昼食を食べにイシザキ亭に来た俺とオスズとショウコ。
控えめに言って、オスズは大食いであった。
イシザキ亭で出るメニューは結構なボリュームがある。俺でも一食で腹が膨れるぐらいだ。
さらに言えば、アイルーは小さい。
ショウコは半分で「おなかいっぱいや〜。」と言っていた。
じゃあオスズはというと。
……20皿は平らげた。
……………………嘘だろ………………。
「こことってもおいしいですにゃ!いくらでも入りますにゃ!」
「まだ食べるのか!?」
「ハッ!そういえばソウジさんのおごりでしたにゃ~……腹八分目ぐらいで遠慮しておきますにゃ……。」
「お、おぅ……。」
八分目!?
奢ると見得を張った手前、何も言えない。
「やー、オスズさん、よう食べるんです。」
「……そりゃおごるって言ったら喜ぶよ……。」
この体のどこに入っているのか。
オスズは、アイルーの中でも小さいほうだと思うのだが。
……まぁ前世でも、大食いの人って痩せている人が多かったような気がする。
「いやぁ、こんなに食べる子なんて分からなかったよ。またすごい子連れてきたねぇ、ソウジさんは。」
時間が空いたのか、ケイさんがこっちに来てくれた。
今日は、体にフィットするタイプのセーターを着ている。
まぁもう主張が凄い。
何の主張かはご想像にお任せする。
まだエプロンをしているからマシかもしれないが、俺が〇貞なら殺されているところであった。
「忙しい時間にすみません、ケイさん。」
「何言ってるの!こっちは作るもん作って、もらえるもんもらえれば幸せなんだよ!」
「ははははは。」
「はい、というわけで、で・ん・ぴょ・う。」
「ははははは……。」
妙に色っぽい言い方で、俺に伝票を渡してくるケイさん。
見たらいつもより桁が一つ違う。
どんだけ食べたらこんな値段になるんだ……。
ちなみに、イシザキ亭に伝票システムを導入したのは、実は俺である。
マショルク教官の、イシザキ亭改革案の一つ。
ホールにキッチンに忙しいケイさんを少しでも手伝えればと思ったが、役に立っているようでよかったよかった。
アイデア提供料として、ちょっとまけてくれないかなー。なんて。
「ソウジさん。きっちり、もらうからね!」
「うぅぅ……稼いだお金が……。」
「こんな小っちゃくてかわい子たちとご飯食べられて、幸せじゃないのかい?ほら、男ならドンと胸を張って!お支払い!」
「はい……。」
「それに、今度来た時にちょっとサービスするからさ!」
ドンと胸を張って支払う俺。
ドカンと胸を揺らしてサービスを公言してくれるケイさん。
……よし、元気がでたぞー!
これぞキャバクラ効果。おっさんは単純なのだ。
「そういえばそうそう。最近、お陰様でお店はとても順調なんだけど……そろそろ、ホールかキッチンに一人、店員を雇おうかなと思ってるのさ。」
「すごい人ですもんね。むしろよく二人で回ってきたもんですよ。」
「それでね、ソウジさん!」
「……まさか……?」
「……なんかいい伝手、なあい?」
そうくるかー!
人手は必要かなって思ってたけど、うーん、思いつかない。
「キッチンとホール、どちらが欲しいんですか?」
「そうねえ……兄貴はキッチン専門、私はどっちも掛け持ちできるし……ホールがいるといいね!経験は問わないからさ。」
うん。それならすぐ見つかりそうだよな。
「経験不問、オシャレな隠れ家レストランでウェイター・ウェイトレスをやってみませんか?」みたいな見出しをつけて募集すれば、すぐ来るだろう。
ちなみに信用ならないのは「アットホームな」「みんなとても仲のいい」「切磋琢磨」この辺だな。
様々なバイトをしたことはあるが、この辺の誘い文句は地雷が多い印象。
なおこれは俺の完全な主観である。
本当にアットホームな職場が実直にアットホームと書いた、そんなパターンがあるかもしれないし。
話が逸れた。
「分かりました、心当たりを当たってみます。」
「あら、助かるよ〜。知人からの紹介だったら、うちもそっちも、安心できるからね!」
なるほど。
その辺は打算的なケイさんである。
どんな人がいいかな、などと考えていると、目の前の二人が目に入る。
……アイルーなんてどうだ?
もしや飲食店は厳しいのかもしれない。
毛とか……色々?
