自分でも無茶を言っているのはわかる。
今日初見のモンスターを2体狩猟しようというのである。
1頭でさえ危険なのに、2頭の狩猟。
「ご主人さま、流石に無茶ですって!……本気で言ってます……?」
「本気も本気だ。2頭を連続で狩る。連続狩猟だ。」
流石にショウコも驚いている。
そうだよなぁ。
だが、この案。
実は、俺の中で現実的に可能ではないかと思っていたのだ。
「ショウコ、何も無茶を言っているわけではないんだ。」
「……あのハーレムモンスターに対して、頭にきとるわけやないですよね?」
「大半はそれだ。」
「ご主人さま……。」
「でもな、残りはイケると踏んだからだぞ。作戦はこうだ。」
「本気ですね……はい、聞きます。」
ショウコは、オトモとして、今までに何度も大型の狩猟に行っている。
クエストの経験値というか、大型モンスターの狩猟については、俺よりも上。
こう言う時は必ず相談する。
「まず、分断は必要だ。当たり前だが、2頭を完全に同時に相手する訳ではない。」
「そらそうですね……そんなんしたら、ご主人さまもウチも命いくらあっても足りません。」
教官はしたことがあるらしい。リオ夫婦相手に完全同時で。
……まぁそれぐらいの化け物技量がなければ、難しいということだ。
「で、だ。こいつを使う。」
「けむり玉……ですか?確かに目くらまし程度にはなりますけど……結局どちらにも気づかれてしまいますよ?」
「そこなんだよ。どうもけむり玉の有効な使い方を、みんなよくわかっていないような気がする。ショウコ、けむり玉ってどんなアイテムだ?」
「え?そら……白い煙がモクモク立ち込めて……モンスターからはこっち、あまり見えなくなる?って感じです。」
「だよな。」
ショウコは別に間違ってはいない。
けむり玉は、煙が立ち込めて、辺り一帯が霧がかかったように白くなるアイテムだ。
目くらましにはもってこいで、俺がこの世界にやってきたあの日、小型モンスターから逃れるために何度か使用した。
「俺の<情報画面>にも、こう書いてあるだけだ。」
そう言って、俺は自分の情報画面をショウコに読み上げた。
【名前】けむり玉
【レア度】2
【現在の相場】180z
【説明】着弾地点から、広い範囲に煙を発散する玉。
「……普通ですねえ。」
「ああ。だがな、俺が命からがらこの街にやって来るとき、このけむり玉を使ったことがある。実はこのけむり玉、相手がこっちを意識していないタイミングで使えば、全く気づかれることはない。」
「……えっ?」
「本当なんだ。なぜか分からんが、モンスターから見つかっていないまま、辺りに霧のような煙がかかれば、気づかれないままやり過ごすことができるんだよ。」
小型モンスター相手に何度も使ってきたからわかる。
敵の視界に入らない、気づかれないところで使えば、このアイテム、かなり有用だ。
「えっ!?で、でもご主人さま。ウチが以前使った時は、めちゃくちゃ気づかれましたよ?」
「既にこちらが認識していたり、目の前にいたり、触れられたり、何かしらハンターの音を聞いたり……。モンスターが気付かない基準みたいな事は正直わからない。……別モンスターの咆哮には全く反応しないし、何なんだろうな。」
「……そういえば、前使った時はめちゃくちゃ足音立ててしもうて……それが本当やとしたら……。」
「……先にけむり玉を仕掛けておいて、音をなるべく立てずに忍び寄れば、2体を1体ずつに分断することも可能かもしれない。そしたら、あとは一匹ずつ倒す。」
多分できる。はず。
分断に失敗したら、その時はその時だ。逃げまくろう。
「……分かりました。もし効果が本物であいつらを分断できるなら、可能かもしれません。」
「ああ、手順を確認するぞ。」
こうして、ロアルドロス殲滅会議を15分ほど行った。
* * * * * *
「いました……まっすぐ前方、ロアルドロスです。やっぱり、少し離れて、2頭は近くにおります。」
「よし、マップどおりだな。じゃあ予定通りに行くぞ。」
「はい。」
俺のマップで確認もできたが、ショウコの目視も大切。
どうやら2体とも横たわってリラックスしている様子。
周囲のルドロスも同様だ。
しかしやはり、この二体おかしい……。
普通、野生の雄同士、お互いの縄張りを主張するものだと思うが。
張り合うって言葉もあるぐらいだし。
…………もしや兄弟なのか!?
アッチの意味でもコッチの意味でも兄弟なのか!?
「……ご主人さま。何か余計なこと、考えてます?」
「何を言う。そろそろ行くぞ。」
「不安や……。」
ショウコに俺の下ネタを見透かされながらも、狩猟を開始する。
「(あっち、多分こちらには気づいてません。)」
「(了解……けむり玉、出番だぞ……と。)」
俺とショウコは、ロアルドロスに気づかれないよう小声で話す。
けむり玉に着火、ロアルドロス2体の間に、転がすように投げ入れる。
すると、丁度いい位置に止まったけむり玉が、音も無くモクトクと煙を噴出する。
「(……よし。行くぞ。)」
「(はい……。)」
抜き足差し足忍び足。
ロアルドロス2頭とルドロスたちは、平然とのんびりしている。
けむり玉の煙が見えないのか?
