突然、見たことも無い大型モンスターに強襲された。
間一髪避けられたが、奇跡としか言いようがない。
視界の端に、キラリと光るものが見えたのだ。そして、明確な殺意を感じた。
思わず体が動いた。
目を相手に合わせたまま、ショウコの様子を見る。
ショウコに怪我は……無さそうだな。
無事でよかった。
しかし、なぜ接近に気付かなかったのか。
ロアルドロスの連続狩猟に夢中だったから?いや、敵の確認はした。
マップ上には、さっきまでいなかったはずのモンスターのアイコンが光っている。
……油断していたのか。
連続狩猟が見事に成功し、自分の成長に自惚れていたのか。
油断はしないと心に誓っていたはずなのに。自分が情けない。
切り替えろ。反省は後だ。
生き残ることだけを考えろ。
まず、俺たちはこいつを狩れそうか?
答えは、否。
……はっきり言って、すごく強そう。
俺たちが万全だとしても、勝てるのかわからない。
何より俺たちは今、少なからず疲弊している。
次、俺たちはこいつから逃げられそうか?
……わからない。
だが、あの強靭そうな足腰。先程の攻撃は、目に留まらない程であった。
俺たちより遅いと言うことは、まず無いだろう。
希望的観測は、現状しない方がいい。
じゃあ次に考えられるのは……。
うん、一番現実的だな……。
俺たちのどちらかが残り、囮となる。その間片方が救援を要請する。
近くにはそろそろ回収班も来る。
時間的に観測班がこちらを見ているかはわからないが、救援の為、助けにきてくれるハンターもいるかもしれない。
考えを一瞬でまとめる。
ここは俺が囮になって、ショウコに助けを呼んでもらう方がいい。
……死ぬつもりはないが、ショウコに呼びにいってもらった方が、間違いなく早いだろう。
……よし、覚悟を決めろ。
ショウコに考えを伝え、実行せねばなるまい。
「ショウコ、目をあいつから離すなよ。今から……ショウコ?」
「あ……うああぁ……。」
「ショウコ……。」
しまった。
トラウマか。
このタイミングでの、明らかな強敵の急襲。
ショウコのトラウマをフラッシュバックさせるには、十分過ぎる。
「ショウコ、深呼吸だ。落ち着いてくれ。」
頭を撫でる。背中をさする。
モンスターとの目線は外さないまま。
外した瞬間、攻撃を仕掛けてきそうな気がする。
「そうだ、大丈夫だ。」
「ふ、ふうううぅ。はああ……。」
「……どうだ?」
コクン、と頷くショウコ。
「よし……ショウコ、これからやることを言う。実行してくれ。」
コクン。
「……5数えたら、後ろに思いっきり飛び退くぞ。いいか。1、2、3、4……」
「……。」
カチッ。
「5ぉっ!!」
バッ!!
2人で同時に後ろに跳ぶ。
その瞬間、俺たちに逃げられると思ったのか、相手モンスターが猛スピードで追いかけてきた。
「そこだ!」
ザザ!ズドン!!!
「ギャァァァァァァァァァ!!!」
モンスターが地面に落ちた。
タネは簡単。ギフトで落とし穴の罠を仕掛けたのだ。
超重量の大型モンスターには、効果覿面。
「ショウコ、時間が無い。聞いてくれ。」
「……(コクンコクン!)。」
「俺がここを引き受ける。助けを呼んできてくれ。」
「……(ブンブンブンブン!!)。」
首を振るショウコ。
いかん、そろそろ罠の効果時間が切れる!!
「ショウコ!恐らくこれが最も生き残る可能性が高い!いいから行け!!」
ベキ!!ベキベキィ!!……ズン!!
「グアァァァォォォ!!!」
「くっ……!復活はええ!ショウコォ!!目を瞑って走れぇ!!」
ビュン!!
閃光玉を投げる。
一瞬の間だけ、猛烈に光るアイテム、閃光玉。
色々と使えるが、こうして一瞬の隙を作るにはちょうどいい。
「ギャォォォ!!!」
一瞬のけぞったかと思うと、無闇矢鱈に攻撃を繰り出す恐竜モンスター。
一瞬だけ情報画面を見る。
モンスターの名前は……ディノバルド?
「ショウコ!!こいつの名前はディノバルド!頼んだ!!」
「……はいっ!!」
ショウコは泣いていた。声が震えていた。
でも、猛スピードでキャンプまで駆けていく。流石の速さだ。
そして……。
「グァァァァ!!!」
「おぉっと!!!」
尻尾攻撃がご自慢なのか?ケツを向けたと思ったら、こちら目掛けて尻尾を振り下ろしてきた。
挙動は速いが、避けられないことはない。
「どうした!?簡単に避けーーー」
「ガァァ!!」
「ぐあっ!!!」
油断した。
連続かよ……もろに食らってしまった。
でも覚えた。尻尾の振り下ろし攻撃は、2回繰り返すことがある。
……痛ぇ……死ぬほど痛い。
骨は……いってないか。よし。
防具に感謝。
「さーて、お前の情報をもう少し見せてくれ……!」
いわゆる上位クラスのモンスターだろうか。
明らかに雰囲気がやばい。勝てる気がしない。
でも……生き残る!俺は、帰らなければならない!