「アイルーなんてどうです?」
「えぇ!?それは、アリなのかい!?」
「アイルーなら人気もありますし、目の前のこの大食いアイルーは、アイルー集落の取りまとめ役のオスズさんです。聞いてみてもいいかもしれませんよ。」
「よっし。あー……ねえねぇ、そこなアイルーさん!」
「はにゃ!?な、なにか御用ですかにゃ、お胸の大きなお姉さん?」
そこなアイルーって、どんな呼び方だよ。
そしてオスズの失礼な返事。これ天然でやってるんだよな、恐ろしい。
……間違っては無いがな!
そこから二人の雇用に関する話が進んでいった。
「にゃあ、ちょいと込み入った話になりそうだからソウジさんたちは、先にお帰りくださいなのにゃ。」
「そうか?まぁ俺らがいても話は進まないしな。」
ケイさんにごちそうさまを伝えた後、二人と別れた。
次回行く頃には、アイルーの店員が増えているのだろうか?
正直楽しみである。
「ご主人様、ごちそうさまでした……ウチももっと大きくならなアカン……!」
ショウコは何を言っているんだ。
気にせず宿に戻ることにした。
* * * * * *
俺達は今日の反省会を行うため、部屋に戻った。
部屋に着いて、荷物を整理してお茶を入れて人心地。
ちなみにショウコの持ち物や装備は、俺が管理できるようになっている。
というか問答無用で、ギフトがそういう仕様になってしまっている。
これは何故なんだろう。
とにかく、持ち物を勝手に見ることができてしまうので、プライベートな物は自分で管理するように伝えたのだが、
「ご主人さまに隠し事なんて、ありません!」
「でも、俺にパンツとか管理されるんだぞ。嫌だろ。」
「うぇぇ!?………で、でもまぁご主人さまなら………いやいやいや!嫌、かもです!」
と、こんなやり取りがあった。
……そこは迷うところではないと思うのだが。
というわけで、クエストに関連するものを俺のギフトで管理することに。
特に、俺のポーチには装備を綺麗にする効果もあるので、ショウコはそれをいたく喜んでくれた。
結構年季が入っていたしな。
「じゃあ今日の振り返りと次回に向けた話をしておこう。」
「はい!ご主人さま!」
「よし、ショウコ。俺たちの今の大きな目標は何か分かるか?」
「え、えーと。何でしょう?」
「……そういえば言ってなかった。」
ショウコに、女神様やら何やらの話をしていなかった。
前説明したのは、俺がギフトを持っているということと、〈武器操作〉によってレベルの高い攻撃ができるようになるということぐらいだ。
「ショウコ、俺の目標は、この世界で人生を謳歌する事なんだ。」
「人生を、謳歌、ですか?」
「あぁ、俺は前世で下から2番目ぐらいに不幸な死に方……消え方をしたんだよ。だから、この人生は2回目のチャンスなんだ。ここで、一生懸命に生きてみたい。」
「……。」
「ただ、俺の色々な力をくれた女神様が、モンスターを倒したりとかいろいろなことをして欲しいみたいでな。俺もそういうのは嫌いじゃないから、ハンターを頑張ろうと思ったわけだ。」
「ご主人さまは神様と繋がってはった!?」
「まあ完全に一方通行だけどな。」
「……そうなんや……。ウチ、てっきりご主人さまお金に困って仕方なく、なんて思ってました。」
「まぁ、それも間違ってない。お金を集めたいとか強くなりたいとか色々あるんだけどね……特に金は欲しい。とにかく一番でかい目標は、ハンターとして、この人生を満喫することだ。だがそのためには、普通ではダメだろ?鍛えて、経験を重ねて、稼いで、強くならなきゃならない。」
ショウコに話してみて、改めて意識する。
俺のこの人生の意味、目標を。
正直、色々なモンスターと戦ってみたいとも思っている。
転生直後の頃は、あんな平穏な毎日を望んでいたのにな。
努力して、モンスターを倒した時の達成感が凄まじかったのだ。
「なので、次のクエストは少し難易度を上げたい。どんどん追い込んで、自分の限界がわかれば、達成できる目標もわかりやすいしな。」
「その、無茶はせんと、ですよね?」
「それは大前提だな。難しいけど、追い込む事と無茶は違うと考えてくれ。」
「はいっ!」
部屋での打ち合わせは、夕飯時まで続いた。
明日から、たくさんのクエストを受けていこうと思う。
大型モンスターにも挑むことになるが……限界が見えたらまた特訓しよう。
教官の扱きに耐えられたんだし、多分どんな特訓でも耐えられる気がする。
ひとまずは今日も、憑依状態の自分を目指して、がんばるか。
今ひとつ、剣に力が入っていないんだよな。
スピードにも全然乗り切れてない。ひたすらに反復して、探っていくしかないな。
短期目標が決まった。
あとは、コツコツとやるだけ。
そういうのは、大得意だ。