モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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52防具を強化しましょう。

日も昇ってきた。

イシザキ亭で昼を済ませ、ショウコとは一旦解散した。

久々に集落に顔を出すらしい。

 

 

ロアルドロスの討伐に向けた準備は昨日済んでいる。

そのため、今やることは特に無いと言っていい。

 

トレーニングに勤しんでもいいが、そこまでやる気も起きない。

 

 

「ミヤコさん、仕事になると性格変わるタイプだな……。」

 

 

先程までいたギルドマスターの部屋を思い出し、ポツリと漏らす。

 

仕事モード、とでも言うのか。

ミヤコさんの変わりっぷりが、凄かった。

 

シガイアさんも、その辺分かりやすかった。まぁあの人の場合、素がどっちがわからないんだけども。

 

だが、さっきのミヤコさんからの圧迫面接は、上手く切り抜けられた……と、自分では思っている。

 

……上手くいったよな……?

 

後で確認したい。

自己採点はアテにならん。

 

今度会ったら、シガイアさんにこっそり聞いてみよう。

 

 

さて、これからどうするか。

 

 

「あ、そうだ。」

 

 

誰が聞いてるわけでもないのに、独り言を発する。

いや、聞かれてたら恥ずかしいんだけども。

 

 

(セツヒトさんに武具関係見てもらうのもアリかもなぁ。)

 

 

いつでも来てねー、なんて言われてたし。

明日の狩猟に向けての準備にもなる。

休みにはなっていないけど。

 

 

(俺にはまだ、仕事モードの切り替えは難しそうだな……。)

 

 

デキる人達の仕事モードの切り替えを羨みながら、俺はセツヒトさんの店に足を向けた。

 

 

* * * * * *

 

 

「セツヒトさーん?入りますよー?」

 

 

店に到着した俺は、ドアを開けて中に入る。

アイテムポーチの中に入れていた大きな綿の袋に、装備品の数々を突っ込んでおいた。

ギフトの力を見られないようにしなければ。

 

大きな袋を抱えながら、受付に向かう。

 

 

「セツヒトさん、ソウジです。いますかー?」

「ふぁー……いるよー。ちょっと待ってねー。」 

 

 

大声で尋ねると、返事が聞こえた。

声がかすれてる。

 

………寝てたな。

 

 

「……お休み中なら日を改めますが……。」

「わーわー、待って待ってー。いーまーいーくー……よっと。」

「おわっ!!」

 

 

天井からセツヒトさんが落ちてきた。

繰り返す、天井から、セツヒトさんが、落ちてきた。

 

……いやいや、何してるのあんた。

 

 

「セツヒ―――」

「せっちゃんー。」

「……せっちゃんさん、仕事サボるのも程々にしたほうがいいですよ?」

「でもでもー。ここの店主は私だしー?私しかいないから、……自由?」

「いや、聞かれても。」

 

 

何回か来たことあるこの店。

武具はキレイに整備され、配置も美しい。

なのに店主は、こののんびりのほほんさん。

誰が想像つくだろうか。

そして、その店主が真上から降りてくるなんて、誰が想像つくだろうか。

 

セツヒトさんは、その長い銀髪を整えながら、話し始めた。

 

 

「やー、ソウジー。何日かぶりー。元気ー?」

「元気です。セツ……せっちゃんさんも、お元気そうで。」

「そりゃねー!新しく開発した昼寝部屋がねー!これがまたいいんだよねー!」

「昼寝部屋。」

 

 

見上げる。

上にはポッカリと空いた穴……2階に続いているのか……?

思わず覗いてしまう。

 

 

「お、何々ー?興味津々?」

「いやいや、違います。」

「お姉さんの寝床見てみたいとか……ソウジ、すけべー。」

「違いますって!きょ、今日は装備を見てもらいたくて来たんです!」

「おー?これー?」

 

 

俺のでかい袋をヒョイッと片手で持つと、中の装備を作業台に並べ始めるセツヒトさん。

この細い腕でどうして持ち上げられるのか……興味が尽きない。

 

いかんいかん、本題へ移ろう。

 

 

「明日、ロアルドロスを狩るんですが、装備自体の確認をしてもらったことって今まで無くて。」

「あー、なるへそー?」

「今日はたまたま空いてしまったので、見てもらおうかと。」

「ふんふん……めっちゃキレイだよねー、ソウジの装備って。あ、でも傷はっけーん。あと、ソウジの匂いもするね。気にならないぐらいだけど。」

 

