今日の狙いはロアルドロス。
クエストボードには、色々とモンスター狩猟の依頼が貼られている。
ボードには数種類ある。
まずは採取納品系。
〇〇が欲しい、〇〇を△△に納品してくれ、といった類のものだ。
商店に行っても手に入らないものや、モンスターの素材といった、ハンターにしか頼めない様なものが多い。
中には、よくわからないモンスターの素材の依頼もある。
【……龍ノ剛角、求ム】とか、何が何やらさっぱりだ。
依頼人の部分もかすれて読めないし。
白…レス……?何じゃこりゃ。
ずっと貼りっぱなしになっているのだろう、こういった黒ずんでホコリをかぶった依頼文書もある。
一体誰が受けるんだろう、と毎日気にはなっている。
続いてモンスターの撃退や討伐系。
緊急性の高いものはボードの目線に合わせて、それ以外のものはボードの高め低めに貼られている。
これ以上に緊急性の高いもの……例えば村が襲われたとか人命に関わるようなものは、緊急クエストとしてギルドから直接ハンターに声がかかることが多い。
俺は扱ったことは無いが、教官からそういったクエストもあるということを聞いた。
いつか俺も強くなったら、そういったクエストを受ける日が来るのだろうか。
そして、これらのクエストが、下位・上位に分かれて所狭しとボードに貼られているのである。
ちなみに、新人ハンターに紹介されるクエスト、ハンターを指名して直接依頼されるクエスト、ボードにも貼られない超高難度のクエストなど、ここに貼られていない例外も数多く存在する。
これも教官に聞いたことだが、ハンターギルド制度が始まってすぐは、こうした棲み分けが行われていなかったらしい。
せいぜい、簡単・普通・難しい、ぐらいで、自分の力を見誤ったハンターの死が絶えなかったのだとか。
そこでHR制度を設け、新人ハンター保護のために、簡単なクエストはギルドから直接紹介する、という風になったのだそうだ。
クエストにも紆余曲折あり。
教官から聞いて、興味深かった。
閑話休題。
今日はモンスターを限定しての狩猟である。
下位のボードとにらめっこしながら、ロアルドロスの文字を探す。
……。
……見つからない。
あれ?おかしいぞ?確か沼地には大量に発生しているはずなのだが……。
「ご主人さまー!見つけました!」
ショウコが教えてくれる。
「おぉ、よく見つけたな。こんな低い位置に……あれ?」
【ロアルドロス1頭の狩猟】と、依頼文書が貼ってある。
それはいい。問題は貼られているボードである。
ここって、上位クエストのボードじゃないか?
「……ショウコ、ダメだ。これは上位ハンター向けの依頼だ。」
「えっ、じゃあ無理なんですか?」
「あぁ……悔しいが仕方ない。俺はまだHR3だからな。」
「そんなぁ……そっちの下位のボードには、ロアルドロスは無かったですよ?」
「そうなんだよなぁ……。」
改めて上位のボードに貼られたそのクエストを見てみる。
【クエスト名】ハーレム野郎共に粛清を
【目的地】沼地
【時間】2日以内
【ターゲット】ロアルドロス一頭の狩猟
【報酬金】9350z
【依頼主】ワサドラ支部ギルド
【依頼文】
沼地に大量にロアルドロスが発生している。しかも大量のメスを連れてな!
そこの頭にきている男性ハンター諸君!今こそ粛清の時間だ!
立ち上がれ!男共!モテモテ野郎を駆逐してやるのだ!
何だこれ。
アホか。
……依頼主は……ギルドかよ。
ていうかこれ絶対シガイアさんだろ!
俺のハーレム野郎ムカつきますよね発言に、爆笑してたもんなぁ。
ショウコも呆れている。
「何ともアホな内容ですね……。」
「本当にな。」
「…………ご主人様、鏡って見たことあります?」
「ん?部屋にはあるが……何でだ?」
「いや、ええんです。失言でした。」
……?
ショウコが何を言いたいのかよくわからんが、しかし困った。
うーん、どうせ依頼はハイビスさんかヒナタさんを通すしか無いしなあ。
直接相談してみるか。
……ハイビスさん……もう怒ってないといいなぁ……。
* * * * * *
ハイビスさんを探すと、簡単に見つかった。
何故なら、俺がクエストボードを振り返ると、ギルド受付のはじの方から、今日も今日とて下手な隠れ方をしながらこちらを見ていたからだ。
ハイビスさんに駆け寄る。
「ハイビスさん、おはようございます。」
「わわわ!はい!おはようございます!」
急に見つけられて慌てふためくハイビスさん。
いや、バレバレですから……。
「ハイビスさん、昨晩は大変ご迷惑をお掛けしました。」
「え、いえいえ!とんでも無いです……むしろ、何と言いますか……。」
「えっ?」
「こちらこそ、すみませんでした。急にあんなに怒っちゃいまして。」
「いやいやいや!こっちも悪いんです。ヒナタさんがあんなになるまで放っておくなんて。失礼しました。」
「いえ、こちらもヒナタに事情を聞いたんです。そしたら、あの子が自分で率先してサウナまで誘っていたなんて……そんなにアグレッシブな姿見たことなくて、私てっきり……。」
押し黙るハイビスさん。
でもよかった、誤解は解けたみたいだ。
「ご主人さま……何か昨日やってしもうたんですか?」
「うーん、やってしもうたといえばやってしもうたというか何と言うか。」
ショウコ、頼むから掘り下げんでくれ。
「……でも、あんなこと、これっきりにしてくださいね。あの子、その辺の理解が足りないというか。自分が可愛いことを自覚してないというか……。その、ど、どうしても女性とサウナに行きたいのでしたら……。その、何と言いますか……。」
「は、はい……。」
「わ……きょ、今日はどのようなご依頼をお探しですか!?」
「へっ!?」
唐突にクエストの話!?