ソロリソロリと一体の後ろに近づく。
狙うのは大きい方の個体だ。
こちらの体力がある内に、強そうな方をやってしまおうという作戦だ。
親指を上げて、ショウコに合図。
頷くショウコ。
(鬼人化……乱舞!)
ザシュザシュ!!ザザザザン!!!
「グアアアァァァ!!!」
乱舞をロアルドロスの頭に当てる。
凄まじいまでの咆哮。
思わず耳を塞ぐ。
だが。
「(やっ!)」
ショウコがいち早くロアルドロスの目に爪撃を当てる。
ショウコに音攻撃は効きにくい。
威力は無くとも急所を狙う攻撃。
気を引くには充分だ。
「グァっ!!!ガアァァァァア!!」
ロアルドロスが、ショウコ目掛けて前足を横に振るう。
「(はっ!)」
避けるショウコ。
回避が本当に巧みだ。
ロアルドロス(大)は、完全にこちらに臨戦態勢。
だが、もう一頭のロアルドロス(小)は、キョロキョロしていてこちらを認識していない。
あの大声聞こえないのかよ!!とツッコみたくなるが、とりあえず後回しだ。
「(いけるな!よしっ!そのまま行くぞ!パターン1!)」
「(はいっ!)」
小声ではショウコと連携が取りづらい。
なので、事前にハンドサインを決めておいた。
俺が「1」の指を立てれば、そのまま作戦の続行。パターン1。
ちなみに、両者に気づかれた場合は死にものぐるいで撤退。パターン2だ。
今回はどうやらうまく行きそうなので、このまま気を引いて、2体を引き離す。
「(こっちだ!)」
ショウコに意識が向いている間に、俺が腹部に痛撃を与える。
「グァァ!ガァァア!!」
今度は俺に顔を向けるロアルドロス(大)。
急に体を丸め出した。
痛そうな攻撃が来そうな予感……。
尻尾のなぎ払い!?
いや、反動をつけて……体当たりか!!
「(あぶねぇっ!!)」
すかさず後ろに跳ぶ。
直後ロアルドロス(大)は、俺がいた場所に体当たりをかましてきた。
「グルルルル…………。」
俺にダメージを与えられず、腹立たしげに呻くロアルドロス(大)。
「(やぁっ!!)」
すかさずショウコが爪撃を顔に当てる。
気がそちらに向くロアルドロス(大)。
後ろに避けるショウコ。
隙ができたら今度は俺が攻撃。
そして後退、ショウコにチェンジ。
ショウコが攻撃、後退、チェンジ、俺が攻撃、後退、チェンジ…………。
この流れを繰り返していく。
「グァっ!ガァァ!」
攻撃はすれども、中々当たらないことに苛立ってきたロアルドロス(大)。
気づけば、もう一体のロアルドロス(小)とかなり引き離すことに成功していた。
「(一応、もう一つ……)」
ロアルドロス(大)の後方に、念の為のけむり玉を、放っておく。
煙が切れれば、2頭同時に相手取る必要がある。
効果時間がよく分かっていないので、保険をかけておこう。
今度、時間を測っておくか。
…………。
気づけば、始めに居たエリアからだいぶ離れた。
けむり玉の有効範囲から抜け出たのだろう、視界を遮っていた霧のような煙も晴れている。
「グァァァ!!」
まだまだ元気なロアルドロス(大)。
「うぉっ!!」
噛みつき攻撃を紙一重で躱す。
「ショウコ!そろそろ行くぞ!」
「はい!」
かなり離れたし、声を出しても平気だろう。
ショウコに直接合図を出す。
「さぁさあ!ここから本領発揮や!!」
俺とショウコが、ロアルドロス(大)の側面を挟む形になる。
ここまでは、相手の気を引く必要があった為、どうしても正面から攻撃を受ける必要があった。
そのため、リスクは上がる。
何度か危ない場面もあったが、一応は無傷だ。
だが、ロアルドロス(大)にも、大したダメージは与えられていない。
しかし、ここからは違う。
もう一体のロアルドロス(小)に気を使う必要も無い。
「ショウコ!いつもどおりに!」
「はい!」
いつもどおり、とは、俺達のセオリーどおりに、という意味である。
ショウコも俺も、お互いに回避が主体の戦闘方法をとっている。
俺は双剣というガードができない武器のため、ショウコは身軽で抜きん出た身体能力を活かすため、同じような戦い方になる。
そのため、攻撃を食らうことはなるべく避ける。片方がダメージを与えている間は、片方は待機。
相手が攻撃をした際は、安全最優先で避ける。その間に片方は、隙を見て安全なところから攻撃を行う。
そうやって相手の気を引き合いながら、攻撃を行っていく。
リスクがだいぶ薄くなる側面方向から挟撃するのが、今の所の俺達の最適解になる。
たまにモンスターが周囲全体を薙ぎ払う攻撃を仕掛けてきたり、体液を撒き散らしてきたりするのだが……。
まぁ、もうその時はその時で対処するしかない。
「ご主人さま!そっち!」
