前回の続きになっています。
コンコン。
ギルドマスターの部屋に来ました。
ギルドマスターであるシガイアさんは、このギルドで一番偉い方です。
上司です、上司。
ただまぁ、5年目の私が気軽に相談できるくらいには、低姿勢な方です。
でも、見た目に騙されちゃいけません。とても仕事ができる方なんです。
噂では、首都を含めたあらゆる地域でのギルドマスターを歴任してきた、とてもすごい方だとか。
このワサドラ村が急速に発展しているのも、この方の手腕があってこそ、なんて言われてます。
噂では、本気を出すときはメガネを外すと聞いてます。
その時はめっちゃ怖いそうです……怒ったところなんて、見たことありませんけどね。
「はいはい、どうぞー。」
「失礼します。」
気の抜けた返事を聞き、部屋に入ります。
「はいはい。おはようございますハイビスさん。どうされました?」
「おはようございます、ギルドマスター。一つ報告に参りました。」
今日も今日とて、黒縁の眼鏡が似合ってらっしゃいます。
白いYシャツと無精ひげで、年上の男性って感じがしますね。
「報告ですか?書面で頂ければ確認はしますが?」
「いえ、ソウジさん……一昨日報告に参りました、例の見習いハンターの件です。」
「あーあー、はいはい。あの方ですね。確か異例のハンター試験を受けている。」
「はい。」
「マショルクも認めているから、私からも許可せざるを得なかったしなぁ……。もしかして、クエストリタイアして帰ってきましたか?」
マショルクさんを呼び捨てなんですよね、ギルマス。
どういったご関係なのか……。気になりますが、報告が先です。
「いえ、その逆です。」
「……というと?」
「岩竜バサルモスをソロで討伐。狩猟時間約4時間半。昨日の夕方には村に戻り、クエストクリア報告を受けています。」
「…………ほー。それはまた……すごいなぁ!」
「はい、私も先程聞いて驚いてます。」
「…………資料はお持ちですか?」
私は手に持っていた、観測班の報告書を渡しました。
「確認しますね。あ、ハイビスさん。座ってお待ち下さい。お茶はいりますか?」
「い、いえいえ、大丈夫です。」
「そうですか、残念。いい茶葉が入ったんですよ。……では少しお待ち下さいね。」
ギルマスのお部屋のお茶って美味しいんですよね……ご来客も多いし、それはもちろんそうなんですが。
ギルマスの目は、書類に釘付け。
3分ほどで、確認を終えられました。
「……うーん、いやはや。なんとも素晴らしいですね。」
「はい。」
「この報告を額面通りに受け取るなら、HR3へ認定してもおかしくはないです。バサルモスをこれだけ短時間で狩猟できるなど、上級ハンターでもなかなか難しいでしょう。」
「はい……そうなんですが……。」
「……ですが、このソウジさん。あの方ですよね。以前ハイビスさんから報告を受けた、あの。」
「はい、その方です。」
実は以前から、何度かソウジさん関連でギルマスに報告をしております。
様々な定期報告の際に、思い切って相談したんです。
何か、違和感が拭えない新人がいると。
言動そのものから推測しても、間違いなく一般人かそれ以下の知識しか無いようです。
なのにバサルモス撃退のスコアを持っていて、出自は一切不明。
毎日毎日観察は続けていますが、すごく成長が早い期待の新人、としかわかりません。
「そりゃ手に負えなくて相談しますよ……。」
……!
いけない!
思わず声に出ちゃいました!
「……ははははは!ハイビスさんからそのような言葉が聞けるとは、なかなかの新人さんですね。」
「し、失礼いたしました。」
やっちゃいました。
ギルマスと話すときは、どうしてもこんな感じで砕けてしまいますね……。
上司と部下ですから、その辺ちゃんとしなきゃいけないんですが。
愉快そうに笑いながら、ギルマスは背後にある大量のファイルのうちの一つを取り出しました。
付箋を貼っているページを開き、眼鏡をかけ直しながら話を続けます。
「……いえいえ、部下のそのような本音が聞けて嬉し限りいですよ。……彼は、世間やハンターの事情にはとても疎い。そしてハンターとしての実力もまだまだだが、最近の力のつけようは目を見張るものがある。……この報告ですよね?」
「は、はいそれです。」
大量の文書から、一発でその報告書を見つけ出すとは。
流石ですね、シガイアさん。
「……そうですね……。ではこれから、彼と話してみましょう。」
「えっ。」
「いえいえ、ハンター試験合格のお祝いも兼ねて、彼とお話ししましょう。どの道、飛び級昇格を認めるためには、ギルド重役との面接は避けられません。たまたま私は午前中空いていますしね。」
「あ、ああ。そういうことですね。承知しました。」
「えぇ、他意は無いです。」
「……。」
「……。」
「ギルドマスター、何か企んでいませんか?」
「……いやいや、期待の新人が現れて、喜ばしいなあ、と。」
このギルマス、意外とタヌキさんなんですよね……。
以前も体よくマショルクさんを押し付けられましたし……。
「ギルドマスター?私、マショルクさんの担当になった覚えはないのに、なぜか担当のようになっているんですが。」
「そうですね、ありがたい限りです。」
「……。」
「……。」
あくまでしらを切るつもりですね!
