圧倒的強者。
凄まじい攻撃の連続。予測不能な動き。獰猛さ、執拗さ。それに見合う力強さ、速さ。
斬竜ディノバルドは、今まで出会った中で、間違いなく一番強いモンスターだと思う。
今の俺では、多分敵わない。
そして、一度見つけた獲物は執拗に追いかけ、必ず捕らえるという情報から、恐らくは逃げられない。
嫌と言うほど分かった。こいつと俺との差が。
そう、ハンターとしての普通の俺は、多分敵わない。
……じゃあハイソウデスカって諦めるわけにはいかないんだ。
俺は生きて帰る。
教官が教えてくれた。
無様でも、卑怯でもいい。必ず帰って「ただいま」と言う。
これこそが、ハンターにとって最も大切なことだと。
やってやる。
卑怯な手、使ってやろうじゃないか。
ギフトを存分に活用してやる。
「とは言っても……。」
さっきから満身創痍の俺に向かって、「グルルルル……」と言って睨みつけるだけのディノバルド。
肉食動物は、致命的な傷が付いた敵は深追いせず、じっくりと体力が無くなるまで待つことがあると聞いたことがある。
今、その状態なのかもしれない。
ありがたい、考える時間が増える。
「まずは切り札一枚目……。」
頭の中で情報画面を起動。
睨めっこをしたまま、〈アイテム一覧〉を確認。
……うん、あるな。
小瓶をポーチから出して、ディノバルドから視線を外さないまま、中身を飲み干す。
(うわ……凄い効き目。これ、大丈夫なのか。)
いつだか、ケイさんに頂いた「いにしえの秘薬」である。
飲んだらバッチリ、疲れが取れて、体のだるさも消えた。何か、やばい薬なんじゃないかと思ってしまう。
肋骨は……まだ鈍く痛い。
完璧ではない。だが、多少は持ち直した。
「切り札2枚目……。」
〈情報画面〉を操作して、とあるアイテムを仕掛ける。
あとはタイミングだけなんだが……
「グゥルルルル……ガァ!!」
ディノバルドが動いた!
こちらにまっすぐ向かってくる!
バックステップで後ろに跳ぶ。無論ディノバルドと距離が空けられるわけがない。
だが、いい。奴が俺のいた所に来ればいい。
「……かかれ!」
バチバチ!バチイ!
ディノバルドが固まる。
「ガァ…ァァ…ァァァァ!」
「よし!」
苦しそうな声をあげるディノバルド。
俺は何もしてように見えたのに、なぜ反撃に遭うのか、わからないだろう。
これは俺が今、ギフトの〈調合〉で作った「シビレ罠」である。
手持ちの罠は3つあったのだが、使い切ってしまった。
だから、調合して新たに作ったのだ。
罠は嵩張るため、せいぜい二つぐらいしか持てない。
クエストに持ち込めるアイテムの最大数はギルド側が制限してるし、そもそも物理的な問題でそんなに持つことはできない。だから、基本的にハンターは罠を持って行く際、2つ用意する。
じゃあ罠を仕掛けるチャンスは2回しか無いのかというと、それは違う。
簡単な話である。
罠を作る為に必要なアイテムも一緒に持っていけばいい。
シビレ罠の場合は「トラップツール」と「雷光虫」、落とし穴の場合は「トラップツール」と「ネット」。
罠二つ、トラップツールも二つはかろうじて持てるため、合計4回はチャンスがあると言うことになる。
もし罠の使用に失敗してしまった場合、その場で作って使うのだ。
ネックは、作るのには結構時間がかかることだ。俺も練習したが、作るのに2分はかかってしまう。
だが、ギフトの力なら?
はい簡単。1秒で完成だ。
情報画面の〈調合〉から「シビレ罠」または「落とし穴」を選択。以上。
あとは〈アイテム一覧〉からそれを選べば、全自動で仕掛けられる。
オートマティックである。
卑怯だと思う。
自分で時間をかけて作って、自分で穴を掘ってしっかり罠を仕掛けるのが普通だ。
でも形振りなど構っていられない。
罠を作って仕掛けるまでにわずか2秒ほど。
罠にかかっている間はやりたい放題である。
「切り札3枚目。」
苦しそうに呻くディノバルドにすぐに接近。
(〈情報画面〉から〈操作方法〉選択…!)
すぐさまギフトの〈操作方法〉を使って、反撃を行う。
これを実践で使うのは初めてだが……。
迷うな。
憑依状態で攻撃するんだ。
シビレ罠が効く時間は8秒から10秒ほど。
短いが「モンスターが反撃してこない」という保証のある時間は、とんでも無く贅沢である。
(鬼人化、逆手切り、2段斬り、返し、突進連斬、乱舞……)
頭の中で技をプログラム、毎日特訓で見慣れた画面、迷うことは無い。
「くらぇぇぇぇ!!!」
あのからくり蛙を壊す威力。
とくと味わえ。
シュッ。
ザン!ザザザザザン!ザッ!ザシュ!