「任しとけ!」
ショウコに気を取られ、ガラ空きになった側面を狙う。
斬るのは、ロアルドロスの特徴でもある、その鬣みたいな海綿状の首である。
「よっ!」
特訓の剣の振りを思い出しながら、隙だらけのそこを狙う。
「グアォッ!?」
「よしっ!」
いいのが入った!鬣に傷が入る。
特訓の成果が出ているな。
「グルルルル…………。」
ロアルドロス(大)の視線が俺と交わる。
ビシビシと俺に殺意を送る赤い瞳。
コイツ、本気モードだ……。
「ショウコ。」
「はい。」
「意識が完全に俺に向いている。でも陣形は崩さずに。回復が必要なときは言う。」
「……はいっ!」
ショウコは速い。
アイルーという特性上、とても俊敏で体力もかなりある。
だが致命的に足りないものがある。
それが火力だ。
俺とショウコが挟撃をしばらく続けると、モンスターの意識が完全に俺の方に向くようになる。
これは推測でしかないが、おそらくモンスターにとって痛い攻撃を繰り出した方に、より意識を向けやすいのだと思う。
ここまで誘い込むときは、わざと俺は手加減をしていた。
ショウコと俺、どちらにも意識が向くように。
だが、作戦が変わった今は違う。
こっちも全力だ。
ロアルドロス(大)の怒りや殺意は、完全に俺だけに向けられている。
それでも、陣形は崩さない。
言い換えれば、ショウコの攻撃できるチャンスでもあるから。
「……来いよ、ハーレム野郎。朝から変なもの見せやがって。」
「グルルルル……!」
「うちの子が変な趣味持ったらどうしてくれんじゃコラァ!!!」
「ガァァァ!!!」
俺とロアルドロス(大)の一騎打ちが始まった。
調子こいて挑発をしてみたが、効果は覿面。
完全に意識をこっちにしか見せていない。
回避を優先しつつ、傷がついた鬣を中心に狙っていく。
立ち回りは、モンスターを中心にして、基本時計回り。
ショウコはその動きを見ながら、挟撃の陣形を保ちつつ、すかさず攻撃をしている。
「……ガアアアアアアアアアア!!!!!」
突如、ロアルドロス(大)が叫びだす。
怒っているときに叫ぶのは……大技の予感!
すると、海老反りしたロアルドロスが、体をムチのようにしならせて、地面へ体を叩きつけようとする。
(ボディプレス!速っ!間に合わな―――)
ドガァッ!!!
「ぐあっ!」
「ご、ご主人さま!!」
しまった、モロに食らった!
……いってぇ…………けど、あまり痛く……ない?
「ご、ご主人さま!?平気ですか??」
「……あぁ!問題ない!」
「よかったぁ……。」
「すまんショウコ!陣形を直す!俺の対面へ!」
「はっ、はい!!」
体は……問題なく動く……。
防具を強化したおかげか?大したダメージになっていない。
痛いものは痛いが、このぐらいなら慣れっこだ。
「このまま斬り崩すぞ!」
「はいっ!」
お返しだ。
ロアルドロスの動きは大体掴んできた。
教官から教わった、観察を怠らない動きを行ってきたからな。
「ショウコ!突進むちゃくちゃ攻撃くるぞ!」
「はいっ!」
「その後ブレス!だと思う!射程外に避難!」
「はいっ!!」
予想通り水を吐きながら突進してきたロアルドロス(大)は、これまた予想通り、ブレスをかまそうと口を天に向けた。
だが俺は怯まない。
ブレスの時間は、双剣使いにとってはむしろチャンスタイムだ。
バサルモスで散々練習してきたからな。
「いよっ……と!」
「ご主人さま!?」
ショウコが驚きの声を上げるが、タイミングはここしか無いと思う。
わずかな時間でロアルドロス(大)の懐に飛び込む。
ブレスが来る瞬間、ギリギリで避ける。
目の前には、ガラ空きの首。
「くらえええええ!!!」
双剣は手数で勝負!!鬼人化……乱舞!!
ザシュ!!ザザザザザザザザザザザン!!!!!
「グルァァァァァァァ!!!!」
苦しげな声、これは効いているな。
「ぃよっと!」
鬼人化を解除、スタミナを回復させつつ距離をとる。
無理はしない。
「ご主人さまぁ!打ち合わせにない事せんといてくださいぃ!!心臓止まるか思いました!!」
「すまん、でも無理はしてないぞ。」
「目前でブレス避けるとか、無茶すぎます!」
「す、すまん。でも、いけたぞ。」
2人でロアルドロスを見る。
明らかに疲れている、しかも深い呼吸をしながらその場から動けない様子。
「チャンスタイムだ、ショウコ!」
「ガッテンです!」
ガッテンて。あの番組、母親が好きだったなぁ。
そんなしょうもないことを考えるぐらいには、余裕が出てきた。
だが油断はしない。
「ご主人さまぁ!最後まで、気を抜いたらあきませんよ!!」
「ああ!」
2人で猛攻撃を仕掛けた。