3時間ぐらい歩いただろうか。
遠くの方に、石の塀に囲まれた集落が見えてきた。あれがワサドラだろう。
ここまでに、実は何度か小さなモンスターと戦闘になりかけたのだが、「けむり玉」を投げてその隙に逃げるということを繰り返した。
「けむり玉」は、敵がこちらを見失ってしまうらしく、それを使ってうまく逃げられた。
辺りが霧のように白んでしまって使ったこっちも驚いてしまったが。
これもアイテム情報画面のおかげだ。けむり玉が無ければ正直やばかった。
マップに書かれていた通り、ここは<ワサドラ>で合っていた。
入り口の門に村の名前が書かれている。
ただ、想像と違って、村と言うには少々規模が大きいような…。
店など何もない辺鄙な村を想像していたのだが、入り口から見える建物は、石造りで立派なものがあるし、何より入り口に門番が立っている。
門番が雇える村というならそれはもう町では…?
いや、村や町の定義なんて人それぞれなのかもしれないが。
村に入ろうとするなり、門番のおじさんに止められた。
そりゃそうだ。
身分を証明するものは無いか聞かれたので、何もないことを素直に伝えることにした。
「身分証明が何もない?……またこのパターンか。ったく、手続きは、こっちも大変なんだ。帰れる場所があるなら、すぐ帰るんだな。」
「いやー、帰るに帰れなくなったと申しますか。どうしようもないんです……。」
異世界に転生して初の人とのコミュニケーション……言葉が通じること、何より人間と会話ができたことで感動していたら、何か変な物を見る目で睨まれてしまった。
「……おまえさん、何かやばいやつなんじゃねえか?」
「いやいやいや!至極まっとうな普通の人間ですよ!」
「そう言われてもなあ。……身なりはしっかりしていて、モンスターの討伐もしてきたようだが……もしや流れのハンターか?」
「ええと、実は……」
仕方がないので、気が付いたら平原に横たわっていて記憶が無いことを伝えてみる。
間違っていない。
もちろん転生したことや神様と会ったこと、ギフトなどについては黙っておく。
すまん、おっちゃん。
「……そうかい、大変だったんだなあ……。しょうがねえ、仮入村の手続きを教えてやるよ。ついてきな。」
「あ、ありがとうございます。」
その後は仮入村の手続きを行った。
証明書をもっていかないと宿に泊まったり買い物をしたりすることさえできないらしい。
というかおっちゃんがとてもいい人でよかった。
俺が敵とかだったらどうするつもりだったんだろうか。……まあ入れたから良しとしよう。
ひとまず体が疲れているので、ワサドラで数軒あるうちの一つの宿屋まで行くことにする。
アイテムポーチに入っていたお金と思しきものは、金色の硬貨が10枚、銀色の硬貨が50〜60枚、銅色の硬貨が8枚だった。
……バランス悪くない?
貨幣価値についてはよくわからないが、門番のおじさんの話だと、このワサドラに宿は3つしかないそうだ。
紹介された宿を目指して、歩いてみる。マップには絶えず、現在地と周辺の地理が簡単に載っていたため、迷うことはなかった。
宿屋に着いた。
外観は古いが掃除が行き届いていて清潔感のある場所だった。
「ホエール」という、名前が珍しいこの宿は、腰の曲がったおじいさんが経営していた。
1泊の料金である銀貨2枚を渡すと、おじいさんは笑顔で2階の客室まで案内してくれた。
「夕飯は食べていくかの?別に500zもらうが。」
「じゃあお願いします。部屋で食事をとることはできますか?」
そういって銀貨を1枚渡すと、銅貨が5枚返ってきた。
なるほど、銅貨10枚で銀貨1枚、銅貨5枚で宿の夕飯が食べられるぐらいの貨幣価値という感じか。
10枚で次の価値の硬貨一枚分だと仮定する。銅貨5枚で夕飯一食、500円と考えればわかりやすいか?
そうすると、銅貨8枚は800円ぐらい、銀貨50枚は5万円ぐらい、金貨10枚は10万円ぐらいかな?
銅貨100円、銀貨1000円、金貨10000円と覚えよう。
「部屋でも食事はできるし、下の食堂でも食べられるからの。好きな方を選んでくれ。」
ありがたい。すぐにでも休みたい衝動に駆られるが、腹もすいているし、体もきれいにしたい。
そういえばこの宿は風呂があるのだろうか。いや、文化レベル的に風呂というより、体をふく程度である可能性が高い。
案の定、部屋についてしばらくすると、おじいさんがたらいに入った桶と布を持ってきてくれた。
「ここに客が来るのは久しぶりでの。ゆっくりしていくといい。」
そう言うと、しわくちゃの笑顔で頭を下げ、おじいさんは部屋から出ていった。
この村に来てから2人の人間と出会ったが、二人ともいい人過ぎて心配になる。
そうして体をきれいにし、夕飯を食べた。
今日はいろいろあった……女神さまに転生させられ、バサルモスから逃亡し、見知らぬ土地を歩き続けて……。だめだ、振り返るにも、疲れがたまりすぎている。
こうして俺は、力尽きるようにベッドで寝てしまうのであった。