宿「ホエール」での夜。
何時ものように訓練を終え、風呂に行き、就寝しようという時間。
明日は、水獣と呼ばれるロアルドロスの狩猟の日である。
ロアルドロスの情報を改めて見てみた。
【モンスター名】ロアルドロス
【種族】海竜種
【別名】水獣
【詳細】
水の豊富な地に生息する大型モンスター。海水でも淡水でも問題なく活動できるが、水が無いところでの生息はあまり確認されていない。数頭程の雌のルドロスを従えたハーレムを形成し、群れの長として君臨する。頭部の周りにある海綿状の黄色い鬣が特徴で、網目状の構造をしているそれに水分を大量に蓄えることができる。そのため、陸上でもある程度活動することが可能となっている。この水を用いたブレス攻撃は強烈であり……
うーん。やはりすごいな、情報画面。
何故この画面が見られるのか。
実は今日、毒テングダケの採取クエストに行ったとき、偶然水場にいたのを見つけたのだ。
ただ見ただけで情報画面に情報入るかなー、なんて思っていたら、入った。
何たる力、ありがたい限りだ。
ロアルドロスはハーレム野郎だった。
さすがモンスター。人間とはやることが違う。
そのロアルドロス、周囲に10体は雌のルドロスがいた。
しかもマップのロアルドロスの数を数えると、そのエリアだけで5体もいたし。須く8〜10体は、メスを侍らせている模様。
10人近く女の子侍らすとか、すごいよロアルさん。
…………ちょっと頭にくるので、このハーレム野郎達は集中してボコボコにしたいと思う。
でもこれで準備が立てやすくなった。
巨体を生かしたのしかかりや水のブレスなど、立ち回りについて予習ができる。
また、水やられを引き起こすこともあるようで、ウチケシの実も必要になる。
そうした予備知識も助かる。
そこで、今日は採取も終わって村に帰ると、すぐに雑貨屋に行って道具類を整えたのだった。
中々に忙しい毎日を送っているなぁと、自分でも思う。
朝はランニング。
その後クエストの受注。
順調に行けば、その日の夕方には帰り、風呂、飯、翌日の準備、特訓、就寝。
超絶ブラックな職場環境だと思うが、ショウコも楽しそうだ。
ハイビスさんに「働きすぎです!」と毎度のことのように注意されてしまう。
確かになぁ。
それに俺が働けば働くほど、ハイビスさんの負担も増えるんだよな。
なので、専属担当のハイビスさんとは別に、ギフトのことはもちろん内緒で、受付できる人を一人増やしてもらうことにした。
このままではハイビスさんに申し訳ないし。
ちなみに、新しい受付嬢はヒナタさんだった。
同志である彼女なら、ギフトのこともある程度話をしても良いのではと思ったが、
「私のように巻き込まないでくださいね!ソウジさんの専属は……わ、私なんですからね!」
とハイビスさんに止められた。
そんなに強調するとは、シガイアさんに何か言われたのでは?と勘ぐってしまう。
あの人、ちょっと油断ならないんだよなぁ……。
それに、確かに働きすぎかなと思うので、3回のクエストに1回の頻度で休むことにした。
ショウコは「ウチは平気ですよ!むしろご主人さまと一緒にいさせてください!」と言うので、休みの間も宿に寝泊まりすることを許可することに。
最近はドールと一緒に寝ることも多い。
仲良きことは素晴らしき哉。
……ただどっちが起こすとかどっちが先に撫でてもらうとか、そんなくだらないことで争うのはやめてほしい。
それを止めようともしないホエールさんもなんとかしてほしい。
ショウコとは四六時中一緒にいるので、村中の人が俺たちをワンセットとして扱ってくる。
俺一人の時などは、「あれ?ショウコちゃんは?」「ショウコちゃんはいないのか……。」「ショウコちゃんはぁはぁ。」などとのたまう輩もいる。
最後の奴は軽くぶん殴っておいた。
ショウコは俺が守る。
しかし、確かに忙しい。
何せ、自分の成長が楽しいのだ。
おっさんの頃には到底無理だったことが、今はできる。
失敗も多いが、それがとても嬉しいし楽しいのだ。
成長は、剣技だけではない。
もちろんその成長も楽しいが、ハンターとしての仕事の成長も味わえている。
充実しているな、と思う。
油断はしないが。
明日のロアルドロス討伐の後は、ルーティン的に、休みを取るつもりだ。
と言っても、セツヒトさんのところに行く予定ではあるのだが。
……うーん、ワーカホリック気味だな。
流石に心はおっさんなので、こういう客観的な視点もそれなりに鍛えられている。
たまにはのんびり過ごすのもありかも知れない。
そんなことを考えながら、今日も安らかに眠りにつくのだった。
* * * * * *
「……ジさん、ソウジさん。」
「んー……。」
誰かの声がする。
あぁそうだ。もう朝か。
最近は疲れていて、眠りが深い。
聞こえる声は、多分ドール。
最近、ショウコとどっちが起こすかで勝負しているんだよなぁ。
今日はドールがジャンケンに勝ったのか。
まだ眠いが……うん。起きよう。うまい朝食が待っている。
「ソウジさん、起きて。」
「はいはい……起きますよー。」
体を起こす。
目の前を確認する。
何だかドール、大きくなったな。
「おはようドール。……今日はじゃんけんに勝ったのか?」
「じゃんけん……そ、そうそう。私、ドールよー。」
「そうか…………んん?」
ドール……ドールさん!?
