長が高めなことに気づかなかった。
「すみません、先輩は今、お昼を……。」
「あ、あー。なるほど。そういう時間ですね。」
「ご要件をお伺いします。」
「えっと、はい。クエストクリアの報告に。」
「かしこまりました。……いまギルドは空いておりますので、私で良ければ、どうぞ。」
そう言って受付の椅子を手で示すヒナタさん。
いいのかな。まぁいっか。報告するだけだし。
席に着くと、ヒナタさんも向かいに座った。
「では確認します。HR3、ソウジさん。お間違い無いですか?」
「は、はい。」
すぐに名前を言われて驚いてしまう。
「現在届いているクエストクリアの報告は、こちらだけですから。」
「あ、ああ。なるほど。」
そうか、俺しかいないからか。
ビックリした、心でも読めるのかと思った。
「…………本クエストは、今朝受注されたもので、お間違い無いですか?」
「はい。ハイビスさんに。」
「…………討伐部位の提出を、お願いします。」
そう言われて、事前に出しておいた革袋を渡す。
血の匂いが結構するのだが、さすが受付嬢。眉一つ動かさず、後ろのテーブルで確認作業を進める。
非常に素早い手付きで、10分程で確認が終わったようだった。
「……はい、確認できました。報酬はこちらです。報酬部位はどうされますか。」
「ええと、ギルドで預かる形でよろしくおねがいします。」
「かしこまりました。大切に保管いたします。…………。」
「え、ええ。ありがとうございます。」
……なんだ!?
すっごく訝しげに、無言で資料を見つめるヒナタさん。
クール系だから、ちょっと怖い。
「……失礼しました。討伐時間がだいぶ早めだったもので。」
「あ、ああ、なるほど。」
「理由をお伺いしてもよろしいですか?」
しまったな。
ここでハイビスさんなら、「かくかくしかじか」で通るのだが。
まさか「実はギフトという力がございまして」なんて、本当のことは言えない。
ごまかせるかな。
「そうですね。着いたらすぐ声がしたので、岩山を越えてみようと。そしたら結構数が固まっていまして。素早い敵は得意なのと、経験豊富なアイルーが上手く誘導してくれました。」
「……大量発生ということではないですね?」
「うーん、まだ経験不足でそういったところは分かりかねますが。」
「いえ、大丈夫です。……そのままそこで20匹討伐を?」
うーん、真実を混ぜつつ誤魔化すのって難しいなぁ。
「いえ、そこでは4匹ほど。続いて南下していったら、何度も群れに遭遇した感じです。」
「なるほど。」
「ええ、運がいいのか悪いのか。」
多少脚色込みだが、まるっきり嘘ではない。
初めは4匹討伐した訳だし、そこからマップを見て南に群れがいくつか見つかったので、順に倒していったわけだ。
今回は運が良かった、で通るだろう。
「……ご報告ありがとうございます。」
「いえ、このぐらい。」
「……観測班の報告とも合致します。お早いクエストクリア、大変素晴らしいです。」
「いやいや。アイルーのおかげですよ。それに、俺の武器は小さくて素早いのには向いています。」
これも嘘ではない。
双剣は攻撃しながらも、高い移動速度を維持できる武器だ。
手数が命。一撃一撃は小さいが、小型モンスターの掃討には向いていると言える。
「また次回もよろしくおねがいします。お疲れ様でございました。」
「はい、お疲れさまです。」
よし、ごまかせたかな?
しかしクールな方だった。
まるでこちらを見透かすかのような視線。ヒヤヒヤしたぜ。
なんて安心したのも束の間。
「……すみません、ソウジさん。一つだけ。」
「えっ!?な、なんですか!?」
声がかかった。
なんだ!?もしやバレた!?
……いやいや、バレる要素はないと思うぞ。
むしろ報告と合致するというのなら、ギルド側も納得せざるを得ないわけだし。
「あの……。」
「は、はい……?」
何この間!?怖いよ!
「あの、その、あ、アイルーはいらっしゃらないのですか?」
「…………………………へ?」
アイルー?アイルーってショウコのことか?
…………なんで?
「あ、あぁ。ショウコなら先に宿に帰ってますが……。」
「えっ…………そ、そうでしたか……。」
なんか落ち込んでらっしゃる!?
分かりやすく眉毛がハの字になって「(´・ω・`)」って顔してる。
…………もしかして、ショウコに会いたいのか?