 

そう言いながら、一つ一つ真剣な目で点検し始めたセツヒトさん。

匂い、するよな……。少し恥ずかしい。

 

……集中しているので、静かにしておこう。

 

今日もシルバーのロングヘアーが、白い襟付きのシャツによく似合っている。

スキニータイプのジーンズは、スタイルの良さを際立たせていた。

 

……こうして黙っていれば、男たちが放っておかないのでは、と思う。

 

 

20分後。

 

 

「おーまたせー。いやーキレイキレイ。あんまり言うことないっすわー。」

「あ、そうですか。それは良かった。」

 

 

まぁ、綺麗さには自信がある。

ポーチには、自動でキレイにしてくれる機能が備わっている。

ある程度、ではあるのだが。染み付いた匂いとか傷までは対処してくれないらしい。

セツヒトさんが続ける。

 

 

「ただねー……ちょっと耐性に不安が残るかなー。」

「耐性?」

 

 

あまり聞き慣れない言葉。

 

 

「そーそー。ロアルドロスでしょー?この装備、水耐性が低いのさー。んでー、ちょっち、不安かな。」

「……ダイミョウザザミの時も、そう言えばかなり痛かったような……。」

「あー、あの水アタック?うん、あれより痛いかもー。」

「マジですか……うーん……。」

 

 

困ったぞ。

ザザミの時は、「今から水出します!」って構えで分かりやすかった為、避けることも何とかなった。

しかしこのロアルドロス、首を振りながら水を乱れ打ちしてくると<情報画面>で確認している。

下手したら、1発や2発、食らってしまうかもしれない。

 

 

「んー、壊れるってことはないと思うんだけどねー。」

「……耐性を上げることって、可能なんですか?」

「できなくはないよー?でも、装備を変える方が、よっぽど建設的ー。」

「マジすか。」

 

 

正直言おう。

俺はこの装備を気に入っている。

まず、なんと言っても使いやすい。とにかく軽いし、素早さが命の双剣使いにとって、小回りがきかないのは致命傷だ。

それに、発動スキルも結構美味しい。

 

<見切り>

<精霊の加護>

<防御>

<砥石使用高速化>

 

この4つだ。

会心率を上げるスキルである<見切り>は、何というか、こう「ズバッ」としっかり敵に当てることができる確率が上がる……らしい。

<精霊の加護>と<防御>は、俺の防御力を上げてくれるし、たまに敵の攻撃が全く痛くないときがある。

<砥石使用高速化>は、そのまんま砥石の使い方が上手くなる。

 

……なぜこのようなスキルが発揮されるのか、原理は全くわからん。

この世界の理と言えばそれまでなんだが、不思議でしかない。

 

それらを踏まえ、イケるところまではこの装備でいきたかったのだが……ここいらで替え時がやってきたのかもしれない。

 

 

「……装備に愛着が湧くの、わかるよー?」

 

 

セツヒトさんが話しかけてきた。

 

 

「命を預けてきた、相棒だもんねー。……ソウジがこの一式を持ってきたときは、何の因果か、とか思っちゃったけど。」

「えっ?」

「んー、いやー、こっちの話。」

 

 

気になることを言ったぞ、セツヒトさん。

 

 

「……セツ、せっちゃんさんも、この装備使ってたんですか?」

「……おー?女の過去をほじくり返す気かー?ソウジ、よっぽど私の事が気になるみたいだねー。」

「……。」

「……あー、マジトーン?……んー。あんまり人に話したことはないんだけどさー。まー…………ソウジならいっかなー?」

 

 

セツヒトさんの過去が気にならないと言えば、嘘になる。

教官と何か因縁めいた関係らしいし、明らかにこの人は強い。

いつだか、シガイアさんが「『百手』セツヒト」と言っていた。

 

だから、正直、過去を聞いてみたいとは思っていた。

 

 

でも……。

 

 

「せっちゃんさん。」

「んー?」

「……俺も、実はとんでもない秘密を持ってます。おいそれと人には言えないレベルのやつです。」

「おー……うん。」

「セツヒトさんと対等な立場になりたい。セツヒトさんが過去を俺に教えてくれるのなら、俺だって言うべきだ。それがフェアってもんでしょう。」

「うん……。」

「そして、俺はまだそれを伝えるべき領域には達していない。」

 

 

セツヒトさんが言いにくいような、過去を聞くのなら。

俺だって、ギフトの事を打ち明けるべきだ。

 

そして俺は、まだそのことを色々打ち明けられるほど、強くはない。

 

 

「俺の秘密は、悪い奴らからすれば、喉から手が出るほどほしいようなやつです。」

「……。」

「だから、そんな奴らから、俺がみんなを守れるようになるまでは……。」

「……まではー?」

「……せっちゃんさんも、打ち明けないでください。いや、めっちゃに気になるんですけどね!教官とのこととか!何でそんなに強いのかとか!」

 

 

すっごい気になるけど!