いいですよ!たかだか5年目の若手は、上司にいいように使われるんです!
ふん!
「……それにですね。」
「……はい?」
「出自も不明。実力もよくわからない。そんな人物を放っておいていいと思いますか?」
「いえ、……得策ではないかと思います。」
「はい。嫌な予感がします。なので、私が見極めましょう。一応、それなりの手を打っておきます。」
「は、はぁ。」
ギルマスの目が一瞬本気になったような……?
「ははは、ハイビスさんはとりあえず、彼をこの部屋に呼んでもらえますか?」
「わかりました!」
「あとは私に任せてください。とりあえず呼ぶだけで大丈夫ですので。」
「はい!」
部屋を後にします。とりあえずギルドの受付に戻りましょう。
もしかしたらソウジさんがいるかもしれませんしね。
いなかったら……泊まられている宿に行ってみましょうか。
確か「ホエール」に泊まっていると言ってました。
ドールちゃん、元気かな?最近ご挨拶に行けてないから、心配です。
ミヤコさんも、最近帰ってないみたいですし……。
ホエールさんと二人、寂しくしてないかな……。
今度ちょっと顔を出してみましょうね。
* * * * * *
…………やられました!!
何がって、ギルマスにやられました!!
面接の際一緒にいろと言われた時点で、多少嫌な予感
はしたんですが!!
結局私まで責任を取らされる形じゃないですか!
怒りが湧いてきました!
やっぱりタヌキオヤジはタヌキオヤジでした…………。
何が「私に任せてください!」ですか!!
まぁギルマスも何かあったら責任を取る形なんですけどね!
何て怒りの気持ちもあるんですが。
ソウジさんの秘密を知ったら、冷水をかけられたように、それどころではなくなりました……。
ソウジさん。
実力を隠すどころか、とんでもない能力の持ち主さんでした。
ギルドでソウジさんを見つけた私は、無事にギルドマスターの部屋まで連れ出すことに成功。
そこまでは良かったんです。
そしたらタヌキオヤジが、
「ハイビスさん、話がスムーズになりますので、同席していただいてもいいですか?業務の方は、彼女がいますよね。」
ですって。
いやいやいやいや!
今思えば巻き込む気満々じゃないですか!
そして蓋を開けてみたら、ソウジさんの魔法かと思うようなネタの数々!!
あ、これ知ったらいけないやつだって思いましたよ!
アイテムの収納。情報画面。
特に寒気がしたのが、武器操作?っていうものです。
あの、あのからくり蛙が、壊れました。
それはもう、ボンって。
私初めて見ましたよ?
あの蛙さんとっても丈夫なんですからね!
破壊しようと思っても普通できませんから!
それを、普通の双剣で叩き割ったんですよ!
これには、流石のギルマスも絶句。
そして、興奮した子どものようになりました。
うーん。
彼の能力の数々、首都のギルドの猛者達にバレたらとんでもないことになるのでは…………?
考えただけで震えます。
ギルマスはソウジさんと悪用しないことを確認していました。
でも、ソウジさん。
悪用とか絶対にしないと思います。
これは、受付嬢の勘というより、女の勘ってやつですね。
自分の力じゃない、授かった力でセコセコするような殿方って…………なんか女的に嫌ですよね。
その辺、きちんと見極めてらっしゃるソウジさんは、改めてかっこいいなって思いましたよ。
……なんか最近、彼のことをかっこいいかっこいい言い過ぎですね…………。
自重自重。
そして私は、ソウジさんの専属担当になることになりました。
当然ですよね……事情を知る受付嬢って、私しかいませんし…………。
はぁ、体よく巻き込まれてしまいました。
まぁでも、少しはいい気分です。
なんか秘密の共有って、憧れません?
私は憧れます。
と言うわけで、ソウジさん。
これから一蓮托生、頑張ってまいりましょう。
……私を路頭に迷わせないでくださいね!!
ひとまずは、簡単なクエストをどんどん突破してもらって、経験を積んでもらいましょう。
ソロでバサルモスを討伐できるんです。下位のクエストなら、ほぼ問題ないんじゃないでしょうか。
そして、私、ついに新人担当から外れました!
晴れて普通の受付嬢担当ですよ!念願の!
なーんて、前なら喜んでいたんでしょうが……何でしょう。
ここに来て、イケメンハンターさんの出会いを求めて、焦らなくてもいいかなーって気にもなってます。
つい少し前までは、何としてもイケメンハンターさんゲットして寿退社するぞー!って気になってましたのに。
ソウジさんのせいですね……。
あの方、どんどんカッコよくなってきてるんですもん。
ちょっとだけ惹かれている自分がおります……。
だ、だめですよ!
とりあえずは、彼が無茶だけはしないように、見守ってまいりましょう!
だって私、彼の専属受付嬢ですから!