何だ、今日のハイビスさんは。よくわからんぞ。
「え、ええとですね。実は……。」
まぁいいや。話が早い。
俺は事情を話した。
ハーレム野郎云々の件は置いといて、ロアルドロスの狩猟をしたいが上位にしかそれらが残っていない事について。
すると、ハイビスさんが理由を教えてくれた。
「……あぁ、ロアルドロスの。そうなんです。実は、個体についての判別がまだできていない段階なんです。」
「判別?」
「ええ。詳しい調査がまだできていない、ということですね。」
「そうすると下位ハンターでは難しいんですか?」
「はい、無謀に挑戦するハンターが居ないように、あえてこちらで上位クエストとして一時的に区分してます。何せ、昨日ギルドマスターから直接依頼されたものですから。とは言っても、ロアルドロスなら、上位ハンターであればまず問題なく倒せる部類ですし。」
「なるほど……。」
「一応は個体強度の未確認事案ということですね。ままあるんです、こういうこと。」
勉強になった。
確かに下位ハンターが軽い気持ちでクエストを受けてしまい、まかり間違ってものすごく強い個体であった場合、大変なことになる。
そう行った事故を防ぐための、対策なのだろう。
「はぁ……。じゃあ諦めるしか無いですね。ショウコ、練り直しだ。」
「ん〜、悔しいけど、しょうがないですね、ご主人さま。気い取り直して、また探しましょう?クエスト。」
「そうだな。しかしどうするか。」
はぁ。
思わずため息が出る。
昨日から準備を重ねていたし、一日伸びちゃったしな。
また違うモンスターに照準絞って、計画を立てるしかないか。
「……ソウジさん。」
「あっ、はい。」
ハイビスさんから声がかかる。
「もしよろしければ、受けてみませんか?ロアルドロスの狩猟。」
「「えっ!?」
」
思わずショウコとハモる。
可能なのか、そんな事。
「このクエスト、HR4以上に相当しますが……ソウジさんはHR3での狩猟歴も十分。上位ハンター昇格試験の一貫として、受けてみるのはいかがでしょう。」
「そんなこと、可能なのですか?」
「今回は、そこまでこのロアルドロスに脅威を感じませんし、狩場も下位ハンターが入れる沼地です。個体数が多いことは気になりますが……。ソウジさんのアレを使えば、敵の数は把握できるのでは?」
「な、なるほど。」
確かにそうだ。
かなりの頻度で沼地には行っている。狩り場の情報だけなら、結構自信はある。
「ちなみに、ショウコちゃんは『例のこと』はご存知なんでしょうか……?」
「あぁ、はい。知ってますよ。流石に。伝えておかないとやっていけませんし。」
「そうですよね、良かったです。」
これで俺のギフトとかについて知っているのは4人になる。
マショルク教官、ハイビスさんにシガイアさん、そしてショウコ。
カミングアウトもそこそこに気をつけないと。周りの人に迷惑はかけたくない。
ハイビスさんが続ける。
「それに……昨日ヒナタがご迷惑おかけしたお詫びじゃないですけど、宜しければお礼させてください。」
「そんな、迷惑かけたのは俺です。」
「……ヒナタは、同郷のかわいい後輩なんです。仲間が欲しくて、寂しくしていたのかもしれないのに、気づいてあげられなくて……。よろしければ、またあの子とお話してあげて下さい。」
なんだ。
ヒナタさん、愛されているじゃないか。
ヒナタさんはハイビスさんに憧れているようだったが、一目置いている感じだった。
何というか、お互いを思うからこそのすれ違いが感じられる。
……うん、サウナとかじゃなくてもいいなら、力になりたい。
「…………はい。任せてください。」
「……ありがとうございます。で、でも!サウナ室で二人とかはダメですよ!その、は、ハレンチですから!」
「わ、分かりました!そこは気をつけます!」
うん、やっぱりこの世界の倫理観はわからん。
分からんが、人が人を思う気持ちは、前世と同じだ。
常識の範囲内で、ヒナタさんの趣味仲間として、力になりたい。
「ではクエストを受注いたします。クエスト名、『ハーレム野郎どもに粛清を』。こ、こちらでよろしいですか?」
「ぷっ……。」
思わず吹き出してしまった。
「……ソウジさん?これも一応受付嬢の決まりなんですから……。」
「す、すみません。つい。ぜひ、そのクエストでよろしくおねがいします。」
文句ならシガイアさんに言ってほしいです!
「はい、ご武運を。」
「ありがとうございます。お返しのお返しじゃないですけど……ヒナタさんとハイビスさんに有益な情報を一つ。」
「えっ?」
「今日の昼食か夕食、イシザキ亭に行ってみてください。可愛いものが見られるかもしれません。」
「……!?そ、それはどういう―――」
「おっと。ここからは言えませんけどね。」
「……ふふふ。分かりました。ヒナタに伝えておきますね。」
「よろしくおねがいします。」
こっちもちょっとだけいい情報をあげておこう。
持ちつ持たれつ?っていうのかこれ。
まぁいいや。
「では、行ってきますね。」
「はい、気をつけてくださいね。ショウコちゃんも、ソウジさんをよろしくね。」
「ウチにお任せください!」
マッスルポーズを構えるショウコ。
俺とハイビスさんは同時に吹き出し、ショウコが唇を尖らせるのであった。