(<情報画面>、<ハンターノート>、<モンスター情報>……あった。)
【モンスター名】ディノバルド
【種族】獣竜種
【別名】斬獣
【詳細】
密林や砂漠、火山帯などの高温地域に生息する獣竜種の大型モンスター。肉食性で、性格は至って獰猛。一度狙いを定めた獲物は決して逃さず、執拗に追跡し、多種の大型モンスターと鉢合わせても、積極的に戦いを挑む。濃赤色の鱗と外殻をもち、渦巻く炎のような形状の青い突起が背中に立ち並ぶ。また、全長の半分近くを占める巨大な尻尾が特徴。まるで刀のように尻尾を使って攻撃をすることから、斬竜の異名で呼ばれる。驚異的な運動能力を誇り、重厚な外見とは裏腹に非常に俊敏。素早いステップと踏み込みによって獲物を翻弄しながら、ハンターの身の丈を超えるほどの跳躍とともに攻撃を繰り出す。…………
飛ばし読みしながら、何となく把握。
2人で逃げていたら、間違いなくどちらもやられていたな……。
残忍かつしつこい性格、しかも攻撃も強烈ときたもんだ。
「さて……弱点みたいなのはないのか……?」
教官の言葉を思い出す。
観察、観察、観察。
とにかく、モンスターを見る。特徴を捉える。弱点を見つけるんだ。
「グラァァァァァ!!!」
「うおっと!!」
頭ごと突っ込んで来た!
寸でのところで躱す。噛みつき攻撃ってやつか……?
予備動作が遅かったので避けられた。
耳には、ディノバルドの牙と牙がかち合う音が残った。
「グルルルル……。」
「怒るなよ……怖すぎんだ、よっと!!」
ステップで後退していく。
いかに身体と尻尾が馬鹿でかいとはいえ、射程の外に出れば安全だ。
……なんて、浅はかだった。
「グゥゥゥ……!!ガァ!」
ボン!ボボボン!!
「嘘だろ!!??」
俺が離れたとわかるや否や、今度はあいつ、口から火球を出してきたぞ!!
「回避する……だけなら!!」
ディノバルドが発した火球を避ける。
さっきまで俺がいた場所に、火球が着弾した。
「……?火球……じゃない!?これは……!?やばい!!」
着弾した火球は霧散すること無く、何故か地面に残っている。
すぐに火球?と距離をとる。
直後、その火球もどきは、爆発した。
「火球じゃない……これもうほぼ、時限爆弾だ。」
原理はわからない。だが、奴は口から時間経過で爆発する何かを吐き出すことができる。
その事実がある。
そしてそれは、遠くに離れてもあまり意味はないと言うこと。
「ガァァ!!」
「跳んだ!!?」
火球について考える間もない。
離れていたディノバルドが跳んだかと思うと、いきなり反転して尻尾を叩きつけてきた。
「のおわっ!!!」
またも間一髪でよける。
……命がいくつあっても足りない気がしてきた。
こいつ……一瞬で距離を詰めて、この破壊力の攻撃を繰り出せるのか!?
防戦一方の俺。執拗に俺を狙ってくるディノバルド。
情報に偽りなし。……こいつ、しつこい……!!
「グァァグ……!!」
キン!
……何だ!?
急にディノバルドが自分の尻尾を咥えた……
……あの口で尻尾を噛みながら……火花を起こして……
「……!!やばい!!」
気づいた時にはもう遅かった。
ディノバルドが口から尻尾を離した瞬間。
とんでもない速さで回転した。
思わず飛び退く。目の前に来る刃。
胸を切り裂く寸前、背筋と腹筋を思いっきり使って、スウェーで避ける。
ギリギリ、何とか避けられたと思った時。
ディノバルドはまた尻尾を咥え直すと。
間髪入れず、もう一度尻尾をぶん回してきた。
ドガッ!!
ドン!ゴロゴロゴロ……
「……が!!ぐはっ!!!」
また、2回来た。
完全に当たってしまった。
「ぐうう!!……ふぅー!ふぅー!はぁー!!」
無様に転げる俺。
教官から教わった呼吸法を繰り返す。
何故かはわからんが、ディノバルドが止まっている。
回復薬グレートをがぶ飲み。
右の胸が……これ、骨イってるな……。
腕、足、イケるか……。
頭は、血が止まらないが、多分大した傷じゃない。
出し惜しみはしない。回復薬グレート2本を全身にかける。
「いってぇ……防具もか……。」
せっかくセツヒトさんに整備してもらったのに。
防具の腹部は、見事に破けていた。
「グ……グァァァァァァァァ!!!」
「っ!」
耳が壊れるかと思うほどの咆哮。
天に向けて吠える姿は、どこか余裕を感じる。
ムカつくな。
勝利を確信でもしたか?
……おあいにくさま。こちらは諦める気など、毛頭無い。
心のどこかで、あいつには敵わないと冷静に分析しているが……だからなんだ。
やってやる。
「悪いが、ギフトをフル活用してでも、勝たせてもらうぞ!!斬竜ディノバルド!!」
俺は、ポーチに手を触れた。