もう俺の野次馬魂が燃えまくってますけど!

 

セツヒトさんとフェアでいたいと思うから。

 

打ち明けるときは、俺が強くなった時だ。

 

 

「……ふ、ふふー。」

「な、何ですか」

「……かっこいいじゃーん?ソウジー。」

「うわわっ!」

 

 

セツヒトさんが近づいてきたと思ったら、急に抱きついてきた。

繰り返す!抱きつかれた!

 

 

「えっ!?ええっ!?」

「うわー、ソウジー顔真っ赤っ赤ー。」

「いやいやいやいや!そりゃ赤くもなります!」

「んー、いやねー。かっこよかったのよー。」

「わ、分かりましたから!分かりましたから!離れて……力強っ!!あいたたただただだっ!!」

「んー、よしよし。」

 

 

ポンポン。

 

 

とんでもない力で抱きしめられて頭をポンポンされた。

 

……うん、俺女の子ならこの人に惚れている。

なんてたくましいの……。

 

……で、でもわたくし、男の子ですのよ!

 

 

 

セツヒトさんがようやく離れたのは、30秒ほどしてからだった。

心の中では名残惜しかったのだが、そうも言ってられない。

恥ずい。

 

 

「いやー。今のは効いたよー。キュンって感じー?」

「は、はぁ。」

「……私とフェアとか、そんなこと言うやつ、居なかったからねー。やっぱ、ソウジー。いいよー、キミ。」

 

 

うん、よく分からんが、良かったのかな。

 

 

「そしたらさー、その強くなるお手伝い、しよっかー。」

「へ?」

「この装備……ミヨシ村一式。確かに使い心地がいいんだよねー。わかるわかる。だから、装備強化しようかー。」

「装備強化?」

 

 

強化とな。

強くできるのか。

 

 

「うん。耐性を上げるんじゃなくて、防御の強さをそのまま上げるのさー。」

「な、なるほど……?」

「鎧玉っていうの使って、少し重くなるんだけどねー。」

「重く……。」

「そう。まぁソウジなら大丈夫……かな?」

 

 

不安だ。

でも強くなるというなら……。

 

 

「あと、装飾品も付けるといいよー。」

「装飾品?」

 

 

またよく分からん言葉が出てきた。

 

 

「そそ、ソウジの装備、装飾品3つ付けられそうだからー……耐水珠3つぐらい付けてみたらー?ロアルドロスなら有効かもー。」

「装飾品って、付けると何ができるんですか?」

「そらあれですよー。好きなスキル……モリモリできちゃう。」

「おぉ……。」

 

 

付ければパワーアップ的なやつか。

うーん…………やって欲しい。

 

 

「せっちゃんさん!」

「はいはいー?」

「是非お願いします!」

「まいどー。……でさー……アイテムとお金、あるー?」

 

 

……必要なんですね!

そりゃそうだよ!無料なわけがない!

 

 

「お金はまぁあります。アイテムは何が?」

「んーとねー……水光原珠と、ヨツミワドウの上皮が3つずつにー、鎧玉いっぱい、ってトコかなー。」

「…………。」

「お?ある感じ?」

 

 

アイテムの確認は、今すぐできる。

俺のギフトは、その辺の管理はめっちゃ楽だ。

 

だけど、ここでやるわけにはいかない。

セツヒトさんにはまだ打ち明けられてないしな。

 

そもそもモンスター素材はほぼ全てギルドに預けているし。

 

ちなみにヨツミワドウとは、バカでかいカエルのモンスターである。

ブニョブニョなのに力がめっぽう強く、何だかお相撲さんのようであった。

 

 

「……承知しました!確認してきますので、少々お待ち下さい!」

「おー。待つ待つー。いってらー。」

 

 

俺は、どっちが店の人かわからなくなる言葉を残し、アイテムを取りに行くため店を飛び出した。

 

