ロアルドロス(大)の狩猟は、無事に終わることができた。
結論を言うと、ロアルドロス自体の強さは、そこまででは無かった。
モンスターの攻撃は大体予備動作があるものだが、ロアルドロスはそれが読みやすい。
噛みつきや前足による薙ぎ払いは、俺もショウコも全て回避できた。
だが苦労したのは、のしかかりとブレス、水弾攻撃である。2、3回被弾してしまった。
ブレスが当たった時などは、回復薬を用意してくれたショウコに怒られてしまった。
「だ・か・ら!突っ込まんでください!!」
「す、すまん。」
しかし、防具をかなり強化したおかげで、痛みはあるがそこまでのダメージにはなっていない。
セツヒトさんってやっぱりすごい。
ロアルドロスは何度か俺たちから逃げるように撤退を試みたが、俺のマップ表示からは逃れられない。
ちょいちょい休憩を挟みながら、ロアルドロスを追いかけ回した。
「……ご主人さま、もう虫の息です。」
「あぁ。」
シビレ罠を設置する俺。麻酔玉を用意するショウコ。
一瞬で罠を仕掛け終えると、ロアルドロス(大)は痺れて動けなくなる。
そこにショウコが捕獲用麻酔玉を投げつけると、ロアルドロス(大)はウソみたいに眠りだした。
「毎回この効き目の凄さに驚かされる……。」
「ウチはもう慣れました……。」
「ネムリ草」と「マヒダケ」の二つのアイテムを組み合わせることで、完成するこの捕獲用麻酔玉だが、疲れて罠に掛かったモンスターにのみ効き目がある。
始めは、疲れて虫の息であるモンスターに、やっと効く程度の代物なのだと思っていたが……。
あまりに効きが早すぎる。
2つほど投げつけたら、すぐにスヤスヤ眠りにつく。
「ご主人様の麻酔玉、効きすぎです。ウチ、恐ろしなります……。」
「情報画面で調合するとどうしてもこうなるんだよなあ……。」
しかもこの即効性、どうやら俺が作った捕獲用麻酔玉だけらしい。
雑貨屋で売っているものを使用する時は、事前に麻酔玉や遠距離武器の麻酔弾などを当てておいて、そこから罠にかけて、タコ殴りにするのだとか。
「ま、何にせよ一匹捕獲成功だ。信号弾、打つぞー。」
「はい。ウチ、落とし物が無いか、見ときますね。」
信号弾を上げる。赤い煙幕が上空に向かって広がる。
ちなみに「落とし物」とは、モンスターがたまに地面に落とすモンスター素材のことである。
狩猟を行なった場所を見回すとたまに見つかるのだが、実は俺の「情報画面」の「マップ」では表示されない。
なので、目が良く背も低いショウコが良く見つけてくれるのである。
更にショウコに聞いた話だと、この落とし物拾いを生業にするアイルーがいるのだとか。
落とし物だけで生計を立てるとか、たくましい限りである。
その玄人のアイルーに会ったら、一度話を聞いてみたいものだ。
遠くの方で、青い信号弾が上がるのが確認できた。
回収班の合図だ。
「よし、一旦キャンプに戻るぞー!周囲に敵は……。」
「ど、どうしました?ご主人さま?」
マップで周囲を確認してみると。
ちょうどスタート地点の目の前の水場に。
「うーん……いるなあ、ロアルドロス。」
「えっ!?さっきのやつですか!?どこにおります!?」
「いや、驚かせてすまん。近くにいるわけじゃない。スタート地点の目の前。あー……たまにあの辺ルドロスいるもんなあ。」
「あー、あの水場ですか……。」
「うん。どうしよっか。」
ちょっと参った、スタート地点に戻って一旦仕切り直すつもりだったからな。
考えられる選択肢は2つ。
①予定通り、セーフポイントであるキャンプに戻り、休憩する。
②この辺である程度休憩し、スタート地点に戻らないまま狩猟続行。
「ショウコ、残りの体力は?」
「全く問題ないです。いつでもいけます。」
「俺もだ。まだいけるではなく、全く問題ない。」
「まだいける」は「もう危ない」。
ハンターたちの間でよく言われる格言である。
まだいけるか?と判断している時点で既に万全ではない。だからあきらめる方が良い、と言う意味だと、俺は解釈している。
だが、残りの体力、ショウコの返事、ロアルドロス(大)の強さを総合的に考えると……。
おそらくいける。
「ショウコ、このまま連戦したとして、いけると思うか?」
無闇に攻めるのは良くないとは理解している。
そのために、ショウコに確認を取る。
「何言ってますの?ご主人さま。」
ショウコがたしなめるように話す。
もしや難しいか?
