いや違うかも……。
ガーグァ車に揺られながら進むことしばらく。
俺とショウコは沼地に到着した。
「それじゃ、今日も頑張ってな。ご武運を。」
御者のおじさんは、今日もナイスダンディに去っていった。
声が渋すぎる……。
「さてご主人様、ウチはアイテムボックスをチェックします!」
「あぁ、俺は装備の最終確認をする。」
いつもの様に分担し、作業にかかる。
俺は〈情報画面〉で、自分はおろかショウコの装備やアイテムの所持まで確認できる。
そのためキャンプ地点では、所持品と装備の最終確認を行うことが多い。
対してショウコは、逆に現場でしかわからない情報を集める。
実はこれはとても重要で、俺よりも五感が優れたショウコが適任だ。
気温、湿度、天気などの天候の情報や、モンスターの鳴き声、キャンプ地のアイテムの確認などをしてくれる。
これが本当にありがたい。
「アイルーが普通にやることですよ?」とショウコは言ってくれるが、人間にはできないことだからありがたいのだ。
この辺を分かっていないハンターが多すぎると俺は思う。
俺はマップでモンスターの居所を確認できるが、「鳴き声が何時の方角に何頭分聞こえる」なんて、人間には離れ業過ぎる。
アイルーの必要性が、クエストを経るたびによく分かってくる。
それに、もしハンターが窮地に陥った時は、素早さと体力に優れるオトモアイルーが緊急の伝達役となってくれるし。
命まで預けられる。ソロ専門になる俺にとっては、そのまんま命綱に等しい。
「ショウコ、こっちは確認OKだ。」
「はい。天候もほぼOKです。曇りですが風はほぼなし、おそらく崩れはしないかと思います。あと……一つ。」
「ん?どうした?」
「……いえ、気のせいやと思いますが……。ファンゴたち、今日はおとなしないですか?」
「そういえば……。」
ファンゴとは、人の子どもぐらいの図体をした、言ってしまえばイノシシである。
いつもは、一つ岩山の向こうでフゴフゴ言ってる声が聞こえる。
爆睡していることもあるので何とも言えないが。
一応マップで調べてみると、確かに周囲にファンゴたちはいなかった。
「んー、マップにはいないな。」
「珍しいこともあるもんですねえ。」
「まぁいても正直邪魔なだけだ。無視していこう。」
「はい!」
ファンゴは大型の狩猟中でもお構いなしに突っ込んでくることがあるため、大変邪魔だ。
いないならいないでありがたい。
と、このように、ショウコは不思議に思ったことをすぐに言ってくれるので、助かる。
「今日もよろしくな、ショウコ。」
「はい、お任せください!ご主人様!」
ニコっと笑って返すショウコ。
うん、いい笑顔だ。写真を撮れば、ヒナタさん辺りは全力で買う気がする。
ショウコは、クエストに気負い過ぎなくなってきたと思う。いい傾向だ。
自分がクエストに行くと不幸を撒き散らすのでは、とトラウマになってるショウコ。
まだクエスト後に挙動不審になることもあるが、徐々に慣れていって欲しいと思う。
悪い意味で「招き猫」なんていう奴がいたら、ぶん殴るつもりだ。
いい意味で、というなら最高なんだけどな。
厄介な呼び名である。
「ご主人様、以前ロアルドロスを見つけたとこまで行きます。」
「あぁ、打ち合わせ通りに。」
今日のプランの大筋はこうだ。
沼地の深部、池沼地帯に奴らのねぐらがある。
これは以前毒テングダケの採取の際にわかっていること。
慎重に近寄って確認。単体ならば襲撃、複数なら待つ。
襲撃は2人同時に。その後は臨機応変に。
こんな感じ。
……ぶっちゃけて言うと、初めての敵で、動きが良くわからないと言うのがある。
頼りの〈情報画面〉も、モンスターの攻撃方法や生態などにはめっぽう詳しいのだが、この沼地のどこに移動するとか、どこの場所を好むとか、そんなローカルな情報までは流石にカバーしていない。
仕方がないと諦めて、戦闘中は攻撃2:観察8に徹しよう。
教官の教えである。
* * * * * *
「うーん、参ったな。」
「あそこまで多いと、いっそ壮観ですねぇ……。」
ターゲットのポイント近くまでやってきた俺たちは、丘の上の茂みに隠れながら観察を始めた。
それはいいのだが……。
「あいつら、何で一緒にいるの!?縄張り争いとかしろよ!!」
「めっちゃ仲良いですねぇ……。争う気配ゼロや……。」
そうなのだ。
動物は基本、ナワバリ意識が高いもの。
生存本能的に考えれば、至極真っ当なことである。
なのに何だ、ここから見えるロアルドロス2頭は。
仲良く同じ滝の下で、メスのルドロスたちを侍らせ、水浴びをしているではないか。
「喧嘩とかしてくれないかなぁ……。」
「もしかしたら、奴らのセーフエリアなんちゃいますか?こう、水辺では動物たちも一時休戦やー、みたいな。」
「そんな馬鹿な。ならどうして……。」
俺たちが議論していると、ロアルドロスの周りを3〜4頭のルドロスたちが寄っていく。
そしてまぁ……何というか……。
「うわぁ……。」
「おぉぉ……。」
おっ始めてしまった。
「あ、あいつらアホなんちゃいます!?滝の下で普通します!?」
「いや、そういう生態なのかもしれないぞ。」
「同時に!?仲良く!?やる意味あります!?」
「……ないよなぁ……。」
お、すごい。ロアルドロスさん、取っ替え引っ替え次々と。
そんな、おお……。体格違うのに、ルドロスもよくもまぁ耐えるものだ……うわっ、オス同士がぶつかったぞ!