 

* * * * * *

 

 

10分後。

 

 

「……た、ただ今戻りました!」

「お、早かったねー。んでー?モノはあったー?」

「ありませんでした……。」

 

 

無かったです。

ヨツミワドウの上皮なんて、一つも。

宿に戻って画面とにらめっこすること1時間。

見つからなかった。

 

あれ?おかしいな。俺ヨツミワドウ2、3回倒しているんだけど。

 

 

「……まーやっぱりないよねー。上皮とか水光原珠とか、上位個体由来のものばっかりだもんねー。」

「じょ、上位個体?」

「そそ。まだソウジって下位でしょー?上位になると、強いのが居るエリアにも入れるのさ。そこのヨツミワドウとか鉱石の採掘で見つかるのよー、そのアイテム。」

「……じゃあハナから無いじゃないですか……。」

「あははー、ゴメンゴメン。もしかしたらソウジならってねー。」

 

 

何だ、じゃあ装飾品は諦めるしかないのか。

上位に上がるまでお預けである。

 

けど、上鎧玉っていうのならけっこうあったぞ。

いろんなクエストを受けている時期に、鉱石を見つけては、ピッケルで掘っていたからな。

 

 

「でも、鎧玉?ってやつなら、これだけ。」

 

 

ドンッ。ジャラジャラジャラ。

 

 

テーブルに予め入れておいた麻袋を置き、鎧玉を見せる。

 

 

「おー!すごいすごい、じゅーぶんだよー。さすがソウジー、品質も文句なしだねー。」

「じゃ、じゃあ……。」

「んー、装飾品は、また後日。でも、装備強化はできるねー。」

「おーー!やったー!」

 

 

良かった、これで少しは防御が楽になるぞ!

 

 

「まーあんまり装備に頼るのも良くないんだけどさー。もうすぐ上位になるし、装備一式初期のままは辛いと思うよー?あとは……お金、足りるー?」

 

 

そう言って指を7本並べるセツヒトさん。

 

 

「7000zですか?それくらいならまあ。」

「んー、桁が違うー。」

「…………な、70000zですか!!??」

「そー。……ちょっち、キツイかなー?」

「……いえ、払えます。」

「わぉ。男前ー。」

 

 

この前の遺跡発見でもらったお金はまだ余っている。

命を預ける大事な防具だし、ここはケチるべきではない。

 

 

「70000z……です。」

「……うん、たしかにー。わーい、臨時収入だー。」

「どうか、よろしくおねがいします。」

「うん、最優先でやらしてもらうよー。明日の朝、宿に持っていくからねー。」

「えっ!?明日の朝で間に合うんですか!?」

 

 

セツヒトさんすごいな!

防具の全てに加工を施すって、かなり大変では!?

 

 

「まー、いけるよー。冗談じゃなくねー。……久々の大仕事だー。おまかせー。」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

正直、超助かる。

二、三日は、インナーでアイテム採取だけやろうかなと考えていた。

 

 

「じゃ、早速やるからー。ソウジー?期待して待っててねー?」

「は、はい!」

「出るときー、店の看板、裏返しておいてくれるー?」

「わかりました!」

 

 

てことはつまり、俺の防具を本気で最優先にしてやってくれるのだろう。

セツヒトさん、やっぱりあなたすごい人ですね。

 

 

「……ソウジー。わたし、ここまでやってあげるのって、初めてだからねー?」

「えっ、ええ。はい。本当にありがとうございます。」

「んー……伝わらないかなー?……まぁいいやー。」

「は、はぁ。」

 

 

な、なんだ?

……よく分からんが、頑張ってくれるってことだろう。

 

 

「……んふふー。んじゃ、ソウジ、また明日の朝ねー。」

「は、はい!よろしくおねがいします!失礼します。」

 

 

そう言って、俺は店を出た。

看板を裏返すのも忘れない。

 

看板には「おやすみなさーい」の文字。

つまりは、閉店の印。

 

 

装備の点検だけのつもりが、思わぬ装備の強化に繋がった。

明日からの狩猟が、少し楽しみになった。

 

 

明日の受け取り、期待しておこう。

 

 

……セツヒトさんが抱きついた記憶がまだ消えない。

多分、一生消えない気がする。

 

いい匂いがしたなぁ……。

 

 

…………変態か。

 

 

物悲しいおっさんの独白を心のなかでつぶやきながら、宿に帰った。

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