だが、ショウコの返事は180°違うものだった。
「断言します。安全マージンをとれば、99%狩猟できますよ。」
「……そっちか。」
「ええ!ウチとご主人様なら、絶対大丈夫です!」
「じゃあ、やってみるか。本当の連続狩猟を。」
「はい!いきましょう!」
俺とショウコは、もう一匹のロアルドロス(小)を狩ることで意見が一致した。
なら迷うことはない。
とっととやってしまおう。
「あ、でも。」
ショウコが付け加える。
「もしさっきみたいにブレススレスレ回避するんやったら……ウチ、止めますからね!?」
「だ、大丈夫だ。絶対しない!」
絶対に油断はしない。
2人で村に帰るんだから。
* * * * * *
「やあぁぁぁ!!」
ショウコが反対方向からロアルドロス(小)を攻撃する。
だがロアルドロス(小)は、既に俺へと視線を向けて離さない。
「ショウコ!既に俺に向いている!いつも通り頼む!」
「はい!気をつけて……!下さいっ!!」
「あぁ!」
ザッ!!
ザシュザザザン!!!
後方に回避しながらショウコに合図。
正面に立たないように時計回りに移動しながら斬りつけ、後退。
意識が俺に向いている間、ショウコは攻撃を繰り返す。
「グアァァァァ!!!」
それでもロアルドロス(小)は、俺に視線を向けたままだ。
俺は、さっきからやたら体の調子がいい。今日は、訓練以上の斬撃をかなり繰り出せている。
「はあっ!!」
ザン!ザザ!ジュザン!!
「グアア!」
「ショウコ!頭部破壊確認!鬣は既に傷付いてる!」
「はい!めちゃくちゃ疲れてます!!いけます!!」
「おっけ!!」
ショウコと確認。今の言葉はつまり、捕獲可能なところまで、ロアルドロス(小)の体力を削ることができたということだ。
ショウコは、モンスターへの観察眼がとても優れている。
一度倒したモンスターならば、こうした捕獲のタイミングが分かるのだと言う。
すごいスキルだと思うのだが、これは訓練したアイルーならば誰でもできる芸当らしい。
やっぱりオトモアイルーって有用だなぁ、と感じざるを得ない。
「よし!こっち仕掛けた!」
「麻酔玉!用意できてます!!」
「よし!合流!」
俺とショウコが同じ方向に逃げ出す。
追ってくるロアルドロス(小)。だが、その方向は……。
ズドォン!!!
「ガッ!?グゥゥゥゥゥゥッ!!」
うめき声か何かよくわからない声を上げるロアルドロス(小)。
うまく落とし穴にかかってくれた。
「麻酔玉!おやすみなさい、や!!」
ショウコがすかさず麻酔玉を当てる。
二つ当てたところで、ロアルドロス(小)は力なく項垂れ、動かなくなった。
「……目標、沈黙しました……。」
「やったか!?」
「何ですのそのフラグ……。ぐっすりスヤスヤです。」
「だな。」
狩猟はどうやら成功したようだ。
穴から上半身だけ出したロアルドロスは、鼻から提灯を出して眠ってしまっていた。
「ずいぶん間抜けな姿勢だな……。」
「野生やと考えられへん寝方ですね……。」
気持ちよさそうにしてはいるが、これからギルドの回収班がこいつを回収して、解体なり解剖なり、色々やってしまうのだろう。
少し同情してしまう。
今だけでも安らかにお眠り下さい。
信号弾を打ってからしばし、俺とショウコはその場に座り込んだ。
「はぁー!!しんどかった!!でも、何とかなったな!!!」
「はい!でも、ご主人さま、余裕あったんちゃいます?」
「あぁ、今日は何だか、体のキレがとてもいいんだ。」
普段の狩猟では、あまり無い感覚。
連続で狩猟をすることで、昂っていたのかも知れない。
アドレナリンドバドバ状態である。
「集中力が続いたことが、今回の一番の収穫だな。一番欲しい時に、いい斬撃を繰り出すことができた。」
「はい!」
「反省は……。」
「ご主人さま、やっぱり無茶されることが多いです。ここはきっちり、反省してもらいます。」