……争わんのかい!!そっち優先かい!!
「ご主人様……何かウチ、アホらしくなってきました……。」
「いや待て待て、もしかしたら俺たちは、ものすごく貴重な場面に遭遇しているのかもしれないぞ?あ、ほら見てみろ。さっきまで片方に擦り寄っていたメスが、今度はもう一頭の方と……。」
「ご主人さま。とりあえずどっか移動せんと、ウチもう見たくないです……。」
「……そうね。どっか行こう。」
実はおれもアホらしくなっていたので、一旦離れることにした。
ハーレム野郎は、とんだ性癖のス〇ッピング野郎でした!なんて。
ギルドになんて報告すりゃいいんだ。
* * * * * *
俺とショウコは、近くに敵影がない所に移動。
とりあえず携帯食料(今日はサンドイッチ)を頬張る。
ショウコは「ウチ、あんまり食欲ないです……。」と言っていたが、ドールお手製と伝えると態度が一変。
「ドールちゃんのなら、そらもう美味しくいただきます!」
元気になった。よかった。
……この戦い。もし勝てたらMVPはドールに決定である。
サンドイッチで戦況を変える勝利の女神、ドール様。
……ホント、今日は朝から色々あった。
……なんで俺、ばかって言われたのよ……。
ちくしょう、ヒナタさんとの銭湯騒動があってから色々ありすぎて……何だか無性に腹が立ってきた。
いや、ドールやヒナタさんに怒っている訳ではないのだ。
セツヒトさんには若干怒ってるけど!
俺のスキルの低さ、女性の扱いの下手くそ加減に怒っている、と言えばいいのか。
サウナで過ごす男女の関係とか、その辺を事前に知っていればあんなことにはならなかったし?
ハイビスさんにも怒られなかったし?
ドールのことを考えてヤキモキすることも無かっただろうし?
そう言えば朝の騒動もあれだ、俺が女性との話し方とかプロポーズの言葉とかその辺の常識を知っていれば、あんなことにはならなかったはずだ。
それにセツヒトさんにはからかわれ、抱きつかれてセクハラしたせいでドールは怒っちゃって……
余計に何か腹立ってきた。そんな場合じゃないのに!ていうか今はクエストの途中なのに!!
もうヒナタさんとかハイビスさんとかドールとかセツヒトさんとか…………!!
「ご、ご主人様?大丈夫ですか?」
いかんいかん!ショウコにまで心配をかけてしまっているではないか。
落ち着け、落ち着け俺。
今日の獲物、狩猟対象のことを考えろ!
えーっと、今日のモンスターは……
……ハーレムマスター、ロアルドロスさんである。
こっちは女性関係でゴタゴタゴタゴタ色々あって、やっとこさ今日ここに来たのに。
観察してみたら、当の本人?は2頭並んで仲良くス◯ッピングで酒池肉林なパラダイス。
さぞ女性の扱い方を心得ていらっしゃるんですなー!
…………。
よし。
よし、もうあいつら。
絶対に許さん。
「ショウコ。」
「フガフガ!!は、はい!!」
「ごめんな食べてる時に。だが、作戦変更だ。」
「へ?」
決めた。
あいつらまとめてぶっ飛ばす。
「…………
「……ご、ご主人様……?」
ここ最近のフラストレーションが爆発した俺は。
柄にもない強気発言で、ショウコを驚かせてしまうのだった。