ザザザザザザザ、ザザン!!
「ギャ、ギャアアアアアア!!!!」
〈操作方法〉で憑依状態に移行、ディノバルドの脚部を中心に、攻撃を行う。
効いている。と思う。
痺れて呻いているのか、痛くて呻いているのか、よくわからない。
だが、攻撃あるのみ。頼んだ、憑依状態の俺。
「…2…3…4…5…6…7秒!よっ……!!」
なんとなくの体内時計で7秒ぐらい測って、後ろに飛びのく。
ズキィ!!
「ぐうっ!!」
骨が折れたとこだろうか、すごく痛い。
そりゃそうだ、あれだけ激しく動いたんだし。
だが、気にしない。とにかく動け!
双剣の斬れ味の消耗が恐ろしく早い。砥石で研ぐ!
「10…11…12、シビレ終わりか!?」
「ガアア!!……グギャアアアアア!!!」
ようやくシビレ罠の拘束から解かれ、咆哮をかますディノバルド。
凄い音に思わず耳を塞ぐ。
幸い「砥石使用高速化」のスキルで、3秒もあれば刀は研げる。
それにそこには。
「ギャア!!グァァァァァ!!」
「次ぃ!!」
ズドォォォン!
「ガァァ!!グァ!!ギャアァ!」
既に落とし穴を仕掛けてるんだよ、ディノ君。
「スキありいぃぃ!!!」
再び〈操作方法〉で攻撃。
自分ではない自分が、達人の技を叩き込む。
何とも情けないが、今はこの力に頼るしかない。
怒り狂うディノバルド。効いているな。
シビレ罠の時は、二足歩行恐竜のようなディノバルドの足や腿しか狙えなかった。
だが落とし穴の時は、足から腰にかけて地面に沈むため、顔や喉などの弱点を狙える。
ジタバタ暴れて狙いにくいのだが、シビレ罠の時よりも効いていると思う。
「11…12…!!よっと!!」
落とし罠の効果時間は、モンスターにもよるが、大体15秒ほどだと、情報画面に書いてあった。
ディノバルドが落とし穴のトラップを破壊し、地面から這い出てくる。
既に後退して双剣を研ぐ俺。
「グゥルルルル……。ガァッ!」
仕掛けてくるかと思ったら、自分の尻尾に噛み付いて、巨大な大剣のようなそれを赤色に変化させるディノバルド。
先ほども見たが、これは尻尾を研いでいるのか?
やること一緒だな。
目が赤くギラつき、殺気が凄まじい。
「正々堂々勝負しろや」と言っているようにも見える。気のせいか。
悪いが、俺にはまだそんな実力はない。
納刀して回避に集中しても、全くダメだったのだ。
満身創痍で正々堂々なんて挑んだら、まず間違いなく食われる。
睨み合う時間。
恐らく5秒ぐらいしか経っていないのに、とても長く感じられる。
そして……一つまずい事態が発生している。
ディノバルドが中々動けないのは、俺の罠に警戒しているのだろうが……。
(もう、体が限界だな。)
当たり前だ。
全身傷だらけ、骨折もしているだろう。
そんな中で、とんでもない剣速で斬撃を、無理矢理繰り返したのだから。
鈍痛が激痛に変わり、体をもうこれ以上動かすなと、脳が警鐘を鳴らす。
キツい。
(罠にかかっている間に逃げればよかったのか?いや、こいつの移動速度はとんでもなく早い。それに俺は今、満足に全力で走れない。)
考えてもしょうがないのだが、この方法を続けるしかない。
持っている「トラップツール」の数から考えて、罠を仕掛けられるのはあと20回ほど。
罠を仕掛ける。ディノバルドが罠にかかる。憑依状態で攻撃を加える。効果時間が終わる前に後退、次の準備。
これを何回も繰り返す。
覚悟しろディノバルド。
俺は、こういうコツコツやる系のことは、大得意なんだ。
* * * * * *
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
「グァァ……!!」
シビレ罠を破壊するディノバルド。もうこれで何回目だっけ……?
相変わらずピンピンしてやがる。
嘘だろ……結構いい攻撃叩き込んでいるんだけどな……。
全く嫌になる。
しかも、罠から復活する時間がだんだんと早くなっている。慣れてきているのか?
でも、やり続けるしかない。
〈情報画面〉を起動、調合で罠を作って……。
ピキッ!!
「いってぇ!」
今までで1番の痛みが、右の肋骨を襲った。
無理して体を動かしてきた代償か。
ってやばい!ルーティンが崩れた!急いで罠を調合!仕掛けて後退!!
「グァァァァァ!!!!」
あぶねえ!間に合った!!
突進!そのまま突っ込んでこい!
「いい加減しつこいんだよ!このやろーーー」
そんなセリフを発した。
次の瞬間だった。
ディノバルドが
「えっ!?」
ディノバルドは反転して、着地。
その勢いのまま、赤く鈍く光る尻尾を振り下ろして、
俺に叩きつけてきた。