何だか大きく…………なりすぎじゃない!?
ていうか……。
「ど、どなたですか?」
「あらー、もう気づいちゃった?まぁ流石にわかるか。おはよー、ソウジくん。」
「は、はぁ。」
目の前にいる人は……誰でしょう。
何だかドールっぽい、でも違うような……。
頭が冴えてきた。
この人……もしかして…………。
「ど、ドールのお姉さんですか!?」
「あら、テンプレみたいに間違えてくれて、私嬉しい!」
「て、テンプレ?」
「でも、ハズレ。まぁひとまず、起きたらどう?」
言われたとおりに起き上がる。
身長は俺と同じくらい。
顔がドールとかなり似ているなぁ……。口の右下にホクロがあるから、おそらく別人だが。
「えっと……。」
「まずは、おはようございます。そして、はじめまして。ドールの母です!」
「あぁ、ドールの!通りで似ていると!」
「そうなのよね、いつも姉妹に間違われるなんて……私の若さはやはり永遠ね……。」
「…………。」
「…………。」
「…………ええええええぇぇぇぇ!!!???」
一気に目が覚めた。
おいおいおい。
おいおいおいおい。
ちょっと待て。
この、目の前にいる、ドールと瓜二つだが全く違う……主に胸の辺りの大きさが違う、この女性は……。
「お、お母さん!?」
「あらあら、もう私をお義母さんだなんて……。ドールも中々隅に置けないわねぇ。」
「ちがうわっ!あ、違いますよ!」
やばい、話が進まん。
頭が絶賛混乱中。
「は、初めまして。この宿でお世話になっております、新人ハンターのソウジと申します!」
「とても礼儀正しいわ!百点!」
「何の点数ですか!」
「いいツッコミね〜、これは逸材だわっ!」
いかん!
ここに来てマショルク教官に鍛えられたツッコミ力が遺憾なく発揮されている!?
「……あ、あの。何故俺の部屋に―――」
ドタドタドタドタ!
ガチャッ!!
「ちょっ、ちょっとお母さん!」
「あらー、ドール。おはよう!」
「何勝手にお客さんのお部屋に入っているの!?絶対ダメって、約束したでしょ!?」
「少しくらいいいじゃないの〜。だってあれだけ手紙でおノロケ連発していた『ソウジさん』って人に、ご挨拶したくて〜。」
「ちょっ、それは言わないやくそ―――」
「まあ、なるほどなるほどねぇ。雰囲気は真逆だけど……いい男っぷりはあの人にソックリね!ドールがすk―――」
「お母さぁん!!!」
ドールがすごい音を鳴らして部屋に入ってきたと思ったら、すごい剣幕で怒っている。
グッと母親の腕を掴んで、ドアまで引き込むドール。
そんな大声出せるのか、ドール。
「今なんかお母さん言いかけてましたけど。」
「そうなのよ、この子ったらね、いつもやり取りする手紙で、もうゲシュタルト崩壊するぐらいソウジさ―――」
「お、お母さん!下に行くよ!付いてきて!」
「えっ、でもまだ―――」
「き・な・さ・い!」
「ああん!」
腕を引っ張るドール。引かれていくお母様。
…………いや若いな!お姉さんでもおかしくないわ!
あれ?ドールのお母さんって、何している人?
ていうか、うーん……いたのね。
…………とりあえず着替えて飯食おう飯!
寝間着から服にギフトでチェンジして……。
あれ?何か忘れているような……。
「あれ?ショウコは?」
そうだ、ショウコがいない。どっか行ってるのか?
と思っていたら、ドアをノックもせずに入るアイルーが一人。
ショウコだ。
「ご主人さまー。今日はジャンケンしてませんが、やはりオトモである私が起こしに参りましたよ!……って着替え中!?失礼しましたご主人さま!…………起きるの早ないですか!?」
「ついさっき、強烈に起こされた。」
「ま、まさかドールちゃんに!?むぅぅ……さすが、あの娘は油断できひんわ……。次は負けへん!」
「いや、違うぞ。」
「ほへ?」
間抜けな顔をするドール。
さっきの俺を見ているかのようである。
「起こしに来たのは、ドールのお母さんだ。」
「…………へっ!?」
うん。そうなるよな。
そこからショウコに説明するのに、少し時間がかかった。
いや、説明も何も、俺もよくわからんのだが。
……まぁいいや!とりあえず朝ごはん食べよう!
気を取り直した俺は、食堂に向かうのだった。