「アッハイ。」
「今回、何とかなった言うのは結果論です。まぁロアルドロス相手に後手は踏まんと思うてましたし、ご主人様の実力やウチらの連携を考えれば、問題はないとも思うてました。でも、初めての連続狩猟、アクシデントが起きないとも限りません。そん中で無茶な行いは、即失敗に繋がります。大体ですね……。」
「はい、すみません。はい、反省してます。はい……。」
ショウコのお説教は、しばらく続くのであった。
* * * * * *
日もそろそろ沈み始めようかという時間。ショウコと共にスタート地点のキャンプへ戻る。
今日の内に2頭仕留められるとは思っていなかった。
ギフトの力を借りているとはいえ、ロアルドロスへの攻撃自体は自分自身の力である。
地力がついてきた、と思う。自信につながる。
まだ体力にも余裕がある。
こうした狩猟を、今後も続けていこう。
まぁ流石に、これからもう一頭!となるとキツいかもしれない。
お腹もすいたし、ちょっと疲れている。
この状態が「まだいける」なのだろうな。
とっとと帰って、風呂に入って、美味しいご飯でも食べよう。
「ショウコ、大丈夫か?」
「はい!いつも心配かけて……すみません。」
「いや、いいんだ。それに、最近はクエスト終わりに、変に緊張することも無いしな。」
「そ、そうですか?そら良かったです……。ご主人さまの……おかげです。」
ショウコは、トラウマを抱えている。
運悪く、自分がオトモとして付いていったクエストで、あり得ないアクシデントが立て続けに起きた。
武器を無くす、大型モンスターが乱入する、一緒にいたハンターが死にかける。そんなアクシデントが何度も、何度も。
そうして、心無い一部のハンター達が、ショウコにつけたあだ名は「招き猫」。
俺がショウコを雇用したばかりの頃。
クエスト終わり、もう帰ろうかという時、ショウコはかなり疑心暗鬼になっていた。
クエスト中はあんなに頼りになるのに、終わった後、人が変わったように自信無さげな感じになる。そんな状態。
ショウコの心の傷は、根深いのだろう。
だから、俺はできるだけショウコを安心させたい。
そして、そんな不名誉なあだ名なんて、彼方にやって忘れさせてやりたい。
アイルーの集落で、ショウコは熱意をもって、俺に懇願してきた。
「ウチを、オトモにしてください!」と。
ショウコにとって、それはとても勇気のいる言葉だったに違いない。
だから、その思いに応えたいと思った。
ショウコとのクエストも、かなりの数をこなしてきた。
少しずつショウコも、クエスト終わりに疑心暗鬼になることは無くなってきたと思う。
単純に、運が悪かっただけなのだ。
よくあるアクシデントである。
「いい傾向だ、ショウコ。これからも笑って帰ろうな。」
「……はいっ!!」
いい笑顔だな、と思った。
スタート地点まで、もう少し。
そんな時だった。
キン…………キン……キン!
変な音が聞こえてきたのだ。
何だこの音……?まるで金属と金属がぶつかり合うような…………!?
「……ちょっと待て!ショウコ!」
「へ?どうしたんですーーー」
身震い。
ゾクッとした。
「伏せろぉ!!!!」
ビュオン!!!
ショウコを無理矢理押し倒す。
直後、とんでも無い速さの何かが、俺の頭を掠めた。
風が起きて、頬に当たる。
間一髪。
ショウコを立たせる。
「ショウコ!無事か!」
「ご、ご主人さま!すみません!!ありがーーー」
「礼は後だ……こいつは……。」
立ち上がり、見上げると。
「嘘だろ……。」
全身トゲトゲ、体色は青と赤、巨大な体を支える屈強な両足、そして何より、超大型の大剣のような尻尾。
「グルルルルル……。」
子どものころ、図鑑の中でしか見たことのない大型の肉食恐竜。
そんな大型モンスターが、俺たちの前に立ちはだかっていた。