……い、いやいや。クール系お姉さんだし、その辺は違うだろ。
……違うよな。
「もしかして……会いたいとかですか。」
「…………。」
コクン。
まるで小さい子が遠慮しながらも頷くみたいに、首を縦に振るヒナタさん。
あ、この人、猫好きだわ。
同じ道を歩むものとして、シンパシーを感じてしまった。
「……だとしたら、すみません。あいにくショウコは―――」
「ご主人さまー!遅いですって!はよぅ昼ごはんに行きましょうよー?」
「めでたいにゃ!今日はお祝いにゃ!」
…………。
噂をすれば影。
ショウコが来ちゃったよ。
しかもなぜかオスズまで連れて。
「ショウコ!?宿に戻ったんじゃないのか!?」
「待ってました。でも我慢できひんと、来たんです。あ、オスズさんはそこで偶然会って、事情話したら大喜びで。一緒に昼食べよかって話になりまして……。」
「ソウジさん。いきなりすみませんにゃあ。あちしも、ご一緒できたらと思いまして。もちろん、あちしが奢りますにゃ!よろしくおねがいしますにゃ!」
たまたま偶然とはいえ、タイミングバッチリである。
チラリとヒナタさんに目を向けると、「ぱぁぁぁぁぁ!」みたいな音が聞こえそうな勢いで喜んでいる。
冷静そうな方がそんな風に喜ぶのを見るのは、何だか楽しい。
すっごくキラキラした目。猫好きって、傍から見たらこんな感じなのか。
……よし、俺は自重しよう。中身おっさんがキラキラしてもキモいだけだ。
「あー、タイミングバッチリだ、ショウコ。ちょうど今、終わったところだ。」
「ほんなら、行きましょ?うちお腹空いてお腹空いてもう背中とひっつきそうなんです。」
言いながら、お腹あたりをポンポンっと叩くショウコ。
その仕草はポイントが高い。
あ、ほら。ヒナタさんがグッと来てる。
「こら、人前で恥ずかしいことしにゃい。一人前のオトモは、ギルドでは大人しく待つことも大切にゃ。」
そう言いながら、めっ!って感じで人差し指を立てて注意をするオスズ。
うん、それもポイント高い。
小さいアイルーが頑張って背伸びしている感。いい。
……ヒナタさんが片手を顔の前で覆って、破顔した表情を一生懸命隠している。
分かる、分かるぞヒナタさんその気持ち。
「二人とも、こちらヒナタさん。担当の受付嬢が今いなくて、代理です。ショウコ、ご挨拶。」
「は、はい!失礼しました。ウチはショウコって言います。まだ半人前ですが、がんばりますので、よろしくお願いします!」
礼をするショウコ。
頭を下げるも、両の手を前ではなく後ろに広げている。
何だその仕草は。10点満点だ。
ヒナタさんは礼を返すも、「可愛すぎて何も言えねぇ!」って顔をしている。
うーん、根っからのアイルー好きだこの人。
クールな印象を崩さないように何とか体裁を保ってはいる。さすが受付嬢。
「アチシはアイルー集落の取りまとめ、オスズですにゃ。はじめまして、ですにゃ?以後、よろしくおねがいします、受付じょーさん!」
オスズはさすが、丁寧な礼を見せる。
だが、頭を下げた瞬間、尻尾がぴーんと天井を向く。
これは猫好きにはたまらん、ピンピン尻尾アピール!
オスズ、10点満点!
…………ヒナタさん、プルプルしながら両手を口の前で覆う。こらえきれないって感じだな!
「ヒナタさん……あなた、相当好きですね。」
「……な、何がでしょうか。」
ここに来て、キリッとした顔を作ってごまかされても。
俺にはわかるぞ。あなた、相当ですよ。
「ショウコ、すまん。お願いがあるんだが。」
「へ?ウチですか?何です?」
「……ヒナタさんに頭を撫でさせて貰えないか?」
「えっ!?またですか?」
「ああ。」
ヒナタさんの気持ちがよーーくわかる。夢を叶えさせたいと思うのは、同好の士として当然だろう。
「ま、まぁウチは構いませんけど。」
「……オスズさんも、よろしいですか?」
「へ?アチシもですかにゃ!?」
「お昼奢りますので。」
「お任せくださいにゃ!」
二つ返事。
飯に弱いのかこの人。覚えておこう。
二人が、受付から出てきたヒナタさんに近づく。
「えっ!?いいんですか!??こんな幸せなことあるんですか!?」って顔をするヒナタさん。
…………もうクールとかそんなん吹き飛んでる。
「そ、ソウジ様。よろしいのでしょうか。」
「二人はオッケーみたいですし。朝はハイビスさんが撫で回してました。大丈夫でしょう。」
「では……。」と言いながら、おずおずと二人の頭に手を伸ばすヒナタさん。
左手をショウコの頭へ。右手はオスズさんの頭へ。
ポン、ポン。
手を置くヒナタさん。
「「「………………。」」」
ナデナデ。
ナデナデ。ナデナデ。
お、ヒナタさんナイスグルーミング。
的確に頭の気持ちいいポイントを探って、優しく撫でていらっしゃる。
両方とも同時にそれを行うのは、我々の夢でもあると同時に、猫好き業界では高難度の技。
只者ではない。
「……。」
「…………にゃ、にゃあぁ。」
「…………う、ふぅぅ。」
喉を今にもゴロゴロ鳴らしそうな、二人のアイルー。
いいなー。俺も中身おっさんの男じゃなかったらやってみたい。
だが自重。
真の猫好きは、猫がキモいと思うことはしない!
「…………ありがとうございました。」
「ふにゃ?終わりかにゃ?」
「わぁぁ、ウチ、気持ちよかったです。眠るとこやった。」
短めのナデナデ。
ヒナタさんには幸福な時間だっただろう。
そして止め時も心得ているとは。
ナデナデは決して長い時間行ってはいけない。
気が移りやすい猫にとって、これは鉄則だ。
「…………ソウジ様も、ありがとうございました。」
「様、はいりませんよ。」
「いえ、そういうわけには。ソウジ様は、いやソウジ様ももしかして……。」
「……ええ、あなたと同じ……。」
「……なるほど。納得しました。」
見つめる俺たち。
無言でも伝わるシンパシー。
「……ソウジ様、これからもよろしくおねがい致します。」
「同士、ヒナタさん。よろしくおねがいします。」
互いに礼をして、俺はギルドを後にした。
「……?一体何やったんや……?」
「そんなことよりショウコ、ご飯ですにゃご飯。」
「せやった!はよぅ行きましょうよ、ご主人さま!」
「よし。じゃあ二人には、ご褒美としてとびきり旨い店を紹介しよう。」
「「いただきます!」」
二人を連れて、昼飯に向かう。
行くのはもちろんイシザキ亭だ。
今日はショウコが頑張った日、そして同好の士が見つかった記念日だ。
少しくらいの贅沢は許されるだろう。
この後、体格からは予想できないほどに食べるオスズに、財布の紐を緩くしたことを後悔する俺であった。